壊れた如雨露といつか花咲く大輪の花   作:坪継

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5話

 

梢「水瀬先生」

 

 別荘に戻ると、ロビーで梢が待ち構えていた

 

明人「梢。まだ寝てなかったのか。明日も早いんだから、さっさと寝ろよ」

 

梢「慈は、踊っていましたか?」

 

明人「ああ。踊るのは、まだ嫌いじゃないってよ」

 

梢「そうですか」

 

明人「……早く寝ろよ」

 

 黙ってしまった梢の通り越し、部屋に戻ろうと歩き出す

 

梢「水瀬先生!」

 

明人「……」

 

梢「水瀬先生はまたーー」

 

明人「梢」

 

梢「っ……」

 

 少し声を低くし、名前を呼ぶ。言葉の続きは返ってこなかった

 また部屋に戻ろうとする

 

梢「………っ水瀬先生!!」

 

明人「!」

 

 今まではこれ以上言ってこなかった

 それなのに……

 

梢「また、ですか?」

 

明人「……」

 

梢「また、なにも言わなかったんですか」

 

明人「俺じゃないだろ……!」

 

梢「っいつもいつもそうやって、だから慈は今、あんなに辛いんじゃないですか!」

 

明人「っ!」

 

 梢の厳しい声に体が硬くなる

 

梢「私の言葉もいつもっ……。そんなことをしているから抱えるのでしょう……!?」

 

明人「っ……」

 

 なにも言い返せない。返す言葉が見つからない

 分かってる、梢にはずっと辛い思いをさせていたことも。でもーー

 

梢「私たちだってっ、戻ってきてほしいに決まってるじゃないですか……!私たちだって……怖いんですよ……!」

 

明人「っ慈はっ!」

 

梢「いつまでも慈、慈って!何度も言いましたよね!甘やかすなと!!っそれで……それで苦しむ姿を見たことがないんですか……!?そうやっていっつも……!私は……私と綴理は……!」

 

明人「っ……!梢ーー」

 

綴理「こず……?アキ……?」

 

 振り返って言い返そうとした瞬間、眠そうな綴理の声で動きが止まる

 

明人「っ綴理……」

 

梢「……ごめんなさい、起こしてしまったわね」

 

綴理「ふたり、とも……?」

 

 後ろで梢が気まずそうにしている気配を感じる

 

明人「綴理、大丈夫や」

 

 それだけ言って部屋に戻る

 

梢「っ水瀬先生!!」

 

 次は止まらない

 純白のミサンガを胸に当てる

 振り返ることなく、部屋に戻る

 

綴理「……アキ……?」

 

    ◇

 

 合宿が終わった。あの後は、違和感と罪悪感でよく覚えていない

 

明人「はぁ……」

 

 中庭のベンチに座り、空をぼんやり眺める

 

さやか「随分深いため息ですね」

 

明人「……村野、綴理ならここにはいないぞ」

 

 視線だけを動かし反応する

 

さやか「綴理先輩なら部室ですよ。さっき梢先輩と大倉庫から戻っているのを見ましたから」

 

明人「じゃあなんで来たんだよ」

 

さやか「聞きたいことがあったので」

 

明人「綴理か梢に聞けばわかると思うぞ」

 

さやか「わたしは、先輩方ではなく先生に聞きたいと思いました。考えましたよ、ちゃんと」

 

 ドヤ顔……大人しく乗るか

 

明人「はぁ……言ってみろ」

 

 今度は視線だけじゃなく、顔もしっかり村野の方を向く

 

さやか「慈先輩は、何度も踊ろうとしたんですよね?」

 

明人「ああ」

 

さやか「先生は見てきたんですか?」

 

明人「……見てたよ。全部」

 

 言葉を返しても、村野はなにも言わない

 ただ、見つめてくる

 

明人「真似か?」

 

さやか「なんことか」

 

