2095年4月6日 昼休み 生徒会室
真司、深雪、達也の三人は生徒会室でお昼ご飯を食べていた。
座席は真由美から近い順に達也、深雪、真司の順で、深雪の席は達也より真司の方に少し近い。
達也は摩利から今日から始まる部活勧誘期間での風紀委員の仕事や注意事項など説明を受けている。
その横で真司と深雪は会話を広げていた。
深雪「真司さん、お茶をお注ぎします」
真司「ありがとう。今日のお弁当美味しかったよ、作ってくれてありがとう」
深雪「真司さんに喜んでいただけて嬉しいです」
真司「今日のおかずはどれも美味しかったが特に⋯」
真司がこのおかずが特に好きやこれは少し冷めると美味しさが減ってる気がするなど色々と深雪に言っていた。
その言葉を一言一句聞き逃さない勢いで笑顔で聞いている。
真由美や摩利は横目でその二人の姿を見て、まるで恋人同士のやり取りにしか見えなかった。
達也の放課後の予定が決まった頃深雪が質問する。
深雪「会長⋯⋯わたしたちも取り締まりに加わるのですか?」
中条、真由美と服部、深雪と市原の役目は真由美が伝えたが真司の役目を決めかねているようだった。
真由美「真司くんをどうするのかなのよね」
深雪としては真司とは一緒に生徒会室のお留守番のほうが嬉しいがそれは口に出せないので黙っていた。
そこに真司が口を挟む。
真司「真由美さん、もしよろしければ自分も生徒会室での待機にしていただけないでしょうか?」
真由美「あら?どうしてかしら」
真司「少々事情がございまして、生徒会入りのお話をお受けしたことにも繋がるのですが、自分が勧誘の現場に出れば騒動の中心が私自身になりかねないと思っています」
その真司の発言に達也も深雪もすぐに納得した。
真由美と摩利は真司の言いたいことが分からなかったから聞き返す。
摩利「騒動の中心とはどういうことだ?」
真司「実は中学生時代に、部活の助っ人の応援で地区大会などで
真由美「そんなに大暴れしてたの?」
真司「まぁ、はい⋯」
普段丁寧語で話す真司が言い淀むほどだから、よっぽどのことだろうと二人は予想した。
真司は付け加える。
真司「もちろん、人手が足りなければ自分を駆り出してもらって構いません。ただ駆り出したところで騒ぎがより大きくなる可能性もあるので何とも言い難く⋯」
さすがの二人もそこまで言う真司を現場に駆り出すわけにはいかないと思ったので緊急で人手がいるときに手を借りる条件で話を受けた。
深雪は内心喜んでいた。
放課後 生徒会室
真司は深雪と共に生徒会室にいた。
深雪は真司と一緒に待機できることに上機嫌で真司の横にピタリとくっついている。
市原は深雪の真司への距離感に内心驚いていた。
かなり真司への距離が近く、恋人同士のような距離感に見えていた。
さすがにそのことに言及しなかったが。
真司「達也は大変だろうな」
深雪「どうしてですか?」
真司「少なからずこの学校には二科生制度に対する差別意識が蔓延してる。副会長ですらその類だったから、取り締まりに素直に応じる先輩はそう多くないだろうなって思っただけだ」
深雪「確かにそうですね。でもお兄様なら心配要らないでしょう」
真司「そこは信頼してる。しばらくやっかみは多いだろうな」
そう言って真司は席を立つ。
お茶を淹れようと思ったからだ。
真司「深雪、お茶は要るか?」
深雪「はい、いただきます」
真司「市原先輩もいかがですか?」
市原「ではお言葉に甘えてよろしくお願いします」
真司「ご期待に沿えるよう頑張ります」
しばらくして真司は三人分の紅茶を用意して戻ってくる。
真司は市原先輩の前にティーカップを置き、深雪・自分の順で置いていく。
深雪「やっぱり真司さんの淹れるお茶は美味しいですね」
真司「深雪にそう言ってもらえるように頑張ってるからな」
深雪「ふふふ」
そんな二人の様子を見ながら市原も口を付ける。
その美味しさについ言葉が漏れる。
市原「⋯美味しい⋯」
真司「お気に召していただけましたか?」
市原「葭葉くんは、生徒会室にあるものを使ったのですよね?」
真司「はい、備え付けのものを利用させていただきました。茶葉は持ち込んでません」
市原「これほど美味しく淹れることができるなんて」
真司「趣味ですから」
市原「葭葉くん、どうもありがとうございます」
真司「どういたしまして」
そんな二人のやり取りを見て真司が褒められていることに深雪は嬉しかった。
生徒会室では穏やかな時間が流れていたが、その裏で達也は真司の予想通りに騒動に巻き込まれていた。
夕方 部活連本部前
真司は達也が案の定騒動に巻き込まれ部活連本部に呼び出された話を聞いて内心爆笑していた。
深雪と部活連本部がある棟と生徒会室がある棟の間で待っているとそこにエリカとレオ、美月がやってくる。
三人が近づいてくることに真司は真っ先に気付いており深雪にそのことを伝える。
そしてエリカ達も真司の存在に気づいたようだ。
エリカ「あれ?真司に深雪じゃん。どうしたの?」
深雪「部活連本部から帰ってくるお兄様をお待ちしております」
エリカ「あー、剣術部の騒動のやつね」
