瓦礫が舞う。
崩壊したネオ・アルカディアの地下深く。かつて人類の理想郷だった場所は、今や紅い閃光と爆炎に満たされた戦場へと変わっていた。
その中心で、二人の“ゼロ”が向かい合っている。
一方は、本物の心を持ちながら、劣化した偽りの体を纏うゼロ。
もう一方は、本物の体を持ちながら、中身を失った破壊の化身――オメガ。
まるで鏡合わせのような戦いだった。
「我はメシアなり!!」
オメガが咆哮する。
その声と同時に、両腕が変形。巨大なバスターが展開され、莫大なエネルギーが収束していく。
次の瞬間。
轟音。
チャージショットが二連続で放たれた。
さらに遅れるように、巨大なセイバーの衝撃波が一直線に走る。
空間そのものを裂くような一撃。
(出力が違う……!)
ゼロは即座に理解する。
今の自分の体では、一発でもまともに受ければ終わりだ。
だが――退かない。
ゼロはむしろ前へ踏み込んだ。
高速移動。
チャージショットの軌道を紙一重で逸れ、体を斜めに滑らせるように回避する。熱風が頬を掠める。ほんのわずかでも遅れていれば、上半身ごと消し飛んでいた。
続く斬撃波。
跳ぶ。
足場を蹴り、回転しながら回避。
その瞬間だった。
オメガが、こちらへ突っ込んでくる。
そして。
空中でさらに跳躍した。
(二段ジャンプ――!)
今の体ではできない動き。
かつて、自分自身が当然のように使っていた技術。
オメガは空中で光を収束させ空中で回転切り――
「滅閃光!!」
無数の光弾が降り注ぐ。
だがゼロは怯まない。
(読める……!)
元は、自分の体だ。
どの角度から、どの癖で技を放つのか。長年染みついた感覚が、攻撃の予兆を告げてくる。
光弾の隙間を縫い、ゼロは一気に踏み込む。
着地するオメガ。
そこへ神速の三連撃。
一撃。
二撃。
そして――
(……っ!?)
本能が警鐘を鳴らした。
ゼロは即座に後退する。
直後。
オメガのセイバーが暴風のように薙ぎ払われた。
もし、あと半歩遅れていれば。
今頃、自分の体は真っ二つになっていただろう。
「……危なかったな」
低く呟く。
体が悲鳴を上げる。今のボディは、全盛期とは比べものにならないほど脆い。
一度捕まれば終わり。
まともな打ち合いはできない。
だが――
(だからどうした)
ゼロは再び構える。
オメガが突進してくる。
速度も、出力も、今の自分を上回っている。
正面から打ち合えば負ける。
ならば。
横へ滑るように加速。
オメガの突進軌道をわずかに逸れ、その懐へ飛び込む。
セイバーを一閃。
装甲を裂く。
そして即座に離脱。
オメガの反撃のセイバーが空を切った時には、ゼロはすでに間合いの外へいた。
『ほう』
シグマの笑い声が響く。
『さすがだな、ゼロ。それほど体の性能差がありながら、未だ致命傷を負っていないとは』
「黙れ」
ゼロは短く吐き捨てる。
「オメガを倒した後は、お前だ」
『怖い怖い』
だがシグマは愉快そうに笑うばかりだった。
『やれ、オメガ! そこにいる“本物”を殺せ! そしてお前こそが唯一無二のゼロになるのだ!!』
「くっふっふ……あはははは!!」
オメガが狂ったように笑う。
その笑い声を聞くだけで、胸の奥が軋んだ。
(……これが、俺の悪夢か)
もし。
もし、自分があのまま暴走を続けていたら。
もし、エックスと出会わなかったら。
あれこそが、『ゼロ』になっていたのかもしれない。
オメガが再び迫る。
ゼロは同じように踏み込もうとして――止めた。
(違う)
瞬時に危険を察知。
後退。
直後。
オメガのセイバーが地面を叩き割った。
衝撃。
大地がめくれ上がり、巨大な瓦礫が降り注ぐ。
轟音が地下空間を揺らした。
ゼロは飛来する岩盤を蹴って移動しながら、冷静に分析する。
(真正面からの打ち合いは不利)
今の自分の武器は。
ダッシュ斬り。
そして三連撃。
だが三連撃は隙が大きい。
今のオメガ相手では、下手に使えば反撃を受ける。
