壊れた如雨露といつか花咲く大輪の花   作:坪継

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7話

 

 廊下に優しく響く笑い声

 その優しさが、静かすぎる

 

明人「……」

 

 扉に触れた手を離す

 

    ◇

 

明人「はぁ……」

 

 季節はすっかり秋になった10月

 三大文化祭である竜胆祭が間近にまで迫ってきた

 それに、もっと大事なものも

 

沙知「せんせー、いつまで生徒会室にいるつもりですかー?」

 

 沙知の声が飛んでくる

 

明人「……いつ、だろうな」

 

沙知「いやー、重々しい雰囲気で来たから何事かと思って中に入れましたけど……ソファに寝っ転がるだけはやめません?教師でしょ?」

 

明人「……だよなぁ」

 

 ゆっくり体を起こし、天井を見上げる

 

沙知「心ここにあらずっていうか……ほんとにどうしました?」

 

明人「わっかんねぇ……」

 

沙知「そろそろ竜胆祭の参加届出しに来る生徒が来るんですけど……」

 

明人「……部室、行きたくないんだよ」

 

沙知「明人先生が?それにラブライブ!も近いんだから、行ってあげてくださいよ」

 

明人「壊すよりいいだろ……」

 

沙知「?」

 

 スマホがブブッと震える

 

明人「……沙知ー」

 

沙知「はい」

 

明人「梢、体調崩したってさ」

 

沙知「……………はい?」

 

明人「だから、梢が体調……不良………梢が!?」

 

沙知「うわうっさ」

 

    ◇

 

慈「梢ー、アキ君がお見舞い来たよー」

 

 慈の先導で梢の部屋に入る

 

梢「水瀬先生……すみません……」

 

明人「体温は?」

 

梢「39度……です。っでも、まだ40度を超えてーー」

 

明人「アウトだよ」

 

梢「うっ……」

 

 どうやら竜胆祭へ向けてのやる事諸々で体調を崩したらしい

 

明人「はぁ……。部の方は……村野がいる大丈夫だろうな」

 

慈「実際さやかちゃんが部長代理だしなぁ……」

 

明人「お前らなぁ……。いや、慈と綴理だもんな。梢の代わりは無理そうか……」

 

慈「おい!」

 

梢「……本当にすみません」

 

明人「とにかく、回復優先な」

 

 それだけ言って部屋を出ようと扉に手をかける

 

梢「あのっ先生」

 

明人「まだあるのか?」

 

梢「その、最近、部に顔を出してないですけど……」

 

明人「……竜胆祭前で忙しいんだ。そっちは6人で回るだろ」

 

梢「本当、なんですか?」

 

明人「本当だよ。授業もあるからさ。二年目の新米にはキツい」

 

 できるだけ笑顔で、優しい声でそう伝える

 梢からの返事はない

 それを確認し、扉を開けて部屋を後にする

 

慈「ちょっ、アキ君私とじゃないと寮内歩いちゃいけないって話でしょー!」

 

    ◇

 

沙知「ってわけで、このチラシを全部配ってくること」

 

さやか「全部って、これをですか!?」

 

瑠璃乃「や、山積みだぁ……」

 

花帆「あたしたちだけで!?」

 

 生徒会室に戻ると、中から声がした

 

沙知「おっと、無理だなんて言わせないぜ。ステージの使用許可、ほしいんだろ?」

 

花帆「うぅっ……」

 

瑠璃乃「やるしか、ない感じ……?」

 

さやか「で、ですね……。わかりました、引き受けます」

 

沙知「よしっ。ならチラシを持って戻りな。あたしは忙しいんだ」

 

花帆・さやか・瑠璃乃「はい!」

 

 中から3人が出てくる

 

瑠璃乃「あっ、アキ君!」

 

明人「……それは?」

 

花帆「生徒会長からの試練です!」

 

さやか「これを全部配ってこいと」

 

明人「……はぁ……そうか、頑張れよ」

 

 3人が行ったのを見届けて生徒会室に入る

 

明人「沙知、あれはなんだ」

 

沙知「なにって、試練ですよ」

 

明人「……あっそ」

 

    ◇

 

沙知「今日もですか〜……?」

 

明人「いいだろ、別に」

 

沙知「いや、今日はーー」

 

 沙知がなにか言いかけたとき、扉が開く

 

さやか「失礼します」

 

瑠璃乃「どもどもです」

 

花帆「どもでーす!」

 

 入ってきたのは一年生の三人

 

沙知「おー、来たか来たか」

 

花帆「はい!来ました!」

 

瑠璃乃「あれ?アキ君?」

 

花帆「あれ?ほんとだ。なんでセンセイが?」

 

明人「……沙知、どういうことやが」

 

