リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第三十話 釣れた魚は

 

 その後も、湿地帯での探索は続いた。

 

 陸エイに関しては、幸いなことに今日は俺の調子がいいのか、不意打ちを食らう事なく3匹を仕留める事ができた。遠距離攻撃が可能な獅子川ちゃんが居るというのが大きい。

 

 トドメを刺すのがガンドレイクであるのは変わらないが、一撃入れられるだけで後の処理が非常に楽である。戻ったら俺も、投げナイフなり小弓なり覚えた方がいいかもしれない、と思う程だ。

 

 銃が仕えたら一番楽なんだけどなー。これに関しては警察が絶対に受け入れないんでまだ実現してないんだよね。刃物持ち歩いてる事だけでも親の仇みたいな態度だし、銃ともなればねえ。わからないではないんだが。

 

 まあそんなこんなで陸エイは問題ないんだが、逆にいうと他の連中は思ったよりてこずってしまっている。

 

「獅子川ちゃん、こっち!」

 

「は、はい!」

 

 バシャバシャ、と泥をはね上げながら走り、遅れている獅子川ちゃんを促す。俺達二人を追いかけているのは、カバほどの大きさもある巨大なナマズだ。ナマズといっても獅子があり、どちらかというと髭のあるウーパールーパーみたいなシルエットだが、それでもやっぱり顔周りはナマズそっくりである。

 

 そしてあまりそういう印象はないが、ナマズというのは獰猛な肉食魚でもある。うかつに近づいてきた小魚を、目にもとまらぬ早業で飲み込んでしまう。このサイズなら、人間だって飲み込めるだろう。

 

「ガンドレイクの奴は……!」

 

 ちらりと前衛に目を向けるが、あちらは今だ戦闘中だ。二匹の歩きナマズに絡まれる中、一匹を切り倒したものの、もう一匹に苦戦しているようだ。どうやらヌルヌルに覆われた鱗とその下の筋肉が思いのほか難物で、斧の刃が滑ってしまうらしい。

 

 それでも二匹だけならどうにかなったのだが、ソイツを相手する間に現れた三匹目に俺達後方が襲われてご覧の有様だ。注意してたんだが、地中から這い出して来たらどうにもならんわ!

 

「あ、きゃあっ!?」

 

「獅子川ちゃん!?」

 

 なんとか距離を取ろうと走っているなか、不意に獅子川ちゃんがよたついて転んでしまう。どうやら泥に靴を取られたようだ。不味い。

 

「くっ、この!」

 

「か……春日井さん!?」

 

 完全に獅子川ちゃんに狙いを定めた様子の歩きナマズ、その前に意を決して飛び出す。感情のうかがえないぬぼーっとした顔だが、この状況で改めて見ると間抜けどころか滅茶苦茶怖え。

 

 が、だが、年下の子供を見捨てて生き延びられるか!

 

「くらえぃ!」

 

 手首のスナップだけで、真っ赤なカラーボールを歩きナマズの顔に向かって投擲する。高速回転しながら投げ込まれたカラーボールが薄くひらかれた口の前まで飛んでいき、そこでフッ、と消えるように消失した。

 

 目に止まらぬ捕食速度、これで止まらなければ次は俺の頭がああなるが、どうだ?!

 

 効くか?!

 

『…………!?』

 

 びくり、と歩きナマズの動きが止まる。

 

 そして、もんどりうつようにその場で暴れ出した。

 

 まるで無警戒に口にしたのがワサビ山盛りの寿司であったかのように、げふげふ咳き込むようにしてのたうち回ると、顔を振って口の中のものを吐き出そうとする。が、それもかなわないと判断すると、歩きナマズは地面に顔を突っ込み、そのまま体を捩じるようにして地面の下に潜っていった。

 

 そのまま、地中深くに怪物の反応が遠ざかるのを感じ取り、俺はふぅ、とため息をついた。

 

「よかった、効いたか……。魚の類は痛覚がないから、辛味が効かないんじゃないかと思ったが……苦みと酸っぱさは通じたみたいだな、よかった」

 

「あ、あの……今のは……?」

 

「お手製スパイスボール。砂糖とワサビの粉末と唐辛子と梅干の壺に媚びついていたシャリシャリした奴とか、とにかく刺激物の類をブレンドした奴」

 

 ついでに2層のサソリ毒とかも入ってる。

 

 軽く説明しながら手についた赤い粉末の汚れを払うと、びくっと獅子川ちゃんが泥の上で距離を取るように後退った。

 

 気持ちは分かるけどちょっと傷つく……。

 

「すまん、手間取った!!」

 

「あ、お疲れ。そっちも無事か?」

 

「不甲斐ない、あの程度の相手にてこずるとは……!」

 