(なら、一撃離脱を繰り返すしかない)
少しずつ削る。
焦る必要はない。
オメガは圧倒的な性能を持つ。だが。
戦闘技術は、まだ荒い。
力任せだ。
そこに付け入る隙がある。
「性能は俺より上だ」
ゼロは呟く。
そして、加速。
「だが――小技は俺の勝ちだ。オメガ!!」
一瞬で懐へ潜り込む。
置き斬り。
セイバーが装甲を裂き、火花が散った。
「くふっ……あはははは!!」
オメガは笑う。
痛みすら楽しむように。
その姿を見ながら、ゼロは静かに目を細めた。
(終わらせる)
この悪夢を。
この過去を。
この、自分自身との戦いを。
エックスが守った世界のために。
そして、自分自身が前へ進むために。
ゼロは再び地面を蹴った。
紅い閃光が、崩壊した戦場を駆け抜ける。
☆ ☆ ☆
基地の指令室には、重苦しい緊張が満ちていた。
誰一人として席を立たない。
誰もがモニターを見つめている。
そこに映っているのは、たった一人で戦場に立つ紅き英雄――ゼロ。
そして、その前に立ちはだかる、もう一人の“ゼロ”。
ハルピュイアは腕を組みながら、険しい表情でその戦いを見つめていた。
最初は、ただゼロの勝利を信じていた。
だが。
戦いを見れば見るほど理解してしまう。
(……なんという性能だ)
オメガ。
ゼロの本来の肉体。
その出力は、自分たち四天王ですら言葉を失うほどだった。
手首を変形させて放たれる二連続チャージショット。
さらに間髪入れず飛来する巨大な斬撃。
そのどれもが、今のハルピュイアでも正面から受ければ致命傷になりかねない威力を持っている。
(あれが……本来のゼロ)
ぞくり、と冷たい感覚が背を走る。
あの肉体に、今戦っているゼロの技量と判断力が加わっていたなら――。
確かに。
“紅き破壊神”という名も納得できた。
エックス様と並び、イレギュラー戦争を駆け抜けた伝説。
いや。
(下手をすれば……)
自分たち四天王ですら。
本来のゼロと戦えば、勝負の土台にすら立てなかったかもしれない。
実際にファーブニルとレヴィアタンは今のゼロにほとんど何もできずに敗北している。そこにこの性能が加われば……。
それほどまでに、性能差が圧倒的だった。
だが。
それでも。
ゼロは退かない。
オメガの砲撃を、まるで未来を見ているかのように紙一重で回避し、その懐へ潜り込む。
誰も真似できない動きだった。
「……凄い……」
科学者の一人が呟く。
バスターの軌道を見切り、斬撃の隙間を縫い、ほんの数センチ単位で死線を避け続けている。
常軌を逸した戦闘感覚。
だが次の瞬間。
オメガが空中を蹴った。
「――っ!?」
ハルピュイアの目が見開かれる。
(空中を……!?)
二段ジャンプ。
それも、自分たちのものとは比較にならない高度。
オメガは空中で高速回転しながら叫ぶ。
「滅閃光!!」
無数の斬撃が雨のように降り注ぐ。
基地の中から悲鳴が上がった。
だがゼロは止まらない。
光の隙間を抜け、着地点を先読みし、逆にオメガへ突撃する。
一撃。
二撃。
確かに入った。
装甲が裂け、火花が散る。
だが。
三撃目を放つ直前。
ゼロは突然後退した。
(何故――)
答えは次の瞬間に現れた。
オメガが、紫色の巨大なセイバーを横薙ぎに振るったのだ。
もしゼロが踏み込んでいれば。
今頃、真っ二つだった。
「……っ」
ハルピュイアは拳を握る。
ゼロは、間違いなく善戦している。
だが。
(性能差が……違いすぎる)
オメガの攻撃は一撃必殺。
対してゼロは、何度も斬りつけなければならない。
長引けば不利なのは明らかだった。
ファーブニルを援護に向かわせるべきか。
本気でそう考え始めた時――
『おっと』
シグマの声が割り込んできた。
『この神聖な戦いに割って入るつもりかな?』
不快な笑い声。
『もしそうするなら、こちらもVAVAをお前たちの基地に向かわせるしかないな』
「……貴様」
ハルピュイアは低く唸る。
つまり。
