ロックマンゼロ 逆襲のシグマ   作:万歳!

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第6話 強襲のVAVA

 模擬戦が終わった瞬間、基地の空気は一変した。それまで張り詰めていた緊張は弾け飛び、代わりに溢れ出したのは、歓声だった。人間も、レプリロイドも関係ない。誰もが立ち上がり、声を上げ、手を叩き、目の前の戦士を称えている。

 

 ゼロ。

 

 紅き破壊神。

 

 その姿は、間違いなく英雄だった。確かに、計測結果は異常だった。肉体性能だけを見れば、量産型パンテオンの数倍程度。だが――そんなものは問題ではなかった。

 

 四天王最強の近接戦闘能力を持つファーブニルに対し、ほとんど何もさせずに勝利した。それが、すべてを証明していた。

 

(これが……ゼロ)

 

 シエルは胸の奥に熱を感じていた。隣ではミランも同じように、興奮と安堵を滲ませている。

 

「凄い……あれが、エックス様の対となる英雄……破壊神ゼロ……」

 

「ええ……」

 

 シエルはゆっくりと頷く。

 

「彼がいれば……私たちは、シグマに勝てるわ」

 

 その言葉に、迷いはなかった。周囲からも声が上がる。

 

「ゼロ様……!」

 

「お願いします……!」

 

「シグマを……倒してください!」

 

 誰もが口々に願う。祈りにも似た声。ゼロはそれに応えない。だが――無視もしない。ただ静かに立ち、すべてを受け止めている。

 

(エックスとは違う……)

 

 シエルはそう感じていた。

 

 あの人のような優しさや柔らかさはない。だが代わりに、揺るがない何かがある。背負う覚悟。それが、言葉よりも強く伝わってくる。

 

 やがてゼロは模擬戦区画を後にし、控えの間へと戻ってきた。

 

 一方、ファーブニルは斬り落とされた腕を抱え、別の通路へと向かっている。その背中には悔しさよりも、満足が見えた。

 

 そして――。

 

「ゼロ!」

 

 小さな影が、ゼロに駆け寄った。アルエット。シエルにとって妹のような存在のレプリロイドだ。

 

「強いね!!」

 

 無邪気な声。ゼロはわずかに視線を落とし――その頭に手を置いた。優しく撫でる。その仕草に、場の空気が少しだけ和らぐ。

 

「ありがとうゼロ!」

 

 アルエットは嬉しそうに笑う。

 

「私、アルエット! 私ね、お姉ちゃんたちを傷つけるイレギュラーになりたくないの!」

 

 真っ直ぐな言葉。

 

「お願い……シグマたちを倒して!!」

 

 一瞬の沈黙。

 

「……ああ」

 

 ゼロは、短く答えた。それだけで十分だった。アルエットの顔がぱっと明るくなる。その様子を見て、ミランが一歩前に出る。

 

「ゼロ様!」

 

 その声には、強い決意が込められていた。

 

「俺たちも戦います! 弱いレプリロイドでも、イレギュラーになった奴らなら倒せる!」

 

 拳を握りしめる。

 

「一緒に戦わせてください!」

 

 だが――

 

「……いらん」

 

 即答だった。

 

 冷たいほどに、はっきりと。

 

「犠牲が増えるだけだ」

 

 ゼロは視線を上げる。

 

「シグマとオメガは、俺が仕留める」

 

 その声には、一切の迷いがない。

 

「お前たちは、この基地を守れ。人間たちを守れ」

 

「……ですが……!」

 

 ミランが食い下がる。

 

「全部を任せるなんて……!」

 

 その言葉に、ゼロはわずかに目を細めた。

 

「エックスと約束した」

 

 静かな声。

 

 だが、その一言で空気が変わる。

 

「この世界を守ると」

 

 シエルの胸が、強く打たれる。

 

「エックスは、俺に世界を託した」

 

 その事実の重み。

 

「なら――応えるだけだ」

 

 短い言葉。

 

 だが、圧倒的だった。

 

「次に会う時に……恥ずかしくないようにな」

 

 誰も、言葉を返せなかった。それは、紛れもなく英雄の言葉だった。覚悟。責任。誓い。すべてを一人で背負う者の声音。

 

(この人は……本当に一人で戦うつもりなんだ……)

 

 シエルは息を呑む。シグマ。そしてオメガ。あまりにも強大な敵。

 

 それに対して、たった一人で――

 

(勝てる……?)

