壊れた如雨露といつか花咲く大輪の花   作:坪継

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宝石

 

 小さな可愛い女の子たちだった

 

瑠璃乃「っ……」

 

慈「がるるっ……!」

 

明人「あはは……」

 

 威嚇されていることを除けば

 

    ◇

 

 中学を卒業した後、親の仕事の都合で金沢にある母方の実家を出て、能登に引っ越してきた

 

明人「親同士が知り合いだからって子供押し付けるかね。普通……」

 

 目の前で威嚇をしている少女は藤島慈。母さんの大学の時の後輩の娘

 その後ろで怯えているのは大沢瑠璃乃。こっちも母さんのもうひとりの後輩の娘

 

明人「あいつが特殊なだけで小さい子供は得意じゃないっての……」

 

慈「うぎぎ……!」

 

明人「すっごい威嚇……」

 

 目を鋭く光らせ、歯をむき出しにしながらまるで犬のように威嚇してくる

 

瑠璃乃「め、めぐちゃん……」

 

慈「だいじょうぶ。るりちゃんは私がまもるからね!」

 

明人「俺は悪役じゃないんだけどなぁ……」

 

 返事が威嚇だった回数なんて、もう両手足を使っても数えられない

 

明人「あー……ふたりとも?」

 

瑠璃乃「ひっ……」

 

慈「るりちゃんをいじめるなー!」

 

明人「いじめるってなに……。一応今日からご近所さんになるわけなんだけど……」

 

慈「がるるっ……!」

 

明人「聞いてくれんね?取り合えず下おるから、なんかあったら呼べよ?」

 

 空気に耐えきれなくなり、部屋を出て下のリビングに向かう

 

明人「うげっ……」

 

 スマホの通知を確認し、思わず声が漏れ出る

 

明人「この状態で子供置いて飲みに行くんかよ……」

 

 部屋でのふたりの様子を思い出して思わずため息を吐いてしまう

 

    ◇

 

明人「晩飯なにが……。寝てる」

 

 日も落ち始めた頃、夕食について聞こうと部屋に入ると、クッションを枕代わりにして、すやすやと眠るふたりの姿があった

 

明人「……こうしてたらただの可愛い子供なんだけどなぁ」

 

 近くにあったブランケットをかけ、部屋の扉に手をかける

 

瑠璃乃「……ん……ぅん……?」

 

 後ろから声が聞こえ、振り返る。そこには上半身を起こして、目をこする瑠璃乃の姿があった

 

明人「……起きたのか」

 

瑠璃乃「っ……!めぐちゃ……あ……」

 

 俺の姿を確認して、すぐに慈に助けを求めようとするが、気持ちよさそうに眠る慈を見て動きを止める

 

明人「……優しいんだな」

 

瑠璃乃「ひぅっ……」

 

明人「慈のこと、好きか?」

 

瑠璃乃「……う、うん」

 

 質問を投げてみると、おずおずとしながら短く返してくる

 

明人「いいやつだな、慈。知らない年上の男が来て、怖がってる瑠璃乃を守ろうとして。自分も怖いだろうに」

 

瑠璃乃「……めぐちゃんは、すごいもん」

 

明人「そうだな。かっこいいやつだよ」

 

瑠璃乃「かわいいもん」

 

明人「そうだな。ガキのクセに」

 

瑠璃乃「……おにいさんは、こわいひと……?」

 

明人「ストレートだな……。まあ、悪い人ではない。お前らのお母さんの先輩……友達の息子だよ」

 

瑠璃乃「おかあさんの……?」

 

明人「ああ」

 

瑠璃乃「……っ……」

 

 話すことがなくなったのか、瑠璃乃はまた怯えだす

 

明人「……怖いのか?」

 

瑠璃乃「こ、こわくないもん!めぐちゃんいるもん!」

 

明人「しーっ。起きちゃうぞ」

 

瑠璃乃「あ……」

 

 大きい声を出したことに気がついたのか、急いで両手で口を閉ざす

 その様子に思わず笑いが溢れてしまう

 

明人「冷凍ピザでいいか?温めとくから、少ししたら慈起してくれよ」

 

瑠璃乃「う、うん……」

 

 瑠璃乃の返事を聞き、笑顔で返し部屋を出る

 

    ◇

 

 夜中、リビングで課題をやっていると扉が開く

 

明人「ん……瑠璃乃?」

 

瑠璃乃「あ……っ……」

 

 相変わらず怯えた様子でこちらを見てくる

 

明人「……飲み物か?」

 

 ゆっくり頷いて返してくる

 

明人「ほれ、水」

 

瑠璃乃「あ、ありがと……」

 

 机に水を入れたコップを置くと、それを一気に飲み干す

 

明人「ほら、戻って寝な。起きて瑠璃乃がいなかったら、慈が慌てるんじゃないのか」

 

瑠璃乃「えっ……なんで、わかるの?」

 

明人「なんとなく。ほら」

 

瑠璃乃「あ……ん……トイレ……」

 

明人「……ほれ、いくぞ」

 

瑠璃乃「……うん……」

 

 怯えた表情で廊下を見ものだから、先導してトイレまで連れて行く

 

明人「やっぱ子供ってのは夜は怖いんかね……。まああいつもそうか」

 

 トイレの近くで壁に背中を預け、瑠璃乃が出てくるのを待つ

 

瑠璃乃「ん……」

 

明人「部屋に戻るか」

 

 また先導して、階段に近くまで連れて行く

 

瑠璃乃「あ……くらい」

 

明人「……怖いか?」

 

瑠璃乃「こ、こわくない!めぐちゃ……」

 

明人「……はぁ……」

 

 慈がいないことを思い出し、さっきよりも震え出す瑠璃乃を見て、少し雑に手を出す

 

瑠璃乃「……?」

 

明人「別に、慈の代わりになれるとは思っとらんけどさ。今はこれで我慢してくれ」

 

瑠璃乃「!……う、うん」

 

 瑠璃乃は震える手を伸ばして、俺の手を掴む

 

    ◇

 

明人母「あっははっ!ほら、もうなついとる!吟ちゃんみたい」

 

明人「うるさいげん!俺もなしてなつかれとるかわかっとらん!」

 

 母さんの茶化しに勢いで反論する

 

瑠璃乃「おこってる……?」

 

明人「あー、怒ってない怒ってない」

 

 膝の上で少し悲しそうな表情になって聞いてくる瑠璃乃に慌てて訂正を入れる

 

慈「る、るりちゃん……!?」

 

瑠璃乃「めぐちゃん、おにいさん、こわいひとじゃなかったよ」

 

明人「あれガチの質問だったん?」

 

 瑠璃乃の発言に驚いている間に、慈はじりじりと迫って来て、2、3度ほど指の先で触れてくる

 

慈「……」

 

明人「……ほれ」

 

慈「……えいっ!」

 

 どうすればいいか分かっていなさそうな慈に、手を出してみるとそれに勢いよく手を合わせてくる

 

慈「……ふふんっ」

 

 そのまま腕ごと引いて自分も抱えさせると、慈は自慢げな表情になる

 

明人「なんなん……」

 

瑠璃乃「にひひっ」

 

慈「えへへっ」

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