リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第三十七話 血の気が多い奴

 

 一度は攻略した、といえる横穴。

 

 それはガンドレイクからすれば大した危地ではない、という事ではあるが、あの時彼女は彼だったし、そもそもここの獣の牙がガンドレイクに届かぬという訳ではない。

 

 状況次第では、多少の苦境に立たされることもある。……当たり前だ。

 

「ガンドレイク、今度は二匹来るぞ! 御堂さんは背後の警戒を!」

 

「はははは、お代わりか! まだまだいけるぞ!」

 

「後背は私にお任せを……!」

 

 曲がりくねり分岐に満ちた横穴の奥。入口から遠ざかるにつれて暗くなっていくはずだが、どういう訳か奥にいけばいくほどぼんやりと明るい。光源は見当たらないのに不思議な話だ。

 

 一方で怪物との遭遇頻度は高まるばかり。さらに分岐を通ったという事は後背のクリアランスも十全ではなくなる、という事であり、背後からの襲撃にも備える必要がある。

 

 いましがた交戦した狼とアルマジロを足したような怪物の亡骸を脇に蹴り飛ばし、返り血を浴びたガンドレイクが戦意も高く哂う。その彼女に向かって進撃してくるのは、2種の怪物。

 

 一匹は目の無い巨大なヤモリのような怪物。もう一匹は頭が恐竜のダチョウみたいな奴。

 

 ヤモリみたいな奴は見た事がない奴だ、新種か?

 

 

 

『うげえまた新顔がきた』

 

『この横穴どうなってんだよ化け物のバーゲンセールじゃねえか』

 

『いっそナパーム弾か何かで焼き払った方がよくない!?』

 

 

 

 コメントも阿鼻叫喚である。最初こそやんややんやと囃し立てていた彼らも、矢継ぎ早に現れる怪物にすっかり現実主義になっていた。まあ、配信の目的を考えるとこれでいいのだが。

 

「くははは、何が来ようとこの大戦士ガンドレイク様の敵ではなーい!」

 

 髪を振り乱して突撃していくガンドレイク。だがその動きは、俺の目には聊か粗雑なものに見えた。アイツ、血に酔いすぎて頭が回らなくなってきたな?

 

 ある種のバーサーカー状態だ。格下相手に暴れているとままある。

 

 逆に言うとそれだけの差があるから心配事ではないが、この横穴は少々話が違う。ここは“黄金竜”が潜んでいたアジトだぞ?

 

「ガンドレイク、待て!」

 

 警告を飛ばすが、聞こえている様子はない。

 

 対して、彼女の突撃に備える怪物二匹組、その後背に控え天井にぶら下がるメクラヤモリが動きを見せた。

 

 まるで仰け反るように頭をもたげ、体を逸らす。地味な灰色の体表に見えたが、裏側は目にけばけばしいまでのサイケデリックな色合い。その喉元に、巨大な一つ目。

 

 ぎろり、と怪物の瞳がガンドレイクを見据えると、目に見えて彼女の動きが鈍くなった。こいつは……!

 

「う、お……むぅ!?」

 

 手足を取られたように動きを鈍らせたガンドレイクに、ダチョウの化け物が襲い掛かる。先手を取られていたはずの怪物が先に動き、牙をむいて齧りついた。一瞬受け止めるかどうか迷った様子のガンドレイクが、最終的に紙一重で回避する。ボッ、と噛み合わされた顎の軌道上に、引き千切られた銀糸が数本、宙を舞った。

 

 

 

『なんだあれ?! ダチョウ? 恐竜?!』

 

『いやそれよりもあのヤモリの目だ! あれが見えた途端、ガンドレイクちゃんの動きがおかしくならなかった!?』

 

『マジックエフェクト……?! 2層に繋がってるエリアの怪物が使っていい訳ねえだろそんなもん!?』

 

 

 

 魔法、魔術、妖術、サイキック。それを評する言葉は数多あるが、一つはっきりしているのは物理法則を超越しているとしか思えない現象であるという事。

 

 迷宮の深層に進めば、現実の法則が崩壊しつつあるかのようにそういった力を繰り出す怪物が現れる事がある。当然、一般的な冒険者が関わりあいになる事は殆どない、迷宮が一般的になった今でも眉唾物の存在だ。

 

 それが政府公認の行政コラボの生配信で出現する、その衝撃は大きいだろう。まあぶっちゃけ、二匹目の鹿の時点でそういう力は使ってきたのだが、発揮する前にガンドレイクが首をすっとばしたしな。

 

 俺?

 

 ガンドレイクと一緒にいるうちに嫌でも慣れたよ。

 

 それはともかく、案の定ピンチに陥っている様子。実力は十分で格上相手にすら勝ちを奪っていくくせに、格下相手だと変に油断してああやって追いつめられる悪癖はどうにかならんのかね。

 

「あんの馬鹿……」

 

「っ、春日井さん、背後からも怪物が!」

 

「ええ!?」

 

 御堂さんの警告に振り返ると、彼女の言葉通りにアルマジロ型の獣がこちらに向かって転がってくるのが見て取れた。

 

 

 

『不味い、挟み撃ちだ!』

 

『どうすんだよこいつ役所の人のボウガン効かなかったじゃん!?』

 

『ガンドレイクちゃん助けて! いやガンドレイクちゃんを助けろ!』

 

 

 

 まずい、コイツの突進と防御力は御堂さんでは対応できない。かといって、どうにかできるガンドレイクは今手が離せない……。

 

 ええい、面倒な。

 

「ガンドレイク!」

 

「! わかった!」

 