沙知「まあまあ、明人先生は色々あって生徒会室に来てるんだよ」

 

さやか「色々、ですか……」

 

 村野が見てくるが、なにも返せない

 

沙知「ではでは諸君、第二の試練の時間がやってきた……!」

 

花帆「楽しそうだなぁこのひと!」

 

 沙知は冗談を混じえながら試練の内容を伝える

 スクールアイドルコネクトーー通称スクコネを使い、クラブの宣伝動画を作ることだった

 試練を伝えられた3人は早速撮りに行くと言って生徒会室を出ていった

 

明人「……沙知」

 

沙知「まあまあ。必要でしょ?」

 

明人「……必要ないわけじゃない。それでも、試練だなんて大袈裟に言うものか?」

 

沙知「あれ?いつもの明人先生ならわかってくれるのになあ」

 

明人「……そ」

 

 パソコンで作業を再開する

 

    ◇

 

 スマホを操作し、イヤフォンを外す

 

明人「……花咲きたいから。楽しそうだから。……スクールアイドルだから、か。村野は不合格だろうな」

 

 さっきスクコネに上がった動画を確認する

 目の前には課題を書き進める慈の姿

 

慈「アキ君?」

 

明人「……俺のことを気にしてる暇があれば問題解け。また提出遅れることになるぞ」

 

慈「ちぇっ。はーい」

 

 シャーペンを動かし出す慈を横目に、またイヤフォンを付け、動画を再生し直す

 

さやか『わたしもひとりのスクールアイドルとして、精一杯大会に臨みたいと思っています!』

 

 綴理か、それともまた別の誰かか

 

明人「スクールアイドルをやる理由、か。聞きたいことが遠回しだな」

 

 沙知の行動に少しだけ不満を漏らす

 

明人「……沙知、無理難題は違うだろ」

 

 動画が終わる。イヤフォンを外して、大きく伸びをして体をほぐす

 

慈「試練ってやつ?」

 

明人「……聞いたのか?」

 

慈「うん。一年生ズからね。……そっかぁ。スクールアイドルをやる理由、か。沙知先輩らしいっていうか……」

 

明人「村野がスクールアイドルをやる理由、フィギュアと綴理だろ。それなもんで十分だっての。沙知は求めすぎなんだよ」

 

 操作をやめたスマホの画面が暗くなる

 

慈「そうかな」

 

明人「は?」

 

慈「きっともう見つけてると思うよ。さやかちゃんも」

 

明人「なに言うとるが。……課題、終わらせとけよ」

 

慈「あれ、アキ君は?」

 

明人「……ちょっと、外の空気吸ってくる」

 

 そんなもの……

 

    ◇

 

明人「……わからん……」

 

 屋上にやってきて、ふと出た言葉はこれだった

 なにがわからないのか、なにを思いつめているのかもわからないのに

 

明人「ダメや、落ち着かん……」

 

 手に持ったホットココアを啜っても気分は落ち着かない。胸の奥がざわざわして、止まらない

 

梢『本当、なんですか?』

 

沙知『あれ?いつもの明人先生ならわかってくれるのにな』

 

慈『きっと見つけてると思うよ。さやかちゃんも』

 

 下を向くと3人の言葉が脳内を駆ける

 

明人「……だからっ、わかんねえっての……!」

 

さやか「みんなの、期待に!」

 

 顔を上げた瞬間、村野が目の前を通る

 

明人「村野……?」

 

さやか「っ先生?なんで屋上に……って違う違う。すみません、わたし、生徒会室に行かないとなので!」

 

 村野の顔付きが違う。もうすでに不合格は言い渡されてるはずだ。なのに……

 

明人「っ村野!」

 

さやか「はい?」

 

 生徒会室に足を進める村野が動きを止め、振り返る

 

明人「っ……なにか、見つけたのか?」

 

さやか「はい。先生、“期待”しててください」

 

明人「えっ……」

 

さやか「それがわたしの答えです」

 

 そう言って村野は生徒会室に向かって行った

 

明人「……なんなん」

 

 缶を呷る

 

 もう、残っていなかった

 

    ◇

 

 Fes×Liveが終わった

 竜胆祭も、ラブライブ!予選も、村野さやかの意思表示も

 

明人「期待、か」

 

 片付けも終わり、静かになった音楽堂。どんな小さな呟きすらも響いていく

 舞台袖からゆっくりステージの中央に向かう。ゆっくり、ゆっくりと

 

明人「……やっぱ、見えないか」

 

 ステージに立っても、なにも見えない

 照明も

 観客も

 そこにあったはずの姿さえ

 

 ゆっくりと、右手首のミサンガに触れる

 

明人「期待は、重いぞ」

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