壊れた如雨露といつか花咲く大輪の花   作:坪継

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7話

 

 あっという間に10月が始まった

 竜胆祭の、ラブライブ!地区予選の月が

 

明人「どうだ、順調か?」

 

 レッスンルームで安養寺の指導をしている慈に声をかける

 

慈「まあね。いや〜、一年生ちゃんが皆やる気いっぱいでね。まさか3人とも別々の練習場所の予約してるなんて」

 

明人「なら大丈夫そうだな」

 

慈「竜胆祭ステージで勢いづけて、ラブライブ!も成功!っていけばいいんだけど」

 

 今年はカレンダーの影響で竜胆祭が月末より前に行われる。そのため先に竜胆祭ステージで曲の感触を確かめよう、という算段らしい

 

瑠璃乃「めぐちゃん、一旦今やってるとこ合わせちゃお」

 

慈「はーい」

 

 瑠璃乃に呼ばれ、慈は位置につく

 流れ始めたのは、Link to the FUTURE

 去年、蓮ノ空が地方大会で優勝した曲

 決勝で、敗れた曲

 

瑠璃乃「すごいよ、ひめっち!」

 

慈「うんうん!教えたところもう完璧じゃん!」

 

姫芽「そ、そうですか〜?」

 

瑠璃乃「すごいすごい」

 

姫芽「んみゃっ!?は、はわぁ〜……」

 

慈「すごいぞ〜。よしよし」

 

姫芽「ここは、天国……?」

 

 じゃれ合う3人を横目に、スマホに視線を落とす

 

明人「……瑞河女子……?」

 

 見覚えのない高校の名前が載ったネット記事が目に入る

 

明人「天才高校生……」

 

    ◇

 

花帆「それじゃあ、一年生だけで合わせてみよっか」

 

吟子・小鈴・姫芽「はい!」

 

 一年生の3人はあっという間に振り付けを覚え、すぐに合わせる段階まで入っていた

 

瑠璃乃「いくよー」

 

 曲が流れ始める

 

 ーー合わない

 

 ユニットごとなら合っていた

 それなのに、合わない

 

吟子「っ……」

 

 小さなズレを感じ取ったのか、吟子が焦り始める

 それに気がついた安養寺が合わせようとする

 テンポが早くなり、それについて行けなくなった徒町が動きを無理に速くする

 小さなズレが、次第に大きくなる

 

吟子・小鈴「わっ……!?」

 

明人「!!」

 

花帆「っふたりとも!?」

 

 吟子と徒町がぶつかってしまい、ふたりして転んでしまう

 

瑠璃乃「ちょっ、大丈夫!?」

 

小鈴「いたた……。ご、ごめんね、吟子ちゃん!」

 

吟子「私の方こそ、ごめん……」

 

小鈴「いや、今のは徒町だから!徒町がちゃんと見てなかったから!」

 

吟子「で、でも、私もズレてたし……」

 

さやか「そこまでです。おふたりとも、怪我はありませんか?」

 

吟子「私は大丈夫です。小鈴は?」

 

小鈴「徒町もです」

 

 ふたりはどこかを痛がる素振りもなく立ち上がる

 その姿に、強張っていた腕の力が抜ける

 

慈「あちゃ〜……こりゃ時間かかりそうだね」

 

明人「このミス引きずんなきゃいいけど」

 

 何度合わせても結果は同じだった

 誰かが焦り、誰かが合わせようとして、誰かがついて行けなくなる

 パート切り替えでどうしても合わなくなる

 

明人「っ……ふぅ……。ぁ……」

 

 少し息をついた瞬間、右手首に痛みを感じる

 視線の先には、右手首を強く握る左手があった

 

    ◇

 

 それから少し日が経っても、一年生の3人のパフォーマンスが合うことはなかった

 

姫芽「それでそれで〜」

 

小鈴「今日初めて会った子とも完璧なパフォーマンスだったんです!徒町たちの課題もさらっと見つけちゃったんですよ!」

 

 どうやら外で会った人がすごかったらしく、安養寺と徒町から延々と話を聞かされる

 

吟子「説明も分かりやすかったし、正直、すごい差を感じた」

 

明人「そりゃ、すごい才能が転がってるもんだな。……天才、か」

 

 この間ちらりと見たネット記事を思い出す。しかし、その思考はすぐに捨ててしまう

 

明人「で、三年生と勝負したんだろ?結果は分かるけど、なにしたんだよ」

 

姫芽「Link to the FUTUREバトルです〜」

 

明人「自分から負ける勝負に突っ込んでる……」

 

