明人「ほい、申請通ったぞ」
梢「ありがとうございます、水瀬先生」
梢から渡された申請、それは温泉旅館の手伝いのための二泊三日の外泊許可だった
明人「……旅館の手伝いにミニライブ。しかも市内ライブの前日か。ギリギリだな」
梢「慈が勝手に決めてしまって……」
明人「流石慈。自己中ギリギリ3ミリ手前……」
梢「あはは……。瑠璃乃さんと全く同じことをいうんですね……」
明人「俺も、裏方になるが、いけるだけ手伝いには行く。なんかあったら言えよ」
梢「はい。お願いします」
◇
明人「なじしてそうなが……」
慈「だーかーらー!一番貢献したユニットがライブと豪華夕食の権限なの!」
慈たちが旅館に向かってしばらく
様子を見に行くと、慈が『ゲームを始めた』と言い出した
明人「いや、見せてもらったメッセージにはーー」
慈「いーから!アキ君はそこら辺で見てるの!」
明人「はぁ……なにする気だ?」
慈「べっつにー」
明人「へいへい」
慈に流されるがまま、フロントの適当な椅子に座る
花帆「あっセンセイだ!」
梢「来ていらしたんですね」
明人「おう、スリーズブーケ。その様子だと……一仕事終えたって感じか?」
花帆「はい!」
梢「花帆さんのおかげで、いいものができましたよ」
花帆「えへへ〜それほどでも〜」
梢「ふふっ、本当に頑張っていたじゃない」
花帆「こ、梢センパイがいうなら〜。っそれに!国産牛のためですから!」
明人「国産牛……ああ、夕食の話か」
花帆「そうなんです!慈センパイが、国産牛が食べられるのは一つのユニットだけって言い出して!!慈センパイってすっごくいい人なんだって思ってたのに、花帆、残念です!」
日野下は頬を膨らませ、慈への不満を漏らす。梢が宥めるがどうやら腹の虫が治まらないようだ
明人「ははは……。梢、慈の意図わかるか?」
梢「やっぱり、なにか企んでるんですね」
明人「なんだ。気づいてなかったのか?」
梢「なにか企んでること以外は。まあ、あまり酷いことにはならないと思っているので」
明人「そうだな」
慈「ちょっと、スリーズブーケ!そこでサボってると勝てなくなるよ!」
花帆「はっ!国産牛!!梢センパイ、いきましょう!」
梢「ええ」
◇
明人「ふぅ……いい湯やった」
旅館の方のご厚意で温泉に入らせてもらい、その余韻に浸りなが廊下を歩く
慈「どうしよー……」
明人「慈?」
慈「アキ君。……入ってきたの?」
明人「ああ。旅館の人が入っていいって言ってくれてな。………なにやった?」
慈「なんもやってないし」
明人「ふーん……。計画は失敗か?」
慈「まだ失敗じゃないし!!」
明人「しかけてんじゃねえかよ」
慈「うぐっ……。図ったな……?」
明人「自爆しただけだろ」
瑠璃乃「めぐちゃーん!」
慈「あっるりちゃん!」
明人「じゃ、俺学校に戻るから。結果は明日のライブ前にでも聞こうかね」
慈「はーい。いくよ、るりちゃん」
瑠璃乃「うん。アキ君、また明日ー」
明人「明日な」
◇
明人「……だらぶち」
慈「うぅっ……」
明人「露天風呂で騒ぐからそんなことになるんだよ」
慈「べ、別にいいでしょ!今日のミニライブが成功すれば!」
瑠璃乃「まあまあ、めぐちゃんにも考えがあったわけだし」
明人「きっと大層立派な考えだろうな」
慈「……別に、『ライブに出られるのが当たり前』だって思って欲しくなかっただけ。………余計なお世話、だったけど」
明人「!」
瑠璃乃「へーきだよ、めぐちゃん。ほら、聞こえる。みんな一生懸命がんばってる」
慈と瑠璃乃がなにか喋っている
……上手く、聞き取れない
明人「…ほれ、スリーズブーケも最後の曲だぞ。そろそろ準備してこい」
慈「やばっ。るりちゃん行くよ!」
瑠璃乃「りょーかい、めぐちゃん!」
2人は駆け出していく
明人「……そうか。っ……」
2人の背中が遠くに見えた気がした
心の中でなにかが……
綴理「次はボクたちDOLLCHESTRAがーー」
◇
翌日、市内のライブの機材や衣装を運ぶため、車で集合場所に向かう
明人「……来ないな」
時間になっても誰も来ない。梢も、村野も
花帆「センセイ!!」
明人「あ、やっと来ーー。どうした?」
全員が額に汗を浮かべ、肩で息をする
さやか「はぁ……はぁ……。と、取り合えず機材と衣装を!」
瑠璃乃「車デッカイから何人かは乗るよね!?なら……。あれ?めぐちゃんは?」
明人「バスで行ったんじゃないのか?」
梢「まさかーー」
花帆「っ梢センパイ!慈センパイから……!!」
梢「『ごめん、ちょっと遅れる。みんなはライブの準備がんばって』……慈、まさか1人で旅館の手伝いをする気じゃないでしょうね……」
明人「旅館の手伝い?いや、それは昨日で終わりだろ?」
