リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第二十八話 楽しい冒険

 

 熊肉で少し小腹を満たした後に、私達は移動を再開した。

 

 熊の毛皮を手に入れたガンドレイクは酷く上機嫌である。どれぐらい機嫌がいいかっていうと、毛皮が荷物になるからこれで切り上げようかと提案したら、自分が担ぐから続行しよう、といいだすぐらいには。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら前を歩くガンドレイクは、しかし後ろからだとその姿が見えない。背中に薪の如く積み上げて背負っている毛皮の山に、小柄な体が完全に隠れてしまっている。

 

 その毛皮が放つ気配のせいか、先ほどから怪物も襲ってこない為、道中そのものは快適だ。

 

 だから、隣を歩く獅子川ちゃんとおしゃべりする余裕もある。

 

「……ガンドレイクさん、随分ご機嫌ですね」

 

「ああ。アイツなんか毛皮が好きなんだよ」

 

 まあ不思議な話ではない。ほんとか嘘かは別として、蛮族、すなわちバーサーカーの語源となったベルセルクというのは熊の毛皮を被った北欧の戦士だったとも聞く。

 

 遠い異世界から来たマジモンの蛮族であるガンドレイクからしたら、毛皮というのは何か思い入れのある物品なのだろう。男だった時も腰に毛皮巻いてたしな。今思えばあれは何の毛皮だったんだろうか。

 

「うちが貧乏生活じゃなかったら、戦利品の毛皮で部屋が埋まってたかもしれんな……」

 

「あははは……」

 

 割かし洒落にならない予想を口にすると、獅子川ちゃんは苦笑い。

 

 そういえば、彼女の来ている装備品っていうか衣装も、多分怪物素材で出来てるんだよな

 

「毛皮といえば、その衣装、どこで仕立ててもらったの? 怪物の素材で出来てると思うけど、そういうの加工できる所って限られるでしょ」

 

「あ、はい! 2層のサンドワームの皮とか、陸ワニの革とか、他にも別の迷宮とかでも取れる素材を使って。……その、どこかで仕立ててもらったんじゃなくて、仲間に裁縫が得意な子がいて。その子が、服なら縫えるよ、っていったのが始まりでパーティーが出来たって言うか」

 

「へえー! そりゃ凄い」

 

 予想するに実習か何かで手に入れた素材を持て余してる所で出た話かな。

 

 時折、学生を迷宮の1層に引き入れて怪物と引き合わせる企画の事を耳にするけど、別に冒険者をやる訳でもない子供が、やたら頑丈な革とか毛皮の切れ端もらっても持て余すよなあ。せいぜい売り払って小遣いになるぐらいか。

 

「ただ、その、その子って凝り性というか趣味に生きてるっていうか……。自分の作りたいデザインの服しか作ってくれないんですよね……」

 

「ああ、それで……」

 

 ゴスロリ服を虚ろな視線でついつい、とひっぱる獅子川ちゃん。なるほど、似合わない訳ではないけど、そういうのが好きな感じはしてなかったからなあ。納得である。

 

「背に腹は変えられないというか。性能はいいんですよ、ほんとに。可愛いのも事実だけど、その……私がこんなの着てもね……」

 

「まあ、似合ってるからいいんじゃない? 服に着られてる感じはしないし」

 

 率直な意見を言ってからしまったと顔をしかめる。今のはちょっと失言だったか。

 

「え、そうですか?」

 

「あ、ああ。うん。まあよくできてる服だし、誰が来ても一定ラインは越えるんじゃないかな。友達は大事にしようね」

 

「ふふ、そうですね」

 

 よし。話がおかしな方向に転がる前に軌道修正できたな。

 

 全くそのつもりはないが、下手な誉め言葉を使うと口説いてるみたいになってしまう。よそに見られたら事案になるような会話は避けないと。

 

 気を引き締めて前を向くと、こっちを不満げににらみつける青い瞳と目が合って、俺は思わずたじろいだ。

 

「…………(ジトー)」

 

「な、なんだガンドレイク?」

 

「いんや、べつにぃー。年下の女と、ずいぶん親し気に話していると思ってなぁー?」

 

 うげえ。

 

 いわんこっちゃない、めんどくさい事になった。

 

「お前の思ってるような話じゃないよ。気にしすぎだ」

 

「ふん。私が何だと思ったと考えているのだ? ううん?」

 

「お前な……」

 

 なんだこの反応。何が気に入らないんだ?

 

 困惑していると、ガンドレイクは埒が明かないとでも思ったのかふん、と鼻を鳴らして前を向いて、しかし歩む速度を落として俺と獅子川ちゃんの間に割って入ってきた。

 

「こ、こら。お前は前衛だろが」

 

「この毛皮を担いでいればこの階層の怪物は近づいてこないだろう。問題はない。それとも何か? 小娘と二人きりでまだ話してたかったのか??」

 

「お前な……」

 

 頭痛を覚えて額を押さえる。

 

 なんだ? 何をどこで間違えた?

