リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第二十六話 矢より早く

 

◆◆

 

 

 

「おーし、今日もはりきっていくぞ、ォー!」

 

「お、オー!!」

 

 迷宮管理番号XA-253ー74、その第三層。鬱蒼と黒い枝葉が生い茂る森の中に、少女二人の元気な声が響き渡る。

 

 一人は銀髪青目の見た目だけは美少女、ガンドレイク。血で染みだらけになったコートもクリーニングで綺麗になり、斧も磨き直してぴっかぴかで上機嫌である。

 

 その隣にいるのは、黒のゴシックロリータみたいなドレスを纏った、ある意味非常に風景にアンマッチな装束の少女、獅子川蘭ちゃんである。メインウェポンは弓矢。

 

 そんでもって、そんな二人の様子をハンディカメラで撮影しているあやしいおじさん事、俺、春日井智樹。

 

 以上が、本日の冒険パーティである。

 

 最近なんか飛び入りに縁があるなあ……。

 

「えっと、もうカメラ回ってます?」

 

「回ってる回ってる。今のはあとで編集で消しとくから気にしないでね」

 

 手をひらひら振りながら、二人の姿が画角に納まるように立ち回る。ガンドレイク一人を追いかけてた時と違って、常に二人がいい感じに映るような立ち位置を維持するのは難しいな。

 

 大人数の戦いを上手く撮影してる人はすげーなあ。今度動画を見て勉強しよう。

 

「にはははは、まあその辺りはトモキにまかせておけば何の問題もない!! まあ大船に乗ったつもりでいたまえ、ガハハハ!」

 

「なんでお前が偉そうなんだよ」

 

「ガハハ、私とトモキは一蓮托生だからな! 栄光も苦労も分かち合うものだ!!」

 

 そしてやたらと上機嫌なガンドレイク。流石に前に揉めた事を忘れた訳ではないのだろうが、切り替えが早いのはいい事だ。

 

 あるいはこうして一緒に迷宮に潜るのを言い出した事で、何かしら彼女の評価を検めたのか?

 

 まあ蛮族の考えなんて悩んだところで分からんか。

 

「しかし、他のメンバーが全員用事があって動けない、ねえ」

 

「ええと、はい。特に鷲山君の不在が大きくて……彼が居ないと、どうにも纏まりを欠いてしまって。やっぱり、鷲山君って凄いんですよ、女装癖あるけど」

 

「うむうむ、ままある事だ。強大なカリスマに纏められた集団は、それを失うと烏合の衆に等しい! 無理に自分達だけで事を成そうとしないだけ、まだ冷静ですらあるな!!」

 

 何やら実感がこもってそうな蘊蓄を語るガンドレイク。実体験があるのだろうか。

 

 あと鷲山君の女装は仲間もちょっと思う所があるのな。そりゃそうか……。

 

「それでトモキを頼った、という訳か。うむ、勉強熱心でよろしい! 強さとは幾つもの形がある、多くを知ってこそ自分の道が見えてくるものだ。はははは、頑張れ若者よ!」

 

「え、ええと、はい……?」

 

 激励するガンドレイクに、獅子川ちゃんは困惑しながらちらちら視線を送ってくる。うん、まあ、見た目なら同年代の奴にそんな年上からのアドバイスみたいなの送られても困るよな。

 

「気にするな。大人ぶりたい年頃なんだ」

 

「うむ! まあどこかの誰かさんほどではないがな? 広げすぎた葉は毟られるものだぞ、トモキ」

 

「お、おう?」

 

 え、何? 相変わらずの意味がわかるようでわからん異世界諺のようだったけど、今のは何がいいたかったんだ? まるで八方美人は刺されるぞ、みたいな文脈に聞こえた気がするが考えすぎか?

 

「まあとにかく、よろしく頼むよ、獅子川さん」

 

「はい!」

 

 元気のいい返事に気持ちがほっこりする。初対面はああだったけど、打ち解けてみると人当りの良い素直な子だね。いや、だからこそ一度偏見を持っちゃうとそれにも素直なのか。

 

 人間って色んな側面があるよね。

 

「ふむぅ。最近トモキの良さが分かる奴が増えてきたのはいいが、これはこれで……だな」

 

「何ぼやいてるんだガンドレイク、お前が前衛なんだからしっかりしろよ」

 

「う、うむ!!」

 

 それにしてもガンドレイクはさっきからなんか上の空だし。

 

 獅子川ちゃんの事が気に入らないって訳ではないようなんだが、一体どうしたんだ?

