リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す!   作:SIS

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第三話 若獅子との遭遇

 

 変異体の陸ワニの皮を剥いで保存ボックスに納めた後、俺たちは小さく焚火を起こして休息をとる事にした。

 

 なんせまだ周囲は明るいが、太陽の無いこの空間は、基本的にほんのりと肌寒い。

 

 乾いた枝を積み上げてライターで火を放ち、ぱちぱちと燃える炎から距離を置いて座る。

 

 同じように火にあたる少年少女達からはまだ少し距離がある。特に、撮影機材を抱えている子からの視線が妙に冷たい。

 

 が、その中にあっていち早く打ち解けて、以前からの親友同士のように話している者もいる。

 

 ガンドレイクと、あちらのリーダーらしき少女。どうやら二人はずいぶんとウマがあったようだ。

 

「それにしてもガンドレイクさん、動画でも見たけどずいぶんと戦い慣れしてるんですね! どうやったら返り血が目に入らないように立ち回れるんですか?」

 

「んっふっふっふ、それはまあ経験という奴だな。魔物の連中は中身がどうなってるかわからんからな、戦いの勢いというものは場を踏まねばわからぬ」

 

「へえー、そうなんですね!」

 

 小鼻をぷっくらと膨らませながら、調子よさげに語るガンドレイクに、素直にコクコク頷きながらメモなんぞとっている少女。

 

 オマエなあ。以前の筋骨隆々の大男ならともかく、そのよわっちそうなビジュアルで歴戦の戦士みたいな事いっても説得力がないぞ。

 

 あとお前の蛮族スタイルに無垢な少年少女が染まったらどうするんだ。

 

 ぺち、とガンドレイクの後頭部を優しくはたいて、二人の間に割って入る。

 

「はいはい。えーと、君、コイツの言う事は話半分に聞いてくれ、なんせ見た通りの奴だからな」

 

「あ、自己紹介が遅れました! 僕は鷲山といいます! 友達と一緒に、高校生冒険者チームを組んでいます!」

 

 ビシ、と敬礼みたいなポーズで自己紹介してくる鷲山君。やっぱり学生だったか。しかし……。

 

「なんで、学生がこんなところに? 学生は勉強だけやってろ、とは言わないが、迷宮なんて命に係わるような場所に好き好んでかかわる必要もないだろうに」

 

「えへへ、最近はそうでもないんですよ。政府の意向で、高校生から希望者は迷宮探索に参加できる事になりまして。今ではかなりの学生が迷宮に潜るようになってるんですよ、知らなかったんですか?」

 

「なんだと」

 

 鷲山君の言葉にびっくり仰天である。いや、確かに俺はガンドレイクの奴に巻き込まれて迷宮探索をするまで、迷宮そのものに縁がなかったが。動画配信とかも全く見なかったからな……。

 

 いやだって、普通に危険動画だし。人死にこそ制限がかかっているが、血が流れたり指が取れたりぐらいならモザイクもかからずに流されるような動画だぞ?

 

 気分が悪くなるし飯も不味くなる。

 

 そんな迷宮に、学生が?

 

 政府は何を考えてるんだ。

 

「えっとですね、迷宮で魔物と戦ったりする事で能力UPの恩恵があるっていうんで……そうやって鍛えた能力は学業や運動でも大きなメリットになるんです。多少勉強時間削ってでも、迷宮で経験積んだ方が大きいっていうか」

 

「あー。レベルアップとか言われてる奴か。でもあれって個人差も大きいだろう? 具体的な数値が出るでもないし……」

 

「そうなんですけどねー。一度成功例を見ると、皆考えちゃう訳です、もしかしたら俺も、って。政府としては、増え続ける迷宮対策は急務だし、なんだったら優秀な人材が増える事になるから、推奨しない理由がないんでしょうね」

 

 それでただでさえ少子化気味の人口がさらに減ったらどうするんだ? まあ言いたい事はわかるが。

 

 と、そこでぐい、と私と鷲山君の間にガンドレイクが割って入ってきた。彼女はぷにぷにした指で私の顔を文字通り押しのけるようにすると、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「おい、トモキ。コイツと話してたのは私だぞ、話が長い」

 

「はいはい、悪うござんした」

 

 しぶしぶ入れ替わると、ガンドレイクはあぐらをかいて座り……そうになってから、いそいそと女の子座りに座りなおした。よし。

 

 さすがに少しは人の目を意識するようになってきたな、配信撮影の恩恵かな。

 

 と、さっきまで様子見に徹していたほかのメンバーが鷲山君の横に集まってくる。

 

「お、お前たちも話をするか?」

 