明人「………慈は何度もステージに立った。でも足が動かなかったんだ」

 

さやか「そうですか」

 

 冷たい返事が返ってくる

 

明人「そっちが知りたいって言ったのに、随分素っ気ない返事だな」

 

さやか「わたしが知りたいのはそっちじゃないですから」

 

明人「なに言って……」

 

さやか「先生のことですよ」

 

明人「っ!」

 

さやか「なにも、思わなかったんですか?」

 

明人「……悔しかった。今だって、あんな顔して踊る慈を見るのが……悔しい……。悔しくないわけないがいね……!」

 

 視界が滲む

 急いで隠そうと下を向くが、溢れて止まらない

 出してしまったらもう、止まれない

 

明人「慈は何回も練習しとった。誰より必死やった。やのに、ダメやったんよ……!!俺が、悔しくないわけないがいね……!!」

 

さやか「言えたじゃないですか」

 

 村野の声が一気に優しくなる

 

明人「えっ……」

 

さやか「……なら、どうする?でしたっけ」

 

明人「っ……俺がすることじゃ、ないだろ」

 

さやか「そうですね。わたしも瑠璃乃さんから色々聞きました。瑠璃乃さんなら、やってのけると思います」

 

明人「なら……!!」

 

さやか「でも、その先は?」

 

明人「!」

 

さやか「先生も、逃げているんじゃないんですか?綴理先輩と梢先輩がそうだったように」

 

明人「それはっ」

 

 言葉が喉で止まる

 

さやか「それに、またなにか変なことを言うつもりでしょう?」

 

明人「……なんの、ことだか」

 

さやか「大丈夫ですよ。瑠璃乃さんが、きっと成し遂げます」

 

明人「確証なんてないクセに、よく言う」

 

さやか「なら先生は確証があったんですか?」

 

明人「っ……なかった訳じゃない。梢と綴理のことだって、去年から見てきたからわかっただけだ」

 

さやか「でも、委ねましたよね」

 

 核心を突かれる

 確かに、委ねたのは俺だ

 

さやか「なら、今回も委ねてみませんか?瑠璃乃さんに」

 

明人「そう、だな。……強いんだな、村野って」

 

さやか「ふふっ、6月の仕返しです」

 

 にこやかに微笑んだ村野はくるりと振り返り、校舎に戻っていく

 

明人「っ村野!」

 

さやか「はい?」

 

 思わずベンチから立ち上がり、足を止めるよう呼びかける

 村野は足を止めて振り返ってくる

 

明人「っ……誰から、聞いた」

 

さやか「綴理先輩が怖がっていましたから」

 

明人「つづ……り……。悪い、行ってくれ」

 

さやか「失礼します」

 

 村野が校舎に戻って行ったのを確認すると、またベンチに座り込み、空を見上げる

 

明人「……無理なんや。俺は……隠さんなんげん……」

 

    ◇

 

 瑠璃乃のライブ当日。部室の扉に背中を預け腕を組み、音楽堂から聞こえる人の声に耳をかたむける

 

明人「……来たか」

 

慈「わざわざ呼び出して。なに?」

 

明人「いや?瑠璃乃のライブを一緒に見に行かないかって誘っただけだろ?昔だったら普通だろ」

 

慈「昔の話でしょ。今のアキ君がそうことする?」

 

明人「俺が言わなくても勝手に行ってたとは思うけどさ。俺がそうしたいんだ」

 

慈「今回は随分るりちゃんに肩入れするんだね」

 

明人「別に。瑠璃乃みたいなことは一言も言ってないだろ?」

 

慈「戻ってこいって?」

 

明人「さあな」

 

慈「……なんかおかしいよ、アキ君」

 

明人「おかしくなんかーー」

 

慈「変だよ。今まで言ってこなかったのに」

 

明人「……」

 

 慈の瞳が揺れる

 

慈「……なに、その顔」

 

明人「……戻ってこいとは、言えん」

 

