リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第十四話 鬼さんあちら、手の鳴る方へ

 

 レインボー巴さんを助けるべく、迷宮の横穴に向かった俺達。

 

 しかし、バリケードを破壊した所で、まるで申し合わせたように横穴に潜む怪物が襲い掛かってきた。

 

「ガンドレイク!!」

 

 思わず悲鳴のような声が上がる。ヨーイドン、の戦いであれば、例えあの横穴に住まう怪物相手であってもガンドレイクは遅れを取らないだろう。だが不意打ちである事に加え、今のガンドレイクは大技を放った直後だ。多少なりとて弛緩した状態で、強敵の攻撃を受ければどうなるか。

 

「くっ!」

 

 辛うじてガードが間に合い、ガンドレイクは相手の一撃を受け止める。

 

 だが、押し返すには至らない。双方、全力でお互いの得物をぶつけ合わせて押し合いへし合い。

 

 こうなると小柄なガンドレイクが不利だ。相手もそれがわかっているのか、体格を生かして上から押し込むようにして力を込めている。あれではガンドレイクは抜け出せない。

 

 押し負ける事はないが、このまま動けなければ二匹目、三匹目が来た時に隙だらけだ。

 

 だから……。

 

「目を閉じてろ!!」

 

 合図と同時に、カラーボールを投擲。真っ赤なボールがアルビノリザードマンの頭部に命中し、真っ赤な粉末を周囲に撒き散らす。

 

 一瞬見開かれるリザードマンの瞳。直後、奴はガンドレイクとのつばぜり合いを放棄して、苦悶の声と共に上体を仰け反らせた。

 

『シュラアアア!?』

 

「隙ありぃ!」

 

 そこを逃すガンドレイクではない。目を閉じたままの一閃が、アルビノリザードマンを横一文字に両断する。血飛沫をあげて崩れ落ちる死体を他所に、俺は慌ててウェットティッシュを手に彼女へ駆け寄った。

 

「ほれ、これで顔をふけ」

 

「う、む。助かる……」

 

 目を閉じたまま顔を擦っていたガンドレイクだったが、ティッシュを受け取ると念入りに顔をごしごし。刺激物の粉末を丁寧に拭ってようやく目を開くと、何度も目を瞬かせた。

 

「うぅ、まだチリチリする……しかし、いや。助かった、油断していたか……」

 

「待ち構えてたみたいにドンピシャだったからな。いや、これは……」

 

「どうやらほんとに待ち構えていたみたいだな……」

 

 グルルル、と唸りながら、破壊したバリケードの向こうから姿を現す怪物達。

 

 一匹、二匹、三匹……四匹目からは数えるのをやめた。切りがない。

 

 シャリン、と斧を砂地に擦らせながら得物を構え直すガンドレイクが、俺を庇うように前に出る。

 

「名誉挽回といくか。トモキは下がっていろ」

 

「お、おぅ」

 

 この状況で俺に出来る事はない。彼女の言う通り、慌てて後方に下がると、とりあえず証拠映像としてカメラを回す。

 

 映像の中で、銀色の閃光とかしたガンドレイクが怪物達に切りかかり、瞬く間に鮮血の旋風と化す。パワーこそ怪物達は同レベルだが、身のこなしと得物の性能が段違いだ。勢いを得たガンドレイクが、目をかっぴらいて高尚と共に斧を振り回し、自分の何倍もある怪物達の巨躯をばっさばっさと切り倒していく。文字通り、竹を割るようにして切り倒されていく怪物達。

 

「はははははは! どうした、不意打ちできなければこんなものか! はははははは!!」

 

「ガンドレイク、ちょっと酔いすぎだ! クールダウン、クールダウン!」

 

「おっと、これは失敬」

 

 ガンギマリで暴れ狂っていたガンドレイクが、繰り返す呼びかけにようやく反応した。既に周囲の怪物は彼女の斧であらかた切り倒され、無残なブツ切り死体をそこらに転がしている。その返り血で彼女の青いコートは真っ赤に染まり、銀色の髪も赤の入り混じったまだら模様だ。シリアルキラーも真っ青な佇まいは、もし夜中に道端で遭遇したら失禁間違いなしである。

 

 これから救助に行こうっていうのにこのありさまでは勘違いされかねない。俺は溜息をついてタオルを彼女の顔面に投げつけた。

 

「あぶっ」

 

「それで血を拭いとけ。これから救助にいくっていう事を忘れるんじゃないぞ」

 

「う、うむ! 大丈夫だ、忘れてはいない!」

 

 ほんとか? 暴れるの楽しくなって目的見失っていたように見えたが?

