壊れた如雨露といつか花咲く大輪の花   作:坪継

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8話

 

 ラブライブ!予選も終わり、11月に入った

 

明人「全ユニット、予選突破か」

 

 まずは最初の壁を乗り越えた所。次は、北陸大会

 

明人「全国へいけるのは、1ユニットだけか……」

 

 パソコンを閉じる

 行き場を失った左手が、右手首のミサンガに触れる

 

    ◇

 

明人「実行委員担当……沙知のやつ図りやがったな」

 

 久しぶりに部室に顔を出そうとしたとき、オープンキャンパス実行委員の担当をするを言い渡されてしまった

 

明人「はぁ……忙しいのがいいのか悪いのか」

 

さやか「綴理せんぱーい!本当に置いていっちゃいますよー?」

 

綴理「さ、さや!」

 

 部室に向かう途中、綴理と村野の会話が聞こえる

 先を歩く村野と、焦って追いかける綴理。その焦りが、無駄に大きく見えた

 

明人「おーっす」

 

梢「あら、水瀬先生。こんにちは」

 

瑠璃乃「アキ君じゃん!なんか部室にアキ君がいるの久しぶりって感じ」

 

明人「色々忙しかったんだ。ってか綴理のやつどうしたんだ?随分焦ってたみたいだけど」

 

花帆「そうですか?」

 

慈「さやかちゃんが置いてくって言うから焦ってたんじゃない?綴理ってばさやかちゃんにベッタリだし」

 

明人「……そうか。あ、そうだ。梢」

 

梢「はい、なんでしょう?」

 

明人「悪いんだけど、またしばらく来れそうにない」

 

梢「というのは?」

 

明人「なんか、オープンキャンパスの実行委員を担当しなきゃいけないらしくてな。そっちで忙しくなる」

 

梢「わかりました。こちらには私とさやかさんがいるのでご心配なく」

 

明人「頼む。オープンキャンパスでライブやりたいってなら申請忘れんなよ」

 

梢「はい」

 

瑠璃乃「えーっアキ君またしばらく来ないのー?」

 

明人「悪いな。ああ、そうだ。オープンキャンパス、うちの従妹が来るんだ。見かけたら優しくしてやってくれ」

 

慈「うちらその従妹を知らないんですけどー」

 

明人「大丈夫大丈夫。可愛いやつだから、すぐわかる」

 

慈「ほんっとその従妹ちゃん好きだよねえ」

 

明人「はいはい。練習頑張れよ」

 

 振り返って部室の扉を開ける

 

梢「あのっ……」

 

明人「梢、大丈夫だ」

 

 返事を聞く前に部室を出る

 ーーちゃんと、話せていただろうか

 

    ◇

 

 オープンキャンパス実行委員の会議のため、会議室に入る

 

明人「はい、実行委員の最初の集まり……を……え?」

 

 始めます、そう言おうとしたとき、予想もしていなかった人影が目に入る

 夕霧綴理、ここに居るとは思ってもいなかった

 

「先生、どうかしました?」

 

明人「……いや、始めよう。まずは自己紹介から。三年から順にやっていってください」

 

 三年から順に自己紹介が始まっていく

 その間にもチラチラと綴理の方を見る。顔は至って真剣。最近の綴理らしくない、鋭めの目付きをする瞬間すらあった

 

明人「次、二年。……綴理から」

 

綴理「夕霧綴理です。すごいことをします。おわり」

 

 綴理の自己紹介に、会議室が静かになる

 

明人「はぁ……」

 

綴理「?アキ、どうかしたの?」

 

明人「そうだな、綴理だもんな……。はい、座って。次」

 

 左手で額を押さえる

 

    ◇

 

 実行委員が始まって数日。会議は順調には進まず、少し難航していた

 

明人「はいストップ。一旦休憩にしよう。15分取るから、各自それまでにーー」

 

綴理「みんな聞いて」

 

 休憩を挟もうとした瞬間、急に綴理が立ち上がる

 

明人「綴理?」

 

綴理「ボクの歌を」

 

えな「ここで!?」

 

 そこから綴理の歌が始まった。意見、アドバイス、まとめ、全てを歌で伝えていく。足りない部分を、歌で

 

綴理「どう、かな?」

 

