リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
カーン、カーン。
遠くから鐘の音が聞こえてくる。
俺は明るいチャペルの下で、着なれない燕尾服に袖を通し、多くの人々に祝福されていた。
「おめでとうー!」
「お幸せに―」
顔も見えないギャラリーからは祝いの言葉。現実での知り合いよりも人数が多いが、それは全く気にはならない。
そしてバージンロードを歩いてくる新婦の姿。どこかで見た事のあるような美女に手を繋がれて歩いてくる白いウェディングドレス姿の新婦は、なんかやたらと身長が高かった。
具体的にいうと2mぐらいある。あとなんだかやたらとガタイが良い。肩幅とか俺の倍ぐらいある。
「それでは、誓いの口づけを……」
新婦がやたらと肯定を端折って儀式を進めている。
捲られる新婦の白いヴェール。その下から出てきたのは灰色の髪に青い瞳、東洋人離れした彫りの深い白い顔。
ガンドレイク・ザバーニャス。
「んー、トモキ……」
がっちりと逞しい両腕が、俺の肩を抑え込んで身動きを封じ。突き出された唇が近づいてきて……。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
そうして俺は自分の絶叫で夢から覚めた。
ベッドから飛び起きてぜぃぜいと息を貪る。まだちょっと涼しさが残る初夏の夜、ひんやりとした空気が美味しかった。
「ひぃ、ふぅ、ひぃ……ひぃ……。な、なんつー夢を……」
バクバクする心臓を胸の上から押さえる。
最近見てなかったから油断した。しかし、なんで今更あんな夢を……。
「……ん?」
と、そこで違和感。
なんか布団の中が暖かいというか熱い。そろそろ仕舞おうかと思ってる布団を捲ると、その下に暗闇でも見て取れる綺麗な銀髪がのぞいていた。
「……………」
「んぅ……むにゃむにゃむにゃ……」
頭を抱えて額を揉み解す。
とりあえず寝起きの運動は危ないので、肩をぐるぐる回してストレッチ。
そしたら……。
「……そりゃーー!!!」
「んにゃわーーー!?」
投 擲 。
布団から引きずり出したガンドレイクの小柄な体を、ベッド横の敷布団にシュゥー! エキサイティン!!
寝ている所を振り回されたガンドレイクは受け身も取れず、布団の上に頭から落ちて猫みたいな悲鳴を上げた。
んでもってじたばた。ようやく状況を理解したのか、がばっ、とくしゃくしゃ頭が布団から顔を上げた。
「な、何するだぁー!? いくらトモキでもゆるさ……」
「許さんのはこっちだあ!! 寝ている人のベッドに入ってくんなっつっただろうがボケ!! 暑いんじゃ!!」
「お、おぅ……」
逆ギレには逆ギレあるのみ。
おかげでロクでもない夢を見る羽目になった俺の不機嫌ゲージはマックスである。
「あー、もしかして、またかやってしまったか? ま、まあ、善いではないか、善いではないか。大体、若くてつるつるお肌の女子が寝床に潜り込んでくるなどご褒美だろう? そう目くじらを立てる事でも……」
「お前の中身は雄だろうが! 雄!!! 俺、ノーマル! 性癖、普通!!」
「あっはははは、そう細かい事は気にするでない」
こ、コイツ、悪びれもせずに開き直ってきやがった……?!
