リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第十二話 サソリの鋏の酒蒸し

 

「いただきまーす」

 

 手を合わせて、フォークを手に取る。

 

 ちらりと視線を向けると、レインボー巴さんはさっそくがっついていて、それとは対照的にガンドレイクは何か独特の構えで静かに黙とうしたままだ。女神様とやらに祈りをささげているのだろう。

 

 家でビールとかおつまみをがっつくときはそうではないのだが、彼女の文化的に自分が仕留めた獲物が大事なのだろうか?

 

 不思議に思いつつも気にせずに、自分の皿に眼を向ける。

 

 ピクニックとかに使う紙の皿の上にどどん、と置いてあるのは、大きなサソリの鋏である。サイズ的にも、あれだ、ムール貝を一回りか二回り大きくしたような感じ。こっちは殻は真っ白で、中の肉もうっすらピンク色だが。どっちかというと、匂いや質感はやはり蟹の鋏に近い。

 

 さて。適当に食べても美味しいが、この鋏には美味しい食べ方がある。まずはフォークを殻と肉の間に差し入れる。

 

 蟹の鋏は筋肉がひと固まりになっているが、こいつの鋏は二つに分かれている。筋はその間にあるので、それをうまい事よけて肉だけを口に運ぶ。

 

「うまうま」

 

 口の中に広がるのは、少し淡泊で、ちょっとした臭みのあるどちらかというと魚肉ソーセージに似た雰囲気のある味だ。酒蒸しにしたので身はしまっており、ぷりっとした触感が楽しめる。身の奥にはちょっとしたえぐみが残っているので、あまり咀嚼せずにつるりと行くのが美味しく食べるコツである。

 

「うまい、うまい!」

 

 ガンドレイクみたいにな。椀子そばの勢いで次々に平らげていく彼女の様子をみて、見様見真似でレインボー巴さんもサソリの酒蒸しに口をつける。

 

「あ、意外と美味しい。ちょっとクセがあるけど」

 

「まあ、魚みたいにはいかないね。ただま、タダで食べられるし、こういう食べられる魔物を知っているかどうかが生存率に直結してくるしね」

 

「なーるほど。美味しいから食べるのかと思ったー」

 

 もちろんそれもある。けどやっぱり、人類が長年かけて品種改良してきた畜産物には味ではそうそう勝てないよ。海産物? あれはまあ、うん。また別の話という事で。

 

「お気に召してくれたならよかったよ。人によっては蟲の肉なんてちょっと抵抗感があったりするからね」

 

「いやー、見た目はモロ蟹の鋏だし、気にならないよー。オーディエンスの反応もいいし。ねっ皆」

 

 虚空に向けて笑いかけるレインボー巴さんを、ドローンカメラがふわふわしながら撮影している。彼女のつけている、透明度の高いサンバイザーらしきもの、もしかしてあれって噂のグラス型コンピューターかな? 彼女の動画へのコメントがリアルタイムで投影されているとか、そういう。

 

 やっぱ売れっ子配信者はいいものもってるなあ。

 

 見た目も華やか、実力も確か。天は二物も三物も与える時には与えるのである。

 

 ぼーっと彼女を眺めていると、ふと視界の端で銀色の髪がちょこちょこ蠢いた。

 

「食べないならもらうぞー?」

 

「あ、こら」

 

 気が付けば自分の分を食べつくしたガンドレイクが、無遠慮に私の皿からサソリ肉を奪っていった。うましうまし、と瞬く間に平らげてしまう彼女に小さくため息をついて、私は残った分を皿ごと差し出した。

 

「え、いいのか?」

 

「肉体労働担当が一番食べておくに越したことはないからな。食べすぎるなよ?」

 

「やったぁ、もらうぞ」

 

 自分の分だけでは物足りなかったらしく、むしゃむしゃと残りを平らげるガンドレイク。その横顔を見つつ、これでビールがあったらアイツとしては最高なんだろうな、と俺はぼんやりと考えた。

 

 ま、当然迷宮内では飲酒は厳禁だけどね。

 

 そんなこんなで食事を終えたら、生ごみとかをゴミ袋にしまい込む。迷宮内での不法投棄は厳罰だからね。

 

「それじゃ、そろそろ戻りますかー」

 

「ゴチになりました♪ いやー、ところ変わればあるもんですねぇ、美味しい物」

 

「まあ冒険者やってる奴の特権みたいなもんですね。ふふ」

 

 なんせ世間の物価上昇は著しいにもほどがあるからね。卵1パックが298どころじゃないからなあ……。

 

 オマケに我が家には家計を考えずにバクバク食べる奴がいるからね!

