リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第二十七話 熊パーティ

 

 

「よし、合図まで待ってくれ」

 

「はい!」

 

 何度目かの遭遇戦。流石にそろそろ慣れてきた獅子川ちゃんに指示を出しつつ、ガンドレイクの戦いぶりを観察する。

 

 今回遭遇したのは、陸ワニが二体に鎧熊が一体、狼リスが一体だ。実に三種類もの混成軍、対応する順番を間違えると大変な事になる。

 

 突撃していったガンドレイクがまず相手にするのは陸ワニだ。分厚い鱗に覆われ、狼リスでないにしろ脚も早い、こいつらが二匹纏めて突っ込んできたらアーチャーとカメラマンでは対応できない。

 

 そんでもって鎧熊は前高5m近くある熊の化け物である。タフで力もあるが、動きはかなりゆっくりしている。現実の熊が自動車並みの速度で走りまわる事を考えると、かなり脚が遅いと言っていいだろう。ただし、パワーは規格外。防御力も、小口径のアサルトライフルぐらいならものともしない。対応するにはガンドレイクとしても万全を期する必要があり、そういう意味でも後回しにしておくべきだ。

 

 そして三種類目、俊足を誇る狼リスは斧を振り回して暴れるガンドレイクを前にしばし逡巡する様子を見せるものの、俺達の姿を見るなりこっちに向かってきた。

 

 それでいい。

 

 一匹だけなら俺達でも対応できる相手だ、ガンドレイクの手数を減らすべきではない。

 

「やれる? 獅子川ちゃん」

 

「自信は半々ぐらいです。少し動きを停めてくれれば、確実に」

 

「ほいきた」

 

 正直な自己申告助かります。俺は腰のポーチからカラーボールを取り出すと、アンダースローで投擲した。投げつけられたカラーボールは狼リスの進路上で弾けて、刺激臭と蛍光色を撒き散らす。どぎつい色と匂いを前に、疾走していた狼リスがぎょっとしたように足を止めた。

 

「今だ!」

 

 合図は果たして必要だったのか。動きを止めた所を、獅子川ちゃんの矢が貫き、一撃で息の音を止める。正確な狙いだ、やはり腕はいい。

 

「グッジョブ!」

 

「は、はい。ガンドレイクさんは……」

 

「問題なし! ははは、後背の憂いがないというのはなかなかに良いな!」

 

 タイミングよく、そこに戻ってくるガンドレイク。ずざざざ、と地面を擦りながら減速する彼女の得物は、べったりと血で染まっていた。

 

 戦場には転がる陸ワニの死体。それを押しのけて、どすんどすんと鎧熊がにじり寄ってくる。

 

 どうするか。無理して相手をする必要もないが……。

 

「ガンドレイク」

 

「ここで仕留める! コイツの毛皮は高く売れるからな!」

 

「了解した。獅子川ちゃん、息が続く限りでいい、速射でアイツの動きを止めてくれ。ガンドレイクを少し休ませる」

 

 俺の指示に頷き、獅子川ちゃんは残りの矢を矢継ぎ早に撃ち放った。目や鼻といった急所を的確に狙う狙撃に、鎧熊は緩慢な動きながらも鋭敏に反応した。咄嗟に顔を振って直撃を避けつつ、以降の射撃は腕で顔面を庇うようにして防御する。そのおかげで、もともと緩慢だった歩みがほぼ止まっている。

 

「ふぅ~~…………よし! いくぞぉ!」

 

 その間に、息を整えるガンドレイク。大きく深呼吸した彼女は、その気合の強さを示すように、腹に響くような雄叫びを上げた。

 

「……ルゥオオオオオオオオオ!!!」

 

「きゃっ」

 

『ガボッ』

 

 ウォークライ。戦士の雄叫び。

 

 それは単なる気合を込める儀式だけではなく、気の弱い相手には絶大なバフになる。初めてそれを聞く獅子川ちゃんは思わず怯んで弓を取り落とし、顔を塞いでいた鎧熊は叩きつけられる叫喚に不意を突かれて大きく仰け反った。

 

 気迫に押される相手目掛けて、ガンドレイクが疾走する。四足歩行しているように見えるほどの極端な前傾姿勢からの、人間離れした全力疾走。さしもの俺も、この時のガンドレイクは目で追えない。経験で彼女の動きを想定しつつ、カメラにその雄姿をおさめる。

 

「ルゥアア!」

 

『ギャンッ!?』

 

 立ち尽くす鎧熊に、その四方から襲い掛かる銀色の閃光。すれ違い様に斧の一撃が、膝の裏、脇腹、首筋、と比較的守りの薄い急所を薙いでいく。それに対し鎧熊はガンドレイクの姿を完全に見失っている。牙を剝いて腕を振るうが、トラックだってひっくり返す剛腕とて当たらなければ意味はない。むしろ空振りで薙いだ体はそれまで以上に隙だらけだ。大きな急所である脇の下を、すれ違いざまに戦斧が切り裂く。

 

 ドパッ、と大量の鮮血が噴き出し、鎧熊が膝をつく。

 

