リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第三十六話 銀狼大暴れ

 

 朗々と語りながら、ガンドレイクは今度は見える程度の速度で斧を振るい、残った残骸を三つに切り分けた。ここまですれば流石にもう動く事はない。

 

 ダクダクと黄色い汁を床に広げる亡骸から目を逸らし、俺は鎌の破片の行方を追う。見れば、飛び散った破片は壁に突き刺さっていた。それをえいしょ、と引き抜き、ドローンの前でひらひらさせる。

 

「よーくみててくださいね。これを、こうすると……ほれ、ヤバイ切れ味でしょ」

 

 はぎ取りにつかっているナイフと、軽くぶつけ合わせる。……それなりに磨き込んだナイフの刃に、カマキリの鎌は大した抵抗も感じさせず半ばまで食い込んだ。

 

 

 

『うげ』

 

『何その冗談みたいな切れ味。カマキリの鎌ってそういうのじゃないでしょ』

 

『待てよそんな鎌で、あんな抱きかかえるみたいに組み付いてくる訳!?』

 

 

 

 どうやら、視聴者の皆さんにもこの横穴を徘徊する化け物の強さが伝わったようである。騒めくコメントの頷きつつ、御堂さんと視線を合わせる。

 

「……そういう訳です。もし、2層に見合った実力の冒険者が、間違ってここに入り込んだら命はありません。この横穴は階層の端にあり、これまで発見されていませんでしたが……あるいは、それまで見つけた冒険者は、誰一人帰らなかった、という事かもしれません」

 

 

 

『うひぃ』

 

『誰も知らない秘密の場所見つけたー、って喜んで中に入ったら、絶対勝てないような化け物に襲われてお陀仏って訳か……』

 

 

 

 まあそういう訳である。

 

 そしてそれが、今回行政コラボを実施した最大の理由である。

 

「そういう訳です。現状、他に似たような例は報告されていませんが、それは単に生還者が居ないだけ、とも考えられます。ですので、冒険者の皆さんには軽率な行動を控えて頂くべく、こうして生配信動画でその危険性をお伝えしている訳です」

 

 そう。リスクの高い生配信を行っているのは、それが改竄しようがないリアルであるからだ。

 

 記録動画は編集可能だから説得力に欠ける、という訳ではないが、やはり“政府公認の生配信コラボ動画”というのはインパクトがある。事実、零細チャンネルに過ぎないうちの動画にこれだけの人が集まってきている。

 

 って。

 

 なんかどんどん、バイザーの端っこに表示される同時アクセス数が随分と増えているな……。話題が話題を呼び、という奴か?

 

 な、なんか緊張してくるな……。

 

 

 

『マジかよ。一冒険者としてそういう秘密のエリアを夢見た事がない訳じゃないけど、現実は夢も浪漫もなさすぎだろ……』

 

『今更何言ってんだ、迷宮に夢見すぎ。こんなもんが出来て世の中無茶苦茶になったの見てないのか』

 

『それはそれ、これはこれ、だろ』

 

 

 

 どうやら、見る専だけでなく冒険者も集まりつつあるらしい。なんやかんやで冒険者同士には情報交換ネットワークがあるからね、これからもっと増えるかも。

 

 うわあ。凄い事になってきたぞ……。

 

 そしてそれは、御堂さんも把握しているはずで。

 

「よかったですね、チャンネル登録数、これできっと爆上がりですよ」

 

「そ、それは良い事なんでしょうけど、なんか不釣り合いな気がしてきた……」

 

「そうでしょうか、私は別にそうは思いませんが」

 

 ちらり、とガンドレイクに目を向ける御堂さん。まあ確かに、アイツの実力を考えれば本来もっと動画が見られててもいいものな。不釣り合いなのは俺だけか。

 

 しかし、うーん。伸びたい伸びたいと思っていたが、いざそうなると不安になってくるこの小市民ぷりよ。

 

「さ。先に進みましょう」

 

「分かりました。あ、でも、今ので大体御堂さんの実力もわかりましたし……次からはガンドレイクに自由に動いてもらおうと思うんですけど、いいですか?」

 

「それは構いませんよ。普段のお二人がやっているように動いてください」

 

 よし。言質取ったぞ。

 

 ぶっちゃけ、申し訳ないけどあの感じだと、御堂さんに積極的に動いてもらうのはよろしくない。

 

 “ガンドレイクの邪魔になる”。

 

「んじゃ、ガンドレイク。我慢させて悪かったな。次からはお前が思うように頼む。御堂さんは俺の後ろに」

 

「ふははは、分かってるじゃないか。まかせろ」

 

 肩に大斧を担いで、ガンドレイクはずんどこずんどこ大きな歩幅で先に向かう。

 