 あまりの無謀な勝負内容に思わず言葉が出てしまう

 

小鈴「ボコボコにされました!」

 

吟子「まあ、うん。勝てるわけないよね……」

 

姫芽「なので、今日はレベルを下げます」

 

 安養寺の発言でなんとなく勝負の相手に予想がついてしまう

 

明人「まあ、うん……頑張れよ……」

 

姫芽「はい〜。行ってきます〜」

 

小鈴「行ってきまーす!」

 

吟子「行ってきます」

 

 駆け足で部室を出ていく3人を見送り、静かになった部室でぼんやりとする。視線だけを動かし、棚の上に置いてあるカレンダーを確認する

 

明人「月末前に竜胆祭で、月末にはラブライブ!予選。12月に地方大会で、1月には、決勝……で……」

 

 一瞬だけ思考が止まる

 ラブライブ!が終わった後のこと。それを考えた瞬間、視線を落としてしまう

 

明人「3月には、蓮華祭……。慈たちもーー」

 

 次の言葉は、出てこなかった

 

    ◇ ◇ ◇ ◇

 

 今日も先輩たちに散々負け、一度作戦会議をするために姫芽と小鈴と部室に戻る

 

姫芽「いや〜、今日もボロ負けだったね〜……」

 

小鈴「やっぱりさやか先輩に勝つのは無理なんだよ」

 

吟子「さやか先輩や瑠璃乃先輩はともかく、花帆先輩に十四連敗もするなんて……!」

 

 廊下を歩きながら、抑えていた悔しさを吐露する

 

姫芽「吟子ちゃんも相変わらずだね〜」

 

小鈴「燃えてるね、吟子ちゃん!」

 

吟子「小鈴!姫芽!次こそは絶対に勝つよ!」

 

小鈴「うん!」

 

姫芽「もちろん〜!」

 

 部室の扉を開けると、中では三年生の先輩方が楽しそうに話していた

 

慈「おっ、戻ってきたな〜。一年生ちゃんたち」

 

綴理「タイミング、ばっちりだね」

 

吟子「先輩方、お疲れ様です」

 

小鈴「お疲れ様です!」

 

姫芽「お疲れ様です〜」

 

梢「お疲れ様。帰ってきてすぐで悪いのだけれど、ちょっとついて来てもらってもいいかしら?」

 

吟子・小鈴・姫芽「?」

 

 先輩方に連れられ、行く先も分からないまま廊下を進んでいく

 

小鈴「これ、どこに向かってるんですか?」

 

慈「着いてからのお楽しみ、かな」

 

綴理「大丈夫。きっと楽しいよ」

 

梢「ええ、とても。今の時間ならいるでしょうしね」

 

吟子「今の時間?」

 

 なぜ向かっている場所と時間が関係があるのか分からないまま、先輩の後をついていく

 

姫芽「あれ、こっちってーー」

 

 姫芽がなにか言いかけた瞬間、先輩方は足を止める

 辺りを見渡す

 すぐ隣にあるのは、音楽室の扉だった

 中からは、小さく音が聞こえてくる

 

梢「と、いうことで」

 

綴理「ついたよ」

 

慈「3名様、ごあんな〜い☆」

 

吟子「え、ちょっ……!?」

 

小鈴「わわっ」

 

姫芽「あり〜……?」

 

 梢先輩が扉を開き、綴理先輩が逃げ道を塞ぎ、慈先輩が私たちを押し込む。見事なコンビネーションであっという間に私たちは音楽室に足を踏み入れていた

 

吟子「え、えっと……これは……」

 

慈「それじゃ、楽しんでね〜」

 

 そのまま慈先輩により音楽室の扉は閉じられてしまう

 

小鈴「な、なんで徒町たち音楽堂に……?」

 

明人「どうした、3人とも」

 

吟子「っお兄!?」

 

小鈴「明人先生!?」

 

姫芽「やっぱりあきとせんせ〜だ」

 

 私と小鈴が驚く中、姫芽だけが落ち着いた様子で返している

 

明人「さっき慈の声もしたけど……」

 

小鈴「そ、それが徒町たちもよく分かってなくて」

 

吟子「気がついたら先輩たちに押し込まれたとしか……」

 

明人「たちって……まさか梢と綴理もか?あいつら……」

 

 お兄は呆れた様子でこめかみを抑える

 

姫芽「あきとせんせ〜。折角ここに来たんだし、一曲叩いてくださいよ〜」

 

明人「ん?ああ、いいぞ。どうせあいつらもそれが目的なんだろうし」

 

小鈴「叩く?」

 

