リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第十三話 おせっかいを焼きに行こう

 

 レインボー巴の耐久配信。

 

 それは最初、とても順調に進んでいた。なんせ、実力のある冒険者の配信動画だ。それに加え、すでにかなり調査が進んでいる迷宮だ。戦闘も探索も安定しており、俺たちは彼女のパフォーマンスに同じ冒険者として感嘆しながら動画に見入っていた。

 

 何より彼女の間の持たせ方がうまい。リアルタイム配信という事でただ歩いているだけが大半の時間なのだが、その間も彼女のしゃべりや、風景の写し方でダレたりしない。

 

 同じ動画配信者としてその手腕に感心しながら視聴している最中、それは起きた。

 

 迷宮の奥から大量にあふれ出してくる怪物。まるで何かに押し出されるように向かってきた怪物の群れに、レインボー巴だけでなく複数の冒険者が巻き込まれた。混乱の内に、離脱が遅れたドローンカメラが巻き込まれ、暗転……。

 

 それきり、通信は回復していない。

 

 ドローンカメラが完全に壊れてしまったのか、あるいはカメラに気を払うほどレインボー巴さんに余裕が無いのかは分からない。

 

 今や生配信動画は、黒画面を前に根拠のない事をコメントで騒ぎ立てる井戸端会議と化している。不毛で非生産的な画面を切り、出発の準備を整える。

 

 と、そこで俺より遅く準備を始めたのに一足早く用意を整えたガンドレイクが尋ねかけてきた。

 

「ところで、何か当てがあるのか? 今から私達があの迷宮に向かっても、恐らく出入口は封鎖されているぞ? それにあの規模のトラブルなら救助隊が入るだろう。慌てて動いてもしょうがないのではないか?」

 

 彼女はまるで俺を咎めるような口調だが、そわそわしているのを隠せていない。ほうっておくと今にも走り出しそうな暴走特級を諫めるべく、俺は彼女に言い聞かせた。

 

「……いや。恐らく、救助隊は奥まで行けない。途中で引き返すはずだ」

 

「何故そう言い切れる?」

 

 問いかけてくるガンドレイクの視線は青く澄んでいる。人の悪い奴だ、答えはとっくにわかっているのに問いかけてくるのは、俺の覚悟を試しているつもりか?

 

「映像の怪物の群れの中に、見覚えがある奴がいた。……黄金竜の潜んでいた横穴に居た、階層に不釣り合いな化け物だ。レインボー巴さんでも、覚悟も準備もなしに遭遇して無事に済むような相手じゃない。救助隊といったって、職業冒険者じゃない。戦闘力は不足しているし、ミイラ取りがミイラになる訳にはいかない。状況を把握し次第、断念して引き返すさ」

 

「だがお前は出かけようとしているな。無駄とわかって、時間を浪費するのか?」

 

「いっただろ。横穴の怪物だって」

 

 迷宮に出現する怪物は、基本的にその場所でしか出現しない固有種だ。実際にその世界で閉じた生態系があるとかそういう訳ではないらしいが、理屈はこの際どうでもいい。

 

 大事なのは、同じ怪物が迷宮を跨いで出現する事はないという事。にもかかわらず、それがおきたという事は……。

 

「あの横穴の先、黄金竜の巣が繋がっていた先の迷宮は、あそこだけじゃなかったという事だ。あるいは、あとから繋がったのか……逆に言えば」

 

「迷宮管理番号XA-253ー74から、レインボー巴さんの居る迷宮に向かう事ができる、と」

 

 頷き返しながら、しかし念押しするようにガンドレイクは俺の意思を確認してきた。

 

「しかしわかっているのか? あの横穴を使うという事は、政府の封鎖を破る、という事だぞ? きっと怒られるだけじゃすまないと思うが」

 

「緊急事態だし、しょうがないさ」

 

「トモキ。彼女とて、こういう事態は覚悟して冒険者をやっていたはずだ。君が、そんなリスクを背負う必要はないはずだ。どうしてそこまでする?」

 

 ……こういう時、どうにもガンドレイクは底意地が悪いというか、曖昧な言い分で納得してくれないというか。まあ、鉄火場、修羅場に至ってから、怖いからやっぱなしで、とか言い出されたら一番困るのはコイツだから、さもありなんだけど。自分だって今にも飛び出しそうなくせにさ。

 

 だけどこっちだって、別に生半可な覚悟でこんな事を言いだしたわけじゃない。

 

「おせっかいだからな、俺は。……別に、彼女に思い入れがあるとか、正義の味方ぶってる訳じゃない。自分に言い訳して、やりたい事から背を向け続ける生き方も、しんどいってだけの話だ」

 

「ふむ。……ならば私も何も言うまい。ふふふ、しかし」

 

 うって変わって、ニコニコと笑顔を浮かべるガンドレイク。むふー、と小鼻を膨らませながら、ご満悦そうに腕を組む。どうやら俺の答えはお気に召したらしい。

 

「トモキが及び腰なら私の方から提案しようと思っていたが、ふふふ、その必要は無かったようだ!! それでこそトモキだ!!」

 

「それって褒めてる?」

 

「勿論だとも!!」

 

 そうですか、そうですか。いやでも蛮族出身の戦士に褒められるって現代社会の規範的にどうなんだろうな……。コイツと一緒に居るうちに価値観に影響を受けたか……?