 

 大丈夫かなあ、ちょっと心配になってきたぞ。こういう時は俺がしっかりしないとなあ。

 

 

 

 そんなこんなで探索開始して凡そ5分後。

 

 試練の時は思ったよりも早く訪れた。

 

「おっと、団体さんのおでましだ」

 

 梢の向こうから現れたのは、陸ワニが一匹とすばしっこい狼リスが二匹。3層においては比較的よく見られる混成グループだ。

 

 しかしそれは与しやすい事を意味しない。

 

「トモキ、周囲の警戒を頼む!」

 

「おう!」

 

 流石に戦いとならばしゃっきりとしたガンドレイクが前にでて、俺は素早く周囲を確認した。いつぞやのステルス陸ワニの教訓は忘れていない。幸いにして、今回は本当に奴の姿はないようだ。

 

 そして申し合わせて動く俺達二人とは別に、新人の獅子川ちゃんは戸惑い気味で立ち尽くしている。一応、事前に接敵した時のスタンスを共有してはいるのだが、パーティーを組んですぐともなれば思うようには動かないものだ。

 

「あ、え、えと……牽制射撃、いきます」

 

「まってまって、この場合はちょっと下がって待機して。ガンドレイクの邪魔になる」

 

「え?」

 

 わたわたと弓を構える彼女の肩を引いて後ろに下がらせる。その隣で、地面を踏み砕いて銀色の旋風が吹き荒れた。

 

「ガハハハ! その程度では準備運動にもならんな!」

 

 ガンドレイクである。

 

 人間離れしながら突撃していったガンドレイクが、まずは後方の狼リスを斧で両断する。陸ワニは完全に無視し、続けてもう一匹の狼リスを強襲する。素早さが売りの狼リスだが、それ以上に早いガンドレイクに襲われてはひとたまりもない。

 

 その機動力で冒険者を翻弄し壊滅させる狼リスは、その強みを生かす前に殲滅された。

 

 あとは、動きの鈍い陸ワニを残すのみだ。

 

 ばばっ、と横に離脱するガンドレイクに、陸ワニが彼女を追ってのたのたと無防備な横っ面を晒す。

 

 今がチャンスだ。

 

「ほら、隙だらけ。今のうちに陸ワニを弓で撃つんだ」

 

「は、はい!」

 

 指示を受けて、キリキリと弓を引いて放つ獅子川ちゃん。

 

 放たれた弓は狙いたがわず、側面に晒された目を貫き、苦悶に怪物を悶えさせた。

 

 いい腕だ。

 

 さらに立て続けに放たれた弓矢が横腹に突き刺さる。何発かは鱗に弾かれたが、それでも確実に3本の矢が怪物を射抜く。

 

 横撃に溜まらず陸ワニがのたうちながらこちらに正面を向ける。が、それは悪手中の悪手である。

 

 隙を見せたが最後、飛ぶように戻って来たガンドレイクがその首を切り落として、それで終いだ。

 

 ごろり、と陸ワニの首が地面に転がり、残された体がズシンと倒れ込んでひっくり返る。

 

 怪物の絶命を確認したガンドレイクの合図に従い、俺は戦利品袋を広げながら彼女の元に合流した。あとからおっかなびっくり、獅子川ちゃんもついてくる。

 

「うむ、ナイスだったぞ小娘!」

 

「ど、どうも……で、でも全部春日井さんの指示だったので……」

 

「そりゃあそうだ、私のパーティーはトモキがリーダーだからな!」

 

 頬に飛び散った返り血を拭いながら、ガンドレイクは戦闘に上気した顔で微笑む。一方、獅子川ちゃんは「そうなんですか!?」とでも言いたげな顔でこっちを見た。

 

 いやまあ、気持ちは分かるけど。

 

「一応な。別に指揮系統がどうとかじゃなくて、コイツの迷宮探索者後見人が俺ってだけだけど。書類上は俺が監督役でガンドレイクを運用してる形になってる、そんだけ」

 

「うむ! だから今日は存分にトモキの元で勉強していくといいぞ!」

 

 まるで自分が褒められたかのように満面の笑みで胸を張るガンドレイク。だから俺はそんな大した人間じゃないんだけどなあ。

 

 そんなに褒められても困ってしまう。

 

 ほら、獅子川ちゃんだって困惑してるでしょ。

 

「ま、ガンドレイクの戯言は置いておいて。見ての通り彼女は前衛といっても、怪物を受け止めたりするタイプじゃない。こいつはとにかく機動力と攻撃力に特化したスタイルだから、極力自由に動きまわせるのが一番強いんだ。悪いけど、まだ知り合って間もない獅子川ちゃんじゃタイミングが読めなくて同士討ちする可能性があるから、俺の後ろから合図に従って援護射撃してくれ」

 

「わ、わかりました」

 

 とりあえず、異論はないらしい。

 

 俺達は再び3層の探索を開始した。

 

 

 

◆◆

 

 

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