「ええいそういうつもりならこっちにも考えがあるぞ!」
「え、ちょ、何をするつもりだトモキ!?」
ガンドレイクを布団ごと抱きかかえて、部屋から出る。リビングのソファをちょっと足で押しのけて、出来た隙間に抱えた布団を落とす。むぎゅ、と潰れた声がするのに構わず俺は引き返すと、ばあんと自室のドアを閉めて鍵をかけた。
「そういうつもりならこの部屋で一緒に寝るのはもう無し!! 今夜から別々な!!」
「ちょ、ま、トモキ!? こっちの部屋のエアコンとやらは電源を切っているのではなかったか!?」
ああ、その通りだ。このご時世節電しなきゃならないからな。動くのはこっちの自室のエアコンだけだ。
「だからどうした」
「き、聞いた話では日本の夏は魔女の窯よりも暑い地獄だというではないか! エアコンとやらで気温を下げるから人間が生きている環境であって、そうでなければ死ぬかもしれないといったのはトモキではないか!? こ、これから暑くなって、私がしおしおのカピカピになってしまっても構わないのか?!」
いや、全然。お前はその程度では死なんだろ。
「無茶言うな、脱水症状は戦士でも死ぬぞ!?」
「ええい、喧しい! 反省するまでお前はそっちで寝てろ!!」
ドンドンドン、とドアをノックする音が聞こえてくるが無視だ無視。
ベッドの上に丸まって、睡眠の続きといこう。寝不足はお肌どころか健康の大敵だ。寝ている間に人間は脳みそをリフレッシュするからな、睡眠不足は脳細胞のダメージが回復しないし判断も鈍るしとにかくいい事は何もない。
ドンドンするのを無視して目を閉じる。
流石に深夜ともあって、瞼を閉じると忽ち意識は睡魔に呑まれていった。
そして翌日。
「うーん、さっぱりさわやか……」
カーテンを開くと、差し込んでくる日差し。最近は朝も明るくなるのが早くなってきた。
眩しい陽射しに目を細めつつ、自室を出る。
と。
「うわっ」
「…………」
ドアの前に、丸まった布団の塊。妖怪布団お化けの小隊は、目に隈の浮いた銀髪少女だ。恨めし気に見上げてくる視線に、やれやれ、と俺は頬をかいた。
中身は成人男性のはずなんだが……どうやらあの美少女ボディは夜更かしが苦手らしい。健康的でいい事だ。
「おはよ。少しは頭は冷えたか?」
「…………(ぷぃ)」
「子供みたいにいじけるなよ……」
移動の邪魔をするように転がっている布団の塊を踏まないようにまたいで、俺は洗面所に向かった。顔を軽く洗って、台所に。
「朝ごはんにするぞ。たまにはパンだけでなく目玉焼きでも作るか。何個食べる?」
「…………ひとつでいい」
「ほいほい」
しぶしぶ返って来た返事に苦笑して、俺は冷蔵庫から卵を三つだした。半熟とろとろ目玉焼きを二つ用意してやれば、まあ機嫌も少しは直るだろう。
熱の入ったフライパンの上に卵を落とすと、ジュウゥウ、と良い音が立つ。それを聞いて、そっぽを向いた銀髪の頭が、ぴくと反応するのが見て取れた。
全く。世話の焼ける奴である。
「ちょっとまってろ、とろとろにしあげてやるからな」
「…………(ちらっちらっ)」
良い感じに裏面が焼けたら、ちょっと水を注いで蓋をして蒸し焼きだ。
その間に薬缶を火にかけ、トーストをオーブンに。慌ただしく準備を進めて戻ってくると、フライパンの中で目玉焼きの黄身には白い膜がはっていた。
頃合いを見て火を切り、塩を振る。それを皿に移して、ケチャップをひと絞り。
沸いたお湯でカフェオレを入れて目玉焼きと共にテーブルに向かうと、すっかり機嫌を直した様子でガンドレイクが席についていた。
「ほれ。お前の分」
「……目玉が二つあるが」
「目ん玉は二つあるものだろう?」
笑い掛けると、ガンドレイクはちょっと気まずそうな顔。やれやれ、豪胆かと思ったら妙な所を気にするんだから。
「昨日の事は悪いとは言わんぞ、お前が悪いのは事実だからな。でも、今後気をつけるなら追い出したりしないさ。ただマジでちゃんと反省してくれよ」
「む、むぅ……わかった。私も悪かった……」
「よし、これで仲直りだ」
さあ。
今日は一日、どう過ごそうかね。
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