 

 不安がよぎる。だが、すぐに打ち消す。

 

(違う……信じるの)

 

 この場の全員が、同じ想いだった。その時――甲高い警報音が、基地全体に響き渡った。空気が一瞬で凍りつく。

 

「な、何!?」

 

 モニターが一斉に切り替わる。外部センサーが捉えた影。そして――

 

『ゼロォ!!』

 

 通信回線を強引に割り込む、荒々しい声。

 

『久しぶりだなぁ!!』

 

 その声を聞いた瞬間、ゼロの目がわずかに細められた。

 

『VAVAだ!!』

 

 場がざわめく。

 

「VAVAだと……!?」

 

 ゼロが叫ぶ。それを見たミランが息を呑み、シエルの背筋にも冷たいものが走る。

 

『表に出てこい!!』

 

 嘲るような声。

 

『でなければ……この基地、片っ端から壊して回るぞ!!』

 

 外の映像には、巨大な影が映っていた。重武装のレプリロイド。破壊の化身だ。

 

「ゼロ……VAVAって?」

 

 アルエットが不安そうに見上げる。ゼロは一歩前に出た。

 

「シグマに付き従うイレギュラーだ」

 

 その声は、冷静だった。だが、確実に戦闘の色が宿っている。

 

「守りを固めろ」

 

 振り返らずに言う。

 

「俺が――仕留める」

 

 その一言に、迷いは一切なかった。そしてゼロは、そのまま歩き出す。戦場へ。再び――戦いが始まろうとしていた。

 

☆ ☆ ☆

 

 瓦礫と鉄骨の影が交錯する荒野に、重々しい駆動音が響いていた。その中心に立つのは、巨大な戦闘マシン。そのコクピットから、歪んだ歓喜を滲ませる声が響く。

 

(どいつもこいつも……)

 

 VAVAは舌打ちした。

 

(エックス、エックス、エックス……!)

 

 脳裏に焼き付いている。比較され続けた日々。自分の方が優れていると、何度も証明しようとした。だが――

 

(あの野郎は死んだ)

 

 それも、戦いの中でではない。決着をつけることもなく。

 

(逃げやがったんだ……)

 

 怒りとも虚しさともつかない感情が、胸の奥で燻っている。。だからこそ――視線の先にいる存在に、それをぶつけるしかなかった。

 

 赤いボディ。静かに佇む戦士。ゼロ。

 

「久しぶりだな、ゼロ!!」

 

 VAVAは嘲るように叫ぶ。対するゼロは、わずかに顔を上げた。

 

「……VAVA。このイレギュラーめ……」

 

 低く、感情を押し殺した声。

 

「そうだ!」

 

 VAVAは笑う。

 

「俺はイレギュラーだ! あの甘ちゃん野郎のB級ハンターとは違う!!」

 

 拳を握り、操縦桿を叩く。

 

「俺が……俺こそが! 世界を変えうる存在なんだ!!」

 

 その叫びは、半ば執念だった。だがゼロは、微動だにしない。

 

「……何故、シグマに付き従う?」

 

 静かな問い。VAVAは一瞬だけ沈黙し――すぐに笑みを深めた。

 

「決まっているだろうが」

 

 砲口が持ち上がる。

 

「それが一番……俺がエックスより優れていると証明できる、最短ルートだからだ!!」

 

 轟音。バスターの閃光が走る。だが――ゼロはそれを、受けなかった。弾き返しもしない。ただ、紙一重で回避する。

 

「……はっ」

 

 VAVAの口元が歪む。

 

(やはりな)

 

 あえて観察していた。

 

 その動き。反応速度。

 

 そして――選択。

 

(今の出力じゃ、弾き返す余裕もねえか)

 