 

 まあいいか。

 

 ……はあ。しかし、うまくいっても怒られるだろうなあ。ま、後悔は後でするものだ。

 

「出るぞ。いつもの迷宮つったって、車で一時間ぐらいかかるんだ。急がないと手遅れになるかもしれん」

 

「うむ! まあ、彼女もなかなかの実力者、そうそう滅多な事は無いとは思うが、急いだほうがいいだろうな!」

 

 飛び出すようにして車で出発する。今更焦っても仕方ない、事故だけはしないように安全運転。気持ちは逸るが、助手席でずっとそわそわしてる奴が居るおかげで、逆に気持ちが落ち着いた。

 

 迷宮管理課に到着したのは昼過ぎ頃。見た所、いつも通り、そこそこの数の冒険者がたむろしている。隣の県の迷宮で起きた事故など、ここでは関係ないようだ。特に騒ぎがあるでもなく、いつもと変わらないカウンター。

 

 いつも通りの手順を熟して、迷宮内へ。

 

 ここからは時間との勝負だ。怪物の相手は最小限にして、向かうは2層の封鎖された横穴。砂丘の形状は変わっていたけど、つい最近様子を見たばかりだ。迷う事なく現場に辿り着く。

 

「さてと、こいつをどうするかだが……」

 

 相変わらず、鉄のフェンスとコンクリート壁でふさがれた洞窟入口。それを前に考えを巡らせていると、すっと前にガンドレイクが斧を手に歩み出た。

 

 ……まあ、そうするのが確かに一番早いか。

 

「頼む」

 

「うむ、まかせておけ!」

 

 肩に斧を担いだまま、ぐっとガンドレイクが腰を低く落とす。ちょっと後ろに下がって観察していると、風もないのに彼女の纏うコートがはたはたとはためき、銀髪が靡いているのが見て取れた。じっと見つめると、彼女の体から何か、うっすらと白いオーラのようなものが立ち上がっているように見える、気もする。

 

 もうちょっと距離を取ろう。

 

 そして……。

 

「…………ぬんっ!!」

 

 最大限まで力を溜めたガンドレイクが大きく斧を振りぬいた。小柄な体で大斧をバットのように振り回すその姿だけでもファンタジーだが、その一撃の破壊力はそれ以上だ。

 

 一撃。

 

 たった一撃で、鉄のフェンスは両断され、分厚いコンクリートの壁が崩壊する。ガラガラと向こう側に向かって崩壊するバリケードには、明らかに斧の幅を越えた破壊跡が刻み込まれていた。

 

 何回見ても信じられない一撃だ。

 

 ガンドレイクは闘気だとかなんだとか言っていたが、俺からするともうほとんど超能力だ。サイコキネシスの類と言われた方がしっくりくる。

 

「ふっふーん! どうだ、トモキ、このガンドレイク様の一撃は!」

 

「あ、ああ。相変わらず凄いな……」

 

「ふふふーん!」

 

 こちらに振り返ってふんぞり返っていたガンドレイクが、俺の称賛の言葉に鼻高々とつま先立ちする。こいつ褒められるとすーぐ調子にのるんだよな……まあ実際に凄いんだけど。

 

 バリケードには、ちょうど大人一人が出入りできるぐらいの大穴が開いている。これならば、中に入る事もできそうだ。

 

 亀裂の向こうには、明かりもない真っ暗な闇……その中で、ギラリ、と鋭い視線が煌めいた事に気が付いて、俺はとっさに警告の声を上げた。

 

「……ガンドレイク! 油断するな!」

 

「む?」

 

 警告にガンドレイクが振り返った直後。バリケードの瓦礫が内側から弾け飛んだ。

 

 飛散する瓦礫に反射的に地面に伏せる中、洞窟の中から飛び出してくる何かを俺は目にする。

 

 全身を覆う艶やかな白い鱗。波打つような分厚い筋肉に、血の色の赤い瞳。腰には粗末な腰布を巻きつけ、手には石を削って作った粗雑な武器。

 

 こいつを俺は知っている。

 

『シュラア……』

 

 横穴に潜むアルビノのリザートマン。およそ俺が知る限りでは最も強力な怪物が、巨体からは想像もつかない勢いでガンドレイクに襲い掛かった。

 

 

 

◆◆

 

 

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