吟子「そういえばお兄、ドラム出来るんだっけ?」

 

明人「少しな。ほら、なにがいい?」

 

 お兄は奥に置いてあったドラム椅子に座り、訪ねてくる

 それに合わせて私たちも近くの椅子に腰をかける

 

姫芽「やっぱりここは、Link to the FUTUREを〜」

 

小鈴「徒町、ツバサ・ラ・リベルテがいいです!」

 

吟子「伝統の、Dream Believersをーー」

 

 3人一斉に別々の意見が出てしまう

 

明人「あっはははっ!バラバラだな」

 

小鈴「こ、ここは徒町の意見なんて気にせずふたりの意見を」

 

吟子「私はツバサ・ラ・リベルテもいいと思うよ」

 

姫芽「小鈴ちゃん、前に好きな曲だって言ってたもんね」

 

小鈴「うん!徒町、この曲大好きなんだ!っで、でもでも!Link to the FUTUREもDream Believersも大好きだし……」

 

明人「しゃーない、1コーラスずつな。これでいいだろ」

 

小鈴「っはい!!」

 

 お兄がドラムを叩き始める。最初に叩き始めたのはDream Believers。蓮ノ空が初めてラブライブ!を優勝した時に歌った、蓮ノ空を代表する伝統曲

 4月度Fes×Liveで披露した時のことは、今でも鮮明に覚えている

 ふと姫芽と小鈴の方を見ると、ふたりともすごく楽しそうに歌ってる。座っているのが勿体ないくらい。今すぐに踊り出したいくらいに

 

吟子・姫芽・小鈴「Dream believers I believe!」

 

 Dream Believersが終わると、次はツバサ・ラ・リベルテが始まる。去年のオープンキャンパスで、先輩たちが歌った曲

 今でもあの時のライブが目に浮かぶ。あの興奮と、あの感動が

 

小鈴「秘めた決意 放とう

Hello brand new world」

 

 最後に叩かれたのはLink to the FUTURE。去年、先輩たちがラブライブ!で歌った曲。絶対に成功させたいのに、上手くいかない曲。それなのに、歌うのはすごく楽しい。姫芽なんて椅子に座りながら小さく踊り始めている

 

吟子・姫芽・小鈴「ミライ いま笑顔でがんばってる

みんなのミライはここから始まる

出会えてホントに」

 

吟子「嬉しいありがとう!」

 

小鈴「Link to the FUTURE,ah MIRAI」

 

姫芽「Link to the FUTURE,ah MIRAI」

 

 曲が終わり、もう一度ふたりの方を見る。ふたりともすごく楽しそうな表情をしていた

 

姫芽「やっぱり楽しいな〜」

 

小鈴「やっぱりって、姫芽ちゃんやったことあるの?」

 

姫芽「うん。先月ね」

 

吟子「でもなんで先輩たちは私たちをここに?」

 

 さっきから浮かんでいた疑問を出してみる

 

小鈴「さあ……?」

 

明人「あいつらもたまに来てたんだよ。一年生の時だけどな」

 

姫芽「そうなんですか?」

 

明人「作曲で行き詰まったり、歌詞浮かんでこない〜って時とか。なんとなくで来てたやつもいるけど」

 

小鈴「なんか意外です!大先輩方も、行き詰まるときってあるんですね。梢先輩とか、なんでも出来ちゃうイメージです!」

 

明人「最初からなんでも出来たわけじゃないぞ。まあ、だからじゃないか?勝負もいいけど、息抜きも大事ってことで」

 

小鈴「な、なんというお気遣い……!」

 

吟子「でも……うん。なんだか気分が軽くなった気がする」

 

明人「吟子は日野下に勝てないって嘆いてたんじゃないのか?」

 

吟子「なっ……!?」

 

 図星を突かれ、言葉が詰まってしまう

 

明人「いい息抜きになったならよかった。で、どうだ?上手くいきそうか?」

 

姫芽「取り合えず、それぞれのストロングポイントを見つけた感じです」

 

明人「ストロングポイント……ああ、言ってたやつか」

 

吟子「そう。この間、もう一回会ってきたんだ。的確なアドバイスで、私たちのまだ足りてないところを教えてもらったの」

 

明人「へえ、たった数回見ただけで」

 

小鈴「そんなにすごいのに、徒町たちと同い年なんですよ」

 

姫芽「驚いたよね〜。また会えるかな、泉ちゃん」

 

小鈴「竜胆祭、来てくれるといいね!」

 

吟子「うん。桂城さんに、成功したところ見せたいもんね」

 

明人「桂城、泉……?」

 