慈「……」

 

明人「俺も、まだ無理や」

 

慈「アキ……君……」

 

明人「……悪い」

 

慈「っアキ君!」

 

 止めようとする慈を無視して音楽堂に向かう

 

    ◇

 

瑠璃乃「んじゃ、ルリ行ってきます!」

 

花帆「頑張って、瑠璃乃ちゃん!」

 

さやか「大丈夫ですからね!」

 

綴理「るりは頑張った。あとはやるだけ」

 

梢「安心して。緊張しすぎないようにね」

 

明人「瑠璃乃、やりたいことは全部やってこい」

 

瑠璃乃「はい!」

 

 瑠璃乃のライブが始まる

 歓声は止まない

 このままいけば大成功

 

瑠璃乃「っ!」

 

 瑠璃乃が躓いた。このままいけば転ぶ。怪我をする

 

慈『梢、綴理、アキ君。ごめんね』

 

明人「っ!!」

 

 全員が動いた

 梢が、綴理が、受け止めようと

 日野下が、村野が、支えようと

 俺はーー

 

「るりちゃん!!」

 

 誰よりも早く動いた者がいた

 梢でも、綴理でもない。日野下でも村野でも

 見慣れた髪だった。ふわりと広がり、まるで天使の羽根のようで

 

瑠璃乃「あっ……」

 

 衣装を来て、マイクを持った。まるで今からライブをするかのようだった

 そう、そこにいたんだ

 

慈「みんなー、ハロめぐー!」

 

瑠璃乃「そしてそしてー!ルリたちは、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのユニット!」

 

慈「私たちの名前は!」

 

瑠璃乃「せーのっ!」

 

慈・瑠璃乃「みらくらぱーく!」

 

 スクールアイドル、藤島慈が

 

明人「なんなん、ほんと……」

 

    ◇

 

 ライブが終わり、6人のスクールアイドルが集まった

 成功を称え

 復帰を喜び

 結成を誓った

 

慈「アーキ君っ」

 

明人「慈……」

 

 慈が近づいてくる

 いつも通りの、自分が一番可愛く見える迫り方で

 

慈「どうよっめぐちゃんの復帰ライブは!」

 

明人「反則やろ、あれ。なんなん」

 

慈「でしょ。るりちゃんと組んで、パワーアップしたってわけ!」

 

明人「はぁ……。ほんっと、要らない保険だったな」

 

瑠璃乃「保険?」

 

慈「別に〜アキ君が私が来るって分かっておきながらわざわざ呼び出した、なんてないよね〜」

 

 わざとらしい言い方でしてやったり、と顔に浮かべながら全部話す

 

慈「そ・れ・に〜戻ってきてほし〜!ってぇ、色々言ってくれたもんねえ♡」

 

明人「茶化すなま!」

 

慈「え〜?アキ君あんなに頑張ったのにみんなに知られなくていいの〜?めぐちゃんの優しさだぞ☆」

 

明人「全部言うてもたな……!!」

 

 憎たらしい笑顔でウィンクを飛ばす慈に、行き場のない握り拳を作ってしまう

 

瑠璃乃「アキ君……!」

 

慈「いや〜アキ君はめぐちゃんとるりちゃんのこと大好きだからな〜。そうなっちゃうよねー」

 

明人「慈、課題増やそうか?」

 

慈「ひぃっそれはご勘弁ー!!ってか職権乱用だー!!!」

 

明人「うるさいげんね」

 

慈「ぐっ……課題を引きに出されるとなんもできないじゃん……!」

 

明人「はいはい。……慈」

 

慈「ん?……んっ……」

 

 ベージュ色の髪に手を伸ばす。ゆっくり手を置き、優しく撫でる

 

明人「……ほんと、戻ってきたんだな」

 

慈「やっぱ変じゃん……」

 

明人「うるさいげん」

 

慈「ふふっ。でも、ただいま」

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