真司「エリカ知ってたのか?」
エリカ「私も現場にいたし」
真司「なるほど。達也も隅に置けないな。入学四日目にしてもう同級生とデートか」
エリカ「デート違うし。というかあんたたち二人の方がよっぽどデートっぽいでしょ」
深雪「エリカそんなに興奮しなくても」
真司「深雪とはよくデートしてるから今更だ」
エリカ「なんであんたたちそんな慣れてんのよ」
真司と深雪は互いの発言を疑問に思っていない。それがかえってエリカを混乱させていた。
そんな二人を見て笑っているレオと美月。
真司「三人とも入る部活決まったのか?」
真司のその質問にレオは山岳部、美月は美術部に入ることを聞いた。
エリカは美月に一緒にと誘われたが悩んでいるようだった。
美月「そういうお二人はどこかにお入りになるのですか?」
真司「深雪がどこかに入るなら考えるが」
深雪「真司さんがどこかに入るなら考えます」
エリカ「仲良しか!」
また真司と深雪は互いの発言を疑問に思っていない。それがかえってエリカを混乱させていた。
しばらく話していると達也が部活連本部から戻ってくるのが見える。
達也「すまん、みんな待っていてくれたのか」
真司「お疲れ達也。災難⋯だったな」
深雪「お疲れ様でした、ご活躍でしたね」
エリカ「おつかれー」
レオ「水くさいぜ、ここは謝らなくていいぜ」
美月「達也さん、お疲れ様でした」
達也「こんな時間だしどこかで軽く食べないか?一人1000円までなら奢るぞ」
真司「穂波さんには遅くなるかもしれないと連絡済みだ」
達也「真司、ありがとう」
カフェ
入学式の時とは別のカフェで今日の話に花を咲かせていた。
なかでも関心が高かったのは達也の剣術部事件の話だった。
達也が桐原と呼ばれる先輩の高周波ブレードの魔法を無効化した技術に注目された。
エリカ「深雪は心配じゃなかったの?」
深雪「ええ、お兄様は真司さん以外には負けないもの」
エリカ「相変わらず真司のことは特別視してるのね」
深雪「当たり前じゃない、あと魔法式の無効化はお兄様の十八番なの」
エリカ「魔法式の無効化?情報強化でもなく領域干渉でもなくて?」
すぐに食いつくエリカと胸を張る深雪を境に魔法式の無効化の話が広がっていく。
深雪と達也の息の合い様にレオがまるで恋人みたいだとツッコミを入れようとして負ける。
そこに真司がさらに燃料投下する。
真司「レオ、悪いが深雪を
その言葉に深雪は頬を赤らめて明らかに嬉しそうな表情に変わる。
それを見たエリカ・レオ・美月は深雪の表情が達也に向ける以上なので、達也とは本当に兄妹でしかなく深雪の矛先は真司に向かっていることを痛感した。
深雪「そうですよ、西城さん。私は
深雪のさらなる一言に完全ノックアウトされるレオ。そこにエリカが
エリカ「あんたはこの三人の関係にツッコミ入れるなんて百年早かったわね」
レオ「本当にその通りだぜ⋯」
さらに深雪は嬉しくなったので椅子ごと真司の真横に移動してピタリとくっつく。視線すら合わせず目を瞑って真司の腕にくっついている姿にさらにダメージを受けるレオ。
レオ「ぐはっ!」
エリカ「あーあー、私もう帰ろうかなー」
そんな二人を横目に付いていけていない人が一人。
達也「深雪ほどほどにな。……真司もだ」
美月はこの騒動についていけていなかった。
美月「え?え?」
周りを見渡してようやく冗談の類だと気づいたようだが、深雪の真司への態度だけは本当なのでこれだけは冗談でもない。深雪は名残り惜しみつつ真司の横から離れる。
深雪「少し悪ふざけが過ぎましたね」
真司「⋯別にもっと横にいてくれても良かったんだぞ」
一瞬、誰も言葉を発せなかった。
「「「……」」」
エリカは口を半開きにしたまま固まり、レオは椅子にもたれたまま視線を泳がせ、美月はただただ困惑している。
真司「すまん、深雪。あとでいくらでも甘えてきてくれていいから」
真司は謝るが深雪にフォローを入れるだけで発言を撤回する気はないことに周りは真司の本気度を伺い知った。
そこからはレオが話を戻しキャストジャミングの話やアンティナイトの話などにまで話が広がった。
夜 自宅リビング
リビングのソファで深雪は真司の横にピタリとくっついて目を瞑って肩に頭を預けていた。
カフェで真司から言われた通り深雪は真司に甘えていた。真司は深雪が甘えているのを当たり前のように受け入れながらロイヤルミルクティーを飲んでいた。深雪も同じように両手で真司に淹れてもらったロイヤルミルクティーを持っていた。お互い無言のまま静かに時間が経過していく。
そこに達也が苦笑いでやってくる。
達也「お前たちさっきの続きまだやってるのか」
真司「深雪の自由に任せてる」
達也「真司、今日はやりすぎだ」
真司「反省はしてる。でも同じ状況になったら同じこと言うだろうな」
達也「⋯⋯相変わらずだな」
真司「深雪に慕われてる以上それに応えたいって思ってるから冗談や嘘なんて言わない」
達也は小さく息を吐いた。
達也「……ほどほどにな」
そう言い残して自室へ戻っていった。
無言のまま目を閉じていた深雪の体重が、ほんの
夜は静かに更けていった。