リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十四話 結節点

 

 

 俺達は直ぐに御堂さんを呼び、状況を説明した。

 

「まさか……そんなことが……」

 

 彼女は俺達の話を笑い飛ばすでもなく、真面目に聞いてくれた。孵化した繭を撫でまわす彼女の声は、隠しようもなく動揺に震えている。

 

「本当に? あの化け物が……まだ?」

 

「あくまで可能性が高い、という話ですが」

 

 しかし、物証がある以上はほぼ確定だろう。

 

 あの黄金竜の亡骸が、この事実の発覚を遅らせるために移動させられたのは間違いなく、そしてガンドレイクと御堂さんでもちょっと動かすのが精いっぱいだったあれを上座まで引き上げるなんていうのは文字通り人間業ではない。

 

 化け物がやった、と考えるのが道理だ。

 

「し、しかし、おかしくはないですか? この繭はどう見ても人間サイズです。あんなドラゴンが生まれてくるのは、とても……」

 

「それは、確かに。そうなんですよね……」

 

 御堂さんの指摘も最もだ。もしかすると、奴は色々妥協して小さな姿で生まれなおしたのかもしれない。

 

 それなら、なんとかなりそうな気がしないでもないが……。

 

 意見を聞こうと、さっきから黙りこくっているガンドレイクに目を向ける。

 

「……おい?」

 

「ど、どうした。何か?」

 

「どうしたはお前だよ。顔が真っ青だぞ」

 

 そう。振り返ってぎょっとした。俺の傍らで黙りこくっているガンドレイクの顔は真っ青だった。あまつさえ、不安そうにいつの間にか俺の服の裾を握りしめている。

 

 ミシミシと音を立てそうなほどに強く握りしめられた指。まるでビルに服が引っかかったみたいな感じすらする。

 

「いや、そのだな。……黄金竜は、ここに来てやり方を変えたのかもしれぬ」

 

「え?」

 

「奴は白夜の化身。世界を黄金の翼で閉ざす者。その象徴が、あの金色に輝く竜の姿だ。……だが、この世界はかつての世界とは違う。人の生き方も、社会の有り様も、何もかもが。……であるならば、奴は……この世界に相応しい姿で、相応しいやり方へと切り替えたのかもしれぬ。だが、しかし、まさか神ともあろうものが、まさかそんな……」

 

 呟くように告げるガンドレイクの言葉は酷く動揺している。

 

 なんだ?

 

 何が言いたい?

 

 その疑問に、真っ先に答えを示したのは御堂さんだった。

 

「……そ、その、ザバーニャスさん? もしかして、貴方はこう言いたいのですか?」

 

 

 

「黄金竜は……人の姿を取り、人に紛れる事を選んだと、そういう事なのですか?」

 

 

 

 その言葉は、否定してほしい、という願いに満ちていた。

 

 残念ながら、それに返されたのは肯定の頷きであったが。

 

「……ああ。恐らくは」

 

「おいおいおいおいおい、待ってくれ。つまり、そういう事か? 神様が、わざわざ、下賤な人間の姿を取って……この世界を無茶苦茶にしようと考えて潜伏してるって、そういう事か? 勘弁してくれ!!」

 

 事態の異常さを理解して、頭痛に俺は頭を押さえた。

 

 なんだ、その悪い冗談のような展開は。

 

 神様だぞ?

 

 人間なんて及びもつかない、それこそ迷宮を生み出すような常識外の力を持った存在が、しれっと人間のフリをして社会に紛れ込んでいる?

 

 武装したテロリストなんて目じゃない。そんなものは治安を維持する側からすれば悪夢そのものだ。

 

 どれだけ恐ろしい事なのか、一般人の俺でもわかる。

 

 だが、だとしても、だ。

 

 人間とて無策ではない。俺は自分を落ち着かせるように首を振った。

 

「いやいやいや……そんな簡単には、いかねーだろ……。だって、迷宮は厳重に出入りを管理してるんだ。記録の無い奴が迷宮から出てきたら、とりあえず捕まえる事になってる、そうだろ?」

 

「そ、そうですね……。迷宮管理当初から、いつ怪物が中からあふれ出すか分からない、という事でその手の対策もちゃんとしてます。仮に、人知を超えた怪物が人の姿で暴れ出しても、少なくとも逃すような事はないはず……」

