ラブライブ!
それは、スクールアイドルの夢
スクールアイドルの憧れ
夢は一瞬だった
現実は
ーー残酷だった
◇
ラブライブ!が終わった
結果は……敗退。全員、初めての経験だった。ラブライブ!で負けるのは
明人「アフターケア、しなきゃだよなぁ……」
誰もいない朝の職員室、作業の手は一向に進まなかった
明人「……はぁ」
◇
明人「慈、呼び出すなら多少はマシな格好してろよ」
慈「うっさい。……入って」
慈に呼び出され、寮に来てみれば目の下にクマをつくり、髪もボサボサな状態の慈が現れた
慈「アキ君、寝てないでしょ」
明人「慈に言われたくないな」
慈「質問に答えて」
部屋に招かれて早々、慈の低い声が響く
明人「……寝てないよ。今日の会議用に、色々まとめないとだったんだ」
慈「会議?」
明人「『ネット禁止令』の。北陸大会の話を持ち出して、多少は有利に進めるつもりだ」
慈「そ」
慈は短く返し、机の上のパソコンと睨み合いを始める
明人「昨日の動画……。見てたのか?」
慈「……うん」
明人「そうか」
ふたりして動画を見つめる
明人「……すごいパフォーマンスなんだけどな」
慈「なに、慰め?」
明人「違う。純粋な感想だ。変に慰めるのが一番酷だろ」
慈「あっそ」
また動画を最初まで巻き戻す
慈「……帰ってきてから、ずっと見てた。納得できなくて」
明人「わかったのか?」
首が横に振られる
慈「わかんないよ。全然」
明人「そうか」
慈「……アキ君は悔しくないの」
返事が気に入らなかったのか、睨みをきかせて聞いてくる
明人「悔しいよ。でもーー」
部屋をノックする音が聞こえる
瑠璃乃「め、めぐちゃーん……。ちょーし、どぉー……?」
外から聞こえてきたのは瑠璃乃の声。慈を心配してやって来たのだろう
明人「……出てやれよ」
慈は返事をせず、目線を逸らしてくる
瑠璃乃「めーぐちゃーん……。抹茶ドーナツもあるよ〜……。あーけーてー……」
明人「……はぁ……」
慈「ちょっ……」
動かない慈に見かねて、扉を開ける
瑠璃乃「あっ、めぐちゃ……って、アキ君!?」
花帆「えっ!?センセイ!?」
梢「あら、来ていらっしゃったんですね。慈はどんな様子ですか?」
扉の先には瑠璃乃だけではなく、梢と日野下も着ていた
明人「なんだ、スリーズブーケも来てんのか。慈はいつもの如く荒れてるよ」
瑠璃乃「あははー……」
慈「ちょっと」
後ろから顔をムスッとさせた慈が顔をのぞかせる
瑠璃乃「あっ、めぐちゃん。や、やほー、るりちゃんだよー」
花帆「な、なんだか8月に初めて慈センパイのお部屋に来たときみたいですね……!」
慈「……」
花帆「ひぃっ」
慈の鋭い視線に日野下が小さく悲鳴を上げる
梢「こらこら、後輩を威圧しないの」
慈「別にしてない。今日はそういう顔ってだけ」
明人「はぁ……。3人とも、慈頼む」
花帆「センセイは?」
明人「仕事。そろそろ戻んないとだからな。慈、あんまり威圧すんなよ」
慈「だからしてない」
明人「はいはい。あ、そうだ。日野下」
花帆「はい?」
明人「このまま全員行くつもりか?」
花帆「はい。そのつもりです」
明人「そうか」
視線を一瞬だけ梢の方に向ける
明人「なんかあったら呼べよ」
慈「3人とも入って」
3人は慈の案内で部屋に入っていく
それを見届け、寮を後にする
◇
明人「以上、スクールアイドルクラブの活動記録を元にした、ネット、外出に関する必要性でした」
午後、『ネット禁止令』や『外出禁止令』についての会議が行われた
明人「っふぅ……」
会議はかなり長引いた
