リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す! 作:SIS
二者それぞれのやりかたで、サンドワームを撃退した俺達。
とはいえ、迷宮探索はゲームみたいに自動的にお金やアイテムが転がってくる訳ではない。戦いを収入に変えるには、適切な知識と努力が必要なのは配信と一緒である。
「それで、こいつはどうすればいいのかなー、ザバニャン教えて!」
「うむ、まかせておけ! バラすのは得意だぞ!」
腕まくりしたガンドレイクが解体用のナイフを取り出すのを見て、すっとレインボー巴がドローンカメラを明後日に向かせる。なんていうか、手慣れてるなあ。
それはともかく、ガンドレイクは意気揚々と獲物の解体を始めた。サンドワームの一番売れるのは肝で、次に美味しいのが内臓を覆う膜だ。この膜は焼いて食べると美味しいんだよね、どことなく牛の横隔膜に似てるんだ。
カメラを回してガンドレイクのナイフ裁きを撮影に向かうと、ちょいちょい、とレインボー巴からお呼びの仕草。なんでございましょうか女王様?
「えっと、何か?」
「ん、ザバニャンとばかり話するのもバランスバッドだから、ちょいとかすがっちともトーク希望! という訳で、どう? ザバニャンとは組んでどのぐらいなのー?」
「別に俺と話しても面白くはないっすけど……ガンドレイクと組んでからはまあ4か月ほどかな」
そのうちガンドレイクが男だったのは一月ほどだったかな。いやあ、あのころは大変だった。迷宮攻略そのものは全く問題なかったんだけど、ガンドレイクがこっちの生活に不慣れでなあ。問題起こしまくってその対処に追われてたんだよ。まあガンドレイクは正真正銘異世界からやってきた訳だから、何も分からなくて当然だったんだけど、当時はそのあたり知らなかったし。
まあでもガンドレイクもことさらに自分が異世界から来た事を言い訳にするでもなかったし、あれはあれでちゃんと考えてたんだろうな。一度やらかした事はもう二度とミスしなかったし。
頭の中でどちらかというと思い出したくない部類に入る思い出をフラッシュバックさせていると、何やら巴さんは変な顔。なんだろ。
「う、うーむ、流石のプロ根性。その設定を徹底して貫くつもりなんだね、巴ちゃんも感嘆。やるね、かすがっち」
「??」
え、何かおかしい事言ったかな……あ、そっか。
ガンドレイクが女体化した一件、視聴者の皆にはそういう設定だと思われてるんだったか。いくらダンジョンなんてもんが出てくるような世の中とはいえ、おっさんが美少女に生まれ変わりました、とかは流石に与太話の類だしな。
まあ勝手に勘違いしてくれるならそれでいいか。説明もめんどくさい。
「んー、しかしながらザバニャン、どう見ても迷宮探索初めて数か月、っていう素人には見えないぐらいツヨツヨだけど、どこかで何かやってたのかしらん?」
「さあ。俺も以前、アイツがどこで何をしていたかは知らないですね。出会った時から強かった、としか」
「え、相棒なのにそのあたり何も聞いてないの!?」
ぎょっとする巴さん。まあ、確かに、やたらと荒事に長けた外国人って明らかに物騒な臭いがするもんな。あっちの世界で勇者だったとか、女神に従って黄金竜の首を刎ねたとかは聞いてるけど、それを話してもしょうがないし、何より具体的な活躍のエピソードは本当に聞いてない。
「だってガンドレイクはまあ、信用できるとまではいかなくともいい奴ですし」
「そ、そうなんだ……へ、へえー……。巴ちん驚き……」
「基本的に裏表のない奴なんですよ。レインボー巴さんだって、僅かな時間でアイツと意思疎通できてたじゃないですか。ああいう奴なんですよ、ガンドレイクは」
