リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す!   作:SIS

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第四話 冒険者のオフデイ

 

 迷宮配信を生業にしている冒険者とて、四六時中迷宮に潜っている訳ではない。

 

 むしろその逆。

 

 命がけの迷宮探索にあたって、コンディションを整えるのは必須。よく寝て、よく食べて、よく運動する。そういった普段からの下準備こそが、本場において物を言うのだ。

 

 そもそも、日常生活を疎かにしている者に、決して冒険者は務まらないのである。

 

「く……電気代が先月は6万円……水道代も3万円か……」

 

 そんな訳で、その日俺は家計簿を前に頭を悩ませていた。

 

 迷宮出現に前後して発生した異常気象や海流の乱れ、果ては空間の乱れや何やらでグローバルな物流が寸断された現代社会。多少は落ち着いたものの、生活に必要なコストは酷いインフレを起こしたままだ。

 

 それでいて、一方的に会社から首を斬られた俺にはこの物価高をやり過ごす為の十分な貯金もない。迷宮からの収入だけでは十分といえず、節約・倹約は必須である。

 

「ううーん。電気代もうちょっとどうにかならんか? ならんよな……これでもまだマシか。オール電化にしてたからガス代はかからんわけだし……。相場を見る限りだとガスはこの数倍だもんな。うーん……かといって食費を切り詰める訳にはいかんし。迷宮探索は体が資本だ」

 

 今月もカツカツの家計簿を前に頭を捻る。

 

 とはいっても、もう何か月も前から我が家は切り詰めモードだ。これ以上切り詰める事はちょっと難しい。

 

 節約はコスパが肝要だ。数十円の節約のために、何十キロも先のスーパーに歩いていくような真似はトータルで言うと損をしている。

 

 その辺りを考えて切り詰めていく必要があるのだが、いかんせん決断というのは難しい。今日も俺は頭を悩ませるだけ悩ませて、結果を出せずにノートを閉じた。

 

「はあ……。動画編集でもするか……」

 

 ぼやきながらパソコンを起動すると、申し合わせたように扉の向こうから馬鹿笑いが聞こえてきた。同時に、キンキンガキン、とTVの音。

 

「あっひゃははははは……」

 

「……はあ。気楽な事で」

 

 朝からずっとテレビを見ている同居人に小さくため息をついて、俺はリビングに顔を出すと小さく苦言を呈した。

 

「おい、ガンドレイク。テレビを見るのはいいが、もう少し音を小さくしろ」

 

「おっと、これはすまん。迷惑だったか?」

 

 我が家のリビングには、小さなテーブルとソファ、そしてテレビが置いてある。10年ものの、当時奮発して購入したワイドテレビは、しかし今やテレビ番組を映す事はなくネット番組専用と化している。今も、有名配信者の動画を画面いっぱいに映し出している最中だ。

 

 そんなテレビの前で、ガンドレイクはソファに座って寛いでいる。

 

 身に着けているのは気崩したTシャツとトランクス、おまけに真昼間からビール缶を開けているその様は、休日の中年オヤジ以外の何物でもない。

 

「あと、馬鹿笑いはやめろっつってんだろ。ていうか昼から何飲んでんだ」

 

「悪い悪い。だがなあ、せっかくの休日だ。娯楽に耽り酒精に浸らねばむしろ失礼というものではないか?」

 

「寛ぎすぎだっつってんだよ」

 

 というかいくらなんでもだらしない恰好が過ぎる。ああもう、肩とか脇とか丸見えでみっともない!

 

 本来なら眼福かもしれないが本気で何とも思えない自分が悲しい。

 

「言っておくが、今月も厳しいんだから無くなってもビールの追加はせんぞ」

 

「わかっている、わかっている。んぐっ、ぷはーっ。いやあ、しかしこの世界のビールは美味いな! 酒精は強いし、何より味に濁りがない! 私の故郷にもっていったら、王侯貴族がこぞって大金をはたいてでも求めるだろうな!」

 

「飲んべえ多すぎだろ地獄かよ」

 

 お説教の最中でも構わずビールを煽るよっぱらいに溜息。はあ。仕方ないとはいえ、俺はなんでこんな飲んだくれの中年のおっさんを飼ってんだよ……。

 

 どうせ飼うなら犬猫の方がいい。まあ、今の世の中、ペット業界は商売あがったりらしいが。

 

「で、何見てるんだ?」

 

「『健次郎のこんなはずじゃなかった探索紀』だ! 今回も面白いぞー」

 

「お前、その配信者の動画ほんっと好きだよなあ……」

 

 ちらりと視線を向けると、画面の中では地獄みてーな溶岩地帯で、必死に逃げ回ってる冒険者の様子が映されている。そんな彼らを追いかけるのは、見上げるような巨体の怪物だ。肉食のサイとでもいうような、鋭い牙をもった獰猛な獣が、地面を踏み砕き岩を弾き飛ばしながら、逃げる冒険者を追いかけている。というかこれ撮影者もすげーな、撮影しながら自分も一緒に逃げてるんだろ? 根性ありすぎだろ。

 

 『健次郎のこんなはずじゃなかった探索紀』は、タイトル通り健次郎という冒険者の配信動画だ。これの面白いのは基本的にただ動画の切り抜きを垂れ流しているだけなのに、毎度毎度、とんでもないトラブルに見舞われるせいでノンフィクションにも関わらずもドラマ性に富んでいる事だ。