 お兄の小さな呟きが耳に入る

 

吟子「お兄?」

 

明人「いや、なんでもない」

 

吟子「?」

 

明人「そうだな、次はウィークポイント探しもしていかないとだろうな。ほら、戻った戻った。また瑠璃乃たちと勝負するんだろ?」

 

姫芽「はい〜。いくよ、吟子ちゃん、小鈴ちゃん」

 

小鈴「うん!ありがとうございましたー!」

 

吟子「あんやと、お兄」

 

 音楽室を出て、先輩たちの待つ屋上に向かう

 次こそは、花帆先輩に勝たんとね

 

    ◇ ◇ ◇ ◇

 

 時間はあっという間に過ぎ、竜胆祭の日がやってきた

 今日までの間、吟子たち一年生は何度も瑠璃乃たち二年生と勝負をし、全部に負けてきたらしい

 

明人「懲りないなぁ……」

 

姫芽「今日こそは勝ちますよ〜!」

 

吟子「今日こそ勝つよ!花帆先輩に一泡吹かせてあげるんやから」

 

小鈴「その意気だよ、吟子ちゃん!」

 

 今日は竜胆祭ステージ前に模擬店での集客勝負をするらしい

 

明人「……そろそろ時間だな。じゃあ頑張れよ」

 

 軽く手を振って模擬店を離れる

 そのまま瑠璃乃たちのクレープ屋の方に顔を出す

 

明人「やってるか?」

 

瑠璃乃「あっ、アキ君!」

 

花帆「センセイ、いらっしゃいませ!蓮ノ空の誇る料理番長さやかちゃんによる、日本一、いや、世界一の!クレープはいかがですか?」

 

さやか「ハードル上げすぎですよ!!」

 

明人「ならチョコのクレープひとつ」

 

花帆「はーい!」

 

 村野はさっそく生地を焼き始める

 

明人「ああ、そうだ。一年生と集客勝負してるんだよな?」

 

瑠璃乃「うん。挑まれたんだし、全勝しないとね!」

 

明人「それなんだけどさ、たまにでいいから様子見てあげてやれないか?ほら、ちょっと不安だからさ」

 

瑠璃乃「そう?アキ君は心配性だな〜」

 

明人「そんなだろ」

 

花帆「センセイも安心しててくださいね。ちゃんと様子も見つつ、あたしたちが勝っちゃいますから!」

 

さやか「なにかあれば、フォローはしに行きますので。では、こちらチョコクレープです」

 

明人「ありがとな。じゃ、頑張れよ」

 

 クレープを受け取り、模擬店を離れる

 

    ◇

 

梢「では、いきましょう。竜胆祭ステージのトップバッター、しっかりと務めましょうね」

 

 時間はあっという間に過ぎていき、竜胆祭ステージが始まろうとしている

 

明人「あんまり気負うなよ。落ち着いてな」

 

吟子「ん、大丈夫」

 

姫芽「模擬店のことは残念だったけど、こっちは大成功させちゃいますからね〜」

 

小鈴「絶対に成功させるぞ〜。ちぇすと〜!!」

 

姫芽「ちぇすと〜」

 

吟子「ちぇ、ちぇすと〜!」

 

 9人はステージへと向かっていき、ライブが始まる

 最初のユニット毎のパフォーマンスは、いつも通り進んでいく。みらくらぱーく、スリーズブーケ、DOLLCHESTRA。順調に曲を披露し、ついに最後の曲が始まる

 

梢「次が最後の曲になります。聞いてください」

 

 梢の合図で曲が始まる

 Link to the FUTURE

 少しずつでも、今日まででかなり上達してきた。今日こそ、もしかしたら。そんな期待を胸に、吟子たちは踊り出す

 

 

 

 

 

 ーー息は、合わなかった

 

    ◇

 

 竜胆祭も終わりが近づき始め、校庭の真ん中ではキャンプファイヤーが行われていた

 

明人「やっぱり、かなぁ……」

 

 廊下から校庭を見つめる。キャンプファイヤーの近く、一年生3人がなにか話しているのが見える

 雰囲気は、良くは見えなかった

 

明人「盛り上がりはしたんだけど……。それじゃあ、ダメだよな……」

 

 徒町は、らしさの出るパフォーマンスをしてた

 吟子は、息は合わなくとも練習通りに出来ていた

 安養寺は、歌も踊りもレベルが高かった。他のふたりよりも。サポートもしていた

 それでも、いや、だから失敗したのかもしれない

 

明人「はぁ……」

 

 気分を変えるために模擬店の辺りをふらふらと歩く

 気が付けば、校門の近くまで来ていた

 