 と、そこでガンドレイクが怪我一つない様子で戻ってくる。ちらりと見ると、どうやら二匹目は斬殺を諦めて撲殺したようだ。籠手ごしに相手の眼窩だか鼻腔だかをわしづかみにしてホールド、至近距離から死ぬまで殴る、といったあたりか。見た目とは裏腹にボディービルダー5人ぐらいの超怪力を誇るガンドレイクだからこその力技である。哀れ死体は挽肉みたいになっていて、流石に歩きナマズに同情しなくもない。

 

「どうやらこれまでの戦闘で思った以上に刃が鈍っていたようだ……今日の探索はここまでだな。誠に申し訳ない……」

 

「まあ、気にするなって。そういう事もある。それより獅子川ちゃん、歩ける?」

 

「え、えと、はい……きゃあっ!?」

 

 手を引っ張って獅子川ちゃんを引き起こすが、そこで再び彼女がバランスを崩す。慌てて胸で受け取めるたが、思った以上に軽い体重に吃驚した。

 

「だ、大丈夫?」

 

「は、はい。でも、靴が……」

 

「靴? あ、脱げてる」

 

 見れば、彼女の左足は素足になっていた。周囲を見渡すと、泥の中に編み上げブーツが埋まっているのが見て取れた。目敏くガンドレイクが拾い上げてくれるが……。

 

「戦闘中に紐が緩んだのか?」

 

「いや、それだけではなさそうだ。ちょっと足を見せて見ろ、小娘」

 

「は、はい……痛っ」

 

 ガンドレイクが獅子川ちゃんの足を触診すると、苦痛に彼女が眉をひそめる。片足立ちの彼女の左足をガンドレイクが捻ると、その踵が真っ赤に腫れあがっていた。

 

「靴擦れだな」

 

「え、そ、そんな。念入りに調整したし、これまで一度も靴擦れなんて起きた事がないのに……!」

 

「靴の問題ではなく、歩き方の問題だな。このように足を取られる泥濘地での活動経験が不足していたので、悪い歩き方をしたんだろう」

 

 ああ、それならなんとなくわかる。普段から履いてるお気に入りのブーツでも、ある日山登りしたりすると足が痛くなったりするものだからな。

 

 しかし困ったな、これじゃあ彼女は歩けそうにないぞ。

 

「だ、大丈夫です、歩くくらいなら……つぅっ」

 

「駄目だって、痕が残ったらどうするの。……ええい、しかたないか。こうしよう」

 

 しょうがない。こういう場合は緊急手段として許されるだろう。

 

 俺は鞄をガンドレイクに押し付けると、その場でしゃがみこんで背中を見せた。手をぱたぱたさせて、獅子川ちゃんを催促する。

 

「俺が背負って連れ帰ろう。一応、今回の責任者になるしな。面倒は見る」

 

「あ、え? あ、その、でも、え……」

 

「……あー、流石にちょっと恥ずかしいよな……。ああそうだ、ガンドレイク。熊の毛皮を貸してくれ。あれを俺の背中に敷いて、それごしに抱えれば大丈夫だろう」

 

 考えてみれば背中に背負うと太ももとか触る事になるしな。獅子川ちゃんがそのあたりの事で俺を訴えてくるとは思っていないが、流石に恥ずかしいだろう。

 

 そう思っての提案だったのだが……。

 

「あ、いえ、いいです! 大丈夫です!! 問題ありません!!」

 

「え、そう? じゃあ、ほい」

 

「し、失礼します……」

 

 おっかなびっくり、背中に乗ってくる獅子川ちゃん。やっぱりびっくりするぐらい軽いが、それについて言及するのはまあセクハラかな。黙って彼女を背負い直すと、「ひゃふ」とすっとんきょうな声が聞こえてきた。

 

「大丈夫? これなら両手が空いてるから、弓もつかえると思うけど」

 

「は、はひ、大丈夫……ですっ!」

 

「そっか。じゃ、悪いけどガンドレイク、帰りは荷物も頼む……ガンドレイク?」

 

 頼りになる相棒に声をかけると、どういう訳か銀髪の戦士は不機嫌そうに眉をひそめてそっぽを向いていた。

 

 なんで?

 

「どした?」

 

「なんでもないっ! ふんっ、トモキはそうやって誰にでも優しいんだな!!」

 

「まじでどした???」

 

 突然何を言い出すんだコイツ? え、今の流れでなんか不機嫌になるところあった?

 

「なんでもないっ! さっさと、一分一秒でも早く帰るぞ!!」

 

「あ、うん……それには異論ないけど」

 

「………(///)」

 

 どことなく気まずい空気のまま帰路につく。

 

 ……なんだっていうんだ??

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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