明人「……っい、今ので結構まとまったな。じゃあそのままーー」

 

 綴理の成長、なのだろうか

 

    ◇

 

明人「ほれ、資料」

 

沙知「おー、ありがとうございます」

 

 実行委員での話し合いの資料を沙知に渡す

 

沙知「……ふむふむ、いいねい。っでも……あれ?ここって……」

 

明人「綴理だよ」

 

沙知「そうか……綴理か」

 

 沙知の顔が少しニヤける

 

明人「……沙知は、いいのか?」

 

沙知「なにがですかー?」

 

明人「綴理、まだ沙知を避けてーー」

 

沙知「別に、そういうのないですよ。あたしが悪いところもあるし……。それに、後輩の成長が嬉しいのは普通でしょう?」

 

明人「……そうか」

 

 沙知の言葉が、重く感じた

 

    ◇

 

綴理「ツアーガイドをしたいんだ」

 

 唐突だった。綴理に話があるとあると言われ、聞いてみれば予想もできない提案がきた

 

明人「ツアーガイド……バスとかの?」

 

綴理「そう。スクールアイドルクラブで、やりたいんだ」

 

明人「蓮ノ空までは駅からバスの送迎がある。そこにひとりずつ着くってわけか。そのまま案内する、ってことでいいんだな?」

 

綴理「うん。そして、オープンキャンパスの終わりにライブをするんだ。その日来てくれた中学生のみんなに、最高のステージを」

 

明人「……わかった。ステージはこっちで建てておこう。綴理は練習に専念するのように。実行委員も忘れるなよ」

 

綴理「はい」

 

明人「っ綴理、あのなっーー」

 

綴理「アキ?」

 

明人「っ悪い、なんでもない。ほら、村野が待ってるぞ」

 

綴理「うん、がんばるね」

 

 話を終えた綴理は部屋を出ていく

 

明人「はぁ……」

 

 ひとりになった部屋でゆっくり息を吐く

 

    ◇

 

明人「乗るバス間違えるなよ」

 

『大丈夫!もう……子供じゃないんやから』

 

明人「中学生はまだ子供だろ。この間まであんなにちっちゃかったのにーー」

 

『そういう話じゃない!あっ、ごめん。バス来たから切るね』

 

明人「おう、楽しめよ」

 

 電話が切れる。外に顔を向ければ、オープンキャンパス用にいろいろな飾り付けのされた敷地内

 

明人「……まずは成功させないとな」

 

 窓からは校門に入っていく1号車が見える

 それを皮切りに、オープンキャンパスが始まった

 

    ◇

 

明人「不味い……!」

 

 日が傾き始めた頃、急に天気が変わった。それまで適度な雲に温度の快適だった外が、暗く重い雨空へと変わっていた

 

沙知「本当に……。これは、ライブも……」

 

明人「っダメだ!!」

 

沙知「っ!?せ、先生?」

 

明人「あっ……悪い……」

 

沙知「……先生、やっぱり最近どこかおかしいんじゃ……」

 

明人「でも……。だって、去年のあの顔見ただろ……?」

 

 声が震える

 

明人「ここで駄目にしたらっ……今度こそ……!」

 

沙知「先生!」

 

明人「綴理は。あいつらは……今度こそ本当に、笑えなくなるっ……!」

 

 沙知の顔が一瞬だけ強張る

 

沙知「先生!!らしく、ないですよ」

 

明人「えっ……」

 

 沙知の一言に思考が止まる

 ジメッとした空気と嫌な汗でシャツが引っ付いて気持ちが悪い

 

沙知「先生?っと、そうだ、ライブの話をしないと」

 

 沙知がなにかをやっている。でもそれが分からない

 雨の音だけが強くなる

 

沙知「すみません、綴理を探してきます」

 

 そう言って沙知は会議室を出ていった

 

明人「らしく……ない……?」

 

 ひとりになった会議室に、雨の音だけが響いていく

 

 

    ◇

 

慈「あっ!アキ君いた!」

 

瑠璃乃「おっしゃ!捕まえろー!」

 

明人「うわっ……!?っ慈、瑠璃乃!?」

 

 どうにか動こうと廊下に出た瞬間、慈と瑠璃乃が飛びついてくる

 