 その後を自分のハンディカメラを構えて続く。御堂さんは一番後ろに回された事に文句も言わず、黙って後方を警戒してくれている。

 

 それでいい。

 

 彼女も、自分の前に俺みたいな素人がいたら、迂闊に前線の支援射撃をしようとは思わないだろう。

 

「む……」

 

 と、そこで再びの敵の気配。

 

 道の向こうに、闇の中で蠢いている何者かのシルエットがぼんやりと見えて……。

 

 

 

『お、敵だ』

 

『今度はかなり大きいな、一度後退した方が……』

 

 

 

「ガハハハハ!!」

 

 慎重論のコメントをぶった切るようにして、ガンドレイクが飛び出した。地を這うような低姿勢で駆け抜けた体が、直進から俄かに稲妻のように軌道を変える。

 

 ただ早いだけではなく、相手の視界から消える二段重ねの高機動。知っている俺はともかく、初見でこの動きに対応できた奴を俺は一例しか知らない。

 

 そして、此度の相手はその例外ではなかった。

 

 姿を現したのは、灰色の毛皮を持った鹿の怪物。ただ怪物らしくその顔に瞳はなく、代わりに木の枝というより何かの魔法陣のように複雑に枝分かれして捻じ曲がった角に、果実のように無数の目玉がぶら下がっている。見る者を凶器に誘う眼差しは、しかし捉えるべき相手を見失ってあらぬ場所を凝視している。

 

『グギ……』

 

「こっちだこっち!」

 

『ギィ!?』

 

 見失ったガンドレイクの呼びかけに、弾かれたように右側を振り返る怪物。が、そこに既に彼女の姿はない。

 

 一瞬にして壁を駆け上り天井を駆け抜けたガンドレイクが、反対側の側面から無防備な首筋目掛けて強襲した。

 

「はっはぁ! 10年の鍛錬、一瞬の不注意に及ばず!」

 

 一閃。丸太のように太い首を、斧が一撃で両断する。勢い止まらず反対側の壁に着地したガンドレイクが、さらにもう一撃。巨体を支える前足を根本からぶった切られて、首無しの怪物の体が地面につんのめるように倒れ込んだ。

 

 遅れて、思い出したかのように鮮血がしぶく。

 

 

 

『うわあグッロ』

 

『いやまてよ今の動きなんだよ』

 

『重力無視してなかった!?』

 

 

 

 いや無視はしてないよ。

 

 単に戦闘経験の桁が違うというだけだ。なんせ、アイツがいた世界はこういう怪物が有り触れた存在らしいからな、そもそも現代人を比較対象にするのが間違っているのだ。

 

「よし、でかしたガンドレイク。この調子で行こう!」

 

「うんむ! それで、戦利品はどうする? こいつは目ん玉が色々な薬の原料になるぞ? まあでも加工する人間に心得がないと発狂するが」

 

「そんなもん市場に流せるか、まだ先は長いし勿体ないがおいていこう。後片付けだけはしておくか」

 

 通路の脇に、怪物の死体を寄せてシートをかぶせておく。まあしばらくたてば、この横穴を徘徊している怪物達が亡骸を片付けてくれるだろう。

 

「なんか手慣れてます、ね……」

 

「まあ、そら冒険者ですから」

 

「いや、そうではなくて……まあいいです。先に進みましょう」

 

 何やら言いたげな様子の御堂さんだが、結局要領を得ない事をぼそぼそ呟いて首を振った。

 

 なんだろうな?

 

 まあガンドレイクが人間離れしてるのは分かるが、まだまだ序の口だ。悪いけど御堂さんには、このまま俺の護衛に専念してもらおう。ガンドレイクだってたまには思う存分、足枷が無い状態で暴れさせてやりたい。普段から現代社会に合わせて窮屈な思いをさせてるしな。

 

 

 

『うーんアンジャッシュ。常識のすれ違いって怖い……』

 

『もしかしてこの配信ずっとこの調子なのか?』

 

『今からでも遅くない、R18Gタグつけた方がいいと思う……まあ迷宮配信なんて今更か』

 

 

 

 ちょっとコメントの勢いも元気がない。

 

 まあ、いきなり首ちょんぱのずんばらりはショッキングだったか、一応モザイク入ってるはずだけど……はいってるよな? 信じてるからね政府公認の動画フィルターさん?

 

 生中継はこういうのが気を使うんだよなあ。

 

 ま、うん。

 

 御堂さんが何も言ってこないんだからよしとしよう。

 

「おーい、行くぞ!」

 

「わかってるって」

 

 斧を肩に担いで催促するガンドレイクは、ピクニックを待ちきれない子供のようだ。

 

 俺は苦笑しつつ、荷物の入ったカバンを背負い直してその後を追った。

 

 

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