リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第十五話 仙人の谷

 

「さて、と……」

 

 念のため、周囲を見渡す。

 

 レインボー巴が今回生中継配信をしていた迷宮は、迷宮管理番号YF-331-21、その3層。まるで水墨画に描かれた渓流や渓谷のような地形が広がる山岳地帯だ。

 

 周囲を見渡す限りは、ここが目的の場所であった事に違いはない。だが、階層のどの辺か、という事までは分からない。なんせ始めてくる迷宮だ。

 

 何より、探索対象が遭難したのがどこかが分からない。まずはその特定から始めなければ。

 

「ガンドレイク。どれぐらいわかるか?」

 

「一応、車中でフロアについては調べてある。すまほ? だったか? 便利なものがあるのだな」

 

「よし、じゃああとはお前に任せる」

 

 俺は車の運転に集中していたので、マップなんか把握してないしな。そもそも迷宮での活動は、基本的にガンドレイク任せだ。俺はカメラを担いでついていくのがせいぜいである。

 

「うむ、任せておけ! ついでに言えば、トモエーンの映像が途切れたあたりも大体把握しているぞ!」

 

「そいつは助かる。……急ごう、救助ってのは一分一秒を争う」

 

「わかっている。だが焦っては駄目だぞ。一つ一つ確実に、だ。無駄な斧傷、大木を損ねる、だ」

 

 ……どうやら、自分で思っているより俺は焦っているようだ。ガンドレイクに窘められ、額に手を当てて深呼吸。

 

 彼女の言う通りだ。

 

 一刻を争うからこそ、無駄な事に時間を割く訳にはいかない。無駄な事とは失敗だ。

 

 ここは拙速より遅巧が優先される局面だ。身長に行こう。

 

「ああ。冷静にいこう」

 

「よし。ではこちらだ、ついてこい!」

 

 俺が落ち着いたのを見て取ってか、ガンドレイクが颯爽と駆け出す。その後に俺もカメラを担いで続いていく。

 

 万が一、俺達が失敗した時、後に続く連中に情報は必要だからな。

 

 一方、ガンドレイクはここが初めて来た迷宮とは思えない程、躊躇う事無く道をまっすぐかけていく。無謀と紙一重の躊躇の無さだが、彼女なりに確信があるのだろう。

 

 それにしても、さきほどから怪物の類と全く遭遇しない。他所の怪物が紛れ込んできた事は、ここに住まう怪物達にとっても歓迎しかねる事態であったのだろう。

 

 争って負けたか、あるいは争いを避けて潜んでいるのか。どちらにしても、邪魔が入らないのは有難い。

 

「……む!」

 

「こいつは……」

 

 そうこうする内に開けた場所に出る。一度足を止めて周囲を見渡した俺達は、広場に残されている冒険者達の痕跡に息を呑んだ。

 

 四方を切り立った崖に囲まれた、小さな公園ほどの広場。複数の道の接合点になっているらしいこの場所には、多くの冒険者が集まっていたのだろう。

 

 そこを強襲された事によって生じた混乱を、散乱する所持品が物語っている。乾いた地面に転がるカバンや小道具、武器の類。見れば壁際には鮮血の跡もあり、俺は思わずそこから距離を取った。

 

 怪物の姿はない。逃げる冒険者を追って、ここから離れた後だろうか。あるいは……。

 

「気をつけろ、ガンドレイク。まだ怪物が潜んでるかもしれない」

 

「それはそちらもだぞ、トモキ。最悪初撃はそちらでさばいてもらう事になるかもしれん」

 

「やだなあ……」

 

 互いに警戒を促しながら、おっかなびっくり広場に進む。頭上の崖に何か動く影が無いか中止しながら、広場の様子を注意して観察する。

 

「生配信動画では、襲撃する直前にトモエーンがここを通り過ぎていたはずだ。複数の冒険者がたむろしていたからよく覚えている」

 

「よく見てるな……」

 

「何。戦士として、どれほどの強さの者が集まっているのか気になっただけだ」

 

 しかし、それを踏まえて考えると、当時の状況が分かってきた。

 

