リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十二話 神の遺産

 

 そうだ。

 

 黄金竜は勇者ガンドレイクと同じ大地を踏みしめて対等に戦い、勇者を称えながら絶命した。

 

 その時、地に伏せた亡骸はガンドレイクの足元にあった。なのに、今、その骸は見上げるような高台の上にある……。

 

「そ、そういえば。どういう事だ?」

 

 俺の指摘にその事に気が付いたのだろう、ガンドレイクが珍しく動揺を見せる。流石に平静という訳にはいかないか、事が事だ。

 

「ちょっとまて、これは……」

 

 しゃがみこんで地面を確認する。地面にはかつての戦いの痕跡が色濃く刻まれており、一見すると素人目では何もわからないように見えるが……。

 

「……血だ。血の跡が、高台に向かって……」

 

 そう。あの戦いにおいて、黄金竜が出血したのはガンドレイクによる致命の一撃、それが最初で最後だ。懐に飛び込んだ大戦士の一撃が黄金竜の命に届き、奴はその場に崩れ落ちた。故に、戦闘中に血痕が踏みにじられる、といった事はなかったはずだ。

 

 つまり……。

 

「何者かが、黄金竜の亡骸を引きずって高台に引き上げた……?」

 

「いや、しかし。何故だ? 誰がそんな事を……?」

 

 黄金竜を知る者同士、顔を見合わせて困惑する。

 

 が、それ以上に困惑していたのは、恐らくこの場に居合わせた第三者だろう。

 

「あ、あの……?」

 

「う、うむ……」

 

「御堂さん。この横穴に、他の冒険者が入り込んだ可能性ってどれぐらいあります?」

 

 まず思いつくのはその可能性だ。俺達以外の第三者のよる仕業。

 

 だが、当然ながらその問いかけに彼女は首を横に振った。

 

「全くない、とは言い切れませんが、低いとは思います。事故が起こるまでこの横穴は封鎖されていましたし、もともと春日井さん達が探索するまで発見されていないような僻地にあった訳ですし。そもそも、この迷宮を出入りする冒険者の実力ではここに来るまでに絶命するか引き返しているでしょう」

 

「そうですか……」

 

 確かに御堂さんの言う通りだ。

 

 というか仮に冒険者が入り込んだとして、黄金竜の亡骸をわざわざ高台の上に移す理由がない。

 

「その、お話から察するに死体が動いた、という事でしょうか? その……仕留めたと思っていた黄金竜とやらがまだ生きていて、最後の力で高台に移動した、とかは? こう、死ぬならば玉座、みたいな……」

 

「まあ、そういう事をするかしないかでいうと、しそうな奴ではありましたけど……」

 

 あり得るといえば、あり得なくはない。しかし確認のために視線を合わせたガンドレイクは、ふるふると首を横に振った。

 

「あり得ない。私は確実に奴の命を絶った。そもそも完全に絶命したのでなければ奴は傷を回復させ再起を試みるか、あるいは最後の力で自らの亡骸を消し去っているだろう。こうして骸を無惨に晒している時点でその可能性はあり得ない」

 

 長年黄金竜と争ってきたというガンドレイクがそういうのならそうなのだろう。

 

 となると、結局おかしな謎だけが残るのだが……。

 

「ちょっと調べてみるか……」

 

「え、ちょ、春日井さん!?」

 

 高台によじ登り、上座の黄金竜の亡骸を至近距離から調べる。

 

 ……やはり腐臭の類はしない。神たる肉体を分解するような微生物はこの世界に居ないのか、あるいはそもそも分解できない別のナニカなのか。

 

 まあ、それはそれで都合がいい。

 

「……まあ、死んでるのは間違いないから死体そのものの情報はどうでもいいか。ううむ……」

 

 ここで問題なのは、何故上座に死体を移動させた、のかだ。

 

 上座の壁際には、そこだけ多数の異常成長した結晶が密集している。青白く光るその輝きはちょっと見てて落ち着かないが、放射能とかを発していないのは分かっている。

 

 黄金竜の死体を回り込むようにして、玉座を彩るレリーフのようなクリスタルを見て回る。

 

 と、行く手が黄金竜の巨体でふさがれる。壁にくっつくように横たわる巨大な後ろ足。これ以上は先に進めそうにない、か。

 

「ん?」

 

 引き返そうとして、しかしそこで俺は違和感に気が付いた。

 