 確信に変わる。

 

「哀れだなぁ、ゼロ!!」

 

 嘲笑が響く。

 

「人間に尽くして、英雄なんて呼ばれて……その結果が今のお前だ!!」

 

 だがゼロは、ただ前を見据えたまま答える。

 

「……俺は、自分を英雄だと思ったことはない」

 

 一歩、踏み出す。

 

「だが――目の前にイレギュラーがいるなら、狩るだけだ」

 

 その言葉に、揺らぎはなかった。

 

「ははっ……!」

 

 VAVAは肩を震わせる。

 

「お前だってイレギュラーだろうが!!」

 

 声を荒げる。

 

「聞いたぞ? お前とエックスの因縁……!」

 

 ゼロの動きが、ほんのわずかに止まる。

 

「エックスを破壊するために作られた存在……それが今や英雄だとよ!!」

 

 嘲り。

 

「お前の創造主も、さぞかし泣いてるだろうなぁ?」

 

 だが――。

 

「知らん」

 

 即答だった。

 

 冷たく、切り捨てるように。

 

「俺を作った存在の思惑など、知ったことじゃない」

 

 風が吹く。

 

 金色の髪が揺れる。

 

「俺は……ただのゼロだ」

 

 その目は、まっすぐだった。

 

「友と……友の信じたものを守る。それだけだ」

 

 その言葉に、VAVAは一瞬だけ言葉を失う。

 

 だがすぐに、苛立ちが上書きする。

 

「……くだらねえな」

 

 肩部ユニットが展開される。ロケット弾が連続で射出された。爆炎。しかしゼロは――それすらも避ける。ギリギリで。

 

 本当に、紙一重で。

 

(動きは衰えてねえ……しかし、遅いな)

 

 VAVAは目を細める。

 

(だが――)

 

 見えていた。限界が。

 

 わずかな遅れ。

 

 余裕のなさ。

 

(当たれば終わりだな)

 

 確信する。

 

「いいぜ……」

 

 VAVAは低く笑う。

 

「そろそろ前座は終わりだ」

 

 機体が前進する。

 

「エックスのいない世界で……どっちが上か、決めようじゃねえか!!」

 

「……少なくとも」

 

 ゼロは構える。

 

「お前が上じゃないことだけは確かだ」

 

 その声は、静かだった。

 

「お前はただの――イレギュラーだ」

 

 次の瞬間、ゼロが駆けた。

 

 閃光のような踏み込み。

 

「来たな!!」

 

 VAVAは即座にバスターを連射する。だが――当たらない。すべてを回避される。爆弾も、ミサイルも。まるで未来を読んでいるかのように。

 

(だが……!)

 

 理解している。

 

(近づくしかねえよなぁ!?)

 

 この装甲。

 

 この機体。

 

 正面からは突破できない。

 

 だから――

 

「頭を狙うしかねえ!!」

 

 VAVAは嗤う。

 

「分かってるぜ、その動き!!」

 

 迎撃姿勢。

 

「来ると分かってりゃ、防ぐのは簡単なんだよ!!」

 

「……ちっ!」

 

 ゼロの舌打ち。

 

 その瞬間――

 

「終わりだ!!」

 

 バスターが直撃コースに入る。

 

 だが――

 

 ゼロは止まらなかった。

 

 閃光が、その身を貫く。

 

「なっ……!?」

 

 被弾。

 

 それでもなお、突進。

 

「馬鹿が……!?」

 

 理解が追いつかない。

 

 だがもう遅い。

 

 赤い刃が、目前まで迫っていた。

 

「しまっ――」

 

 斬撃。

 

 衝撃。

 

 金属が引き裂かれる音。

 

 VAVAの機体の片腕が、宙を舞った。

 

「ぐっ……!」

 

 コクピットが揺れる。

 

 警告音が鳴り響く。

 

 だがVAVAは――笑っていた。

 

「ははっ……!」

 

 荒い息を吐きながら。

 

「その体で……よくやるじゃねえか、ゼロ……!」

 

 視線の先。

 

 ゼロは膝をつきかけながらも、立っている。

 

