リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
とりあえず、コラボ配信については相棒と要相談という事で見送らせて頂いた。
確かに美味しい案件ではあるが、そもそも迷宮探索はガンドレイク便りの俺に、一人で決められる話ではない。
というか話が飛躍しすぎだ。いきなりそんな大きな案件が転がってきても警戒心の方が先に来る。
それはあちらも納得して頂けたので、本日は簡単な事情聴取を終えれば家に帰れる事になった。
一足に解放されて、俺はガンドレイクの元に向かった。
「トーモキー!!」
「ぐわっ!?」
そして数日ぶりに再開するなりこの有様である。
顔を合わせるなり跳躍してきたガンドレイク、彼女は硬直する俺の顔面に飛びつくとそのままよじよじと背中に張り付いた。
なんだこれ、オンブバッタか?
流れに付き合ってよいしょ、と背負い直すと、耳元からご機嫌そうなガンドレイクの鼻息が聞こえてきた。
「ふんす!」
「はいはい。満足したら降りてね」
「ああっもう少し……」
なんなんだよこれ。
困り果てて係員さんに目を向けると、ガンドレイクの対応をしていた女性は口元をひきつらせて苦笑いだ。
「どうもうちのガンドレイクが迷惑をおかけしました。なんかやらかしませんでしたか、コイツ?」
「い、いえ。とてもおとなしかったですよ?」
「ええ、本当です? 要らない気は使わないでいいですよ」
大人しく独房に閉じ込められているガンドレイクとか想像も出来ないぞ。正直俺としては壁を突き破って脱走しなかったのが不思議なくらいだ。
一応、ルールに従う程度の順法精神はあるようだが、それは納得が前提だ。今回の案件、人助けをしたのに一方的に言い分も聞かずに独房にぶち込まれたのは、コイツの蛮族社会精神的には大分アウトよりのグレーだったと思うが。
「いいえ、本当に大丈夫でしたよ。まあちょっとお喋りでしたけど……」
「おい。お前係員さんに何を吹き込んだ??」
「なあに、現代社会に復活したサーガをちょっとばかしな……ってひふぁいひふぁい」
やっぱりなんかやってたんじゃねえか!
振り返って肩越しにガンドレイクの頬を引っ張る。が、もちもちぷにぷにした弾力のあるほっぺは掴みづらい、すぐさま指から逃れた奴の顔を追って攻防戦が始まる。
が、流石に背中に張り付かれたままだとどうしようもない。結局その場で無駄にぐるぐると回るだけに終わり、疲れた俺は動きを止めた。なお、もう抱えてないのにガンドレイクはセミみたいに背中に張り付いたままだ。いい加減降りろっての。
「わかったわかった、俺の負けだ。ほっぺつままないから降りろ」
「いーだ」
「ええいこの調子にのりやがって……」
何が、いーだ、だ。お前中身はムキムキのおっさんだろうが、可愛くもなんともないわ。人の目と社会的倫理観に従ってほっぺなんぞで済ましたのが悪かったか。
そこまで考えて、俺は係員さんが生暖かい視線でこちらを見つめている事にようやく気が付いた。
急に気恥しくなって佇まいを直す。
「あ、いえ。その……お恥ずかしい所を……」
「いえいえ。本当に仲がよろしいんですね、ふふ」
「ああいや、別にそういう関係では……」
まずい。何かよくない勘違いをされている気がする。
見た目10代半ばから後半の美少女とそういう仲だと勘違いされたら一巻の終わりである。ま、まあ、仮にも公務員である係員さんが微笑ましい感じで見てくれているから、兄と妹みたいな認識なのかもしれないがそれはそれで別の意味で不味い。
どっちにしろ俺から見たガンドレイクはムキムキマッチョメンのおっさんで、ガタイの割にいたずら小僧みたいな精神をもっためんどくさい悪友のようなものなのである。
かといってそれを訴えても理解してもらえるとは思えんしな……。
苦々しい顔で振り返ると、背中に張り付いたままのガンドレイクのドヤ顔が目に入って俺はますます暗澹たる気分になった。
「……まあいいや。コイツの荷物とかは?」
「おっと、そうでした。冒険者用の武器や防具は返却に手続きが居るので、こちらに」
「うぃっす」
その後、何十枚もの書類にサインと捺印をして、本当の意味で開放される俺なのであった。
なおその間、ガンドレイクは係員のお姉さんとお喋りしたりあやとりを教えてもらったり楽しそうだった。傍目から見ると同性の微笑ましい戯れだが、実際はおっさんが美少女ガワを被って何も知らない女の人と遊んでた訳で大分事案だと思うんだよ。これも訴えても俺が狂人扱いされるだけなんだろうけどさああ。ぐぬぬぬ。
女神さんよ、せめてカメラの前でガンドレイクの奴を性転換する事はできなかったんですかねえ??