結果、来年度からの『ネット・外出禁止』は取り消しにし、この話は保留にする、という結論で終わった
明人「……ん?慈?」
『車出して♡』
スマホに通知が来たと思えば、慈からメッセージが届いていた
◇
明人「ほれ、乗った乗った」
慈「いや〜アキ君が車持っててよかったよかった」
さやか「すみません、わざわざ」
綴理「ありがとね」
花帆「ありがとうございまーす!」
寮前に車を止めると、全員が乗り込んでくる
瑠璃乃「アキ君ありがとー!」
明人「気にすんな。タイミングもよかったしな」
ルームミラー越しに車内を見渡す
明人「……梢、なんだその顔」
梢「はい?」
明人「いや、なんか……ニヤニヤしてる」
梢「ふふっ、花帆さんのおかげです」
花帆「はい!花帆です!」
梢「ふふふっ」
慈「あぁ、もう!アキ君早く車出して!このふたりほっとくとすぐイチャつくんだから」
スリーズブーケの甘い空気に耐えかねたのか、慈が催促してくる。要望に応え、車を走らせる
梢「い、イチャついてなんか……!」
花帆「仲いいだけですもーん。ですよね、梢センパーイ」
梢「え、ええ」
慈「甘い!ひがし茶屋街の烏骨鶏ソフトより甘いよ!!」
綴理「あれ美味しいよね。ボク好きだよ」
さやか「ふふっ、よく食べてますもんね」
瑠璃乃「ルリもめぐちゃんとよく行くよー」
慈「行くけど!そうじゃないの!」
明人「ぷっ……はははっ」
あまりの緩い空気に思わず笑いが溢れてしまう
花帆「どうかしました?」
明人「いや、いい。気にすんな」
花帆「?」
ちらりと横を見ると、慈がニヤニヤしながら見てきていた。目線で会話に戻れ、と合図するとなにも言わず会話に混ざり出す
そのままなんとなく、ルームミラーに視線を向けてみる
梢「……ふふっ」
少しだけ、ドヤ顔の梢。もう大丈夫、まさにそんな顔。一瞬だけ日野下を見て、まるで日野下の成長を誇ってるようにも見えた
明人「ふっ」
梢「!」
それに対し、こちらもドヤ顔で返してみる。俺だってもう大丈夫、そう返してみる
瑠璃乃「これどこに向かってるの?」
さやか「さあ?先生も行き先を聞かずに走らせましたけど……」
梢「スクールアイドルクラブの伝統の場所、かしら」
綴理「すごく、綺麗な場所なんだ」
花帆「でも、あれ?この道って……」
慈「おっ、花帆ちゃんは気がついたかな?」
慈が助手席から後ろに顔を乗り出し、ウィンクを飛ばす
明人「丁度いい日だぞ。昨日と今日は雪降らなかったからな。雪ひとつないんじゃないか」
慈「私たちの日頃の行いがいいから、だよ!」
花帆「あっ、やっぱり!さやかちゃん!」
さやか「え?……あ、ああ!わかりました!」
瑠璃乃「えっ、なになに!?」
次第に目的の場所が見えてくる
明人「そろそろ着くぞ」
梢「スクールアイドルクラブが、誓いを立てる場所」
慈「私たちもやったなー」
綴理「卯辰山公園だ」
全員、車から駆けて出ていく
その背中を、運転席から見守る
卯辰山公園の見晴らし台
かつてラブライブ!で優勝した代のスクールアイドルクラブも、ここで誓いを立てたという
彼女たちも、ここでーー
『楽しい』を見つける
世界中を夢中にさせる
努力をし続ける
さいきょーになる
たくさんの笑顔の花を咲かせる
そして
ーーラブライブ!優勝
梢「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ、今この瞬間を大切に。Bloom the smile!」
花帆・さやか・綴理・瑠璃乃・慈「Bloom the dream!」
夕焼けに照らされる彼女たちの背中を見ながら、寂しくなった右手首を優しく撫でる