慈「取り合えず部室来て!今は少しでも人手がほしいんだからっ」

 

明人「っとと、引っ張んなって」

 

瑠璃乃「花帆ちゃんがね、すっごくいいこと思い付いてくれたんだよ!」

 

明人「日野下が?」

 

 そのまま二人に連れられて部室に向かう

 到着すると間もなく、綴理が沙知を連れて部室に入ってきた

 

綴理「ボク……追いつけた?」

 

さやか「はい。待ってました」

 

 綴理が、沙知を

 あれだけ避けていた沙知を連れてきた。その事実に、驚きが隠せなかった

 なにも、言えなかった

 

花帆「綴理センパイ、聞いてください!色々考えたんです!」

 

瑠璃乃「名付けてーー野外ステージにデカい傘計画!!」

 

 計画は至ってシンプルだった

 アンブレラスカイ

 頭上を大量の傘で覆い尽くし、雨を防ごう。そういう計画だった

 

沙知「大量の傘と、それを繋ぎ止める人手が欲しい。そうだね?」

 

花帆「はい!」

 

沙知「あい分かった。実行委員会を動かそう。先生も、いいですよね?」

 

明人「っあ、ああ」

 

沙知「そして、学院事務に傘のストックが山ほどあったはすだ。それを使いたまえ!」

 

 計画は決まった。雰囲気が明るくなる。空気にも一体感が生まれて……生ま……れて……

 

沙知「……これ、持って行って」

 

綴理「……あのとき歌ってた、曲。ありがとう、沙知」

 

 計画は順調に進んだ。傘を繋ぎ止め、屋根の代わりにする。まるでステージが花咲いたようになって

 すぐにライブは始まって。それで……

 気が付けば雨が止んでいた

 顔を上げると、夕日がステージを照らしている

 綴理の腕がまっすぐ伸びている。まるで、なにかを掴むように

 

綴理「Hallo,brand new world」

 

 気が付けば最後の曲が終わっていた。いつの間にか、新曲で終わりを告げていた

 

    ◇

 

綴理「アキ」

 

 オープンキャンパスが全て終わり、中学生も全員見送った後だった。振り返ると、綴理ただひとりが校門の近くに立っていた

 

明人「どうした?疲れただろ、早くもどーー」

 

綴理「さちから、聞いたよ」

 

明人「聞いたって、なにを」

 

綴理「こずが言ってたこともまちがっていなかったんだ」

 

明人「綴理……?」

 

 綴理の表情の変化に、心臓の動きが速くなる。嫌になる速さだ

 

綴理「めぐは、分かっていなかったけど……。こずとさちが言ってたんだ。アキは、おかしいって」

 

明人「えっ……」

 

 綴理の言葉に思考が止まる。まるでさっき、沙知に言われた時のように

 

綴理「ずっとどこかで、思っていたんだ。アキがおかしいって。だって……アキがアキじゃないんだ」

 

明人「なにを言って……。綴理、俺は俺だ。変わってなんてーー」

 

綴理「今のアキは、ずっと遠くにいる。去年のアキは、隣にいてくれた。でも、今のアキはずっと外にいる。分からない、分からないよ」

 

明人「っ……!!」

 

綴理「ボクたちが苦しいとき、アキは助けてくれる。でも、それが苦しいんだ。溺れそうだよ」

 

 溺れそう。その言葉だけが重い

 まとまらない思考だけが流れていく

 

綴理「アキは、なにをしたいの?」

 

明人「……わっかんねえよ」

 

 なんとか出せた言葉は、それだけだった

 

綴理「そっ……か。アキにも、あるんだね。わからないこと」

 

 わからない、そう答えた時、綴理の声が少し明るくなった

 

綴理「なら、ボクたちと探そう?きっと、見つかるから」

 

明人「そうっ……だな」

 

綴理「うん」

 

 優しく笑顔を作る。綴理はそれを見て満足したのか、ご機嫌な足取りで帰路に着いていった

 

明人「雨上がりの歌」

 

 今更、さっきのライブの曲が頭に流れる

 雨の日によく沙知が歌っていた曲。何度も聞いた。何度も相談に乗った。なのに

 今この瞬間まで、気が付かなかった

 

明人「なんなんだよ……!!」

 

 純白のミサンガを強く握りしめる

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