魔法科高校の劣等生 深雪と達也の心を救う者   作:ネギ王子

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一応映画見てきました

本編が追いつくまで温めているうちに鮮度下がって冷めてしまいそうだったので
今の鮮度がいいうちに投下しておきます

今後改変はあり得ますが結構出来がいいと自負してます


劇場版四葉継承編の話の一部

慶春会に向かう途中の話

 

送迎車の運転手が襲撃により死亡するという不測の事態により、達也、深雪、水波、そして真司の四人は、四葉の領地へ向かす山道で完全に足を奪われていた。そこへ通りかかった津久葉夕歌の車に救われ、一行はひとまず、静かな充電スタンドを兼ねた展望休憩所に立ち寄る。

 

少し曇っていたが、景色の良い高台のベンチ。

そこに達也と深雪が並んで腰かけ、真司はその少し前方にある木製の柵に腰をかける形で、二人と視線を合わせた。

遠くに連なる山々を望むその場所で、真司はどこか張り詰めた、しかし確骨たる芯のある声で切り出した。

 

「達也、それと深雪。ちょっといいか」

「なんだ、あらたまって」

達也がいつもと違う真司の気配を察し、鋭い視線を向ける。

「大事な話がある。――真剣な話だ」

 

真司は柵に身を預けたまま、真っ直ぐに達也を見据えた。

「達也。お前たちの叔母上――当主から、お前が四葉を離れたがっていると聞いたんだが……本当か?」

「……なぜ、それを」

達也の瞳の奥に、一瞬だけ動揺の火花が散る。それを見た真司は、小さく息を吐いた。

「その反応から察するに、本当だったんだな。深雪も、知っていた感じか。……知らぬは俺だけだったってことだな」

 

真司は柵を軽く叩き、言葉を続ける。

「今年の三月にさ、深雪のことで母上……叔母上と話す機会があってな。そこで告げられたんだ。『達也が四葉を離れたがっている。だから、あることを許す代わりに、その条件として達也を四葉につなぎ留めろ』と」

 

その言葉を聞いた瞬間、ベンチに座る深雪は静かに目を伏せ、自身の胸元をそっと押さえた。

(……やはり、あの時のことだわ)

深雪にははっきりと分かっていた。自分が処女を真司に捧げ、二人の交際を認めてもらったこと。それは間違いではなかったが、完全な正解でもない。真夜が提示した本当の対価は、非公式ながらも「真司と深雪の婚約」を認め、達也を四葉に縛り付けることだったのだ。

深雪はすべてを察しながらも、今はただ黙って、愛する男の言葉に耳を傾けていた。

 

 

「色々と周囲の動きを見ていて、何となくそんな気配はしてた。だけど、自分の実感として『達也が四葉を離れるなんて現実的に無理だろう』と思ってたから、完全にその可能性を見落としてたんだ」

真司の口調から、いつもの軽妙さが消え、異世界の修羅場を潜り抜けてきたトーンへと変わる。

「達也、それと深雪。血の呪縛っていうのはな、お前たちが思っているよりも遥かに重く、そして硬いぞ」

 

真司は遠くの空を見つめた。

「俺が異世界の出身だということは、前に話したからあらためて語る必要はないな」

「ああ」

「俺は、かつて滅んだ亡国の王子だった。俺たちの国が滅びたことで、人間の住む国家のほとんどが魔族との泥沼の戦争に突入した。直接的に国が滅んだことと、戦争が始まったことに因果関係はない。……だがな、俺がその国の王子だと知った瞬間、手のひらを返して心ない言葉をぶつけてくる奴なんて、それこそ星の数ほどいたんだ。当然、優しくしてくれる人もいた。だがそれは、ほんの一握りだ。大半の人間は、俺を『あの戦争の引き金となった、忌むべき滅びの国の王子』としてしか見なかった。それは、長い戦争が終わり、俺が仲間と共に魔王を倒して『英雄』と呼ばれるようになってからも、何一つ変わらなかった。特に、戦争で家族や故郷を失った者たちにとってはそれが顕著だった」

 