そんなこんなで自由の身になった俺達だが、まだやらなければならない事が残っている。
レインボー巴さんの見舞いである。
俺達は車で2時間ほどかけて、彼女が入院している県立病院にやってきた。
事前に役所を通して手配済みなので、受付でのやり取りもスムーズ。関係者以外面会禁止、の張り紙を尻目に、堂々と関係者として彼女の病室を訪問する。
「巴さん、調子はどうですか?」
「来たぞトモエーン!」
コンコン、とノックすると「どうぞ」の声。
静かにドアを開けると、優しく甘い花の香りがした。
「いらっしゃい、春日井さん、ザバニャン。お見舞いありがと」
白くて広い個室にはベッドと机が一つずつ。そしてベッドの上には巴さんの姿があった。点滴が何本も刺さっている痛ましい姿ではあるが、私服を着ているあたり大事ないというのは間違いないようだ。
「どうも。お元気そうで何よりです」
「えへへ、あの時はどうも。おかげさまで、この通りピンピンしてます」
すっぴんの巴さんが、年頃の女性らしく華やかに笑う。キメキメの化粧も似合っているが、素顔でも十分すぎるほど美人である。いやあ眼福眼福。
途端、太ももに奔る激痛。
「って、いてててて。なんだよガンドレイク」
見下ろすと、背後に控えている銀髪の少女が俺のももを強く抓っていた。なんで。
「ふんっ。……まあいい、トモエーンも元気そうで何よりだ」
「ザバニャンもありがとねー、おかげで助かっちゃった」
「何、私はトモキに付き合っただけだ。それよりもその様子ならすぐにでも復帰できそうだな!」
一瞬見せた不機嫌そうな表情はどこへやら、かつてからの友人どころか姉妹のように巴さんと話すガンドレイクに、俺は不可解なあまりに眉をひそめた。
ま、奴が激流の流れのように理不尽で強引なのは男だった頃からの話か。
二人がしゃべっている間に、机の上に見舞いの御菓子を置いておく。机には他にも見舞いの品が数点と、花瓶に生けた綺麗な花。さっきの匂いはこの花かな。
意外とお土産はすくな……い訳でもないな。この病院に入院しているのは公開していないだろうし、彼女がどうなったかはネットでは今だ不明だ。となると直接の顔見知り、家族や友人からだろうか。
プライベートも充実してるようで何より。ちょっとうらやましいな。
「退院はいつ頃?」
「本当は直ぐにでもできるんだけどねー。迷宮内で深い傷を負った件で、感染症を警戒してしばらくは抗生物質投与しながら様子見だって。体がなまっちゃうよー」
「ははは。まだ若いんですからすぐに持ち直せますよ。俺みたいなおじさんがそうなると結構大変そうですけど。入院生活で太ったり痩せたりもしてないようですし、その年頃から節制を心掛けているのは立派です。天は二物を与えずというのは嘘ですなありゃ、ふふふ」
ほんとね。
普段から一応体を絞ってはいるけど一日休むと取り戻すのに数日必要そうだ。やっぱ若いっていいな。
そう考えての特に裏も何もない発言だったが、返って来たのはじとりとした視線だった。
え、なんで。
「……ねえ、ザバニャン。春日井さんいつもこの調子なの?」
「うむ! ちなみに含む意味合いとかは基本的にないぞ!! 犬猫と同じぐらい素直なのがトモキの美点だ!!」
「そ、そう……」
おうこらガンドレイクそれはどういう意味だ? 人が獣なみに単純だといいたいのか?