 

 まあ、それはいい。一旦置いておこう。

 

 しかしだ……。

 

「待ち構えてみたいにどんぴしゃりだったな」

 

「というより、あれは入口が開くのを待っていたようにしか見えなかったぞ? これだけの数の怪物が、一か所に集まる事はそうそうあるまい」

 

「そりゃそうだが……」

 

 言葉を交わしつつ、ガンドレイクを先頭に慎重にバリケードの破壊孔から内部に侵入する。

 

 途端、再びガンドレイクの斧が閃いた。闇の中で姿の見えない何かが、苦悶の声を上げて逃げていく。

 

 だが、闇の中に蠢く気配はなくならない。まだ無数の怪物が、こちらの出方を伺って潜んでいるのが折れにもはっきりと感じられた。

 

「まだまだいるぞ!」

 

「まじかよ畜生!?」

 

 以前、この横穴に突入した時もこれほどの密度ではなかった。

 

 もっとこうまばらで……敵が強い以外は、さほど遭遇率も高くなかったはずだ。それこそ、普通の探索と同程度かそれ以下で……だから、俺みたいなのがガンドレイクのあとをついて奥までいけたんだ。

 

 一体どうしてこんなことに!?

 

「ちっ、一端下がるぞ、トモキは外に!」

 

「あ、ああ!」

 

 こんなところで彼女の邪魔になる訳にはいかない。慌てて一旦外に退避すると、内部では壮絶な戦闘が始まったようだ。暗闇の中に銀色が幾度も翻り、その度に怪物達の苦悶の声が木霊する。今の所、ガンドレイク有利で戦いが続いているようだが……。

 

 しかし、この数、いちいち相手をしていたらキリがない。一応、不意さえ突かれなければ、ガンドレイクと怪物達の戦闘力には大きな差が開いているが……。

 

 そこでふと、閃く考えがあった。

 

 怪物達がどうしてこんなに密集しているのかは分からない。だが、迷宮全体の密度が上がっていたとしたら、この横穴を塞がれた怪物達はどこにいくのか? 当然、他の出口を探すに違いない。そして、この横穴以外にも、あちこちの迷宮と繋がっているのだとしたら……。

 

 もしかして、原因はそれか?

 

 だったら。

 

「ガンドレイク! ウォークライだ!」

 

「?! 何故、今……い、いや、わかった! トモキの指示に従う!」

 

 俺の指示に、ガンドレイクは困惑しながらも従ってくれた。一旦後退し、横穴の入口まで下がった彼女は、深く深く息を吸い込んだ。そして……。

 

『……ゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 轟咆一喝。

 

 鼓膜どころか地面や壁さえもビリビリと震わせる大音声で響き渡る戦士の雄たけび。後ろで聞いている俺でもひゅっと股が竦み上がるような叫びだが、今まさに敵対している怪物達にそれが果たしてどのように聞こえるのか、説明するまでもないだろう。

 

 明らかに、闇の中に潜んでいた気配が竦み上がるのが分かる。もともと実力差は明白だったのだ、脅かされて泡を喰ったように逃げ出していく怪物達。

 

 その背中を前に、ふんすと鼻を鳴らすガンドレイク。

 

「なんだ、あっけない。根性が……」

 

「そこでぐだぐだ行ってないで後を追うぞ!」

 

「えっあっえっ?」

 

 きょとんとする彼女を置いて、走り去っていく怪物達の背中を追う。マグライトで洞窟を照らしながら追跡する俺の跡に、遅れて追いかけてきたガンドレイクが並ぶ。

 