「だから俺は、真の意味で『王子という血』から逃れられたという実感なんて、ついぞ持てなかった。100年以上生きても、そうだったんだ。……100年以上も生きられない達也、お前なら尚更だ。お前がおそらく真の意味で呪縛から逃れたと実感できるときは、一生来ない。現に、元いた世界を離れ、全く別の肉体となった今でさえ、俺はあの血の呪縛から完全に自由になったとは思えない。一生生きている限り、付きまとうものなんだ」

 

「だから、その呪縛の先達として言う。達也がお前たちの言う『四葉の血縁者』である限り、お前は一生、周囲から色眼鏡で見られ続ける。『あの人は四葉の関係者だ』『あの人は触れてはいけないアンタッチャブルなんだ』ってな」

 

達也は反論の言葉を持たず、ただ真司の冷徹な正論を受け止めていた。

しかし、真司はそこでフッと不敵な笑みを浮かべ、柵から腰を上げて一歩踏み出した。

「――でもな、それを変える方法があると思ってる」

「それは……?」

 

真司は、真剣な眼差しで二人を見た。

「達也。もし深雪が次の四葉の次期当主に指名されて、俺がその深雪の婚約者として指名されたなら――俺とお前と深雪の三人で、内側から四葉を丸ごと作り変えてやろうぜ」

 

――達也の脳裏に、凄まじい衝撃が走る。

四葉から逃げるのではない。四葉を内側から完全に掌握し、自分たちのルールで上書きする。その発想は、達也の中にはないものだった。

 

真司は言葉を重ねる。

「四葉を中から変えてやれば、その色眼鏡は『四葉の血縁者』から『あの四葉を変えた者』に変わる。そうすれば達也、お前も少しは四葉から解放されたと思えるはずだ。――元の四葉とは、違うんだってな」

 

達也の瞳の輪郭が、驚愕に微かに揺れる。血から逃げるのではなく、その血の意味そのものを引っくり返すという真司のロジックは、あまりにも鮮やかだった。

 

「深雪。もし慶春会で、お前が次期当主に指名されたら、その場で『達也を改めて私の第一ガーディアンに指名する』と堂々と宣言してくれないか? そして、そこに並ぶ分家の当主どもに、こう言ってやるんだ。『今までのことは、すべて水に流しましょう。しかし――私の大切なお兄様に、今後余計なちょっかいをかける者がいるならば、私が四葉の当主になった暁には、それ相応の覚悟をしていただきますね』ってな」

 

「……ふふ、それは素晴らしい考えですね」

ベンチに座る深雪の、鈴を転がすような笑い声が響く。彼女の瞳には、愛する真司の提案に対する、一切の迷いのない全肯定の光が宿っていた。

 

「だろ? そしたら分家連中、ガタガタ震え上がるぜ。面白くなるぞ」

真司は愉快そうに笑いながら、さらに万能の手札を並べていく。

「あとは水波も協力してくれるだろうし、黒羽の姉弟もこっちに引き込む。なんなら、あっちにいる津久葉の夕歌さんだって、俺たちの味方にできるはずだ。今の頭の固い分家連中なんて全員解体してさ、俺たち世代の後継者候補たちで、新しく風通しのいい分家を興せばいいんだよ」

 

 

「俺と深雪の子供なら、俺や達也のような規格外の子供が生まれるのは当たり前だ。そこに達也、お前の子供も加われば……文字通り、我が四葉は『無敵』になる。四葉が弱体化するなんて未来、どこのどいつにも想像できようがないだろ?」

 

真司は、頼りがいのある右手を達也の前に差し出した。

「いい考えだろ? 少なくとも、お前が一人で泥沼に飛び込むより、遥かに現実的で安定したプランだと思うぜ。――どうだ達也、この勝負、俺に乗るか?」

 

差し出された親友の手を見つめ、達也は張り詰めていた肩の力を抜き、フッと観念したような、どこか呆れたようなため息を一つだけついた。

「……降参だ。分かった、お前のその策に乗ろう」

 

「よし! それでこそ俺の親友で、戦友で、俺の義兄になるかもしれない奴だよな。頼んだぜ、相棒」

 

パチン、と小気味よい音が響き、二人の手が力強く握り合わされる。そのまま互いの肩を抱き寄せ合う二人の男の姿を、深雪はベンチからほほえましく見つめていた。

四葉の冷酷な歴史が、真司によって、今まさに「新しい歴史」へと書き換えられた瞬間だった。

 

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