リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第三十三話 くっつき虫現る

 

「ほんとにごめんなさい……」

 

「ははは、気にしてないから、ね?」

 

「うぅ……穴が在ったら入りたい……」

 

 早朝にトラブルはあったものの、帰還を再開した俺達。

 

 ある程度腫れは引いたもののやはり歩ける程ではない獅子川ちゃんは、今日も俺の背中の上だ。その彼女は先ほどの騒ぎからずっと顔を真っ赤にして縮こまっている。

 

「オマケに他の冒険者にも揶揄われるし……最悪……」

 

「まあ、皆悪気がある訳じゃないから……。珍しい事じゃないし、背中に担いで運ばれてる冒険者」

 

 特に一階層とかな。冒険者は3~4人パーティーが多いが、浅い階層ほど二人ぐらいのコンビパーティーが多い。怪我した相棒を担いで戻るのは有り触れた光景だ。

 

「うむ。気を落とすな、蘭。通過儀礼のようなものだと思えばよろしい!」

 

「ガンドレイクさん……。うぅ……こ、今回の事、動画のネタにはしないでくださいね」

 

「しないしない」

 

 俺の言葉を引き継いで、ガンドレイクも獅子川ちゃんを宥めにかかる。

 

 しかしなんだろうな。

 

 昨日の時点ではガンレイクの奴、獅子川ちゃんの事は小娘呼ばわりで名前は呼ばなかったのに、朝になったらこの調子である。昨晩テントの中で何か話していたが、あれが理由だろうか。

 

 何を話していたのか気になるが、まあ聞いても応えてくれはしないだろうな。

 

 まあ悪い事ではない。ただ同居人兼管理責任者としてちょっと気になっただけだ。

 

「ほれ。そろそろ出口が近いぞ」

 

「うむ。分かっておる」

 

 そうこうする内に視界が歪み……気が付けば俺達は、迷宮入り口である地下室の真ん中に立っていた。振り返れば、迷宮に通じる不思議な扉。

 

 戻ってきたのだ。

 

「よし。こっからは自分で歩いたほうがいいだろうな。大丈夫?」

 

「は、はい。ありがとうございます……」

 

 しゃがみこんで獅子川ちゃんを床に降ろす。立ち上がった彼女は数歩歩いて調子を確かめるが……。

 

「い……っ、きゃあ!?」

 

「おっと危ない」

 

 バランスを崩して倒れ込みそうになったのを受け止める。紙のように軽い体を受け止めて、ぽんぽん、とあやすように背中を叩いた。

 

「駄目そうか。仕方ない、ガンドレイク、ちょっと先に行ってスタッフから車椅子か何か借りてきてくれ」

 

「…………」

 

「ガンドレイク?」

 

 何やらこっちを見つめているだけで動かない相棒。と、何を思ったのか、彼女は突然、荷物をドサドサとその場に落とした。

 

「あー。何か私も調子悪いなー。ここから一歩も、動けないー」

 

「は?」

 

 そしてあまつさえ、その場で大の字になって転がり始める。

 

 え、何? 何なの?

 

「おい、ガンドレイク、起きろ。邪魔だって」

 

「いやだー。私もつかれた、脚のふしぶしが痛いー。もうあるけなーい」

 

「さっきまでピンピンしてただろうがお前!?」

 

 なんだなんだ突然。ガンドレイクの奴が気紛れなのはいつもの事だけど今回はいつもとパターンが違うぞ。子供か。

 

「おいこら、他の冒険者が来たらどうする。立て、立って歩けっつうの」

 

「やだー。歩きたくないー。どうしてもというなら背負えー」

 

「……はあ?」

 

 え? つまり、そういう事?

 

 俺は抱きかかえた獅子川ちゃんにちらりと視線を向ける。彼女はさきほどから何やら顔を伏せていて目を合わせてくれないが、まあそれは置いておく。

 

 えーとつまり。迷宮でずっと俺が獅子川ちゃんを背負ってたから、自分もなんか羨ましくなった……という事、か?

 

 子供か!?