 

 軽く抗議の意思を込めて視線をガンドレイクに向けるが、肝心の当人は「?」といった感じで小首をかしげるだけ、悪びれもしない。

 

 まあ、一番体を動かしてるのはこいつだから文句も言えないんだけど。

 

「レインボー巴さんはこれからしばらくここで探索するんですか? あ、皿はこっちに」

 

「あんがとー! うんにゃ、本命は隣の県のダンジョンでね。最近ちょっと人気があるらしいダンジョンの様子見に来てみただけなのさあ」

 

「へえー……」

 

 隣の県のダンジョン……話には聞いてる。

 

 かなり大きなダンジョンらしい。それに伴って算出する資源も膨大。今のところ、怪物を仕留めてその部位を持ち帰るだけのこちらのダンジョンと違い、鉱物資源なども産出しているという話だ。だから怪物を倒す冒険者だけでなく、昔の炭鉱夫みたいな人たちも一攫千金を狙って潜っているとかで、その繁盛ぶりはゴールドラッシュを思わせるものがあるそうだ。

 

 確かに、配信するならそういったダンジョンの方が面白いに決まってるか。今のところ、出現する怪物や地形についても調査が進んでいて安全性は高いらしいし。

 

「となると長い配信になりそうですね。まさか戻ってからすぐ?」

 

「そうそう。今日のホテルに泊まって、そしたら朝出発! そこから48時間耐久配信なのさー」

 

「タフですねえ……」

 

 ちょっと俺では厳しいぐらいの強行軍だ。若いってすごいね。それとも、迷宮に長い事潜った事でそんな強行軍も可能になったのだろうか。

 

 迷宮に潜り続ける事で得られるという不可思議な肉体強化、俺は今のところ実感がないんだよねえ。

 

 考えてみればこれも変な話だ。肉体的には何の変化もないのに、皮膚に注射針が刺さらなくなったり、片手でコンクリートを握りつぶせるぐらい握力が高くなったり……今は絶対数が少なくて問題になってないけど、そのうちオリンピックみたいな運動大会だけでなく、社会構造そのものに大きな影響が出てくる可能性だって考えられる。政治家は何か対策を考えてはいるみたいだけど……。

 

 いや、今はどうでもいい事か。

 

「ん。まあ、何事も安全第一です。頑張ってくださいね」

 

「うむ! せっかくだ、我々もオフという事にして配信を視聴しようではないか!」

 

「わあい、ラッキー! これにて視聴者二名確保だー♪ あ、チャンネル登録、高評価、よろしくお願いしますねー!」

 

 やったあ! と可愛らしく喜ぶレインボー巴さん。

 

 くるくる回って喜びをあらわにする彼女に苦笑しつつ、食事の後の塵を片付ける。なんかこういう、嫌みのない所が彼女が人気の理由なのかもしれない。

 

 俺もファンになっちゃったかも、ね。

 

「さて、戻るか。ガンドレイク、食った分は働けよ」

 

「うむ! トモエーンはこれからが本番というなら、護衛は私に任せておけ! なあに、もやしのような商人を護衛した事もあるが、それに比べればずっと気楽だ、がははは!!」

 

「あははは、ありがとー! ザバニャンが守ってくれるなら安心だねー!」

 

 斧を肩に担いで自信たっぷりに大笑いするガンドレイクとハイタッチする巴さん。

 

「やれやれ、すっかり仲良しか。それじゃ、帰りましょうか」

 

「しゅっぱつしんこう! ガハハ!!」

 

 三人そろって、赤い空の砂漠を後にする。

 

 こうして、有名配信者との奇妙な短い旅は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 だけど。

 

 この出会いは、ただ楽しいだけでは終わってくれなかった。

 

 翌日、レインボー巴さんの生配信を視聴していた俺たちは、ノイズを写すばかりの画面を前に途方に暮れていた。

 

 コメント欄には、滂沱の勢いでコメントが今も流れ続けている。

 

『おい、これ不味くないか?』

 

『ドローンカメラが破壊されただけ、だよな……?』

 

『近くに様子を見に行ける奴はいないのか?』

 

『おもしろくなってきたじゃんwww』

 

 コメント欄には配信者のレインボー巴さんを心配する声、ただ騒ぎたいだけの声、様々なコメントが飛び交っている。

 

 隣でソファに座っていたガンドレイクが、不安そうな顔でこちらを見つめていた。

 

「と、トモキ……」

 

「……準備しろ。すぐに出る」

 

「トモキ?」

 

 きょとん、とするガンドレイクにうなずき返し、俺はソファを立ちあがると私服の襟に手をかけた。

 

「どうやら、厄介な事に縁があるらしいな、俺たちは」

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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