 

 御堂さんと顔を見合わせて、ですよね、と互いに理屈を補強しあう。

 

 吃驚はしたけど、そうだ。考えてみればなんという事はない。

 

 少なくともその手の異常は報告されてないんだから、仮に黄金竜が人間に化けていたとしても、まだ迷宮の中を彷徨っている事になるはずだ。

 

 ……それはそれで不味い気もするけど。

 

「もう少し周辺を調べよう」

 

「そうですね」

 

「うむ」

 

 互いに頷き合い、おっかなびっくり周辺を探索する。正直これ以上のハプニングは勘弁してほしいが……。

 

「うぬ?」

 

「っ、ど、どうしたガンドレイク。もしかして生きている繭とかあったりしたのか!?」

 

「ああ、いんや。そういう訳じゃなくてだな。風が……」

 

 風?

 

 そんなもの、別に……いや。風?

 

 この閉鎖空間の、横穴の奥の奥に?

 

「どこから吹いてる?」

 

「こっちだ。この壁の隙間……」

 

 ガンドレイクに連れられて、部屋の奥の壁に向かう。一見すると、ただ凸凹しているだけの岩壁にしか見えないが……。

 

「ここだ。ふぅむ、岩の色が微妙に違うな。よし……少し下がっていろ」

 

「え?」

 

「ふんぬぅ!」

 

 斧を地面に置いて腕まくりしたガンドレイクが、壁に向かってがっつり取っ組む。

 

 いくらガンドレイクが馬鹿力でも、こんな分厚い岩壁をどうにかできるとは思えないが、と最初は思ったが……。

 

 ごと、と重たい何かが動く音。

 

 見ている前で、ずずずずず……と壁が凹んで、いや、これは壁を塞いでいた岩が、ガンドレイクに押し出されている、のか?

 

「んぎぎぎ……!」

 

「……おいおいおい……」

 

 そうして数十秒後には、ぽっかりと岩壁に大穴が空いていた。穴の向こうには、押しのけられた大岩。どうやら、壁に空いた穴を、外から岩を押し付けてカモフラージュしていたらしい。

 

 茫然としながら、ぜぃぜぃ肩で息をしているガンドレイクを手で仰ぐ。その隣で、御堂さんが呆然とするあまり、常に密かに構えていたボウガンを取り落としていた。

 

 カターン、と床にぶつかって軽い音を立てるボウガン。

 

 その響きが、大穴の向こうに広がっている空間に遠くまで木霊していく。かなり広い。

 

 というか、これって……。

 

「多分、横穴、かな。繋がってるの……」

 

 恐る恐る顔を出して、周囲を確認してみる。

 

 灰色の壁がどこまでも続いているのは、確かに見覚えがある雰囲気だ。横穴に違いない、というか……あれ、もしかしてこれ……。

 

「いやほんとに見覚えある気がするぞ……ええと、確か」

 

 そうだ。

 

 俺はつい最近、ここを通った気がする。早足で駆け足だったけど、間違いない。

 

 この通路を俺は知っている。

 

 記憶を頼りにぼんやりと道を歩く。背後からガンドレイク達が呼びかけてくるが、耳に入らない。

 

 そしてふらふらと、酷い二日酔いの時のような気分で歩いた先に、それはあった。

 

「出口……」

 

 道の終わりに、外から光が差し込んでいる。もと来た出入口ではない、あの2層の空は、こんな毒々しいまでの青い光ではない。

 

 デジタルカメラを無意識に構えながら、外に出る。

 

 その先に広がっていたのは……、そう。

 

 一見すると、霧の立ち込める渓谷のような、緑が少なく岩だらけの風景。周囲は切り立った崖に覆われ、その谷底に迷路のように細い道が広がっている。その頭上には、まるでペンキで塗りたくったような寒々しい青い空が、太陽もないのに明るく広がっている。

 

 

 

 そこは。

 

 レインボー巴さんが事故に巻き込まれた、あの因縁深い迷宮の一角だった。

 

 それが意味するのは……。

 

 

 

 

 

「……迷宮内の事故。緊急事態の混乱の中で……身元確認なんて、十全に機能するはずが、ない……」

 

 

 

 

 

 どこか遠くで。

 

 あの傲岸にして不遜な神が、嘲笑う声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

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