吟子「ふたりのことを知らないのに、勝手なこと言わないでよ!」

 

明人「吟子?」

 

 さっきまで校庭にいたはずの吟子の声が、校門の前から聞こえてくる

 

泉「例えば小鈴さんの大きな欠点は、失敗を前提に行動していることだ」

 

明人「っ!あれは……」

 

 看板に隠れるようにして、校門前のふたりの会話を聞く

 アドバイスは驚くほどに的確だった

 徒町の弱点も。安養寺の欠点も。全てを見抜いた発言。今まで、ずっと見てきた慈たちでも気が付かなかった。俺も、確信を持てなかった弱点を、全て

 隠れて見えなかった吟子の弱点すらも

 

吟子「好き放題言ってくれて、ありがとう。ライブも見に来てくれて、ありがとう。けど、だけど!」

 

 驚きのあまり固まっていると、吟子の声が聞こえてくる

 

吟子「私たち、まだまだこんなもんじゃないから!次は、なんにも言わせなくしてやるから!じゃあね!」

 

 どこか憑き物が晴れたような顔をした吟子がそのまま校門を出て走り去っていく

 

泉「……やれやれ」

 

明人「わざわざアドバイスしに来るなんてな」

 

 吟子が見えなくなったのを確認し、看板の影から出る

 

泉「おや?あなたは?」

 

明人「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ顧問だ。初めまして、天才高校生さん」

 

泉「私のことを知ってくれているのか。まさか蓮ノ空の人に知ってもらえているとは嬉しいな」

 

 目の前で笑う彼女は、前にネット記事で見たあの天才高校生、桂城泉だった

 

明人「そうか、あいつらが言ってた公園の人ってのは」

 

泉「私のことだろうね。それで、どうかしたんですか。顧問さん」

 

明人「いいや。ライバルになるかもしれない相手にアドバイスしに来るなんて、ずいぶんとお人好しだと思ってな」

 

泉「ああいう子たちは見捨てられない性格でね」

 

明人「そりゃご立派だ」

 

 そう言って肩の力を抜く。それに気がついたのか、あちらからの不敵な眼差しは和らぐ

 

明人「……的確なアドバイスだったよ。数回見ただけでそこまで見抜けるなんてな」

 

泉「顧問なのだから、気づいていたんじゃないのかい?それなのに教えなかった。私はそっちの方が気になるな」

 

明人「確信してなかっただけだ。……そうだな、徒町の強みは弱点でもある。安養寺の優しさは時に成長を妨げる。そうだ、その通りだよ」

 

泉「ふむ。それならいらないことをしたかな。いずれあなたが気がついていただろう」

 

明人「それはどうだろうな。……それに、教えないかもしれない」

 

泉「ほう……」

 

 それを聞くと、また不敵な眼差しを向けられる

 

明人「……はぁ、ちょっと強がったよ。安養寺や徒町のは気づけても、吟子のは気づけなかったかもしれない。いや、気づけなかった」

 

泉「そうなのかい?」

 

明人「昔からそういうやつだった。自分でどうにかしてたから、そういうもんだと思ってた。気づいてやれなかったよ。さっきの話を聞いて、やっと分かった」

 

泉「お役に立てたようならなによりだ」

 

 桂城はニコリと笑い、そう答えた

 

明人「ラブライブ!予選、楽しみにしててくれよ」

 

泉「言い切ってしまうのかい?まだ完成じゃないというのに」

 

明人「それは自分の目で確かめてくれ。それが一番、手っ取り早い」

 

泉「それは楽しみだ。では、ぜひとも私のパフォーマンスも見てもらいたいな」

 

明人「そうさせてもらう。止めて悪かったな」

 

泉「いえ。そうか、楽しみがひとつ増えたよ。またどこかで会おう。蓮ノ空の顧問さん」

 

 そう言い残し、その場を去っていった

 

明人「桂城泉。孤独の天才、か」

 

    ◇

 

 結果が出るのは、そう遅くはなかった

 竜胆祭から、少し日が経った頃。一年生からの要望で9人で合わせた時だった

 

明人「まさかもう直してくるなんてな」

 

 レッスンルームの端で、小さく呟く

 一年生3人のパフォーマンスは完璧に合わさり、ついに9人でのLink to the FUTUREを完成させた

 

 今日、その瞬間、蓮ノ空に新たな星が生まれた

 

 ーー蓮ノ小三角

 

 大三角より小さくとも見劣りしない、強い輝きを持つ3つの星


使用楽曲コード:28307763,29440157,29481597

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