「なんだなんだ、どういう事だ!? 説明してくれトモキ!」

 

「レインボー巴さんが遭難したのは多分、この横穴の怪物があふれ出したのが原因だ! ここの横穴がふさがれていたから出口を探して、次に繋がったのがあっちの迷宮だったんだろう! だから、この状況で連中に圧をかけて追いやれば……」

 

「! 空いた穴に殺到するという訳か!」

 

「たぶんな!!」

 

 勿論そう上手くいかない事も考えられるが、しかし怪物達は今の所、行く先が決まっているかのように一目散に同じ方向に逃げている。まるで、煙突から煙が逃げるように。

 

 そうなると、俺達が突入してきた横穴からも連中が這い出す恐れはあるが……まあそっちは大丈夫だろう。あの横穴は、そうと知っていて向かわなければたどり着けないような、砂漠の端の端にある。仮に何匹か這い出しても、洞窟の湿潤環境に慣れた化け物では強い弱い以前に乾燥と暑さに干上がるだろう。

 

 そうこうするうちに、見覚えのある洞窟を通り過ぎて、狭い上り坂に差し掛かった。その先、遥か頭上から明るい陽射しが差し込んできている。

 

 外ではない。太陽の光は、あんな青い光ではない。

 

 それはすなわち……。

 

「出口か! でかしたトモキ!」

 

 ぐ、とガンドレイクがその場で足を踏ん張って急制動。大きく斧を振りかぶると、その場でぶんぶんと回転して勢いをつける。

 

 そして……。

 

「おかたずけといこうか!」

 

 斧を、全力で投擲。砲丸投げというより大砲の弾のように射出された斧が、狭い通路に犇めいていた怪物達を真後ろからまとめて一網打尽にしていく。何匹もの怪物を貫通して勢いを失った斧が上がり坂の途中に突き刺さって停止し、それまでの道は怪物の亡骸で溢れかえった。

 

「うげえ」

 

 いや、まあ。

 

 確かにこの数と強さの怪物達を新たに迷宮に解き放つ訳にはいかないけどさ……。

 

 内心ドン引きしながら、屍の間に足を置いて坂を上っていく。出口の手前に突き刺さって停止した斧は、怪物の肉片だの内臓だのがからみついて大分グロい事になっていた。

 

「ふんぬ!」

 

 そしてそれを全く頓着せずに引き抜くガンドレイク。これまでの戦闘のそれと合わせて、せっかく可愛く小奇麗に着飾っていた彼女の衣装は今や黒く変色した血でまだら模様に染まっていて、まあなんていうか、色々とアレだった。なまじ見た目だけは美少女な分凄惨である。

 

 これならまだ、身長2mのムチムチマッチョメンの方がまだマシ……いや五十歩百歩だな。うん。今のは俺が間違っていた。

 

「どうした?」

 

「いや、もうちょっと、色々頓着してほしいなって……」

 

「? 戦ったら血塗れになるのは当たり前だろう?」

 

 そうかなー? 本当にそうかー?

 

 俺の知ってる限り、他の動画配信者はそんなブラッディな事になってないぞ? メインウェポンが斧でなおかつ返り血を浴びての肉迫戦をお前が好んでるからそうなってるだけなんじゃないの?

 

 いやまあ今更バトルスタイルを変えろ、とも言えないけどさあ。

 

「それよりも、ほら。やはりトモキの考えは正しかったようだな!」

 

「あ、ああ……」

 

 促されて周囲に目を向ける。

 

 一見すると、霧の立ち込める渓谷のような、緑が少なく岩だらけの風景。周囲は切り立った崖に覆われ、その谷底に迷路のように細い道が広がっている。その頭上には、まるでペンキで塗りたくったような寒々しい青い空が、太陽もないのに明るく広がっている。

 

 間違いない。

 

 最後にレインボー巴の中継生配信に写っていた迷宮階層に間違いない。

 

「よし。周囲を探索するぞ」

 

「うむ。まっていろトモエーン!」

 

 あ、まだその呼び方続けるのね。

 

 

 

 

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