リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
「はい、召し上がれ」
俺もお手製コンビーフサンドイッチを口にする。
……一言で言うと美味しくはない。油と塩の塊というか。健康とかよりも、迷宮内での迅速なカロリー補給の意味合いが強い食べ物だ。ピクルスが挟んであればまだマシかもしれないが、おこちゃま舌のガンドレイクはあれを嫌がるんだよねえ。
いや、まあ分からなくもないけど。多分彼女の地元だと保存食は塩っ辛いか酸っぱいかのどっちかでよい思い出がないんだろうしね。
だからこその味噌汁である。口の中に残るべたついた脂質やコンビーフの後味を、味噌汁で流してさっぱりとする訳だ。まあ味噌汁も塩辛いし、塩分がトータルで言うと随分多いかもしれないが、迷宮内での活動は生死を伴う分思った以上に消耗する。その自覚がなくてもシャツが流した汗でギトギト、なんて珍しくもない。
サンドイッチを一切れ残し、暖かい味噌汁でほっと一息吐いているとそれはあちらさんも同じだったようで、御堂さんがしみじみと呟いた。
「温まりますねえ……」
「ですねえ。……ガンドレイク、よかったら残りも食べるか?」
「いいのか?! いただくぞ!」
許可を出すなり霞のようにサンドイッチが手元から消える。気が付いた時には彼女の口の中である。あまりに迅速な動きに苦笑しつつ、俺は鞄からウェットティッシュを取り出すとベタベタの彼女の顔を拭ってやった。
「ほれ、ガンドレイク。口元が汚れてるぞ」
「んぐむぅ」
『完全に保護者だコレ』
『いやどっちかというと大型犬の世話をしている飼い主……』
バイザーの中をコメントが流れていく。初見さんかな? いつも言われるよ。
いい加減慣れた。
実際、普段のガンドレイクは首輪をつけてない犬みたいなもんなんだよな……。ちょっと目を離すとどこかにすっ飛んでいくんだから。
いやでもどっちにしろちょっと社会倫理的には危ない光景か?
そう思っていると、また別のコメントが流れてきた。
『幼女使い……と思ったがガンドレイクちゃん思ったよりも成長しているというかムチムチしてるか。というかよく見たら普通にエッチくない?』
『処刑』
『異議なし』
……ちょっとガンドレイクの世話を焼きすぎかもしれない。今後気をつけよう。
あとコイツはやめとけ。中身が男だと知っててもそれを言える業の者であれば好きにすればいいけど。
「へぶっ」
「はいはい、あとは自分で拭くように」
ガンドレイクの顔にウェットティッシュを押し付けて手を引く。席に戻ると、御堂さんが苦笑いしながらこっちを見つめていた。
「あの……いつもこんな感じで……?」
「いやまあ。他意はないというか、コイツがあんまりにもズボラなもんで……」
「はあ……」
チラチラ、と御堂さんの視線が訝し気に俺とガンドレイクの間を往復しているのを感じる。
もしかして事案かと疑われている? ち、違うんです、別にグルーミングとかそういうのではなく……。
「……ところで、いつもこんな感じの食事をとっているんです?」
「?!」
はっ、これはもしかして探りを入れられている?
普段からまともな物を食べさせてない害悪保護者みたいな視線で見られているのか?!
「いやそんな事はないですよ、これは過酷な環境に合わせた限界食みたいなもんで。な、なあ、ガンドレイク。普段はもっとまともなもん食べさせてるよな?」
「うむ! トモキは料理が上手だな! この間食べた、蒸したサソリの鋏は絶品だったな……!」
「サソリの鋏……?」
おおぅ別の意味で疑惑を深められてる!!
