リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
あやうく怪我人が増える所だったが、とにかく無事に傷口の手当は終わった。
巴さんの足と腕の怪我の処置をして、包帯をまく。とはいってもこんな環境で出来る事はそうない。消毒して、薬をぬって、ガーゼを当てて包帯を巻くだけだ。それでも、何もしないよりはましなはずである。
「ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。しかし、この様子だと巴さんは戦えないな……」
「迷惑をかけます……」
手当を終えた彼女を、石壁にもたれかけるように座らせる。なんだかんだで傷口の手当そのものがかなりの苦痛を伴った為か、彼女の顔色は悪い。
いや。本当にそれだけだろうか?
「すまんガンドレイク、お前が頼りだ」
「気にするな、頼りにされるのはいつもの事だ。トモキはちゃんとその意味を分かってくれているしな」
「……まあな。無事に戻れたらご馳走にしよう。いつもより奮発してだな」
俺の提案に「本当か!?」と目を輝かせるガンドレイク。げんきんな上に安上がりな奴め。
「まあその為には無事にここを脱出しないといけないんだが……それが問題だな。一番いいのは、ここに落ちてきた時の通路が使えればいいんだが……」
「トモキ、トモキ。さしもの私も空は飛べんぞ?」
「わかってるって。言ってみただけだ」
そもそもあの通路は一方通行の可能性が高い。落ちてきた時より高い位置に手を伸ばしても、何の変化もなかったからな。
「何かガンドレイクから提案はあるか?」
「あるぞ。無駄に動き回らず、この場に潜んでトモエーンの傷が癒えるのを待つというのはどうだ? 怪我人を連れての行動が一番危険性が高い、万全を期すなら回復してからだ」
「まあそれも悪くないが……」
実際、迷宮内で遭難した冒険者が、内部で何か月も生き延びて脱出した、あるいは救助された、という話がない訳ではない。
普通なら治癒に何週間もかかる傷も、いわゆる迷宮補正を受けている冒険者で、かつ冒険者用の薬を使っているなら恐らく数日もあれば動ける程度にふさがる筈だ。嘘か真か、迷宮内では傷の治りそのものが早いなんて話もある。
カバンの中には数日分の食糧もある。しばらく身をひそめる事そのものは問題ないが……。
「…………」
「はあ……はぁ……」
正直、見る限りでは巴さんの具合はあまりよろしくない。
恐らく、出血が多かったのだ。暗いせいでよく見えなかったが、彼女を見つけた時も足元に点々と血の跡が続いていたような気がする。
傷口が迷宮の不可思議パワーで早くふさがったとしても、血はそうはいかないだろう。それに所詮は付け焼刃の手当だ、傷が原因の感染症などを発症したら命にかかわる。
やはり一刻も早く病院に連れて行かないと危険だ。
とはいえ、それを巴さんの目の前で言う訳にもな。俺はちょっと考えて、違う事を口にした。
「……いや、この階層の危険度が高い以上、あまり長期間滞在したくはない」
言いながら、目でガンドレイクに訴えかける。伝われ、伝われ、俺のアイコンタクト!
「そうか? ……ふむ。まあトモキが言うなら、そうだろうな」
最初は不思議そうにしていたものの、意図は無事に伝わったのだろう。言い分を翻しバチン、とウィンクを返してくれるガンドレイク。よし、通じた。やはり持つべきものは以心伝心の相棒だな!
さて。これで脱出方向に方針が定まった訳だが……。
そうなると、やはり探すべきは正規の出入口だ。
「隔離区域は迷宮の外周部にあるはずだから、とにかく一度大通りに出て端までいってみるか? ガンドレイクならここの怪物は倒せるし、ここは時間をかけて慎重にいくより大胆にいくべきだと思うんだが」
「うむ。私は異論はないが……」
「いえ、それはやめた方がいいと思う」
異論をはさんできたのは、人気配信者であると同時に熟練冒険者でもある巴さんだった。
「競合区画の外周が隔離区域なのは、比較的浅い階層までなの……。多分、崩壊した建物のどれかが、出入口になってる……」
「む。それはよく知らなかったな、教えてくれてありがとう」
「いいえ……」
それきり、黙りこくってしまう巴さん。……緊急事態である事を差し引いても、口数が少なすぎる。
どうする? 総当たりしている余裕はなさそうだぞ?
「……ガンドレイク。ここはお前に任せる」
「うむ?」
「下手な鉄砲数うちゃ当たる、とはいうが。ここには俺の知る限り最も鉄砲を撃つのがうまい奴がいる。お前の直感に任せよう」
そう。巴さんも優れた冒険者だが、生き死にをかけた戦いの場においてはコイツ以上のベテランは居ない。
かつての黄金竜との闘いにおいても、逃げ場なんて無いような制圧攻撃の中を当然のようにかいくぐっていた。その理由を後に聞いたらコイツはなんていったと思う?
「勘だ!」と来たもんだ。
直感だって馬鹿にできたもんではない。あてずっぽうだって、その人間がこれまで経験してきた事が無意識化で根拠になっての判断だ。大戦士として、現代の人間からは想像もつかないような修羅場を潜り抜けてきたガンドレイクの勘は、下手な統計よりもよほど正鵠を得ているはず。
それに今はかけるしかない。
「……ふむ。何やら大きな期待を寄せられているようだが……ふふ、いいだろう! その期待に応えずして、なーにが大戦士か! 20人、いや100人乗りの長船だと思って任せてもらおう!」
「よし、流石ガンドレイク! 頼むぞ!」
「むふふふ、任された!!」
よし。これで行動指針は定まった。
上機嫌で柔軟体操を始めるガンドレイクを他所に、俺は座り込んでいる巴さんに声をかける。
「そういう事だけど、いいかな? 何か不安とかはある?」
「……ん……いいよ、気にしない……。春日井さんに、任せる……」
「そうか。わかった。よし、じゃあ早速出発しよう。背中、乗れる?」
「うん……」
どうやら巴さんの具合が思った以上によくない。視線は虚ろだし、返事にも元気がない。しゃがみ込んで背中を向けるも、彼女の動きはのたのたしていて精細を欠いている。
「失礼、しま……す」
「うん。じゃあちょっと膝をもつよ。せーのっ」
脚を抱えて立ち上がると、背中に覆いかぶさってきた彼女が首に両手を回してくる。首筋に感じる彼女の体温はぞっとするほど低かった。……やはり明らかに血が足りてない。
「よっこいしょ、っと。うん、軽い軽い。巴さんはどう? 何か納まりが悪いとかある?」
「ん……大丈夫、です……」
「そっか。じゃあちょっとの間、我慢してね」
ガンドレイクに目くばせすると、彼女も柔軟体操をやめて真面目な顔で頷いた。
「よし。善は急げだ、早速出発しよう。なあに、このガンドレイク様に任せておけ、トモエーン。すぐに地上まで連れて帰ってやるとも」
「そういう事だから、何も心配する必要はないよ。って、何の役にも立たない俺がいっても逆に不安かな?」
「……ん。たよりに……させてもらう、ね。春日井さん、ザバニャンさん……」
「おうともさ!」
しっかり彼女を背中に背負い、臨時キャンプを出発する。
やれやれ。
いつも担いでるカメラが比較にならない程、重たい荷物を背負っちまったなあ。
まあ……なんとかなるか! 何とかするでしょ、ガンドレイクの奴が!
「いくぞ、ガンドレイク」
「うむ。任せておけ。大丈夫だトモキ、お前なら心配いらない」
「おいおい、気休めはよせって。まあ、今回ばかりは額面通り受け取っておくよ」
さあて。
高難度ミッションの始まりだ。