リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第十一話 少し食べていきますか?

 

 

「いやー、楽しかったー!」

 

「うむ!!」

 

 思う存分、サソリ釣りを楽しんだらしい女傑二人。哀れ彼女らに襲撃されたサソリの巣は、一匹残らず狩りつくされてしまったようだ。

 

 周囲にはサソリの体液と七色の液体、そして飛び散った脚やハサミが転がっている。

 

 その隣で、俺はカメラを置いて戦利品の整理だ。

 

「やれやれ……」

 

 サソリの毒針は、先端をペンチで切った後袋に詰める。こいつらの毒は、薬かなんかの原料になるらしくてそれなりに高く売れる。

 

 あとはハサミだ。強度も大したことなくて武器防具にはならないが、ハサミを開閉する筋肉が発達しているのでこれがそれなりに美味い。ただ自己消化酵素が強く食べられるのは一日かそこらなので、売り物にはならない。これは持ち帰って自宅で消費だ。

 

 もくもくとそれらを処理してクーラーボックスに詰めていると、ふと頭上に影が差した。

 

「? どうしましたか?」

 

「いやー。なんかかすがっちにばかりやらせて申し訳ないなーって。めんご?」

 

「いえ。何をどうすればいいかとか、知らないでしょう? お気になさらず」

 

 ある程度のセオリーはあるが、怪物のどの部位がお金になるか有用なのか、そんなのはある程度回数をこなさないとわからない。

 

 だから冒険者は、初めていく階層では少数の怪物を倒した所でこれはと思う部位を回収して撤退を繰り返す。それは始めてくる階層がどのようなものか、少しずつ探索範囲を広げていくというのもあるが、倒した怪物のどこがお金になるのか、有用なのか、というのを調べる意味合いもある。

 

 ゲームのようにはなかなかいかないものだ。

 

「そういえば、レインボー巴さんはどうやって戦利品を持ち帰るんですか?」

 

「あ、それなら問題ナッシング。ドローンちゃんが抱えてくれるからー」

 

 彼女が指をパチンと鳴らすと地上に降りてくるドローンカメラ。その下に取り付け部があるのを見て取って、ネットに入れた戦利品をひっかける。

 

「さーんきゅー! なーるほど、二人は役割を分担してるんだねー」

 

「そうなのだ! トモキがいないと大変だぞ、私なんぞは戦う事しかできないからな!」

 

「お前は斧振り回す以外の事もできるようになれよ?」

 

 腕を組んでふんぞり返るガンドレイクのおでこをぺちり、と指ではじく。あうち、とおでこを押さえる彼女にため息をついて、荷物を背負ったクーラーボックスを背負いなおす。

 

「それで、これからどうします? もう少し、第二層を回るんですか? それとも第三層に?」

 

「んー? そうだあねえ……」

 

 俺の確認にレインボー巴さんは首を傾げると、にしし、と笑う。

 

「実はぁー、今日はここに来るまでも配信してたから、もうだいぶん時間がたってるんだよねえ! いい絵も取れたし、今日はそろそろこのあたりで引き上げようかなって」

 

「なるほど。まあ、無理はしない方がいいでしょうね。ここはまだそんなに探索が進んでる迷宮でもないので」

 

 この迷宮は発見されてまだ月日が短い。建物自体は利用されていたんだけど、使われていない地下室に迷宮の出入り口が出現したので長らく発見されていなかったという話だ。

 

 ほんとはちょっと怪しい所だけど。

 

 そして、生き死にがかかった迷宮探索は、必然、安全を確保しての牛歩戦術になる。そうそう簡単に調査は進まない。

 

 じゃあなんでこの迷宮に俺たちが来ているのかっていうのは、まあガンドレイクの都合だけど。

 

「んー、でもいい迷宮だね! 広くて動きやすいし!」

 

「そうですか?」

 

「そうだよー。洞窟みたいな所だと、武器を振り回すのも難儀難儀! それに他の冒険者ともめる事も多くってねー」

 

 やんなっちゃーう、と首と腕を振るレインボー巴。冗談めかして言っているが、有名人には有名人なりの苦労もあるのだろう。

 

「今日はほんとありがとね。いやー、いい感じに楽しめたよ! ザバニャンとも他人の気がしないし!」

 

「うむ! その年でその実力、才能のみでは説明できない。地道な鍛錬を積んだのだな!」

 

「あはははー、それを言うならザバニャンもでしょー? こんなちっこいなりして偉そうに!」

 

 銀髪を抱えてうりうりするレインボー巴。無邪気にじゃれてる様は本当の姉妹のようで、私はちょっとほっこりした。

 

 ふふん、うらやましいだろう、画面の向こうの視聴者の皆さん。俺はこれを生で見れているわけだからな!

