リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第二十九話 やんちゃ時代の遺産

 

 そんなこんなで楽しく談笑していているうちに、隔離区域を通り過ぎたらしい。

 

 眼前の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば俺達はどこまでも続く湿地のど真ん中に立っていた。

 

 足元は水浸しのコケやら草やらで覆われていて、不安定でぬかるんでいる。周囲を見渡しても、まばらに背の高い葦やら枯れ木やらが聳えているだけで、遠方はうっすらと立ち込める霧に霞んで見通せない。

 

 宙も薄暗く、どことなく肌寒い。

 

 視覚的にも気温的にも薄ら寒い、長居はしたくない環境。それが4層、寂寞の湿地帯である。

 

「話に聞いていた通りだな」

 

「うむ。私の故郷にも似たような地形はあったな」

 

 そういえば、ガンドレイクの出身は話に聞く限りだと北欧のそれによく似ていたらしいな。長い冬と短い夏、針葉樹林の生い茂る森に、冬は雪に閉ざされ夏は湿地と化す平野。こっちでいうとツンドラだっけ? 水はけが悪い土地が雪解け水でぬかるんでいるのと湿地は違う気もするが。

 

「大丈夫なのか?」

 

「全く持って問題ない。この脚甲は浸水対策もばっちりだしな、迂闊に地面を踏み抜いて動けなくなるほど未熟ではないぞ」

 

 そういって、ちゃぱぱぱー、と湿地の上を走り回って見せるガンドレイク。背負った毛皮の山に大斧と籠手、脚甲と下手をすれば泥に沈みそうな重装備にもかかわらずその動きは軽やかだ。

 

 アメンボみてえ。

 

「問題ないならいいけど。さってと、俺は文明の利器をお借りしますかね、と」

 

 話には聞いていたので対策済みだ。脚から胸まですっぽりと覆うゴム製の装具を装着し、湿地対策は万全である。これなら腰ぐらいまで泥に使っても全然へっちゃらだ。

 

 準備万端に整えて、そこで俺はふと隣の獅子川ちゃんが渋い顔をしているのに気が付く。

 

「そっちは大丈夫?」

 

「え、ええと、はい、多分。この編み上げブーツなら泥濘地でもいけるとは思います」

 

 そういって彼女が見せてくれるが、まあ確かに良い感じのブーツだ。これも手作りなのだろうか? 買ったらいくらぐらいするんだろうね。

 

「うーん、性能も見た目も両立してるなんて羨ましいなあ。俺なんか見てよ、まるでレンコン畑の管理人だよ?」

 

「? 別に問題ないであろう? きちんと働く人はかっこいいぞ」

 

「はいはい……とりあえず進もう、ここでお喋りしててもしょうがない」

 

 蛮族に褒められてもあんまり嬉しくはない。

 

 とにかく、ここでくっちゃべっていても時間の無駄だ。俺は一行を促して、先に進む事にした。

 

 さて、この4層こと湿地帯だが、調べたからには出現する怪物も把握済みである。

 

 代表的な怪物は、めちゃくちゃでっかい両生類や、陸エイ、脚の生えたナマズみたいなやつ、といずれも湿地の泥の中に潜んでいそうな奴だ。

 

 特に厄介なのは陸エイ。両生類やナマズは体が分厚いのもあって泥にもぐっていてもなんとなくわかるのだが、陸エイに関してはそこに居ると分かっていてもよく見えないぐらい、隠れるのが達者だ。

 

 探すポイントは唯一露出している目なのだが、枯れ草色で縞模様のある目は、湿地に薄く生い茂る下草のそれと完全に同化してしまっていて判別が難しい。

 

 そして気が付かずに近づいてしまうと、大きなヒレを広げて覆いかぶさってきて、体の裏側にあるヤツメウナギみたいな、円盤状の口で犠牲者を齧り、血と肉をすいとるのだ。当然ただで済むはずもなく、こいつに襲われ、引退せざるを得なくなった冒険者の予後の悪さは語り草だ。

 

 最大限警戒する必要がある。

 

 そんな訳で、10分ほど進んだ所で俺は手を上げてガンドレイクと獅子川ちゃんの動きを制した。

 

「どうした、トモキ?」

 

「しっ。あそこに陸エイがいる」

 

「えっ。どこですか?!」

 