「ほ、ほら、迷宮内ではある程度自給自足も出来た方が助かるでしょ? そういう訳で、2層の砂漠に潜んでいるサソリの鋏を蟹みたいに酒蒸しにしてですね……?」
「ああ、そういう事ですか。そうですね、最近は比較的低階層で怪物を食べる文化が発達してきているようですね。クセはあるものの、ジビエみたいな感じで広まっているとか。役所でも、それを受けて今後の動きを考えている所です」
「え、ええ。そういう感じです。なんせ生鮮食品を迷宮に持ち込む訳にはいきませんからね。食べられるなら怪物だって食べた方がいい訳です」
勿論、毒があるのかないのかわからないようなのにチャレンジする事はない。
一度サンプルを持ち帰って、ちゃんと調べてもらってからお墨付きがついたものだけ食べている。この横穴に関しては、関わる事自体が厄ネタなので稼ぎに来ることもないし、結果必然として食べられるか調べていないから食料にもしない。
あくまで、迷宮内での活動時間に余裕を持つための怪物食なのである。
『ははー。最近、ちょこちょこグルメ動画みたいなのが上がってるのはそういう事なのか』
『潜水艦とかでもまずは野菜とかを真っ先に消費して、段々缶詰とかになっていくっていうしな。ある意味迷宮冒険者は潜水艦乗りと同じか』
『まあ実際の所、いう程美味しそうにも見えないけどな。アク抜きとか苦戦してたり、元の味すんのかってぐらいスパイスぶっかけたりするし』
コメントからも、最近の冒険者の創意工夫が伝わってくる。やっぱみんな苦労してんだよなあ……。
あのサソリの鋏も比較的食えるってだけでちょっとエグみがあるし。ネギとか香味野菜持ち込んで一緒に煮込んだりしたら消せるかもしれないが、迷宮内にそんなもん持ち込むのは本末転倒。現地の野草とかでカバーしようにも2層はご存知の通り全面砂漠である。
何事もうまくいかないものだ。
ちなみに、迷宮は下層にいけばいくほど明らかにくえねーだろこれ、ってのが増えていく。さしもの俺も、ミノタウロスみたいなやつの肉とか食べたくはない。
「なるほど……? つまり、これが最低クラスの料理、と。ふむ……」
「あの……御堂さん?」
「ああいえ、深い意味はないんですよ。ただ、ガンドレイクさんは普段から良い物食べてるんだな、と」
にっこり笑う御堂さん。
役所的に問題なかった事に胸を撫でおろすが、同時にちょっと聞き捨てならない言葉に冷や汗が流れる。この適当サンドイッチを最低クラス、と評するのはまあ分かるが、それをもって“普段良い物食べてる”判定になるのはおかしくないか? 引き合いに出したの、ゲテモノ料理の類であるサソリの酒蒸しだぞ?
『さてはこの役人メシマズの一族だな』
『いや、わからんぞ。限界OLみたいな酒とつまみの食生活送ってるのかもしれん』
『どっちにしろ食生活やばそーだな』
そのあたりを敏感に見て取ったのか、コメントにも不穏な言葉が流れてくる。
気のせいか、ビキッ、と御堂さんのこめかみが引き攣った気がした。いや、でも今はペストマスクはずしてるしバイザーしてないからコメント見えないはずなので、多分気のせいだが。
「え、ええと。まあ、食事も終わって休憩もできましたし、そろそろ先に進みますか?」
「あ、はい。そうですね。ご馳走様でした、よい休息が取れましたね」
「私はちょっと物足りないが、戦場では腹六分目ぐらいがいいとも言うしな。問題はない!」
異論はないらしい。
椅子や皿を片付けて、ゴミは圧縮して持ち帰る。こういう時に、ガンドレイクの馬鹿力は頼りになる。ゴミを入れた袋をぎゅーーーーっとビー玉みたいに圧縮したのを受け取って、カバンにしまう。いつも思うが見た目と質量が釣り合わなくてなんか面白いんだよねこれ。
『今何か物理法則がさらっと無視されてなかった?』
『ダークマター……』
『ダンベルをピンポン玉ぐらいに圧縮できたりする?』
見慣れてない視聴者が困惑しているが、何。すぐに慣れる。
そんなこんなで手早く後片付けを終えて、俺達は探索を再開した。
「さ、いきましょう」
「ええ」
「うんむ!!」
先に続く道は、浅瀬を通って湖を横断する。水底に沈んだ大蛇の白骨、その背後にある半ば水没した大穴が、最深部に続く道だ。
三人で足首まで水に浸しながら、白い砂の積もった細い道を歩く。その背後に、ゆっくりとドローンが続く。
目的地まであと少しだ。気を引き締めていこう。