リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
そんなこんなでトラブルに見舞われつつ帰路についた俺達だったが、残念ながら帰りも順調とは言い難かった。
やはり怪我人を文字通り抱えていては、常のようには動けないものだ。さらに言えば、動けるガンドレイクもまた荷物を持たざるを得ない為ますます機動力が低下しているのもある。
そういう事で、その日のうちに脱出が叶わないと判断した俺達は、3層と2層の間の隔離区域で今日はもう泊っていく事にした。
「獅子川ちゃんは大丈夫?」
「は、はい。迷宮探索は泊まりも珍しくないので、外泊許可はちゃんと取ってます」
「それならいいけど……いや、よくはないか。特に親しい訳でもない成人男性と宿泊……うっ、考えただけで世間の目が怖い……」
ぶるり、と寒気を覚えて肩を抱く俺に、獅子川ちゃんは呑気に「気にしすぎですよー」だなんて笑っているが……こういうのは本人がどうとかではないのである。
他人から見てどう見えるかが全てであり、得てして世の中の人間は常に殴っていいサンドバックを求めているのである、ああ血も涙もない現代社会!
「はっはっはっは、今更の話だろう。そもそも迷宮の中での話だ、まともな人間は誰も気にするまい」
「世の中、まともな人よりも変な人の方が声が大きいんだよっ」
「それは知っておるが。そもそも、当事者である小娘の方がトモキより力が強いのにどう問題を起こすというのだ?」
呆れたように肩を竦めるガンドレイク。いやまあ、確かにそうなんだけど。
家でコイツと俺が傍からみたら同棲してるように見えるのに何も言われないの、近所の人もガンドレイクがどれだけ馬鹿力か知っているからだしな……。側溝にはまった車を片手で戻したりしてるのを見た人の反応はなかなか面白かった。
とはいえそれでも、時々意味ありげな視線を感じたりはする訳で。やはり火種は作らないに越したことはない。
あ、そうだ。いい考えがある。
「仕方ない……ガンドレイク、俺の手足を縛って転がしておいてくれ。その上で動画を残しておけば問題ないだろう」
「そんな事までしなくていいですよぉ!?」
残念ながら、獅子川ちゃんの猛反対でナイスアイディアは却下されてしまったが。
「まあまあ、気にするな。そもそもだな、私に手を出さない男が、そこの小娘に手を出す勇気がある訳もあるまい?」
「いやお前に手を出さないのはそういうのとは全く違う理由だが。うえっ、考えただけでサブイボでてきた」
「なんだとー!?」
おぉ、ガンドレイクの奴、猫みたいに毛を逆立ててる。おもしろ。
まあ、ぐだぐだ言うのもこのぐらいにしておいて、キャンプの準備に取り掛かる。
携帯燃料を燃やして火を確保し、携帯テントを展開する。食料に関しては、現代の利器である携帯食料をフル活用だ。ただのキャンプなら、こういう場でしか食べられないキャンプ飯を楽しむ余裕もあるが、迷宮探索では必要な栄養を取るのが最重要である。ついでに食べ過ぎてもいけない。
お湯を注ぐだけで完結するカップラーメンに、空腹を抑える薬や胃腸を整える薬、各種ビタミン剤を付け足して、本日の晩御飯とする。
「俺はじゃあ、普通のやつで」
「私はシーフードヌードルだな」
「じゃ、じゃあ、私はその……カレー味を……」
それぞれ好きな味を手に取って、蓋をすること三分。
……する事がない。ただ待つだけの三分て妙に長く感じるよな、と思いつつ、カップラーメンに注いだ分の残りのお湯をコップに注いで白湯を口にする。
暖かいお湯、というのはこういう環境では立派な贅沢だなあ、としみじみ感じ入っていると、ふと視線を感じて俺は首を巡らせた。
振り返った先、ばばっ、と顔を逸らす獅子川ちゃん。何よ。
「どうした? 何かきになる事が?」
「あっ、いえ、その……いやまあ……今更の事なんですけど……」
「ふんふん? 何?」
続きを促すと、ちょっとためらってから、獅子川ちゃんは凄く言いづらそうに、俺にとんでもない事を訪ねてきた。
「もしかして、お二人は恋人同士……とか?」
「!? げぇほっ、えほっ!? げほほっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
気管にお湯が入って激しくむせる。怪我とは違う苦痛に苦しんでいると、ここぞ言わんばかりに隣の銀髪が元気よく返事をした。
「違うぞ!」
「あ、そ、そうですよね、失礼しまし……」
「私はトモキの女だから、彼氏彼女という曖昧な関係ではないぞ!」
爆弾投下しやがったよこの野郎!?
言ってやったぞ、という顔でふふーんと胸を張るガンドレイク。一方、獅子川ちゃんの視線は……その……ありていに言って人前にお出しできない感じの視線です。はい。怖い。
「……春日井さん?」
「待ってくれ頼むから弁明させてくれ」
幸い、まだ彼女とは交渉の余地がある。
俺は咽ながら、ガンドレイクとの関係について弁明を試みた。
「俺の女云々はコイツが勝手に言ってるだけだ。まあ色々あってな、ガンドレイクは俺に強い恩義を感じてるっていうか、借りがあるんだ。で、それを返すために、そんな事を言っているが俺は受け入れてない、そういう事。OK?」
「うむ! 私はいつでもウェルカムなのだがな、布団に入り込んでも部屋から閉め出されて翌朝まで入れてもらえなかったぞ! 酷いだろう?!」
「え、ええ……?」
幸い、ガンドレイクにこの機に乗じて俺を社会的に抹殺しようという意思がなかったおかげで、口裏を合わせる事もなく獅子川ちゃんは状況を理解してくれたようだ。
が、にも関わらず彼女の視線はこう、冷ややかというかドン引き気味だった。何故。
「その、ガンドレイクさんとそういう関係? ではないのは分かりましたけど、ええ? ……同棲してるのは事実なんですよね?」
「同棲じゃなくてルームシェアみたいなもん。鳥肌立つからそういう言い回しはやめて」
「えぇ……? でも、その、同じお風呂を使って、同じ部屋で生活してるんですよね? ……恋人では?」
だから違うんだってば!
そりゃあ確かに、一見男女が共同生活してたらそういう関係を意識するかもだけど、こいつは見た目はこんなんなだけで男なの! 部屋だとシャツ一枚のだらしねー恰好でビールガブ飲みしてお腹をぽっこりさせてるような完全無欠の生態:おっさんなんだ。
「確かに共同生活はしているけど、少なくともそこに恋愛感情はない! どっちかというと、面倒なペットの世話をやかされているというか……」
「私を犬猫というか。前から思っていたのだがなトモキ、お前は私の事をとんでもないアホだと思ってやしないか!?」
「思ってはないけど凄く迷惑かけられてるのも事実だってのを自覚してほしいかな? なんだったら最近、お前の割った皿の数と部屋に転がってるビール缶の数を数えてみるか、うん?」
「ごめんなさい」
素直でよろしい。
ごめん寝の姿勢で屈服したガンドレイクの後頭部を見下ろす。わかってるんなら逆らうんじゃないよ、雑魚め。
久方ぶりの完全勝利の余韻に浸っていると、今のやり取りを見ていた獅子川ちゃんも、納得したように頷いた。そうか、わかってくれたか。
「なるほど。わかりました。つまり春日井さんは……ゲイなんですね!」
ピピー、とタイマーの音が高らかに鳴り響いた。