 

「馬鹿いってないでさっさと起きろ。おーきーなーさーい!」

 

「ぶーぶー。トモキは私にだけ厳しいー。虐待はんたーい」

 

「お前なあ……」

 

 ほとほと困り果てていると、部屋の入口がギィ、と音を立てた。顔を上げると、そこにはこれから迷宮に向かいます、と言った様子の気合の入ったご様子の冒険者一行。

 

 当然、彼らの視界にもこのどたばた騒ぎは目に入り……皆さん、そろって不思議そうに首を傾げた。

 

「……あの?」

 

「すいません……うちの馬鹿がほんっとすいません……」

 

 羞恥のあまり顔から火が出そうだ。

 

 俺は辱めに耐えつつ、仕方なく彼らに頼んで、ここまで車いすを運んできてもらった。

 

 

 

 

 

「すいません……ほんとすいません……」

 

「いや、まあ……うん……」

 

「~~♪」

 

 いつも喧しい待合室だが、今日はその喧しさの質が違う気がする。

 

 周囲から視線を一身に浴びながら、俺は車椅子を押しながら出口に向かった。

 

 車椅子の上では獅子川ちゃんが縮こまっており、それを押す俺の両手にはめいっぱいの荷物、そして背中には両手両足でセミのようにしがみついているガンドレイクの姿。何をどうやっても悪目立ちするのは当たり前だった。

 

「ていうかおい、ガンドレイク。しがみついてるならおんぶって言わないだろ、降りろ」

 

「んー? 聞こえんなぁ」

 

 くっそう、さっきから全く人の話を聞きやしねえ。

 

 一体おんぶのどこがそんなにコイツの琴線に触れたんだ? 迷宮の中だと普通だったろ……いやまあ命のかかってる迷宮で我が儘言わないだけの自制心はちゃんとあるって事だからそれは良いんだが。

 

「はい、お疲れ様でした。気をつけてお帰り下さい」

 

「あ、ども……」

 

 含み笑いの係員さんに見送られて、建物の外に出る。

 

 時刻はちょうど昼前か。まだ日が昇りきっていなくて、朝の涼しさが残っている。

 

 車でどこか食べにいくならちょうどいい時間だが。

 

「獅子川ちゃんはこれからどうする? 俺達はこの後、どっかで昼食食べて帰ろうと思ってるんだけど……よかったら一緒にどう?」

 

「えっ、いいんですか? じゃあ、お言葉に甘えて……「お嬢様!」……っ」

 

 不意に、なんかそうそう聞いた事のない呼びかけが聞こえた。

 

 車椅子の上で、びくっと獅子川ちゃんが肩を震わせる。

 

「ご無事で……!」

 

 声の主が駐車場から走り寄ってくる。

 

 黒いスーツ姿の、ショートカットの女性。彼女は小走りでよってくると車椅子の獅子川ちゃんの横でしゃがみこんだ。

 

 こちらには一瞥もなし。どうやら文字通り俺らの事は眼中にないらしい。

 

「昨晩、ご連絡が無かったので心配しました」

 

「……迷宮にいってたんだから当たり前でしょ。場合によっては泊まりになる、っていったはずですよね」

 

「だとしても心配はしますよ。ほら、帰りましょう。脚を怪我されたのですか? 私が押していきます」

 

 そういって、視線すら合わせずに俺の手から車椅子のハンドルを奪う女性。

 

 うわあ。めたくそ失礼だなこの人。

 

 と思っていたら、ものすごく不機嫌な猫の呻きみたいな声が車椅子から上がった。

 

「渋川。ふざけているの? 私の顔に泥を塗るつもり?」

 

「はっ……?」

 

「今、自分がどれだけ失礼な事をしたのか自覚できないなら、即刻我が家から出て行ってください。そうでなければ、春日井さんに謝って。……すぐに!!」

 

 一瞬、ビリッ、と肌が震えるほどの怒声。滅茶苦茶怒っておられる。

 

 それを受けて、渋川と呼ばれた女性執事は俺にぺこぺこと頭を下げたけど……うん、こりゃ駄目だ。怒られたから謝ってるだけ。別にそれが悪いとは言わないが、露骨すぎんのはちょっとどうかと思う。

 

 呆れていると、まるで親のように獅子川ちゃんは俺に頭を下げた。

 

「申し訳ありません、春日井さん。そういう事で、私はこれで。この埋め合わせは、後日必ず」

 

「ああうん、気にしないで。じゃ、また」

 

「はい、失礼します」

 

 そうして、獅子川ちゃんは渋川とかいうおつきの人に車まで運ばれていった。場違いな高級車が駐車場から走り去っていくのを見送り、ガンドレイクと目を合わせて互いに嘆息する。

 

「……獅子川ちゃんも色々大変そうだな」

 

「うむ、そうだな。今後はもっと優しく接してあげるべきかもしれん」

 

「だな」

 

 それとお前はいい加減背中から降りろ。

 

 

 

◆◆

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