 ダメージは明らかだった。

 

 それでも倒れない。

 

(……なるほどな)

 

 VAVAは目を細める。

 

(弱体化の理由は……分かってる)

 

 だが――

 

 口には出さない。

 

 出す必要もない。

 

 それは、いずれゼロに従う者たちに、絶望として叩きつければいい。

 

「いいだろう……」

 

 機体を後退させる。

 

「今日はここまでだ」

 

 爆煙の中で、機体が離脱体勢に入る。

 

「ここで死ぬには、まだ早え」

 

 笑う。

 

「ゼロ……そしてオメガ……」

 

 低く、愉悦を含んだ声。

 

「その正体を知った時の連中の顔……楽しみにしてるぜ」

 

 推進炎が噴き上がる。

 

 機体が空へと退く。

 

「次は……もっと楽しませろよ」

 

 残響だけを残して、VAVAは去った。

 

 静寂。

 

 瓦礫の中で、ゼロはゆっくりと息を整える。

 

 傷ついた体。

 

 限界は、近い。

 

 それでも――

 

「……まだだ」

 

 小さく呟く。

 

 その瞳に、揺らぎはなかった。

 

☆ ☆ ☆

 

 モニター越しの光景に、誰も言葉を発することができなかった。

 

 基地の中央管制室。そこに集まっている人間とレプリロイドたちは、ただひたすらに“それ”を見つめている。

 

 荒野。

 

 爆炎。

 

 そして――ゼロと、謎のイレギュラー。

 

 音声回線も開かれている。だからこそ、すべてが聞こえていた。戦闘の衝撃音だけではない。言葉も。その一つ一つが、彼らの理解を揺るがしていた。

 

(今の……)

 

 シエルは思わず息を呑む。あのイレギュラー――VAVAが吐き捨てた言葉。

 

『あの甘ちゃん野郎のB級ハンターとは違う!!』

 

 その一言。最初に気づいたのは、歴史を専攻する博士の一人だった。

 

「……今の、まさか……」

 

 震える声。

 

「エックス様のことじゃ……」

 

 誰かが、そう呟いた。

 

 その瞬間、空気が凍りつく。

 

「そんな……」

 

「あり得ない……」

 

 否定の声が上がる。

 

 だが――

 

 誰も、完全には否定できなかった。

 

 B級ハンター。

 

 それは記録に残っている、かつての呼称。イレギュラーハンター時代の、エックスの階級。つまり――

 

「知っている……?」

 

 シエルは呟いた。

 

「ゼロとシグマ以外で……エックスの時代を知っている……?」

 

 そんな存在が、今もいる。その事実が、恐ろしかった。ざわめきが広がる。

 

「そんなの……記録にないぞ……!」

 

「封印されていた個体……?」

 

「いや、それならどうして今……」

 

 混乱。そしてもう一つの疑問が、浮かび上がる。

 

(技術……)

 

 シエルはモニターに映るVAVAの機体を見つめる。重装甲。高出力兵装。そして、明らかに現在の主流とは異なる設計思想。

 

(私たちより……進んでいる……?)

 

 そんなはずはない。本来、技術は未来へ進むほど発展する。それが常識だった。だが――

 

(エックスの記録も……そうだった)

 

 過去の存在であるはずの彼の性能は、今なお規格外。そして今、目の前にいるイレギュラーもまた――

 

(まるで……過去の方が優れているみたいじゃない……)

 

 その考えに、背筋が寒くなる。

 

 さらに。

 

『お前とエックスの因縁……!』

 

 その言葉。

 

 シエルの胸が強く打たれる。

 

(因縁……?)