「? 美点だと思うが?」
「はいはい、お前はそういう奴だったな……。あと巴さん、正直なのはともかく馬鹿正直なのは社会に出てから苦労するから、真似しちゃ駄目だよ。売れっ子配信者からすれば要らぬお世話だと思うけど」
なんせ本音と建て前を使い分けての配信者だからな。ましてや化粧の上手な美女ともあれば、普段から自分を偽っているようなものだし。
……いやマジで釈迦に説法だな。口が滑った恥ずかしい。
が、幸いにも巴あんは不愉快には思わなかったようで、俺のしょーもないお説教に何やらニコニコと上機嫌の様子だった。
「ふふ、はい、覚えておきます!」
「……??」
「むう……」
そして今度はガンドレイクが不機嫌になった。
なんだコレ。
「をほん。それよりまあ、なんていうかお互いに災難だったな。配信の方は今後どうするんだ?」
「それはもう続けますよ。とにかく今は一日でも早く退院して配信を再開したいですね。一応、SNSを通して無事は伝えていますけど、皆さん心配してくださいましたので」
「そっか。頑張ってね」
あんな目にあったにもかかわらず、巴さんは以前にもましてやる気満々、といった感じだ。いいね、エネルギーに満ち満ちていて。
俺達の方も配信は続けるつもりだけど……まあ問題は山積みなんだよなあ……。
「その……それより、春日井さん達のほうは大丈夫なんですか? カメラとか、置いてきちゃいましたよね……?」
「あー、んー、まあ。もしかすると戻ってくるかもしれないし……」
そう。家財道具ともいえる撮影機材とか一部荷物は、巴さんを連れ帰るのと引き換えに迷宮の中においてきてしまった。これからすぐに取りにいくつもりだが、果たして迷宮の中でいつまでそれらが無事でいられるか……。なんか怪物どもに壊されてそうで心配である。
まあ、人命には代えられないから仕方ない仕方ない。
「その、本当にすいません。私のせいで……」
「全くだ! トモキの懐の深さに感謝してむげぶっ!? ちょ、トモキ、何をするのだ!? 上から押さえるな……ぷぎゅるぅ!?」
はいはい、オチビはちょっと静かにしててね。
「病院は静かに。な?」
「むぐぅ……」
「ま、確かにカメラは惜しいけど、それも含めて自己責任でやった事だ。ま、気にしないでくれ。それより、復帰後の動画配信、楽しみにしてるよ。……ほれ、いくぞガンドレイク。病人の部屋に長居するもんじゃない」
とりあえず話すべき事は話した。
もともと、たまたま一時一緒にいただけの関係。長々とお邪魔する者でもない。
「それじゃ、俺達はこれで。お大事に~」
「むぅ……まあいいか。さらばだ、トモエーン。其方の名前、忘れぬぞ」
「えっと、じゃあ、お疲れ様でした。春日井さん、ザバニャン!」
別れを告げて、病室を後にする。
人気動画配信者と、平々凡々な底辺配信者。そもそも、同じ空間に共に居たのが何かの手違いなのである。人には人の相応しい場所というものがあって、きっとそれはもう交じる事はない。
寂しいが、それが人の世というものである。
袖すり合うも多生の縁、なんていうが、そんなもので運命が変わったりはしないものだ。
まあ、奇縁もまた縁。
そう簡単に切れるような運命の糸ではなかったのだが、この時の俺は知る由もなかった。
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