リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第三十五話 お手並み艶やかに

 

 ゲートをくぐって横穴に突入する。

 

 面子は先頭にガンドレイク、中英に御堂さん、最後に俺だ。

 

 しかし思い返せば最近第三者を加えて冒険する事やたら多いな。それなりの期間を二人だけで冒険してた事を考えると変な気分だ。

 

 あ、いや、今日は連れてきてないけど獅子川ちゃんは半正式メンバーみたいなもんだからそういう考えは失礼か?

 

 ぼんやりと彼女のぐぬぬ顔を思い返していると、ちょうどまさに御堂さんがその事を訪ねてきた。

 

「そういえば、獅子川蘭さんは今日は呼んでいないのですか?」

 

「え? あ、ああ」

 

「彼女もそれなりの実力者でしょう。人数は多い方がいいのでは?」

 

 ふむ。まあ確かに連れてこようと思えば獅子川ちゃんは連れてこれた。彼女の言う“しばらく”はまだ続いているしね。

 

『獅子川? 他にも誰か仲間が居るのか』

 

『なんで連れてこなかったんだ? パーティーは多い方がいいだろ』

 

 視聴者の皆さんも口々に疑問を連ねる。まあ確かに、人数が多い方が一般的には安牌だ。それだけ負担を分散できるからね。

 

 勿論わかっていて連れてこなかったのはそれ相応の理由がある。

 

 早い話が、単純に実力不足だからだ。

 

「俺が言うのもなんですけど、彼女をここには連れてこれませんよ。ちょっと危ない。保護者から責任を預かっている、というような話でもありませんが、それでもやっぱり彼女は子供ですしね。俺みたいに自己責任という訳にもいかないし」

 

「ふむ? 彼女は学生の中だと相当な使い手だと見ましたけど……」

 

「それでもやっぱり学生レベルです。ただでさえ俺がガンドレイクの足を引っ張っているのに、それ以上の負担をかける訳にはいかないでしょう」

 

 そしてガンドレイクは俺が居ないと冒険しないと言い張っている。やれやれ。

 

『なんかすげー情けない事いってるぞコイツ』

 

『堂々とヒモ宣言。男たるものかくありたい』

 

『動画見てないで働けニート』

 

 仰る通り、ある意味開き直りもいい所ではある。少なくとも、獅子川ちゃんは俺よりは強いからね。こればっかりは、人間関係の話である。

 

 そういう訳だから今回は彼女にはご遠慮願ったという訳である。

 

「……ふむ。どうやら私も少し気を引き締めた方がよさそうですね」

 

 一方、御堂さんはそんな俺の情けない話に飽きれるでもなく、横穴への警戒度を高めた様子。流石プロ、と言いたい所だけど本当に貴方、役所の事務員ですか? その荒事への理解度の高さ、やっぱり政府の暗殺組織かなんかの一員だったりしません?

 

「む」

 

 と、そんな感じで談話に興じていたところで、ピリッとした違和感を覚えて俺は足を止める。全く同時に、先行していたガンドレイクも歩みを止め、コートのファー越しに振り返った。

 

 緊張感にきっと唇を引き結んだ横顔。こうしてみると神がかった造形の美人なんだけどなあ。

 

「ガンドレイク」

 

「うむ。手合いだ。私が蹴散らす事も出来るが……ここは御堂どのの腕前拝見といこう」

 

「了解しました。私としても、実戦における戦力評価のギャップは埋めておきたいですし」

 

 互いに頷き合って、御堂さんが前に出る。

 

『なんだなんだ?』

 

『何も見えないけど』

 

 まだ横穴に入ってそう遠くまでは歩いていない。入口からの光が微かに差し込む、薄暗い灰色の洞窟。鍾乳洞等はないけれど、まるでアリの巣のように天井も床も壁もぼこぼことしていて、のたうつように起伏に富んだ道が先まで進んでいる。

 

 道の向こうは黒々と闇に閉ざされていて……その向こうで、確かに何かが機を伺っている気配がする。

 