 そして高度の下がったその首を、ついにガンドレイクの一撃がしかと捉えた。

 

 斧の刃幅よりも太い首が一撃で切断され、ボールのようにくるくると宙に舞う。それは数秒の滞空を経て、俺達の目の前に落ちてきた。

 

「ひぃっ!?」

 

「おっと」

 

 だらりと舌をだした生首に獅子川ちゃんが竦み上がる。それ以上彼女の視線にそれが入らないよう割って入りながら、俺は周囲の警戒をしつつガンドレイクを労った。

 

「お疲れ様、ガンドレク。周囲にもう敵は居ないみたいだ」

 

「うむうむ!! よし、さっそくだが熊を解体する。毛皮だけでなく肉や内臓も持ち帰るぞ! クーラーボックスの容量はまだあるな?」

 

「いいけど……ええと、ちょっとまって」

 

 流石に、熊の解体となるとこのままではいけない。特に毛皮を持ち帰るつもりなら、血を洗い流す水場が必要だ。

 

 怪物とはいえ動物型であれば水も飲む。ここは深い森だが、だからこそところどころに水場がある。

 

「地図によれば湖が直ぐ近くにあるか。……んー、陸ワニと狼リスは諦めるか」

 

 流石に三人では鎧熊の腑分けで精いっぱい。欲張ってもしょうがないし、他はここに置いておこう。どうせ他の怪物が処理してくれる。

 

「よし、ガンドレイク、湖まで熊の死体を引っ張っていくぞ。獅子川ちゃん、動ける?」

 

「は、はい。お手伝いします……」

 

「よおし、いくぞー! えっさーら、ほいさーら!!」

 

 そんなこんなで熊の亡骸に縄をかけ引っ張るガンドレイクに押す俺と獅子川ちゃん。

 

 掛け声をかけながら地図を頼りに先に進むと、ふと周囲の気配が変わってきた。

 

 水の臭い、としか言いようがない気配。

 

 藪をかき分けて進むと、突然視界が開け、キラキラと輝く水面が大きく広がった。

 

「わあ、大きな湖……!」

 

「へえ。なかなか風光明媚じゃないか」

 

 獅子川ちゃんと二人そろってその景色に魅入る。が、血と肉に飢えた蛮族は全く感慨を抱く事無く、ザバザバと水面をかき分けて熊の死体を引きずり込んだ。

 

「はっはっはー! これだけ水があれば楽勝だな、あとは私に任せておけぃ!」

 

「まてまてガンドレイク、コートを脱げ!!」

 

 放っておけば血塗れ確定のコートを没収。ついでにちょっと休憩するべく、枝を拾い集めて焚火を興す。二人で火にあたっている傍らで、ガンドレイクがウキウキと熊の亡骸を解体する。

 

「よぉし、毛皮は剥いだ! あとは肝だ肝!! 聞いた話では鎧熊の肝は妙薬の原料になるそうではないか、きっと高く売れるぞ!」

 

「……が、ガンドレイクさん、手際が随分といいんですね……。凄いなぁ」

 

「ああ、うん。そうだな……」

 

 たった一人で小柄な少女が5m近い体格の獣から毛皮を引きはがしていくのは、まあ確かにちょっと不思議な光景である。

 

 はぎ取った毛皮を水に晒して洗ったものを受け取って、木の枝に引っ掛け焚火の煙をあてる。ちっとやそっとじゃ乾かないだろうが、まあある程度水気が取れればそれでいい。

 

 さらに彼女が手際よくはぎ取った肝をクーラーボックスに収めて、ついでに熊肉で焼肉である。

 

 串に刺した熊肉を焚火にあてて、何度も返しながら火を通していく。殺処分直後の肉なんて硬くて本来食えたもんではないが、まあこういうのは気分である、気分。

 

「ほい、獅子川ちゃんの分」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 たっぷりと胡椒をまぶした串を受け取る獅子川ちゃん。彼女は落ち着かなさそうに、さっきから焚火と湖に沈んだ熊の死体をきょろきょろとみていた。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえ。怪物の死体が近くにあると、別の怪物を呼ぶから危ないんじゃないかなって……」

 

「そこは大丈夫だ。鎧熊はこの階層のトップに近い怪物だからな、それを殺す何かの近くには他の怪物はよってこない」

 

 そう言うのは、うましうましと肉串を貪るガンドレイクである。俺としては正直本当かぁ? と疑わしい所だが、今の所迷宮においてコイツの血生臭い経験談が外れた事はない。

 

 まあ北海道のマタギも、人食いした熊は仕留めても食わずに死体を森に放置するらしいからな。似たような話なのかもしれない。

 

 しかしこのクソ硬い肉をよく食えるな。

 

「へぇー……そうなんですねえ。あむっ」

 

 獅子川ちゃんもまた、ガンドレイクの喰いっぷりに触発されたように、自らも肉串に可愛らしく齧りつく。

 

「……! !! ……っ!!!」

 

「……ナイフで小さく切ろうか?」

 

「お願いします……」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

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