リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十話 最奥にて座するもの

 

 

 地底湖から続く道は緩く上昇した後、下り坂になっている。

 

 先ほどから怪物の姿もなく、静寂の中で三人の防具がカチャカチャ音を立てる音だけが響いていた。

 

「もうそろそろですか?」

 

「ええ、まあ。そうだったよな?」

 

「うんむ。終点は近い」

 

 ペストマスクで表情を隠しているが御堂さんの声は硬い。まあ、何がそこにあるかを知っているなら、多少は緊張もするか。

 

 いや俺も結構不安ではある。傍目にリラックスしてるように見えるとしたら、それはまあガンドレイクが居るからだ。

 

 

 

『何やらものものしい雰囲気だけど、何が奥にあるんだろ』

 

『金銀財宝って感じ じゃなさ  そうだ』

 

『あれ なんか画像が乱  』

 

 

 

 不意に視界を流れていたコメントの文字が乱れる。歯抜けのようであったり、意味のない言葉が流れ……ぷつん、と一斉に流れが途絶える。

 

 異音に振り返ると、中継ドローンがふらふらしながら推力を失い、通路に墜落する所だった。

 

「おわあ!」

 

 慌てて片手を差し出してドローンをキャッチ。壊したら高いだろうからなー。

 

「どうしたんだ、突然?」

 

 つんつんドローンを突いてみるが、動く様子はない。右手に構えたデジタルカメラにふと視線を向けてみるが、こちらは問題なく動いているようだ。

 

 そりゃそうだ。以前にガンドレイクとここまで来た時も、カメラは問題なかった。別に電化製品をおかしくする電磁パルスが放射されてるとかではないはずだけど。

 

 異常を察して、御堂さんも傍にやってくる。

 

「これは……ドローンが?」

 

「ええ。でもデジカメの方は問題ないんですよね。どうしたんだろう……」

 

 俺の言葉に、御堂さんはペストマスクの横に指をあてるような仕草をした後に首を振る。

 

「こちらも地上との連絡が途絶えていますね。電子機器に何か異常がある……と言いたい所ですが、そちらの旧式デジカメは無事ですね。どういう事でしょう? こちらはドローンも通信機も、迷宮産の素材を用いた最新型ですが」

 

「んむ? 迷宮の素材を、でじたる機器とやらに使っているのか?」

 

「そうですよ。海外から資源の輸入が難しくなってきていますし、迷宮から取れる素材は従来のものより性能がいいものもあります。代用シリコンなんかは、ある迷宮に生い茂っている植物からほぼ際限なく原材料が取れるので、いまじゃほとんどそっちが使われていますね」

 

 へえ。そんな感じの事情もあるのか。

 

 となると家電製品が無茶苦茶高いの、従来の原材料が手に入らなくて打ち止めだから、ってのもあるのかな。そのあたりは、そういった代替素材の流通が進めば安くなる……どうだろ、最近の会社ってとくに目的もなく内部保留に回したがるからなあ。そんなに壺抱えて自爆したいのかね。

 

 苦々しいサラリーマン時代の事を思い返しながら顔をしかめていると、不意にガンドレイクが手を打った。

 

「うむ、原因はそれだ!」

 

「え……」

 

「迷宮の物は異界の物。故に、この先にある存在の影響を受けたのだろう! 考えてみれば不思議な事ではない」

 

 うむうむ、と一人納得しているガンドレイク。御堂さんはというと、イマイチ話が分からなかったのか、困ったように俺とガンドレイクの間で顔をきょろきょろさせている。

 

「あ、あの……?」

 

「まあ、デジタルカメラは回ってるしこの際よしとしましょう、細かい事を考えるのはまたあとで。それともドローンで撮影できないと何か不味い事が?」

 

「ああ、いえ。どの道、終点につく前に理由をつけて映像はシャットダウンするつもりでした。話の通りなら、世間に公開するにはまだまだ刺激が強すぎますからね」

 

 そういう事なら問題はない。

 

 俺が停止したドローンを差し出すと、御堂さんはちょっと迷ってから受け取り、自分の鞄にしまい込んだ。

 

「すいません、お手数をおかけしました。先に進みましょう」

 

「うんむ!」

 

 三人そろって奥に進む。今頃実況中継は途絶えた通信にざわざわしているかもしれないが、まあ、うん。後の事は後で考えよう。

 

「この先だぞ」

 

 そして、ガンドレイクが先に出て安全を確認し、横穴から出る。

 

