リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第二十一話 脱出のちお縄

 

「い、いつつつつ……」

 

 地面に転がった際に擦った顎を撫でまわしながら、よろよろと身を起こす。

 

 擦りむいた顎が痛い。広い面積の肌をざりっとやったからなあ……地味に治り辛いんだよねあれ……。

 

 涙目で顔を押さえていると、たたたた、と軽い足音が背後から走り寄ってくる。

 

 反射的に振り返った俺は、銀色の残像にどてっぱらに突撃されて肺の空気を全部吐き出す事になった。

 

「ぐべっ!?」

 

「トモキッ、大丈夫か!? ケガしてないか!?」

 

「え、えっと。怪我なら顔をちょっと……」

 

「本当だ!! 手当しないと!!」

 

 言うが早いか鞄をあさって、俺の顔に消毒液をぶっかけ始めるガンドレイク。飛び散る水飛沫に怯みながら、俺は怪物の姿を探して視線を巡らせた。

 

「わぷぷぷ、大丈夫だって。それより奴は、怪物はどうした?」

 

「ん? あの卑怯者なら、ほれ。あの通り」

 

 ガンドレイクが指さす先、地面に転がる肉塊があった。

 

 文字通りの肉塊としか言いようがない。あまりに変形しすぎて、最初、何がどうなっているのかわからなかったほどだ。多分、頭の上から刃を返した斧をぶち込まれて、そのまま胴体半ばまでめり込んだのだろうか? まるで泥人形を踏みつぶしたような有様である。どれだけの馬鹿力を加えたらそうなるのか、ちょっと想像もつかない。なんせ切断ではなく叩き潰しているのであるからして。

 

 大戦士の逆鱗に触れた愚者の末路である。

 

 ガンドレイクはいたくご立腹の様子だ。

 

「まさか、戦士としての最後の情けにあのような卑怯な真似で返すとは、所詮ケダモノはケダモノという事か!! 全くふざけおって! ……だが済まぬ、私の失態だ。トモキ、よくぞ無事で」

 

「ま、まあ、ガンドレイクに戦わせて、後ろで見ているだけの奴がちょっと危ない目にあっただけだ、そう気にするな」

 

「私は気にするのだ!!」

 

 ぷんすか怒るガンドレイク。

 

 なんていうか、前から思ってたけどコイツ俺の事を雑に扱うようで過保護だよな。現代人が耐えられないような過酷な環境を連れまわしてへばってるのはゲラゲラ笑ってるんだけど、怪物に殺されかけるととブチ切れながら助けに来るし、よーわからん。

 

 やっぱなんていうかそもそもの価値観が違うんだろう。まあその上で、やっぱり大事にされているとは思う訳だが。

 

 いやでも現代社会では俺の方が面倒みさせられてるしな……あんま有難くは思わんぞ……。

 

「ん……」

 

「おっと。それより、ボスっぽい奴は倒したんだよな。どうなった?」

 

 巴さんの呻きに我に返る。

 

 ボスを倒したら行き来できるみたいな話はあくまで伝聞に聞いただけだ、実際に目の当たりにした事はない。

 

 果たして、一体何が起きるのか……。

 

 背中の巴さんを抱えなおして立ち上がり、周囲を見渡す。

 

 一見すると何も起きていないように見える。どうみてもボスは絶命しているから、これでクリアのはずだが……。

 

 ここがボスフロアではない? あるいは、闘技場というだけあって他にも倒す相手がいる? あるいは、前提が間違っていた?

 

 想定と違う展開に不安が心に過ぎる。

 

 と、ついつい、と誰かが俺の袖を引っ張った。

 

 ガンドレイク。

 

「トモキ、観客席を見ろ」

 

「え?」

 

 言われて顔を上げる。

 

 高い壁の上に広がる観客席、そこでは骸骨の観客達が、俺達の死闘を文字通り高みの見物としゃれこんでいたはずだ。声帯も何もない骸骨たちは、歓声も何もなく、ただそこに座っているだけ……が、言われて気が付く。

 

「観客が……席を立って……」

 

「ふむ、どうやら私達の戦いはまあまあお気に召した様だ」

 

 ずらりと壁の上に並ぶ、直立する骸骨達。彼らは一斉に両手を打ち合わせて、万雷の拍手を俺達に送りはじめた。まあ、骨の腕では、カタカタと軽いものを打ち鳴らす音しかしなかったのだが。

 

 そうこうする内に打ち合わせる両手が砕け、腕が落ち、脚が崩れ、バラバラに飛び散る白骨死体。ガラガラと観客席に堆く骨の山が築かれ、いくつか転がった骨が壁からコロシアム内に落ちた。

 

 100は居たであろう観客が全て骨に還り、それをまっていたかのようにコロシアムの中心に、奇妙な現象が生じる。

 

 ぐにゃり、と歪む景色。それはかき混ぜたマーブル模様のように捻じれて、やがて黒紫に輝く球体へと変ずる。現実ではありえない、質量をもたない光の球としか言いようがない物体を前に、俺は言葉が出てこない。

 

「…………これが?」

 

「うむ、そのようだな。触れればいいのか?」

 

「ちょま、ガンドレイク、迂闊に……」

 

 止める暇もなかった。

 

 前に出たガンドレイクがひょい、と手を伸ばして触れた途端、光球が弾けるように膨れ上がる。それは瞬く間に俺と巴さんをも飲み込み、さらに広がっていった。

 

 視界が、光に埋め尽くされて……。

 

「おぅ」

 

「うぇ?」

 

 気が付けば俺達は、見知らぬ場所に佇んでいた。

 

 どこかの山の真っただ中。足元は湿った土と苔、周囲には風にそよぐ枝。

 

 上を見上げると、どこまでも抜けるような青空に、太陽が燦燦と輝いているのが見て取れた。

 

 ……太陽?

 

「あれ、ここってもしかして……地上?」

 

「こらー!! お前達、ここで何してるんだ!」

 

「ひいっ!?」

 

 突然背後から怒鳴りつけられて竦み上がる。振り返ると、肩に迷宮管理課の憲章を巻いたおじさんが警棒片手にこちらにやってきている所だった。

 

「ここは今封鎖中だぞ、どこから入ってきた?! ……ん? その背負っているのは……」

 

「! そ、それよりも急患が一人います! 出血が多いみたいで、意識が朦朧としています! 早く病院に!」

 

「なんだってえ!? よし、わかった!」

 

 急患、と聞いておじさんの顔色が変わる。

 

 こっちに来てくれー、と向こうに呼びかける彼と、それに応える複数の返事に、ようやく俺は地上に戻って来た実感がわいてきたのだった。

 

 それはともかく。

 

 多分、めんどくさい事になるだろうなあ……。

 

 

 

◆◆

 

 

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