リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第十七話 20まで数えられます

 

「やれやれ。ちょっと目を離すとすぐこれだ」

 

 俺達の窮地にまるで図ったようにかけつけたガンドレイク。彼女は切り倒したゴーレムの残骸を足蹴にしつつ、にかっと笑顔を浮かべてあ。

 

「まあしかし、ここは頑張りを褒めておくのが器の広さと見た。よくこの窮地で踏ん張った、トモキ。あとは任せろ」

 

「ガンドレイク……」

 

 ひらり、とマントを翻して走り出したガンドレイクとすれ違う。歩幅を緩めて振り返ると、迫りくる怪物に向かっていく彼女の背中が見えた。

 

 マントに覆われた細い背中。そこに、かつてと同じ頼り甲斐のある背中を見出して、俺は小さく息を呑んだ。

 

 あの時もそうだった。

 

 雷鳴を迸らせながら咆哮する黄金竜、その猛威を前にして半裸に毛皮を巻いただけという蛮族スタイルのガンドレイクは、しかし不適に笑って立ちふさがった。

 

 嵐の具現としか思えないような存在を阻む男の背中。その存在感を、俺は今も覚えている。映像こそ没収されてしまったが、あの光景を忘れた事は一度足りとてない。

 

 だから言える。

 

「もう大丈夫だ、巴さん」

 

「え……で、でも……」

 

「大丈夫。ガンドレイクが居ればなんとかなるさ」

 

 腕の中の巴さんが不安そうに見上げてくる。

 

 確かに、小さなガンドレイクに対して襲い掛かってくるゴーレムの怪物は何倍も大きくて、傍目には正面から渡り合うなど到底できそうにない。だけど問題ない。

 

 あの程度の相手に、ガンドレイクが後れを取るなど考えられない。

 

 そしてそれが正しいという事を、彼女は数分後には結果として証明してくれたのだった。

 

 

 

 

 

 追ってくる怪物を始末した後、俺達は一旦、比較的原型をとどめている廃墟に身を潜めた。

 

 もとは倉庫か何かだったと思われる石壁に四方を囲まれた中で息をひそめ、ようやく俺は人心地ついた。

 

「ふぅ……ここに隠れていれば、しばらくは安心かな?」

 

「ふむ。まあ、あのまま大通りに居るよりは安全だろう。それよりトモキ、いつまでトモエーンを抱えてるつもりだ?」

 

「え? あ、ご、ごめん。失礼しました」

 

 ガンドレイクに指摘されて、俺はずっと巴さんを抱きかかえたままという事をようやく思い出した。途端に彼女の体温とか肌の感触とかを意識してしまって、慌てて地面に降ろす。

 

「あ、ど、どうも……」

 

「そ、その、他意はなくてね? 軽かったからすっかり忘れてて……」

 

「ああいえ、その。はい。私も言い出さなかったのが悪いので……むしろずっと抱えてもらってて、すいません……」

 

 お互いにぺこぺこ頭を下げる。が、巴さんは視線も合わせずに俯いていたまま。流石にその、特に親しい訳でもない相手に無理やり抱きかかえられたのは嫌だったか……!

 

 さ、流石に、後で訴えられたりはしないよね……?!

 

「え、ええとその、あの状況だと背中に背負う余裕がなかったというか、あくまで人命救助を最優先にした結果でしてね……」

 

「わ、わかっています、はい。その、迷惑かけてすいませんでした……」

 

「お前らさっきからなーにやっとるのだ」

 

 しどろもどろに言葉に迷いながら弁解する俺と、目も合わせてくれない巴さん。そんな俺達を、ガンドレイクが呆れかえったような白けた顔で眺めている。

 

「聞いて居ればさっきからごめんなさい、すいません。ここは素直に感謝と生き残った喜びを示せばよかろう」

 

「そ、そうだね、ザバニャンの言う通り……。あ、ありがとうございました、かすがっ……春日井さん。おかげで、危ない所を助かりました」

 

「い、いえ。こちらも、巴さんが無事でよかった……」

 

 ナイスだガンドレイク。普段から空気を読まない側だけど、時にはそれが正解って事もあるんだな!

 

 助かった!

 

「をほん。それより、これからどうします?」

 

「私としては春日井さん達がどうしてここに居るかの方が気になるけど……それはまた後にしよっか。とにかく、まずはここから脱出しないとね」

 

「うむ。だが一筋縄ではいかんぞ。時にトモエーン、君はこの階層の情報を持っているのか? この迷宮を探索するにあたって、一通りの情報は調べているのだろう?」

 

 最もといえば最もなガンドレイクの質問に、しかし巴さんは首を横に振った。

 

「いいえ、調べられる限りで調べてはきたけど、こんな階層の話は聞いていないわ。誰も知らなかった分帰路なのか、あるいは未踏破といっていい深い階層なのか。どっちにしろ、有益な情報はもっていないの、ごめんなさい」

 

「やっぱそうか……」

 

 明らかに正規の方法でこの階層に入った感じではなかったからな。ゲームの不可思議ダンジョンとかだと落とし穴に落ちると一つ下の階層に移動するのがお約束だが、物理法則とは違うカタチで成立しているのが迷宮だ、落下先が必ず一つ下とは限らない、か。

 

 ただ、ここがどのぐらい深いのか、推察する方法がない訳ではない。

 

 俺が頼れる大戦士に視線を向けると、彼女は深く頷いた。

 