 

 ……うん、まあ、こっちの動画のコメント欄が恐ろしい事になってそうな気もするが、そこはあまり気にしない事にしよう。

 

 しかし、こうしてふざけていると、なんだか思ったよりも幼いイメージを受ける。二十歳はいってるかと思ったが、実際はもう少し年若いのかもしれない。

 

 勝手にそんな事を考えてイメージを膨らませたからだろうか。

 

 私はふと、余計なお世話を焼きたくなってしまった。

 

「……せっかくですし、もうちょっとゆっくりしていきますか?」

 

「え?」

 

「サソリのハサミ、調理すると絶品なんですよ。初めて来た迷宮だし、調理方法もよく知らないでしょう? ご馳走しますよ、どうで「食べる!!!」ふふ、はい、わかりました」

 

 問いかけの言葉に勢いよく食いついてくる彼女に苦笑しながら、私は周囲を見渡した。

 

 ちょっと離れた場所に、大きな岩が砂丘に埋もれているのが見えた。あの影なら、怪物達に襲われる事もないだろう。ここの怪物は基本、砂の中を移動するものが多いから、足の下が岩なら安心だ。

 

「じゃあ、ちょっとあっちに簡易テントを立てて、食事にしましょう!」

 

「いいな! 安全な部屋の中で食べるのもいいが、戦場で食らう飯もまた美味い!」

 

「へっへー、ごちになります!」

 

 という訳で、簡易テントを建てるのはガンドレイクにまかせて、俺はサソリの鋏の調理に入る。

 

 爪先をペンチで落とした鋏の殻にヒビを入れて、ぺろんと半分だけ殻をむく。露わになった肉に塩をまぶして、キッチンペーパーをかぶせておく。こうする事で、肉の臭みが汁と一緒に抜けてくるのだ。

 

 すこし時間が必要なので、携帯燃料で薬缶を熱し、お湯を沸かす。用意するのはインスタント味噌汁を三人分。レインボー巴さんもガンドレイクも砂漠の熱は平気だが、戦闘をしたからそれなりに汗もかいたはず。塩分補給は大切だ。

 

 そうこうするうちに、ペーパーがしっとりしてきたので剥がしてゴミ袋に。薬缶を降ろすと今度はフライパンを熱し、充分に温まったら鋏をざあっと投げ入れる。蟹と一緒で、殻を下にしてフライパンに身が焦げ付かないように注意する。そしたらそこに料理酒をざばあとかけまわし、蓋をして酒蒸しにする。

 

「おぉー、手馴れてるねえ。用意も万端」

 

「まあ、カメラを抱えてガンドレイクを撮影してるだけですからね、俺は。それに料理酒は傷口の消毒にもつかえますし」

 

 もし迷宮の難所でガンドレイクが負傷して動けなくなった場合は、しばらくそこに滞在するような事だって考えられる。日持ちする食料品や調味料は常に持ち運んでいる。……と、言うのは建前で、実際はあくまでガンドレイクの我儘に付き合っているだけだ。

 

 なんていうか、基本的に蛮族文化圏の出身だから、見知らぬ怪物を仕留めるとまず肉を食おうとするんだ、あいつは。だけどまともに血抜きもしてない、調味料もない肉なんて美味しくもなんともない訳で……それに同行者として頻繁に付き合わされる以上、せめて少しでも美味しく食べたい……という努力の結果である。

 

 ちなみに、彼女は毒があるかどうかはなんとなくわかるらしく、今のところ一度もあたったことがない。

 

「っと、いい感じに火が通ってきたぞ」

 

 カタカタ、と振動する蓋を取り上げると、もわあ、とよい香りが立ち上った。フライパンの中には、火が通ったサソリの鋏が、ほんのり桃色に色づいていい匂いを放っている。

 

 ほい。

 

 これで、サソリの鋏の酒蒸しの完成である。

 

「よし、できたよ。天幕の下で食べよう」

 

「よっしゃー!! ほれほれ、見てよオーディエンス、美味しそうでしょー? えへへ、でも私が食べちゃいまーす。飯テロリストでごめんねー!」

 

 ご機嫌に自分の皿を掲げて自撮りに忙しいレインボー巴さんに苦笑しつつ、ガンドレイクが張ったテントへ。

 

 足元は岩だが、そんなのものともせずにピックが突き立ててある。ガンドレイクのバカ力のなせる業だ。銀髪の少女は、簡易テーブルと椅子を並べてもう待てない、といわんばかりに脚をぶらぶらさせながら料理を待ち受けていた。

 

「遅いぞ、トモキ! 早く早く!!」

 

「ほいほい、悪かったって。ほら、レインボー巴さんもこっちに、熱いうちにどうぞ」

 

「おおっと、ちょっち待って! 今行くー!」

 

 そうして、三人で小さなテーブルを取り囲み、ちょっとしたランチが始まった。

 

 ふふ、今日の出来栄えはちょっと自信があるぞ。

 

 

 

 

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