「えっと、はい。その……ガンドレイクさんですよね! 動画見ました! お兄さんに負けず劣らず、すごい戦いぶりで尊敬してます!」

 

「その細腕でどうしてあんなに斧を振り回せるんですか? 何か秘密が?」

 

 どうやら、彼女達は最初からガンドレイクが目当てだったようだ。見た目だけなら同い年ぐらいの少女に囲まれて、その勢いにちょっと押されているガンドレイクの姿はちょっと面白い。

 

「ん、お? 兄とはなんだ、私は正真正銘最初からガンドレイクだが?」

 

「あはは、ほんとにその設定で通すんですね。わかってますって、お兄さんに代わって頑張っているんでしょう?」

 

「いくらなんでもあんな大男が、そんなちっちゃくて可愛い女の子に変身しましたってのは無理がありますって。あはは」

 

 そりゃそうなるよな。

 

 配信動画のコメント欄見ても、そう多くない視聴者はみんな、彼女の事をガンドレイクの妹だと思ってる。まあその奇抜なキャラ付けがあまたの冒険者配信動画の中でよい意味で浮いた事で、最近少しずつ再生数が増えてきているのだが。

 

 それにしても、見た目は見眼麗しい少女達の集まりだ。眼福のはずなんだが、悲しいかな、俺の目にはガンドレイクはパツンパツンのスカートをはいた変態の姿に自動的に変換されてしまうのだ。はぁ……。

 

 気が付けば、リーダー格の鷲山君ではなく、別の女の子がガンドレイクの一番近くで話していた。

 

 黒いドレスの、ちょっとゴスロリっぽい格好の茶髪の娘。撮影用のカメラを抱えていた子だ。

 

「でも、ガンドレイクさんはずっと……その、そっちの男の人とだけ組んでるんですか?」

 

「うむ。そうだぞ。私の相棒はトモキだけだ」

 

「ほかのパーティーと組んだりはしないんですか?」

 

 む? と質問にガンドレイクが目を丸くする。考えた事もないって顔だな。

 

 まあ確かに、それも一つの手ではある。以前ならいざ知らず、今のガンドレイクは迷宮管理部にも少しは信用を得ているし、実力も証明済みでかつてのような奇妙な言動の外国人、という扱いではない。ほかの冒険者と組むのも一つの手ではあるだろう。

 

 ただ、その場合別の問題が生じる。単純に、ガンドレイクの実力は冒険者としての階級とつり合いが取れてなさすぎる。実力そのものはすでに完成されているのだから、同階級の言ってみれば駆け出しを卒業した程度の冒険者と組むと、恐らくうまく回らないだろう。こっちばかりが負担を強いられて疲弊するか、あるいは逆に連れ合いが実力に見合わない戦場に巻き込まれる事になってしまう。

 

 かといって実力がつり合い階級の相手からするとこちらは遥か格下で組む理由がない。

 

 現実的にはなかなか難しいだろうな。

 

 しかし、話を切り出した少女は何やらガンドレイクにご執心らしい。あまりノリ気ではなさそうなガンドレイクに、ガンガン話を切り出していく。

 

「なんだったら、私達とパーティーを組みません? 実力では及びませんが、間近でガンドレイクさんの戦いを見て勉強したいです!」

 

「うーん。だがなあ。私にはトモキがいるしなあ……」

 

「……あのおじさん、ですか?」

 

 渋るガンドレイクの言葉に、少女がじろり、と私の方を見る。あまり好意的ではない感じの視線だな……。まあ、しょうがないよね。

 

「私達のパーティーだったら、撮影担当も持ち回りです。ガンドレイクさんだけが戦う事もありませんし……」

 

「ちょ、ちょっと。それ以上は不味いって蘭ちゃん」

 

「だってあの人、ガンドレイクさんだけを戦わせて自分は何もしてないじゃないですか!」

 

 蘭、と呼ばれた少女が弾劾するように声を荒げる。

 

 その途端、空気がぴしりと凍ったのがはっきりとわかった。

 

 

 

「……今。トモキの事を、馬鹿にしたのか?」

 

 

 

 笑顔のまま、ガンドレイクが口を開く。

 

 数秒前と何も変わらない佇まい。なのに、和気あいあいとしていた談話の空気は木っ端みじんに砕け散っていた。可哀そうに、その怒気を真正面から浴びた蘭ちゃんは、すっかり青ざめてしまっている。

 

「あ、え。わた、そんな、つもりじゃ……」

 

「戯れは許そう。だが、侮りは許さん」

 

