リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
横穴の最深部にあった隠し通路。
その先の部屋にあったのは……。
「卵……いや、繭?」
マグライトでそれを照らしながら近づいてみる。
灰色の壁に、菌糸のようなものが張り巡らされ、それらが集まって大きな塊を成している。その内部には、明らかに質感の違う、楕円形の大きな塊が安置されていた。
内部には、何かのシルエットが見えるが……。
「こいつは一体……」
「ふぅむ。面妖な。まあ割ってみればわかるぞ」
「は?」
止める暇もなかった。
前に出たガンドレイクが斧を一閃させると、ぴっ、と卵型の物体に亀裂が入る。
遅れてどばあ、と緑色の内容物があふれ出すのを見て、俺は慌ててガンドレイクの脇を抱えて後退した。
「お、おばか!! 調べもせずにいきなり切開する奴があるか!」
「むぅ。だがこれが一番手っ取り早いだろう?」
「中身が猛毒とか強酸だったらどうするんだテメー!?」
俺の指摘に、ガンドレイクはしばし考えてから「おお! それは危ないな!」と手を叩いた。いやその可能性ぐらい考えて欲しい。
油断すると変な所で蛮族性発揮するんだよなコイツ……おかげで気が抜けない。
「か、春日井さん、大丈夫ですか!?」
「え、ええ。幸い、劇毒物の類ではなかったようです」
「そうですか、よかった。それにしても、これは一体……」
十分な距離を取って三人で繭を観察する。
傷口から噴き出す液体が床に広がっていき、やがて勢いも衰えてくる。そして最後には、中に詰まっていたであろう個体物が、ずるり、とその重さで傷口を広げながら外に流れ出してきた。
その、予想外の物体に俺達は思わず目を見開いた。
「きゃっ……」
「こいつは……」
「むぅ……」
思わず悲鳴を上げる御堂さんを庇うようにして前に出る。そして反対側の手では、飛び出そうとしたガンドレイクの肩を押さえた。
距離を置いて、零れだしてきた存在を観察する。
「竜の……できそこない……?」
液だまりに横たわっているのは竜の亡骸だった。全身の色は錆のような赤茶色。翼を持ち、四つの足を持つ、というのは先ほど見てきた黄金竜の亡骸と同じなのだが、全体的に歪な形状をしている。
顎は反り返って互い違いになっており、右手が異常に発達している代わりに左手は赤子のよう。鱗もところどころ剥げていて、翼は骨芯の形が左右でそれぞれ違っている。
あきらかな奇形児、発達不良、という言葉が頭に過ぎる。
それでも、その全体的な造形には、あの美しくも恐ろしい神のそれに似通った者があった。
「黄金竜の……子供……?」
「いや、神は子を成さぬ。どちらかというと、依り代……予備の肉体といったところか」
「予備の肉体……?」
ガンドレイクが前に出てしゃがみ込み、亡骸を検分する。
「うむ。珍しい話ではない。あるいは、この世界で黄金竜が復活するにあたっていくつか作った肉体の失敗作かもしれんな」
「な、なるほど……。いや、でも、まさか……」
滴り落ちる冷や汗を拳で拭い、俺は周囲を見渡して呻いた。
「これ全部がそうなのか?」
そう。
それなりに広い空間……その壁や天井や床を問わず、無数の繭が張り付いていた。まるで蚕の繭棚のような有様だ。繭のサイズは様々で、大きいのから小さいのまで一通りそろっている。
見た所、その全部が孵化する事なく死に絶えてしまっているようだが……。
「い、一応、活動停止してはいるようですが……しかし……」
「おっかないな。この数の繭がもし、何かのきっかけで活動を再開したりしたら大惨事だぞ」
「それは心配あるまい。神であっても死を覆す事は出来ぬ。ここに並ぶ繭は全て生きてはいない、脅威にはならんだろう」
それはそれでおっかない話なんだが。
途端に、墓場の中にいるような気分になって俺はゲンナリとした。
とにかく、ガンドレイクのお墨付きがあるなら一安心だ。これ以上の脅威がないのならそれに越したことはない。
「…………?」
と。見渡していた俺はある事に気が付いて、ギクリ、と身をこわばらせた。
目敏く異変に気が付いたガンドレイクがシュッと隣にやってくる。
「どうした、トモキ?」
「あ、あれ……あれ見ろよ……」
「あれ?」
震える指で一つの繭を指さす。怪訝そうなガンドレイクの視線がその先を追って……きゅっ、と緊張に眉を顰めた。
「むぅ」
俺達二人の視線の先。
壁際に、一つの小さな繭がある。一際大きな繭の陰に隠れるように張り付く白い塊。大きさは、人間一人がすっぽりと納まるぐらいだろうか。明らかに他と比べて小さな、未成熟のようにさえ見えるその繭。
それが、ぱっくりと裂けていた。
まるで内側から、何かが抜け出したみたいに。
「……まじかよ」
慎重に近づいて、繭の中身を検める。
切り開かれた部分から覗き込むと、内部はつるつるとした内膜で覆われていた。繭というより、卵の薄皮みたいな感じだ。血管のようなものもはしっている。
恐る恐る触れると、感触はぷにぷにしている。少し湿って入るが、液体で潤っているという程ではない。底に、僅かに液体が乾いた痕のようなものが残っていた。
「……昨日、今日じゃない。もっと前に、中身が這い出た感じだ」
「まさか……本当に……」
「ああ……」
黄金竜の玉座の裏に隠されていた、無数の繭。
そこに繋がる道を隠すように移動させられた黄金竜の亡骸。
そして、ただ一つだけ、孵化した形跡のある小さな繭。
それらが示す事実は、たった一つ。
黄金竜は、まだ、滅びていない。