 合図一つと共に鞄から取り出すのはお手製カラーボール。真っ赤な色のそれをアンダースローで天井のヤモリ目掛けて投擲する。

 

 

 

『?』

 

『???』

 

『え、なにそれ、防犯ボール? 何で今?』

 

 

 

 それに対し、怪物は当然無防備ではない。魔眼を露出させたまま、口から一瞬だけ舌を伸ばして迎撃する。弾丸のような舌に空中で迎撃されて砕け散るカラーボール。

 

 それでいい。むしろそっちから砕いてくれて助かったよ。

 

『ギ? ……ギィイイ!?』

 

 ふぁさあ、と広がる赤い粉末の霧。それに触れたメクラヤモリが、悲鳴を上げて天井から落ちる。床に落ちた怪物は、そのまま反り返るようにしてもんどりうって悶え苦しんだ。

 

 辛味と苦味と渋味のオールスパイスだ、まあどれかが効いたのだろう。

 

 そしてそれは、ガンドレイクの動きを縛っていた呪縛が消えるという事でもある。

 

 ダチョウザウルスの噛みつきをこれまでとは段違いの動きで回避し、大きく距離を取ったガンドレイク。両手で斧を構えてぶんぶんと回す様を見て、俺は慌てて御堂さんに飛びついて引き倒した。

 

「危ない伏せて!」

 

「えっ、きゃあ!?」

 

「どっせぇい!!」

 

 彼女の頭を押さえて床に伏せた直後、体全体でガンドレイクが大斧をぶん投げた。

 

 唸りを上げて飛来する鉄の刃。それは御堂さんのクロスボウをものともせずに転がってきたアルマジロの甲羅ど真ん中に直撃すると、そのまま割砕き、その下の脊椎をへし折り、逆方向にくの字に曲がった体ごと吹っ飛んだ。

 

 あまりにえげつない破壊力、どう考えてもアルマジロは即死だ。

 

 

 

『ええええええ』

 

『人間ミサイルランチャーかよ!?』

 

『い、いや、だけどガンドレイクちゃんが素手じゃん! 危ないって、まだ変なダチョウが……!』

 

 

 

 そう、今ガンドレイクは唯一の武器を手放している。

 

 だが心配はいらない。

 

 あの大戦士が、得物を失ったぐらいで戦えなくなると思うか?

 

 むしろこっからが本領だ。あの馬鹿は、追いつめられた方が真面目に戦う。振り返った先で繰り広げられているのは想像どおりの戦いだった。

 

『ギェエエ!』

 

「ふん!」

 

 噛みつきを素早く回避するガンドレイク。

 

 そして前のめりになった怪物の下に潜り込んだ彼女は、籠手に覆われた抜き手を、ダチョウザウルスの下顎の付け根、喉元へとぶち込んだ。

 

 そう。見た目と形が既存の生物のそれに似ているならば、その部分は骨で守られていない構造上の急所。人間相手であれば狙うのは難しいが、自ら頭を差し出すように噛みついてくる獣相手ならば、大戦士にとっては簡単な事である。

 

『グボギョ!?』

 

「ふん!」

 

 そして鷲掴みにした頸椎をゴキィとへし折る。くたり、と脱力した怪物の亡骸を、しかしガンドレイクは解放せず鷲掴みにしたまま、未だもんどりうっているヤモリへと向かっていった。

 

 そして……。

 

「ふんぬ! ふんぬ! ふんぬぅ!」

 

『ギィイィ!?』

 

 怪物の顎を即席の武器にして、ひっくり返ったヤモリをめった打ちにする。ずらりと並んだ牙の鋭さは死んだ後も健在であり、それによってズタズタに引き裂かれたヤモリから苦悶の悲鳴が上がった。

 

 

 

『う、うわああ』

 

『バイオレンス&スプラッタ……』

 

『冒険者ってこういうものだったっけ?』

 

 

 

 コメントはドン引き。まあ妥当ではある。

 

 目の前で繰り広げられている惨殺ショーから目をそらしていると、もぞもぞ、と体の下で御堂さんがうごいた。あっ、しまった、引き倒して覆いかぶさってそのままだった。

 

「あ、あの、大丈夫ですから……」

 

「すいません。吃驚しましたよね、申し訳ない」

 

「い、いえ。必要な処置だとは分かっていますので……」

 

 慌ててどくと、御堂さんはすらりと立ち上がって衣装の汚れを手で払った。ペストマスクで覆われたその表情はすけて見えないが、まあ怒っていないとは思う。

 

「をほん。しかし、想定以上の難所ですね。我々だけで調査を試みていたら犠牲者が出ていたかもしれません。勉強になります」

 

「いえいえ。こっちも有無を言わせず、すいません。まあでもガンドレイクの真似はしない方がいいです。蛮族のやる事なので。……あれが文明人のやる事だと思います?」

 

「よぉし、殺ったぞー!」

 

 見ればちょうど、ヤモリにトドメをさしたガンドレイクが勝鬨と共にもぎ取ったその頭と、引き千切れたダチョウザウルスの頭を掲げて吠え猛る所だった。

 

 血塗れ肉片塗れで勝ち誇るガンドレイクの有様に溜息をつく。

 

 強制的に頭を冷やしてやるべく、俺はカバンから無糖炭酸水のペットボトルを取り出すと、シャカシャカと振りながら近づいた。

 

「すこし落ち着け」

 

「みぎゃーー!?」

 

 

 

 

 

『塩対応がすぎる』

 

『手慣れすぎてて草』

 

『さては保護者だな?』

 

 

 

 ええい喧しいよ視聴者の皆さん。

 

 

 

 

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