 いつの間にか引き抜かれていた斧が、ぎらりと松明の炎を受けて赤く輝く。静かに立ち上がって蘭ちゃんを見下ろすガンドレイクの目は、氷のように冷ややかだった。

 

「どちらだ? 戯れか? ……それとも」

 

「ひ……っ」

 

 少年少女が、その気迫にすっかり飲まれて息を呑む。

 

 数秒後の惨劇を誰もが予想した、その瞬間。それが現実になる、その間一髪で。

 

「はい、そこまで」

 

「むっ」

 

 ぽん、と俺はガンドレイクの頭に手を置いた。反射的に手を押さえて、ふくれっ面の彼女が振り返る。

 

「な、なんだトモキ。私はこいつらに礼儀というものを教えなければならん」

 

「子供相手にムキになるんじゃない。全く……悪いな、コイツ冗談が分からんのだ。怖い思いをさせたな」

 

「い、いえ、僕達もちょっと言葉が過ぎました」

 

 固まっている蘭ちゃんの前に出てくるのは鷲山君だ。冷や汗をかきながらも笑顔を浮かべて、俺に合わせてくれるつもりのようだ。

 

「ほら、蘭ちゃんもごめんなさいして」

 

「ご、ごめんなさい。言葉が過ぎました……」

 

「ほら。こいつらも反省してるから、な?」

 

 頭をぽんぽん、と軽くたたいて、両肩に手を回してもみもみする。文字通りの揉み手に、んー、とガンドレイクは不満げながらも溜飲を下げてくれたようだ。

 

「……まあ、トモキが怒ってないならそれでいい」

 

「よし。じゃあ、悪いけど休憩はこのあたりにして、俺たちは失礼するよ。おしゃべり出来て楽しかった、気をつけて探索しろよ」

 

「は、はい」

 

 とにかくこれ以上はお互いにとってよくない。ガンドレイクの背を押すようにしてその場を離れる俺たちに、鷲山君だけが手を振って見送ってくれた。

 

 そのまま焚火が見えない所まで離れると、俺はふぅ、とため息をついた。

 

「お前、流石に大人げないぞ。大戦士の誇りはどこにいった」

 

「誇りがあるからこそ、侮られた時に黙っておくべきではないのだ。ましてやトモキを侮られたとあっては」

 

 むすー、とふてくされた様子のガンドレイクに苦笑する。やれやれ。

 

「実際、お前に戦わせて後ろで見ているだけなのは事実だろう?」

 

「トモキ。そういうのはよくない。意味もなく自分を卑下するな」

 

 青い瞳がまっすぐ見つめ返してくる。なんでだろうな、コイツとの関係は巻き込んだ巻き込まれただけであって、他の誰かでも成り立ったはずなのに、妙にガンドレイクは俺の事を買ってくれている。

 

 それは彼が義理深いからだ、というのが分かったうえで俺はそれがなんだかうれしかった。

 

 まるで、大戦士が俺の存在を認めてくれているんじゃないかと、錯覚しそうになる。

 

「はいはい、わかったわかった。まあともかく、その様子じゃ今回の探索はこれで切り上げた方がよさそうだな。心に余裕がないのはよくない」

 

「むぅ……我ながら、未熟」

 

 ふてくされながらも、異論はないらしい。

 

 それでもどうにも歩みの遅いガンドレイクに、俺は最終手段を切り出す事にした。

 

 早い話が、物で釣る。

 

「そう機嫌を損ねるな。戻ったら、お前の好物を作ってやるよ」

 

「! ほんとか!?」

 

「ああ。揚げ餅のお浸しでも、揚げ豆腐の味噌田楽でも、好きな物を作ってやるよ」

 

「やったぁ!」

 

 俺がそういうと、ガンドレイクは飛び上がらんばかりに喜んで、うってかわって軽やかな足で走り出した。

 

「何をしているトモキ、早く早く! 一秒でも早く戻って飯にするぞ!」

 

「現金な奴だなあ……」

 

 小走りで先を行くガンドレイクの姿に苦笑しつつ、彼女に追いつくために俺もまた歩幅を速めたのであった。

 

 

 

 なお、その日の晩酌。

 

 酒と料理に機嫌を直したガンドレイクが、こんな爆弾発言を落とした。

 

「しかし、無礼はあったとはいえ先ほどの少年戦士団も見るべきところはあった。特にあの鷲山とかいう少年、あれは大物になるぞ」

 

「……え?」

 

「なんだ、気が付かなんだか。おなごのような恰好をしていたが、あれは間違いなく男だぞ。骨格からして間違いない」

 

「え、ええ~……」

 

 彼女が言うなら間違いはないんだろうけど、最近の子供はよくわからない……。

 

 

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