 陸エイと聞いて顔色を青くした獅子川ちゃんが弓を引き絞り、きょろきょろと視線を巡らせる。ガンドレイクも額に手を当てるお決まりのポーズで周囲を見渡すが、どうやら見つけられないらしくすぐに手を降ろした。

 

「わからん。トモキには見えるのか?」

 

「お前いつもの直感はどこにいったんだよ」

 

「泥に覆われてると匂いは分からん」

 

 ふぅん。ガンドレイクでも苦手なものはあるのか。俺はちょっとした優越感に浸りながら、ちょいちょい、と湿地の一か所を指さした。

 

「ほれ、あそこ、あそこ。草がちょこちょこ生えてる辺りの根元」

 

「え、どこです?」

 

「ううん??」

 

 なかなか伝わらないようで二人とも首を傾げてる。

 

 うーん。俺はこういうの探すの特異なんだが、二人は苦手なのか。

 

「あそこだよあそこ。理屈で考えてみてくれ、連中はいくら平べったいとしても体の大きさは一畳より大きい。身を隠すには出来るだけ平べったくて、かつ、目を誤魔化せる周囲の枯れ草がある地点が望ましい。それを考えて、起伏が無くて気休め程度に下草がある所を注意してみれば……」

 

「……あっ! ありましたわかりました、はい!」

 

「む、むう……い、いや、もうちょっと待ってくれ。ええと……?」

 

 説明されて気が付いたのか、獅子川ちゃんが弾んだ声を上げる。一方ガンドレイクはまだ分からないらしい。

 

 むぎぎぎ、と歯を食いしばる彼女を他所に、少女が弓矢をつがえる。その向きからしても、間違ってはいないようだ。

 

「仕掛けますね」

 

「おう。ガンドレイクは追撃頼む」

 

「わ、わかった。多分、あの辺、かな……ううん……?」

 

 首をかしげて何だか明後日の方を見ているガンドレイクを他所に、キリリと引き絞られた弓が唸った。矢が飛び、湿地の一角に突き刺さる。

 

 途端、何もなかったように見える泥地が、突然生きているかのように跳ね上がった。

 

『??!!!!』

 

「よし、ガンドレイク、ゴー!」

 

「えええあっちなのか!?」

 

 バタバタする陸エイに困惑しながらも駆け出したガンドレイク、その一閃が見事陸エイを両断する。真っ二つになった後も数度バタバタ、と体を暴れさせ、それきり怪物は動かなくなった。

 

「ようし、でかしたガンドレイク。獅子川ちゃんもナイス」

 

「い、いえ……。それにしてもよくわかりましたね、ここに居るって」

 

「昔からカマキリとかバッタとか見つけるのは得意なんだ」

 

 なんの自慢にもならない特技だが、こうして役に立つ事もあるなあ。それはともかく、陸エイは内臓と尾の毒棘が買い取って貰える。真っ二つにされた残骸の断面から肝を漁り、棘は籠手を着けているガンドレイクにまかせる事にする。

 

「ガンドレイク、棘に気をつけろよ」

 

「わかっている。ええと、これか。根元から切り落とせばいいんだな?」

 

「ああ。危ないから、棘の先は丸めとけよ」

 

 初めての獲物だが、やる事は変わらない。終わったら、軽く地面を掘り返して死体を埋めておく。

 

「よし、先に進もうか」

 

「うーんいいのかなー、皆を差し置いて4層ガンガンすすんじゃって……」

 

「予行練習だと思えばいいんじゃない?」

 

 一人だけ先に進んでいる事に罪悪感を覚えているらしき獅子川ちゃんに苦笑する。真面目というか、律儀というか。まあそういう子だから、あの時俺の事を勘違いしてあんなことを言ったんだろうけど。

 

「ところで、名誉挽回はできてるかな、俺? カメラを抱えてるだけでもないだろう、案外」

 

「あ、えっ。あ、いや、その…………ごめんなさい……」

 

「え、ちょ」

 

 軽い冗談のつもりがものすごくしょげられて困惑する。あわあわしていると、隣でガンドレイクがはっと鼻で俺を嘲笑った。

 

「女心が分からん奴め」

 

「お前は分かるって言うのかよ!?」

 

「少なくとも今のトモキよりはな」

 

 まさかのガンドレイクにまで駄目だしを食らい、俺もちょっと凹んだ。

 

 

 

◆◆

 

 

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