 その途端、異様な空気が周囲に満ちているのを肌で感じた。

 

 空気が重たく立ち込めてのしかかってくるような。主はとっくに身罷られているというのに、その存在感は健在らしい。

 

 初体験の御堂さんは一瞬膝を崩すも、差し出したこちらの手を握る事無く自分で立ち上がった。

 

「だ、大丈夫です。しかし、これは……」

 

「あー、なんか懐かしい……くはないな。二度と来たくなかったみたいな気持ちはある」

 

「なんだそれは? まあいいたい事はわかるが」

 

 通路の先には、先ほどの地底湖のように大きな部屋が広がっている。壁からは無数のクリスタルのような結晶が生えており、それがピカピカと光り輝いているため空間は照明で照らしたように明るい。明るい灰色の地面は少し先に進んだところで盛り上がって高台のようになっており、その周辺は特にクリスタルの生成密度が高い。

 

 そして、その高台の上に一つの亡骸が今も横たわっていた。

 

 地に臥せる蝙蝠の如き皮膜の翼。だらりと投げ出された丸太のような四肢に、それに備わった剣のような爪。丸まった尾は尖塔の切っ先のよう。その全てが、黄金色の鱗で彩られている。

 

 そして、薄く口を開いたまま事切れた頭部。10の角が王冠のように生えそろい後頭部に向かって伸び、その根元は獅子のような鬣に包まれている。その瞼は閉ざされ、二度と開かれる事はないものの、きっとその向こうにはあの紫水晶のような怪しげな瞳が今もあるのだろう。

 

 

 

 黄金竜ウシパチャカスナ。

 

 

 

 今はただ、骸となって転がる、ある世界の破壊神である。

 

「こ、れが……黄金竜……」

 

「最後に見た時と変わらないな。腐ったりしないのか、これ」

 

「神の肉体が腐敗する訳なかろう、戯けめ」

 

 おっとガンドレイクに怒られた。日本人は無神論者という訳ではないが、どうにもちょっと信仰者の気持ちを汲めない所がある、自覚して気をつけよう。

 

 そういう彼女は、片膝をついて軽く祈りを捧げている。敵対していた神性とはいえ神は神。思う所はあるのだろう。

 

 俺も見習って軽く一礼して祈りを捧げ、ついで御堂さんへと振り返った。

 

「まあ、そういう訳です。……御堂さん? 大丈夫ですか?」

 

「い、いえ……大丈夫……ではないですね。すいません、肩を貸してくださいますか」

 

「勿論」

 

 慌てて御堂さんに駆け寄り肩を支えると、思ったよりも預けられる体は重い。俺の胸元に頭をぶつけるようにして身を折った御堂さんは、こらえきれず、といった様子でペストマスクを外し、喘ぐように深呼吸をした。

 

「……はっ、ふぅ……はぁ……ふっ」

 

「大丈夫……じゃなさそうですね。ガンドレイク」

 

「んーむ。神気に中てられたか。一旦部屋から下がろう」

 

 二人して通路に引き返し、御堂さんを座らせて開放する。ぱたぱた手で扇いで風を送り、タオルで拭きだす冷や汗を拭ってやる。

 

 そうこうする内に、やがて御堂さんも落ち着いたようだ。穏やかな瞳が、申し訳なさそうに俺を見つめている。

 

「すいません、ご迷惑を……。もう、大丈夫です」

 

「無理はなさらないほうが……」

 

「ちょっと心構えが甘かっただけです。ほら、この通り」

 

 手助けを借りる事なくすっくと立ちあがる彼女の姿に、一応こちらも納得して合わせる事にする。あまり気を使われるのも困るだろうし。

 

「まあ、大丈夫ならそれはそれでいいんですが。まあ、気をつけて」

 

「はい。……それにしても、春日井さんは平気なんですね……」

 

「まあ二度目だし」

 

 そもそも俺は一度目の時だって後方で見守っていただけだしな。カメラ抱えているだけの奴が戦っている奴を差し置いて失神する訳にもいかんかったし。

 

 あの時の事を思い返し、高台の上に鎮座する黄金竜の亡骸を見る。

 

 その胸元には、深い裂傷が刻み込まれている。致命傷となった、ガンドレイク渾身の一撃だ。

 

 

 

 そうだ。今を遡る事数か月前。

 

 俺はガンドレイクと共に、この恐るべき神と相対したのだ。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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