 じり、とした緊迫に満ちた空気が流れる。前に出た御堂さんは直立不動の姿勢で待ち構える。その右手は、腰に下げたクロスボウに伸ばされているが、構える事はしない。

 

 早撃ちで勝負するつもりか。

 

 浮遊するドローンの、ジジジジ、という羽音のようなプロペラ音だけが静かに響く。

 

『どうした、急に固まって』

 

『しっ、黙ってみてようぜ、こういうのはプロの世界だ』

 

『冒険者にプロもくそもあるかよ、どうせ全員アマチュアだぜ』

 

 やんややんや、と視聴者のコメントが流れていく。

 

 その会話の流れがひと段落する間もなく、事態は唐突に動いた。

 

『ガァ!』

 

 前触れもなく、闇の中から白い影が飛び出した。洞窟の環境に適応した白いカマキリ。擬態して待ち構えるのではなく、自ら歩き回って獲物を襲うプレデターが、自らの間合いとみて躍りかかる。

 

 その動きはまさに俊足。対面していたのが俺であったなら、驚いている間に死の抱擁を受けているだろう。だが、今回は相手が悪かった。

 

『ギ……ッ!?』

 

 腕を広げて御堂さんに飛び掛かるカマキリ、その前足の付け根にドスン、と鉄の黒い釘が撃ちこまれた。釘の表面には妙な文様が刻まれており、それが燃える線香のように赤く輝く。ジュウ、と音を立てて、炎もなく怪物の体が熱に焦がされた。

 

「火葬礼装」

 

 チャッ、とクロスボウを慣らして御堂さんが呟いた。急所を射抜かれたばかりか高熱に炙られて、ギギギ、とカマキリが最後に身動ぎしてその場に崩れ落ちる。甲殻の焼ける、エグみのある臭いを前に動揺した様子もなく、黒衣の狩人はクロスボウの弦を引いて次弾を装填した。

 

『え、え?!』

 

『見逃した。一瞬だったな』

 

『何が何で何?』

 

 視聴者もあまりに一瞬の出来事でついていけてない様子だ。まあかくいう俺も正確に全てを把握している訳ではないが、まあそういうもんだと割り切る事は出来る。ガンドレイクの戦闘機動とか考えてたら追いついていけないからな。

 

「流石。これぐらいはお手の物ですか」

 

「……いえ。思ったより余裕はなかったです。踏み込んできた瞬間に射抜くつもりでしたが」

 

 それが謙虚なのか本心なのか、ペストマスクで覆われた表情からはうかがえない。ただ、この横穴を甘く見ているという事だけはない、それは確信できた。

 

「これが横穴ですか……。ちょうどいい、視聴者の皆さんにご説明します。今回、この横穴について行政からわざわざ動画配信しているのは、これが理由です。この横穴は迷宮の2層で発見されたものですが……ご覧の通り、とても2層に釣り合った難易度のエリアではありません」

 

「御堂さん、御堂さん。今の戦いはあまりに高度すぎてそれだけじゃ伝わらないですよ。ガンドレイク」

 

「うんむ」

 

 やはり御堂さんも緊張していたのだろうか。客観的な視点に欠けると思いガンドレイクに指示を出すと、彼女もそれは理解してくれたのだろう。

 

 テクテク、と息絶えた筈のカマキリに無防備に歩み寄る。

 

 すると……。

 

「まあ、こいつはこういう性質もある」

 

 息絶えていたはずの死体が、バネ仕掛けのように鎌を振るった。予兆も何もない、トラップのような一撃……それを、あっさりとガンドレイクは斧で叩き斬った。暗闇の中で銀閃すら残さずに翻った刃、その斬撃を跳ね飛んだ鎌の残骸だけが示している。

 

『え、何今の』

 

『死んでない!?』

 

「コイツは完全に絶命しても、しばらくの間は近づいた相手に自動的に反撃をしかける。虫だからな。頭を潰しても動くという訳だ」

 

 

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