 横穴から侵入した怪物が奥に進み、それに押し出される形で冒険者や怪物達が通路を遡上。探索中だったレインボー巴はそれに巻き込まれ、状況を理解する前に情報の無い怪物の攻撃を受け、ドローンを損壊した。

 

 となると……。

 

「……こっちか?」

 

 直感の告げるままに、複数ある通路の一つに顔を出す。ちらり、とこちらを見たガンドレイクがやってきて、二人でその先に進む。

 

 どうやらこの先は崖になっているようだ。右側には周辺一帯の風景がよく見える。霧に閉ざされた仙人の秘境、とでもいうべき見晴らしだが、下を見ると一体どこまで続いているのか、全く見通せない。

 

「うへえ、高いな。落ちたらと思うとぞっとする」

 

「だな……私もこの高さは試したくない」

 

「そうだな……ん? あれ、何か崖にひっかかってないか……?」

 

 草が僅かに生える急斜面に、何やら似つかわしくないものが引っかかってるように見える。鞄から双眼鏡を取り出して確認すると、それは……。

 

「……ドローンカメラ? 間違いない。レインボー巴さんの使っていたのと同じモデルだ」

 

「トモエーンの!? トモキ、ちょっと貸してくれ」

 

 奪うように俺から双眼鏡を受け取ったガンドレイクが崖下を覗き込み「本当だ……」と小さく呻く。

 

 俺だけでなく彼女も認めたという事は間違いない。

 

「まさか、彼女この下に落ちたのか?」

 

「…………そうだな。ドローンだけが転がっている、っていうんなら、今頃レインボー巴さんは無事に脱出できている筈だ。その可能性は高い」

 

 顔を見合わせ、二人して崖下、地上を再度見通そうとする。だが崖下にはまるで雲海のように霧が立ち込め、どれぐらいで底につくのかようとして知れない。

 

 試しに手近な石ころを放り投げてみる。

 

 ひゅううん、と霧の向こうに落ちていった石だが、いつまでたってもそれが地面に落ちた音は聞こえてこなかった。

 

 底なしか、あるいは果てしなく高いのか、はてさて……。

 

「どうする?」

 

「ザイルがある。俺が先に下に降りて様子を見るから、ガンドレイクはこのまま上で見張っててくれ」

 

「待て、下に降りるなら私が……」

 

 身を乗り出すガンドレイクを手で静止する。

 

 ここは俺が行くのが安全策だ。

 

「駄目だ。今は見当たらないが、怪物がやってきた時俺じゃ対応できない。俺がやられた後、ザイルを切られたりしたらそれこそ二人纏めてお終いだ。でもお前がここに残れば安全だ、それにあくまで様子見なら俺一人でも出来る」

 

「降りた先に怪物がいたらどうする!?」

 

「そこはほら、悲鳴の一つでも上げて助けを呼ぶからさ。なんとか時間を稼ぐから助けに来てくれ。大丈夫、無理はしない」

 

 ぶっちゃけた話、ガンドレイクなら多少の危機は後から挽回してくれる。避けるべきは、真っ先に彼女がやられる事だ。ここは、カナリア役として俺が向かうのが適切なはず。

 

 俺の屁理屈に、ガンドレイクは明らかに納得していない様子だったが、それでも理屈は認めてくれたのだろう。渋い顔で不承不承、頷いた。

 

「わかった。だが何かあったらすぐ声を上げろよ。声がなくても何かあったとみなしたら飛び込むからな」

 

「いやちゃんとザイル伝って降りて来いよ? フリーバンジーとかやめろよ?」

 

「……わかっている」

 

 分かっているならその沈黙はなんだよ。

 

 どうして先に降りる俺が後から来る奴の事を不安に思わなきゃならないんだ? ちょっとした理不尽を感じながらも、鞄から取り出したザイルを崖に生えてる木の幹に巻き付ける。引っ張って確認するが、俺の体重ぐらいは楽勝で受け止められそうだ。

 

「よし。じゃあ、いってくる」

 

「気をつけろよ……」

 

 心配そうに見送るガンドレイクに親指を立てて答え、俺は慎重に谷底への降下を始めた。

 

 

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