リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第二十五話 青天の霹靂

 

 

 

 

 

「うーん。どれにしようかな……」

 

 その日、俺はガンドレイクを留守番で家に留め、一人家電量販店を訪れていた。

 

 理由は勿論、カメラの更新である。

 

「やっぱどれも高いなあ。まあ、部品とか材料とかの都合もあるんだろうけど。はあ、まさか取りに行く事も出来ないとはなあ……」

 

 ずらりと並ぶ値札の桁に肩を落としつつ、俺は財布の中身と相談する。なかなか厳しい。

 

 迷宮内で落としたカメラ。巴さんの命が掛かっていたとはいえ、あれは立派な家財道具である。当然、束縛から解放された俺達はその足で迷宮に向かい回収を試みた。

 

 が、残念ながら許可が下りなかったのである。

 

 理論上、俺達はボスを倒したから直接あのフロアを基点にして移動できる。だからそこから一階、上に上がればそれだけでカメラが回収できるのだが、それまでの道中をすっ飛ばしているというのが問題になった。

 

 普通、言うまでもないが迷宮は上から一つずつ降りていくものだ。巴さんも崖に隠されていたショートカットで過程をすっ飛ばしてあの階層までいったとはいえ、それまでは自分の足で歩いて行った。

 

 だが俺達は、ホームの迷宮にある横穴を通して、迷宮の入口すら潜らずにあの場所に行ってしまった。それが今更になって問題になったのである。

 

 もしここで特例として俺達の迷宮をまたいだ移動を認めてしまうと、それが前例になって今後、似たような横穴が発見された時冒険者達がそれを報告せず私物化する可能性が出てくる。何故なら基本的に迷宮は下に降りれば降りるほど貴重な資源が手に入る。一攫千金を狙うリスク管理能力が低い冒険者がもし、この話を知った上で不審な横穴を新たに発見した場合、迂闊な行動に出る危険性が非常に高い。

 

 故に、迷宮内の通路を介して別の迷宮への直接移動という前例は無かった、そういう事にする高度に政治的な判断が働いたのだ。

 

 ちなみに当然ながら、例の横穴自体も今度こそちゃんと管理され、今は監視員まで置かれて厳重警戒である。こっそり同じことをするというのも当然できないのである。

 

 まあ、仕方ないといえば仕方ない。一部の人間の独断とはいえ、一応封鎖されていた区画を勝手に使用した件も追及されれば最悪、両手に縄、という事も考えられた。

 

 言ってみればこれは正当な取引だ。お互いに、面倒な事は無かった事にしましょう、と。

 

 多大に恩情的な処置である事は言うまでもない。ただまあ、それでもやっぱりカメラの喪失は大きかった。ぐすん。

 

「少しでも安い奴……ああでもあんまり画素が低い奴もよくないよな。でもなあ、カメラのレンタル料も払いきれてないし……やっぱり安い奴にしときたいなあ……」

 

 せっかくだからカメラの事も経費で落としてくれればよかったのに。

 

 筋違いとは分かっていながらもお役所仕事への怨嗟を高めていたその時である。

 

「あ、あれ。春日井さん?」

 

「ん?」

 

 不意に自分の名前を呼ばれて顔を上げる。

 

 聞き覚えのない声だったが……しかし珍しい苗字だしな。そうそう間違って呼ばれる事はない。

 

 きょろきょろと周囲を見渡す。もう一度呼ぶ声がした。

 

「やっぱり、春日井さんだ!」

 

 そういって歩いてくるのは、茶髪の少女。はて、どこかでお会いしただろうか。

 

「えっと、どなた?」

 

「あっ。す、すいません。私の事なんか覚えてないですよね……ごめんなさい……」

 

「あっ、えっ、い、いや、単に俺の覚えが悪いだけだからさっ」

 

 実際人の顔と名前を覚えるのは苦手である。

 

 いやしかしそれでも本当に覚えがない……いや、まてよ? 言われてみれば確かにどこかで出会ったような。えーと、確か、焚火と森と……女装少年!!

 

「思い出した。鷲山君のパーティーに居た、もしかして?」

 

「! は、はい、獅子川蘭、と申します。先日は失礼しました!」

 

 ぺこり、と頭を下げる獅子川ちゃん。その様子からは、先日俺の事をあしざまに罵った様子は到底繋がらない。いや、別に罵られた訳ではなかったか。ごく一般論というか。

 

 なんだろう。どういう心境の変化だ?