 黄金竜の黄金の鱗。それが気のせいか、壁にめり込んでいるような気がしたのだ。そりゃあ鋼鉄より頑丈な鱗だし、死んでるとはいえ生き物の体だから弾力はあるし、おかしな話ではないとは思うのだが……何か、そこに作為的なものを感じた。

 

「ガンドレイク! ちょっとこっちにきてくれ」

 

「トモキ?」

 

 ひゅん、トトトト、と走ってくるガンドレイク。彼女は俺の元にやってくると周囲を見渡し、恐らくはすぐにその事に気が付いたのだろう。きりっと緊張感のある真剣な顔で確認してくる。

 

「どかせばいいのだな?」

 

「ああ、頼む」

 

 言うが早いか、がっつり竜の躯を両手で押すガンドレイク。数十トンはあるかもしれない巨体は、じり……と微かに動いた。俺もその隣で腕を捲ってぐいぐいと巨体を押す。おおおお……これ俺なんかがどれだけ力を入れた所で何の足しにもなってない気がする……!

 

「ふんぬ……ぬぬぬぬぅ!!」

 

「ちょ、ちょっと、何してるんですか!?」

 

「み、みど、さんも、て、てつだって! ふんぎぎぎぎ……」

 

 困惑顔の御堂さんも合わせて、三人で押す。

 

 俺はともかく、それなりに迷宮に潜って長いであろう御堂さんはなかなかのパワーで、ついには10cmほど竜の巨体を移動させる事ができた。

 

「ふむ。これぐらいでいいだろう」

 

「ゼヒュー、コヒュー、ゲホッ、ガホッ」

 

「春日井さん、しっかり。それで、これに何の意味が? まあ、この重さの死体が移動していた、という時点でただならぬ話、というのはよくわかりましたが……」

 

 咳き込む俺の肩を叩いて水を飲ませてくれる御堂さん。ああー、助かる。生き返るぅー……。

 

 呼吸を整えて、俺はぷるぷる震える手で壁を指さした。

 

「あ、あれ……を……」

 

「あれ? ……っ!!」

 

「ううむ、これはもしや……」

 

 三人そろって息を呑む。

 

 黄金竜の体をどけた先。水晶で覆われた壁に、ちょうど人間一人が通れるほどの穴が開いていた。

 

「隠し通路だ。……この横穴には、まだ先があったんだ」

 

 

 

 

 

 ガンドレイクを先頭に、隠し通路へと侵入する。

 

 通路は狭いので、俺と御堂さんは頭を低くして通らないといけない。一方背の低いガンドレイクは楽そうで羨ましい。

 

 隠し通路の内部は天井も壁も結晶で覆われた光の通路みたいになっている。ちょっとしたアトラクションみたいだが、とても気分は高まらない。

 

「この状況で襲われたどうしよ……」

 

「安心しろトモキ、何が来ても私がノックアウトしてくれるわ!」

 

 この狭さでは斧も振り回せない。ガンドレイクはシュッシュ! と鋼鉄の籠手でジャブをしている。まあ、確かに彼女のクソ馬鹿力で殴られたら大抵の怪物はへしゃげて死ぬが。

 

「どこまで続いているんでしょう、これ……」

 

「さあ……」

 

 ほんとにね。かれこれもう50mは歩いているはずだけど……。あんまり長いと腰が痛くなってくる。

 

 が、幸いにして、何キロと歩かされることもなかったようだ。

 

「終点だ! でられるぞ!」

 

「やっほぅ」

 

 ガンドレイクの言葉に喜んで小走りで進む。真っ先にぴょーんと飛び出して周囲を警戒するガンドレイクに続き、這い出すように外に出ると、俺はうーーーんと背筋を伸ばした。

 

 あー、開放感!

 

 振り返ると、灰色の壁に小さな亀裂が入っているのが見える。その中から、御堂さんが最後に這い出してきた。クリスタルで光り輝く通路だが、絶妙に岩盤が覆いになっていてそうと知っていなければ気が付かない。

 

 とりあえず見失わないように、チョークで印をつけておく。

 

「これで、よし、と。んで、ここはどうなってんだ……?」

 

「横穴の途中と似たような感じですね……もしかして他の横穴と繋がってた?」

 

「げえー。それは勘弁してくださいよ」

 

 言いながら、周囲を確認する。相変わらず光源がなくてもある程度見通せる不思議な空間だが……どうにも靄が掛かったように不自然に暗い所がある。

 

 俺はそれらを見通すために鞄からマグライトを取り出すとスイッチを入れた。

 

「……なっ」

 

「えっ」

 

「うっ」

 

 そうして照らし出された物は……。

 

 

 

「卵……いや、繭?」

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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