 

 ゼロと、エックス。

 

 対となる英雄。

 

 それは知っている。

 

 だが、それ以上のことは――

 

(何も知らない……)

 

 モニターの中で、ゼロは何も語らない。

 

 否定もしない。

 

 ただ、静かに受け止めている。

 

 それが逆に、真実味を帯びていた。

 

(ゼロは……知っている)

 

 あのイレギュラーも。そして、ゼロ自身も。過去を。真実を。

 

 だが――。

 

『俺はただのゼロだ。友と、友の信じたものを守るだけだ』

 

 その言葉が響く。

 

 シエルは、思わず目を閉じた。

 

(……やっぱり)

 

 本人は否定するだろう。

 

 だが――。

 

(それでも……あなたは英雄よ)

 

 心の中で、そう呟く。

 

 次の瞬間。

 

 戦闘が激化した。

 

 爆発。

 

 閃光。

 

 VAVAの攻撃は苛烈だった。

 

 近づかせない。徹底して、距離を維持する戦い方。

 

「……あれ」

 

 ミランが眉をひそめる。

 

「やけに……戦いやすそうに見えるな……」

 

 その言葉に、数人が頷いた。違和感。それは確かにあった。まるで――今のゼロが弱いことを、前提にしているみたいな……。

 

 シエルの中に、嫌な予感が広がる。

 

(どうして……?)

 

 過去に何があったのか。

 

 ゼロに。

 

 エックスに。

 

 そしてあのイレギュラーに。

 

(分からない……)

 

 分からないことだらけだった。だが――それでも。視線はモニターから逸らせない。ゼロが戦っている。自分たちのために。だから――。

 

 信じるしかない。誰もが無言で拳を握る。祈るように。その時だった。ゼロが動いた。弾幕の中へ――踏み込む。

 

「ゼロ!?」

 

 誰かが叫ぶ。銃撃が直撃する。赤い装甲が弾ける。

 

「やめて……!」

 

 シエルの声が漏れる。

 

 だがゼロは止まらない。

 

 そのまま突進し――

 

 閃光。

 

 次の瞬間、VAVAの機体の片腕が宙を舞った。

 

「やった……!」

 

 歓声が上がりかける。

 

 だが――

 

 敵は退いた。

 

『オメガ……』

 

 去り際に残された言葉。

 

 その名に、空気が再び張り詰める。

 

(オメガ……)

 

 シエルの胸がざわつく。

 

 嫌な予感。

 

 だがそれを考えるより先に――

 

「ゼロが……!」

 

 ミランの声。

 

 モニターの中で、ゼロがよろめいていた。

 

 限界は明らかだった。

 

 シエルは立ち上がる。

 

「ミラン!」

 

 叫ぶ。

 

「急いでゼロを救助しに向かって!! 早く治療しないと!」

 

「分かった、シエル!!」

 

 ミランは即座に駆け出す。

 

 その時――

 

「待て!」

 

 一人のレプリロイドが声を上げた。

 

「レプリロイドは待機だ! イレギュラーウイルスの可能性がある!」

 

 場が一瞬、止まる。

 

「人間が行くべきだ!」

 

 その判断は、正しかった。

 

 だが危険でもある。

 

 それでも――

 

「行きます!」

 

「俺も!」

 

 若い人間たちが次々に手を挙げた。

 

 迷いはなかった。

 

「護衛は私がつくわ」

 

 静かな声。

 

 振り向けば、レヴィアタンが立っていた。

 

 その存在に、緊張がわずかに和らぐ。

 

「……お願い」

 

 シエルは強く頷いた。

 

 救助隊が出発する。

 

 その背中を見送りながら――

 

 シエルは再びモニターへと視線を向けた。

 

 そこにはもう、戦場の残骸しか映っていない。

 

 静寂。

 

 だが、心は静まらなかった。

 

(……どういうことなの)

 

 疑問が渦巻く。

 

 あのイレギュラーの言葉。

 

 エックスの過去。

 

 ゼロとの因縁。

 

 そして――

 

(どうして……ゼロをイレギュラーと呼んだの?)

 

 その一点が、強く引っかかる。

 

 ゼロは否定しなかった。

 

 ただ、受け流した。

 

(まさか……)

 

 嫌な想像が頭をよぎる。

 

 だが――

 

(……確かめないと)

 

 これは、放置していい問題ではない。

 

 知らなければならない。

 

 ゼロの過去を。

 

 真実を。

 

 シエルは静かに拳を握った。




来週の更新はお休みですm(__)m
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