俺に言わせれば、出会って半日も立ってないのに以前からの友人みたいに立ち回ってるレインボー巴さんの方がよっぽどガンドレイクの事を理解している気がする。俺は何か月も一緒にいるのに、未だに彼女の事はよくわからない。
「えーと、まあ、確かに? ザバニャンは面白いよね。あはは」
「でしょ? 見てて飽きない奴ではあります」
「ふーん。なるほど、なるほど。もしかいて、かすがっちってザバニャンの事……」
何やら目をキラキラさせながら思わせぶりな語りのレインボー巴さんだが、その言葉は途中で中断された。背後から元気のよい声が響いたからである。
「よぅし、獲ったぞー! って何をやってるんだ、おぬしら。顔をよせて内緒話か? 私も混ぜんか」
「ああ、まてまてガンドレイク、その真っ赤な顔をカメラに写すんじゃない」
「おおっとこれはちょっとスプラッタだぞ???」
サンドワームの体内に腕でも突っ込んだのか、ガンドレイクは両腕が真っ赤だ。それに加えて無頓着なもんだから、頬にもべったり。
「トモキ、トモキ、拭いておくれ。私は両手がふさがっている」
「ああもうそれぐらい自分で拭き取れよ全く」
世話のかかるでかい子供だこと。両手いっぱいに宝物のように肝を握りしめているガンドレイクに溜息をついて、顔をウェットティッシュで拭ってやる。人間の血に比べて落ちやすいのが救いか。
「んぶぶぶ」
「別に内緒話なんかしてないよ。んで、なんです、レインボー巴さん? 私が、こいつの事をなんだって?」
「あー、いや、なんでもないよー。ごちそうさまでっす」
「????」
やれやれだぜえ、と肩を竦めるレインボー巴さんに首を傾げる。
なんだ、今のやり取りに何か問題があったか? ……まさか、年下の少女を甲斐甲斐しく世話する主夫にでも見えたのか?
冗談じゃない、こいつはこんなんでも実体は慎重2mを越えるムキムキ男だぞ。そもそもコイツは男だった頃からずっとこんな調子だ。自分より背の高い大男の顔を、どんな気持ちでこっちがぬぐってやっていたと思う?
「まてまて、何か勘違いしてないかレインボー巴さん。こいつと俺はあくまでパートナー、職業上の繋がりであってだな?」
「はいはい、わかりました。相棒相棒、了解しましたー」
「絶対何か勘違いしてるぅー!」
何か果てしなく面倒な事になっている気がする!! とはいえ、彼女はこっちより遥か格上の配信者だ、意図せずしてコラボ状態になっているのは美味しいし……。うぐぐ、背に腹は代えられないか。
そういう訳で、誤解を解くのは断念。抗弁してじゃあここで別れましょう、となったら困るのはこっちである。
世の中は世知辛い。結局長い物に巻かれるしかないのである。
「ぶふぅ。まあ、なんでもいいではないか。それより、サンドワームは仕留めたし、次にいこうぞ、次! 2層は外にも面白い怪物がいっぱいいるぞ!」
「へえー、それは楽しみ! どんなのが居るのかなあ、案内よろしくザバニャンちゃん!」
「おうともさ! ほれ、いくぞ、トモキ!」
「へいへい、ちょっとお待ちを、お姫さま方」
戦利品を冷凍ボックスに放り込む。あ、そういえばレインボー巴さんの取り分どうしようかな。あちらの普段の稼ぎからしたら、はした金もいいところだけど報酬は報酬だしな。あとで相談しよう。
「次はどんな魔物にあえるのかにゃ?」
「そうだなあ。あ、そうだ、トモキ。サソリの所に案内するのはどうだ?」
「ああ、悪くはないな。一応確認するけど、レインボー巴さん、ブーツの底にいれてる金属板は厚さどのぐらい?」
ガンドレイクの提案したのは、サンドワームほどじゃないにしろ、2層において冒険者を悩ませる生きたトラップみたいな連中の話だ。