 

 いやほんと、毎回、入念な事前準備と下調べを欠かさないにも関わらず、いざ迷宮に潜ると斜め上のトラブルに見舞われて酷い事になっているのである。

 

 なおやらせ、という可能性は皆無だ。同じ冒険者として、これはガチだって判断できる。

 

 それはガンドレイクの奴も保証していて、そしてコイツは毎度毎度、健次郎が機転を巡らせて窮地を乗り越えるのを楽しみにしているという訳である。

 

「いやはや、それにしてもここまで天運に愛されているという戦士も珍しい! この世界の神々とは趣味があいそうだ!」

 

「天運に愛されてる? 見放されてるの逆だろ?」

 

「なんの、本当に見放されていたらとっくに野垂れ死んでいる。力ある戦士には、それ相応の試練を与えるのが天というもの! 苦難を乗り越えてこそ、戦士の魂は磨かれるのだ」

 

 知ったような事を口にするガンドレイクだが、俺から言わせれば蛮族の倫理ってこえーな、としか言いようがない。神様ってのはどいつもこいつもサディストなのか?

 

 まあ、ガンドレイクを遣わした女神モルガンってのは確かに良い性格をしていたが……。

 

 動画に視線を戻すと、映像の中では崩れた崖から危機一髪で這い上がってくる健次郎氏と、その背後でマグマに落ちていく肉食サイの姿。どうやら今回も、ぎりぎり間一髪、危機を逃れたという事らしい。

 

 真っ青な顔でぜいぜい息をしながら、それでも画面に向かってピースした所で、動画は終わる。

 

 そうすると、次のおすすめ動画が自動的に再生されるのだが。

 

「げっ」

 

「お、なんか見た顔だな」

 

 動画再生の予告欄にでてくる少年少女の顔ぶれには覚えがあった。こないだ、迷宮探索中にガンドレイクと揉めた鷲山君一行だ。そいや彼らも撮影機材持ち歩いていたし、配信してるよな。

 

 げげげ。もしかして、あの時のひと悶着も配信されてたりするのか? うげげ、見たくない、どうせボロクソに言われてんだろ?

 

「あの時の少年達か。ふむ、どんな配信を流しているのか、ちょっと見て見ようでは……」

 

「はい終わり。終了。電気節約ね」

 

「あーーっ!?」

 

 プチッ、とテレビの電源を落とす。横でガンドレイクが尻尾を踏んづけられた猫のような声を上げるが、無視だ無視。

 

「なんで消すのだ!? これからが面白い所だろうに!」

 

「そっちこそいつまでテレビ見てるんだよ。電気代節約しろっつっただろうが、テレビは一日2時間まで!」

 

「そ、そうはいってもだな、私には他の楽しみが……」

 

 しょぼくれた顔で指をつんつんしていじけるガンドレイク。ええい、いいおっさんが子供みたいな仕草をするな、気持ち悪いわ!!

 

「だったら庭の草でも抜いてこい! ついでになんか食べられる野草でも見繕って来ればいいだろ、少しは家計の足しになる事をしろ! お前がそうやってかぱかぱ飲んでるビールが今いくらすると思ってんだ!!」

 

「う……。わ、わかった。そうする……」

 

 しょんぼりと肩を落としてソファを後にするガンドレイク。そのまま玄関から出ていこうとする馬鹿を、俺は慌てて呼び止めた。

 

「その恰好で出るなあ! ただでさえご近所から白い目で見られてるんだ、余計な火種を追加するな!」

 

「いや、しかし動きやすいし……」

 

「ジャージでもなんでもいいから服を着替えろ!」

 

 ああもうこれだから、普段から半裸みてーな恰好で過ごしてた蛮族文化圏の人間は!!

 

 しぶしぶジャージに着替えて草むしりにいく小さな背中を見送って、俺は自室で編集作業に戻った。

 

「まったく。ガンドレイクのおっさんにも困ったもんだ……」

 

 溜息をつきながらパソコンに向かう。軽くネットニュースを確認すると、いくつか時事ネタが流れてきていた。

 

 

 

『幹線道路に奇妙な生物出現。2時間の追走劇の行方は』

 

 

 

『政府、新たに3つのダンジョン発見を正式に公開。戦略資源の発見なるか?』

 

 

 

『能登採掘迷宮にて異変発生。原油高に影響の見込み』

 

 

 

 どれもこれもろくでもないニュースだ。

 

 まあ、今の世の中なんてそんなもんだ。善い知らせは、自分の身で探すしかない。

 

 さしあたって、大きな話題がない事を確認して動画制作に戻る。編集ソフトを立ち上げる……が、もう買って何年も経つPCはいささか動きが鈍い。立ち上がるのを待つ間、俺は少し気になって窓から庭を観察した。

 

「お、やってるやってる」

 

 家庭菜園の畑の傍らで、しゃがみ込んで草を毟ってる銀髪の頭が見える。なんだかんだで、ガンドレイクは真面目な奴なのでやるべきと判断したらきっちりやってくれるのだ。

 

「……俺もちょっと言い過ぎたかな。後で、ビールの一本でもオマケしてやるか」

 

 そのためには小銭を稼がないと。俺は気を切り替えて、立ち上がった動画編集ソフトに向き直った。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

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