 

 つーん、と顔を逸らして腕を組むガンドレイク。なんだかんだ珍しい反応である。いつも豪放磊落におおらかなコイツとしては珍しい反応ではあるが。

 

 相棒の変心に困惑していると、隣でぷふっ、と小さな笑い声が上がった。

 

「ぷふっ、ふふふ、ほんとに仲がいいんですね?」

 

「獅子川ちゃん……」

 

「んむ……っ」

 

 手を口元にあてて、嫋やかに笑う獅子川ちゃんに、俺とガンドレイクは思わず顔を見合わせた。なんだか気恥ずかしくなって、互いについ、と顔を背ける。

 

「い、いや。俺とコイツはあくまで相棒であってな……まあでも相棒を疎かにしちゃ駄目か」

 

「わ、私も、少し大人気なかったか……すまん、トモキ」

 

「まあ別に……」

 

 ぎこちない態度で仲直りする俺達に、獅子川ちゃんは何が面白いのかずっと笑いっぱなしだ。ただ嫌味な感じはなくて、曖昧に苦笑いしている内に笑みは俺達にもうつってしまっていた。

 

「たははは……」

 

「ははは……」

 

「ふふふ……」

 

 それからしばらくの間、俺達は何が面白い訳でもないけども、小さく笑いながら先に進んだ。

 

 と、不意に景色が切り替わる。

 

 鬱蒼とした森は、どこまでも続く街道へ。

 

 太陽が昇る直前の早朝のような、青く光る空の下で乾いた草原がどこまでも続いている。

 

「隔離区域に入ったか。いつもと違う風景だな」

 

「んむ」

 

「へぇー……いつもはどんな光景が見えてるんですか?」

 

 不可思議な光景だが、迷宮に入っていれば慣れるものだ。特に気にすることもなく、街道を三人そろって歩く。

 

 確固たる事象として成立している競合区域と違い、隔離区域はその有り様が酷く曖昧なエリアだ。一緒に歩いている人間の意識を投影しているともいわれ、人によって何が見えるかはそれぞれ違う、というのは周知の事実。

 

 とはいえ、命のかかった迷宮探索。基本的にこう、とパーティーが定まったらそうそう入れ替えはないから、大体同じような景色をずっと見る事になる。

 

 信用は、お金や装備ではどうにもならない要素だからね。

 

「俺達はいつも、朽ちた砦かお城の通路みたいなのが見える。こう、石造りで薄暗くてね。窓から外の景色が断片的に見えたりする」

 

「へえー。私達は、船が見えるんですよ。ちょっと荒れ気味の海を渡る木造船、それもかなり古めかしい造りで。歩いていくんじゃなくて、しばらく座っているだけでいいので楽なんですー」

 

「何それ羨ましい……でも、俺達はちょっと駄目かな」

 

 俺はちらり、とガンドレイクに視線を向けた。彼女の白い肌が、いつにもまして青いのは気のせいではない。

 

「ガンドレイク、船駄目なんだよな……」

 

「…………うむ」

 

「車は平気なのにな」

 

 一度、コイツ自身の提案で内海の島に存在する迷宮に行こうとした事がある。

 

 が、車での長時間ドライブは平気だったくせに、島に渡る船の中でゲロゲロに船酔いしてしまい、結局迷宮には潜らず戻ってきたのだ。

 

 いやああの時は大変だった。なんせ帰りも船だったからな。

 

 ここからまた船で戻らないと理解した時のガンドレイクの顔色ときたら、カエルも真っ青な凄い色合いだったのをよく覚えている。

 

 怖い者知らずのガンドレイクにもどうしようもないものがあってちょっとほっこりしたが、お前、故郷でどうやって暮らしてたんだ? 聞いた限り中世レベルの文化圏だし、船なんて当たり前だっただろ。

 

「こ、こちらの船とあちらの船は全然違うのだ……!」

 

「ま、車が大丈夫でよかったじゃんか。車も駄目だったらもうどうしたらいいのか」

 

「その時は馬を飼えばいいのだ! 乗馬なら自信がある!」

 

「馬なんか飼えるかボケ!?」

 

 馬一匹飼うのにどれだけの敷地と一日あたりどれだけの飼い葉が必要か知ってんのかお前!? いやまあ、お前の故郷だとそれを支えるインフラがあったんだろうけどこっちは現代日本だぞ。

 

 ムリムリ。

 

「馬か……いいですね。乗馬は私も好きです」

 

「おっ、話が分かるじゃないか」

 

「えっまさかこの空間でマイノリティなの俺の方?!」

 

 まさかの乗馬談義で話を咲かせる獅子川ちゃんとガンドレイク。

 

 きゃっきゃと楽しそうに話す二人からすっかり取り残されて寂しさを味わった俺は、こっそり今後ガンドレイクにもう少し優しくしてやるか……と反省するのだった。

 

 

 

◆◆

 

 

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