黙って見ていろと言っているのだ。
ゼロを孤立させ。
追い詰め。
絶望する瞬間を観客として見届けろ、と。
歯噛みする。
だが、ここで動けば基地そのものが危険になる。
「シグマ」
ハルピュイアは画面を睨みつけた。
「お前は何を考えている?」
『何を、とは?』
「ゼロの真実を暴き、我々に精神的打撃を与えた。それは認めよう。だが、何故ここまでゼロに執着する?」
シグマはしばらく沈黙し――
愉快そうに笑った。
『簡単だよ』
その声は、どこまでも楽しげだった。
『ゼロが壊れる瞬間を見たいのだ』
空気が凍る。
『心が折れ、絶望し、自ら戦う意志を捨てる。その瞬間を、お前たち全員に見せてやりたい』
ハルピュイアは眉をひそめる。
(……こいつ)
本気で楽しんでいる。
世界を壊すことも。
人の心を折ることも。
ゼロを苦しめることすら。
『安心しろ。他意はない』
シグマは笑う。
『お前たちはただ、ゼロが破壊される様を見届ければいい』
「……ゼロは負けない!!」
その時だった。
甲高い声が響く。
振り向けば、人形を持った、子ども型レプリロイドがモニターを睨みつけていた。
「ゼロは絶対負けない!!」
その叫びに続くように、周囲のレプリロイドたちも声を上げる。
「そうだ!!」
「ゼロ様は負けない!!」
「俺たちだって心は折れない!!」
さらに。
人間たちまでもが叫び始めた。
「人間にも責任がある!!」
「ゼロ様の体を奪った罪は、俺たちが背負う!!」
「必ず、元の体に近づける!!」
「それが人間の贖罪だ!!」
その言葉に、シグマは鼻で笑った。
『ふん……それができると言うのか?』
だが。
その声には、わずかな苛立ちが混じっていた。
そして通信が切れる。
再び画面へ視線を戻す。
そこでは。
ゼロが、一撃離脱を繰り返していた。
真正面からは戦わない。
斬っては離れ。
避けては斬り。
少しずつ。
本当に少しずつ。
オメガへダメージを蓄積させている。
(……捕まれば終わり、か)
それでも戦う。
それしか道がないから。
ハルピュイアは、無意識に拳を握っていた。
隣ではファーブニルが、獲物を狙う獣のような目で戦いを見ている。
レヴィアタンは、祈るように両手を組んでいた。
誰もが。
英雄の勝利を願っている。
「……負けるな、ゼロ」
ハルピュイアは静かに呟いた。
それは、祈りにも似た声だった。
☆ ☆ ☆
荒れ果てた地下空間に、金属の焼ける臭いが満ちていた。
崩れた床。砕けた壁。至る所に刻まれた巨大な斬痕。
それら全てが、この戦いの激しさを物語っている。
ゼロは荒く息を吐いた。
視界の端で警告表示が点滅している。エネルギー残量、装甲損傷率、関節部負荷――どれも楽観できる数値ではない。
(……長引きすぎた)
オメガ。
自分の本当の体。
その性能は、想像以上だった。
いや、本来ならこれが『ゼロ』だったのだろう。今、自分が使っているこの劣化したボディでは、本来の出力の十分の一すら引き出せていないのかもしれない。
それでも。
(勝つ)
ゼロはセイバーを握り直す。
友が守ろうとした世界を守る。
そのために。
そして、自分自身の悪夢を終わらせるために。
オメガが嗤う。
「くふっ……あはははは!!」
狂気そのものの笑い声。
その巨体が、再びゼロへと突進してくる。
ゼロは冷静に軌道を読む。
(右から来る)
ならば。
斜めへ滑り込み、セイバーを置くように振るう。
――そのはずだった。
ぞくり、と背筋が冷える。
(……違う!!)
本能が警鐘を鳴らした。
ゼロは即座に攻撃を中止し、離脱へ移ろうとする。
だが。
遅かった。
オメガの脚が、地を這うように振り抜かれる。
「――っ!!」
足を払われた。
衝撃。
体勢が崩れる。
一瞬だけ、ゼロの体が宙に浮いた。
それだけで十分だった。
気づけば目の前には、巨大な紫色のセイバー。
オメガは、すでに“斬る”姿勢に入っていた。
(まずい!!)