厄介な相手ではあるが、対策できていれば大きな問題はない。突然装備について尋ねられたレインボー巴さんはちょっと首を傾げつつもすぐに応えた。
「えーと。暑さは3ミリ、材質はチタニウム! あ、脚のサイズは23だよ、プレゼントの参考にしてね」
「ほいほい。それぐらいあるなら大丈夫か」
「ふーん。……なるほど、なんとなく、どうするつもりなのか分かってきたもんね?」
流石に歴戦の冒険者だけあって、これから起きる事の予想はついたらしい。にひひ笑いをする彼女を連れて、俺達は大きな砂丘を昇る。
砂丘の場所や大きさなんて、風の吹き方次第で変わるものだが、すくなくとも一日ぐらいはそう変わらない。そうなると、地形に合わせて潜んでいる怪物もいたりする訳で……。
砂丘の上から周囲を見渡し、ちょっとした盆地になっている場所に俺達は目をつけた。
「あのあたりいそうだな」
「うむ、私も異論はない。トモキはちょっと後ろに下がっていろ」
「ふふん?」
代表して、ガンドレイクが一人、砂丘を降りていく。その後に距離を置いて、俺とレインボー巴さんが続く。
やがてガンドレイクが盆地の中央、少し地表がボコボコしている砂原に踏み入る。そして数歩歩くと……。
ガチン!
「かかった!」
突如砂の中から甲高い音が響くと同時に、ガンドレイクがバックステップ。1秒ほど遅れて、彼女が歩いていた場所の砂が掘り返されて、その下から真珠色に艶々輝く大きなサソリが姿を現した。
トラップスティンガー。地面に潜り、上を歩く動物に地中から毒針で襲い掛かる厄介なモンスターだ。だが、その絡繰りが分かっていればそう脅威ではない。
まずこいつは、深い所に潜らない。毒針の届く、浅い場所に潜るので、砂丘の上には巣をつくらない。また風で砂が飛んでも困るので、必ず砂丘の陰に巣をつくる。よって、複数の砂丘に囲まれた盆地は、奴らに取って最大の好条件。それさえ知っていれば、ある程度遭遇は避けられる。
そしてその毒針は、そこまで鋭くもなければ力もない。靴裏に一定以上の厚さの金属板を仕込んでおけば防げる程度。
そういった事前情報を分かっていれば、こうやって狙って地表に誘い出せる。
これが結構面白いんだ。
ザリガニ釣りみたいなもんかな?
地表に這い出してきたサソリは、強烈な日差しに委縮したようにすぐには動かない。そこへ容赦なくガンドレイクが斧を振るった。
「そりゃ!」
すぱーん、とまずは毒針が切り落とされて宙に舞う。幸い、サンドワームと違って真っ赤な鮮血が噴き出す事はない。さらにガンドレイクは切り込んだ勢いのまま、大きく足を振り上げて。
「よいしょお!」
そのままグシャリとサソリの頭胸部を踏みつぶす。潰された拍子にピーン、と伸びた鋏や足が、やがてぐったりと萎れる。
なんせガンドレイクが履いているのは金属製のごついブーツだ、脚甲といってもいい。そんなもんで踏みつけられたら、いくら今の彼女が小柄とはいえハンマーでぶん殴られたようなものである。なまっちょろいセミハード外骨格のサソリなど、いくら大きくてもひとたまりもない。
「よぉし、いっちょうあがりー! まあこんな感じだ、やってみるか、トモエーン!」
「やるやるやる! なんか面白そうー!!」
ぴょーん、と砂原に飛び込んで踏み荒らすレインボー巴さん。美女二人がサソリ釣りに興じるのを見ながら、俺は砂丘の陰にピクニックシートを広げると休憩の準備を始めた。
「そこそこのところで切り上げろよー。お茶の用意するからー」
「うむ、わかったー」
ほんとにわかってるのかなあ。
俺は訝しく思いつつも、一人増えた同行者の為に紙コップを一個多く取り出した。
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