さやか「はい。終わりました。なんですけど……」
綴理「めぐの動画がバズって、予約、沢山来たらしい」
梢「なので慈なら……」
瑠璃乃「まずい、めぐちゃんならやりかねない!!」
花帆「い、急いで旅館に戻らないと!」
さやか「それだとライブの準備が……」
明人「っ取り合えず機材と衣装積め!んで全員乗れ!5人なら入る」
花帆「それだと慈センパイが……」
梢「いえ、急いで準備を終わらせてきましょう。このまま戻っても慈に申し訳ないわ」
明人「出すぞ」
全員が乗ったのを確認し、アクセルを強く踏み込む
◇
とにかく全員で急いでライブの準備を済ませ、旅館まで戻る
瑠璃乃「ヤバいヤバい!動画の再生数どんどん増えてるよ!!予約しましたってコメントでいっぱい!」
花帆「センセイ、旅館はまだ着かないんですか!?」
明人「もう着く」
梢「ならすぐに身支度をすませましょう。先生は旅館の前で待機していてください」
明人「ああ」
梢「いきましょう!」
全員急いで車から出ていく
明人「……っ……。まだ、だな」
まだ一息つくには早い
明人「………なんだろうな………」
……なにか、落ち着かない
慈「アキ君、会場まで!早く!!」
明人「っ慈!?旅館はーー……1人か?」
慈「後で説明するから早く!!間に合わなくなっちゃう!」
明人「っああ」
慈に急かされ、車を動かす
明人「なんで慈だけ……。他はどうした?」
慈「みんなまだ旅館の手伝い」
段差を踏み、車体が少し揺れる
明人「っはあ!?ってことは……慈1人でライブするんか!?」
慈「私が場を繋ぐの。絶対に!」
バックミラーに写る、大量の車の姿
明人「っ……あの量を捌いてから来たんじゃ間に合わない」
慈「なら間に合うまでつなぐ!」
明人「……無茶だ……」
慈「無茶なんて知るもんか!!みんなが私に繋いでくれたから……今度は私の番!!会場着いたらアキ君はすぐ旅館に戻って。絶対にるりちゃんたちを連れてきてよね!」
明人「っ………知らねえぞ」
◇
梢「水瀬先生!」
旅館の手伝いを終わらせた5人が走ってくる
明人「乗れ。……出すぞ」
瑠璃乃「めぐちゃん、大丈夫かな……」
花帆「間に合いますかね……」
日野下の問いに呼吸が止まる
綴理「アキ……?」
明人「……さあな」
不意にハンドルを握る力が強くなる
綴理「……怖いの?」
明人「……うるさいげん」
さやか「とにかく、急がなくては……!」
明人「だからっ……。そんなん………間に合うわけないがいね」
綴理「アキ?」
明人「……なんでもない」
また、アクセルを強く踏み込む
◇
会場の空気は切れかけていた
帰ろうと席を立つ人で視界が回る
瑠璃乃「めぐちゃ〜ん!」
慈「と、ゆーことで!ここからは、スクールアイドルクラブのステージが、始まるよ!」
ライブが始まる
いくらトーク力の高い慈でも無理だった
いくら揃っても、人は帰ってこない
……そう思っていた
慈「まずはめぐちゃんたち!」
瑠璃乃「みらくらぱーく!で」
慈・瑠璃乃「ココン東西」
無事ライブが始まった
まずは良かった、と思った
本当に
なのに、なんで……
梢「次は私たちスリーズブーケが」
花帆「みんなに笑顔の花束をお届けしちゃうよー!」
梢・花帆「Holiday∞Holiday」
人々は出口の先で振り返る
通りかかった人さえも
誰もがステージへ視線を向けている
綴理「最後はボクたち、DOLLCHESTRA」
さやか「精一杯頑張らせていただきます」
綴理・さやか「Mirage Voyage」
隣にいたはずなのに
同じ景色を見てるはずだった
なのにーー
ステージに立つあいつらって
こんな遠かったっけ
◇
花帆・さやか・瑠璃乃・梢・綴理・慈「はぁ……」
夜道を走る車の中、6人のため息が響く
明人「お疲れさん」
花帆「な、なんとかなりました〜……」
梢「流石にこれは堪えるわね……」
綴理「……ねむい………」
さやか「綴理先輩、今寝たら後で寝れなくなりますよ……!」
瑠璃乃「ルリ、もう限界……」
慈「めぐちゃんも〜……」
機材と衣装にクラブの6人、そして俺
ぎゅうぎゅう詰めになった車の中でくたびれた空気が流れる
慈「アキ君、ありがとね。何度も車出してもらっちゃって」
明人「……ああ。……慈ーー」
瑠璃乃「めぐちゃん、ありがとね」
梢「今回のライブの成功は慈のおかげよ。あなたがつないでいてくれたから、間に合ったの」
慈「そっちも頑張ったんでしょ」
綴理「みんな、がんばったよ……アキ……も……」
うつらうつらとする綴理がふやけた声で答える
さやか「綴理先輩」
綴理「あれ……?さやがたくさん……」
さやか「綴理先輩!」
ルームミラーの向こう
疲れ切ってるくせに、笑ってる6人
道路に視線を戻す