一撃目。
ゼロは咄嗟にセイバーで受け流す。
火花が散る。
重い。
今の体ではまともに受け切れない。
二撃目。
ゼロは左手でオメガの腕を叩き、無理やり軌道を逸らす。
だが。
三撃目。
今度は完全に鍔迫り合いになった。
押される。
力が違いすぎる。
ゼロは後退しようとするが、オメガは止まらない。
四撃目。
腹部の装甲が裂けた。
激痛にも似た警告音が脳へ響く。
五撃目。
顔を狙った斬り上げ。
ゼロは反射的に首を逸らす。
刃が頬を掠め、頭部装甲の一部が吹き飛ぶ。
(……っ!!)
もし反応が少しでも遅れていれば、首ごと持っていかれていた。
ゼロは強引に後退する。
距離を取る。
オメガは追ってこない。
ただ、嗤っていた。
「くっ……ふふ……あはははは!!」
まるで獲物を追い詰めることそのものを楽しんでいるように。
ゼロは素早く損傷確認を行う。
腹部損傷。
右脚出力低下。
だが、まだ動ける。
(戦闘継続可能)
問題は別だ。
(学習している)
オメガが。
自分の戦い方を。
一撃離脱。
フェイント。
置き斬り。
全てを急速に吸収し始めている。
このまま長引けば、確実に不利になる。
ゼロは静かに目を閉じた。
(なら――賭けるしかない)
三段斬り。
隙は大きい。
だが、装甲の裂け目へ正確に叩き込めれば、内部へ致命打を与えられる。
それしか勝機はない。
「……オメガ」
ゼロはセイバーを構えた。
「決着をつけよう」
オメガが、ぴたりと動きを止める。
そして。
ゆっくりと口元を歪めた。
「……くふふ」
狂った笑み。
ゼロは地を蹴る。
オメガも同時に動いた。
真正面からの激突。
だが――
(遅い)
セイバーを振りかぶったのは、ゼロの方がわずかに早かった。
オメガは一瞬迷った。
セイバーか。
バスターか。
その判断の遅れ。
ゼロは見逃さない。
「今なら言える!!」
ゼロが吠える。
「俺の力は――!!」
一撃目。
セイバーを弾く。
二撃目。
裂けた装甲をさらに切り開く。
内部機構が露出する。
そして。
三撃目。
「破壊するためのものじゃない!!」
紅い閃光。
「友と!!」
さらに踏み込む。
「友の信じるものを守るための力だ!!」
三段目が、オメガの内部を貫いた。
沈黙。
次の瞬間。
閃光。
爆発。
巨大なオメガの体が、内部から弾け飛んだ。
ゼロは即座に後退する。
爆風が吹き荒れる。
瓦礫が舞う。
だがゼロは、静かに目を閉じた。
(……終わった)
自分自身の悪夢。
エックスではない。
自分自身の手で決着をつけた。
それだけは。
ほんの少しだけ。
救いだった。
(シグマ)
皮肉にも。
この戦いを用意したことだけは感謝してやる。
後は。
シグマとVAVAを倒せば終わる。
世界を救える。
そう思った。
だが――
違った。
爆炎の中。
巨大な影が、立ち上がる。
「……なに?」
ゼロの目が細まる。
オメガ。
確かに大ダメージを受けている。
だが。
まだ、動いていた。
ゼロは即座に踏み込む。
今度こそ完全に破壊する。
だがその瞬間。
紫色の光が空間を満たした。
「――っ!?」
衝撃。
ゼロの体が吹き飛ばされる。
空中で無理やり体勢を立て直し、着地。
その先にいたのは――
ダークエルフ。
禍々しい紫色の光を纏った存在が、オメガを包み込んでいた。
裂けた装甲が再生していく。
傷が塞がっていく。
『さすがだ!!』
シグマの笑い声が響いた。
『さすがだ、英雄!!』
狂気じみた歓喜。
『だがな!!』
ダークエルフの光がさらに強まる。
『オメガはダークエルフがいる限り!!』
再生。
『何度でも!!』
修復。
『何度でも!!』
復活。
『何度でも蘇る!!』
オメガが、再び立ち上がった。
完全な殺意を纏って。
『もうお前に勝ち目はない!!』
シグマの声が、地下空間全体へ響き渡る。
ゼロはセイバーを握る。
傷だらけの体で。
それでも。
目だけは、まだ死んでいなかった。
youtubeに海外の方が作った、ゼロvsオメガを見ていると心が興奮します。
その興奮のままに書いております('ω')
ロックマンゼロアニメ化してくれ頼む!!