「うむ。私の感覚だと、これまで戦ってきた中ではそこそこ強い方だったな! 横穴よりちょっと強いぐらいか? まあどっちにしろ、私の敵ではないぞ、がはははは」

 

「……ちなみに、それを数字化するとどのぐらい?」

 

 基本的に迷宮は下に降りれば降りるほど怪物が強くなる、というのが定説だ。その増加係数が一定であるのかには疑問の余地があるが、それを踏まえればある程度の深さが割り出せると考えたのだが。

 

「む、むむ? 数字、数字か……どの階層ぐらいの強さか、という事だな。ううむ……?」

 

 尋ねられて首をひねるガンドレイク。数字が分からない……って事はないから、この場合は多分……。

 

「近い比較対象がない感じか?」

 

「そ、そう、そうそれだ! 普通の迷宮は3層までしか潜った事がないからな、それよりは強いんだろうが……こう、具体的に家と言われてもそのだな。決して数字が分からない訳ではないぞ? ほんとだぞ?」

 

「はいはい」

 

 適当に流す俺に「ほんとだからな!?」と食い下がってくるガンドレイクだが、まあ流石にそこを疑ってはいない。正直な話、暗算できて両手の指より多い数字を数えられるってだけで、話から伝わってくるガンドレイクの故郷の教育水準で考えれば上澄みもいいところだしな。

 

 腕っぷし最強の戦士でありながら現地最高のインテリってあたり、本当にハイスペックだよなコイツ。問題は絶対値で見た場合到底現代でやっていけるインテリジェンスじゃない事だが。

 

「とも……レインボー巴さんから見て、どう?」

 

「巴さんでいいですよ。私は今の所、一番深い所までいったのは6層ぐらいまでかな……。一般的な迷宮が大体5~6層ぐらいが最終層だから。でも見た感じ、ここを徘徊している怪物はそれより強いと思うよ。……情けない話だけど、この怪我、落ちた時の怪我じゃないの。あの怪物と戦って、手も足も出ずにやられちゃって……」

 

 そこまで説明して、巴さんは唇を噛んで自分の足を見下ろした。

 

 腕の傷ばかりが目立っていたが見れば左足も結構な有様だ。まるで大根おろしにかけたみたいに脛横がズタズタになっていて、今もじくじくと血を流している。

 

「え、ちょ、酷い傷じゃんか!? 手当しないと……くそ、暗いから気が付かなかったか」

 

 慌てて腰の鞄から緊急セットを取り出して手当にかかる。みれば傷口には大小様々な石がめり込んでいて……これはあれか、ゴーレムの一撃が至近距離で掠めた感じか。避け損ねて脚を怪我して、なんとか無理して離脱したけど途中で動けなくなった、みたいな……間に合ってよかった。

 

「ちょっと痛いけど我慢してね」

 

「はい……っ」

 

 ピンセットでまずは丁寧に石を取る。つづけてアルコールで消毒するのだけど、流石に染みるよなあ。できるだけ傷口に染みないのを選んだけど、ぽたり、と消毒液を垂らした途端、ぎゅうう、と巴さんが手を握りしめる気配。

 

 俺はちょっとためらってから、自分の手を差し出した。

 

「えっと、これ」

 

「え?」

 

「痛かったら、俺の手、握り返して。何分の一ぐらいかは一緒に引き受けるから、頑張って」

 

 きょとん、と見返す巴さんが、何やら困ったようにガンドレイクに振り返る。視線を受けた彼女は、何やら「やれやれ」とでも言いたげに肩を竦めた。

 

「こういう奴なのだ。つきあってやってくれ」

 

「おい、なんだそれ。こういう奴ってどういう奴だ」

 

「トモキはトモキ、という事だ。うむ」

 

 なんだそれ、答えになってないぞ。

 

 声を潜めつつもガンドレイクと言い合っていると、ぷすっ、と不意に巴さんが小さく噴き出した。思わず目を向ける俺とガンドレイクの前で、ふふふふふ、と口元を押さえて小さく笑う。

 

「巴さんまでなんだよもぅー」

 

「ぷふふふ……う、ううん、ごめんね、なんかおかしくって。二人っていつもそうなの?」

 

「質問の意味が分かんないけど……まあ、そうかな。ガンドレイクとはいつもこんな感じ、生意気だろコイツ」

 

 正直コイツ、見た目だけ美少女になった事でかなり得してやがると思うんだよ。やっぱ冒険者って男所帯だから女の子に甘くってさあ。おかげでこのクソ小生意気な言動でも皆笑ってすますんだよ、ずるくない?

 

 実際はムキムキのおっさんなのに。

 

「ふふふ、なんかちょっとうらやましいかも。ありがと、じゃあ有難く手を握らせてもらうね」

 

「……まあいいや。納得したなら」

 

 何が羨ましいのかよくわからないが、巴さんが元気になったらそれでいいや。

 

 俺は彼女のすべすべの手を握り返しつつ、慎重に傷口に消毒液を振りかけた。

 

「…………っ」

 

「みぎぎぃ!? ちょ、ちょ、潰れる!! 指が、指がもげる!?」

 

「あっ、ご、ごめんなさい!!」

 

 忘れてた、これでもこの人上位冒険者だった……。

 

「ふふん、軟弱ものめっ」

 

「うるさいよっ」

 

 

 

◆◆

 

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