 

 てっきり毛虫のように嫌われているものだと思っていたが。

 

「ええと、失礼したって、何が?」

 

「その、カメラ抱えているだけで何もしてない、って……私、よく知りもせずに失礼なことを……」

 

「んー、まあそう言われても前で体張ってるのはガンドレイクだからなあ。俺自身はそう言われても別に……」

 

 その辺りはガンドレイクが潔癖なんだよな、むしろ。

 

「その、あれから鷲山君に言われて、春日井さんの動画を見たんです。後ろでカメラ抱えているだけなんてとんでもない……本当に理解が足りてませんでした。ごめんなさい」

 

「え、そう? なんかそんな見直されるような事してたかな?」

 

「……古い重たいカメラを抱えたままガンドレイクさんに追従して、激しく動き回るあの人を常に画面の中央に捕らえるっていうのは、私にはとても無理です。それだけじゃなくて迷宮内での食事や武器の手入れ、資材の運搬や戦利品の選別も全部やってるんですよね? 普通、そういうのって2,3人がかりでやるんですよ」

 

 えっ。

 

「……そうなの?」

 

「そうです! 私達のチームだって、戦闘時はカメラ一人に戦闘四人ですけど、戦い終えたら全員で後片付けしてます! それに映像だってブレブレですし……」

 

「そういうものなの? あんまり人と比較した事ないからわかんないなあ……」

 

 なんか急にベタ褒めされて落ち着かない。いや人並みに褒められるのは好きだが、そんなさして大したことでもない事を褒められても困る。

 

「レインボー巴さんもベタ褒めしてたんですよ! この間、一緒に配信に出てましたよね? それについて巴さんが振り返り配信で『ザバニャンの動きが凄すぎてドローンじゃ追いつけないね、詳しく見たい人はカスガッチの動画を見てね』って! ……もしかして知らない?」

 

「え、あ、ううん。実はちょっとトラブって忙しかったから……」

 

 そんな事言ってたのか巴さん。

 

 いやメールで『復帰しました! 動画見てくださいね!!』ってパソコンに届いてたけど、よくよく考えたらさ? たまたま偶然で有名人の配信に割り込んだんだよなって考えたらなんか気まずくなったというか、ファンの皆さんにボロクソに言われてないか不安だから見てなかったんだよね……。

 

 無精者と思われたくなくて笑って誤魔化そうとしたが、獅子川ちゃんは思いのほか私の言い訳に強く食いついてきた。

 

「トラブル?」

 

「ああ、うん。基本的に他言無用で口封じされてるんだが、まあそれぐらいには面倒な事があってね。その過程でカメラを迷宮に落としてきちゃって。諸事情あって回収にも行けないから、新しいのを買おうと思ってね……」

 

「ああ、なるほど……」

 

 流石に同じく冒険者として迷宮に潜ってるだけあって、人に言えない、という時点で厄ネタっぷりを納得してくれたようだ。彼女は頷きながら私が物色していた棚に関心を向けて、続けて目を丸くした。

 

「……ぇえっ!? 今のカメラこんなに高いんですか!?」

 

「まあ、しょうがないね。貿易殆ど止まってるし……不足してた物資も、最近ようやく安定供給がはじまったばかりだからね。物価が落ち着くまではもうしばらくかかるよ」

 

「だ、だとしてもこの値段は……ぼったくりじゃないです?」

 

 ははは。やっぱそう思う?

 

 でも思っても口に出しちゃだめだよ。この辺りはまだ学生だねえ。

 

 よきかなよきかな。

 

「まあそういう訳で実は配信も出来なくてね。何か、安くカメラを売ってるとことか、心当たりない?」

 

「成程、そういう事でしたか。…………あの。一つ提案があるんですけど」

 

「おっ、何か考えがあるのかい?」

 

 大の大人が子供を頼りにするのは恥ずかしい所だが、背に腹は代えられない。

 

 期待を込めて問いかけると、獅子川ちゃんはちょっと緊張した様子でコクン、と頷いた。

 

「うちのチームの倉庫に、使ってないハンディカメラがあります。画質はそこそこ、バッテリーも大分弱ってますけど、使えない事はないはずです。よろしければそれをお借しできます、元々は私の父のものなので」

 

「いいの?! 助かるなあ。あ、でも先立つものはどれぐらいになる? レンタル? それとも買い取り?」

 

「……条件があります。それさえ満たせば、唯でお譲りします。……って、なんでそこで引くんです?」

 

 訝し気な獅子川ちゃんだが、おじさんにとってはタダほど怖いものはないんだよ。数値化できない義理人情ほど解除困難な導火線はない。

 

 とはいえ、獅子川ちゃんが好意で言い出したのもわかる。あまり疑うのも失礼か。

 

「ごめんごめん、タダって言葉にトラウマがあって。んー、それで、その条件って?」

 

「えっと。つまりですね……」

 

 獅子川ちゃんは前髪をくりくり弄りながら、妙な事を言いだした。

 

「……私を、しばらく春日井さんのパーティーに入れてください!!」

 

「へ?」

 

 

 

 

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