リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十五話 悠々自適の監視体制

 

 あれから、俺達はすぐさま探索を中断し、地上に戻った。

 

 もはや配信どころではなかったからだ。一刻も早く、この事実を迷宮管理課に伝えなくてはならない。

 

 生中継が途絶えた事への簡単な謝意を示し、コラボ配信は終了となり。

 

 俺達はその足で、御堂さんに引き連れられて役所の建物の一角で待機させられた。

 

 まあ軟禁である。状況が状況なので仕方ない。とはいえいつぞやと違い、案内されたのはVIP用の一室。ふかふかのソファに、ちゃんとしたテーブル。コーヒーメーカーがあって、さらにシャワールームまで併設してあった。

 

「ちょいとシャワー浴びてくるぞ!」

 

「あ、どうぞ」

 

 そんでもって意外にも綺麗好きなガンドレイクが真っ先に飛び込む。俺はその間、雑誌を読んで時間を潰す。

 

「さっぱりしたぞ!」

 

「へいへい。……家じゃないんだからちゃんと水気は拭ってこい」

 

 んでもってほかほかで出てきたガンドレイクの頭をワシャワシャとタオルで拭く。

 

 こいつもこの体になってから結構経つんだしいい加減自分でやってほしいんだが……。

 

 そして、御堂さんが戻って来たのはそれから数時間後。

 

 膝の上に乗ってくるガンドレイクとの消耗戦い根負けした俺が、10杯目の珈琲を飲み干してお腹がそろそろタプタプ担ってきた頃合いだった。

 

「おまたせしました……おや」

 

「あ、ども。お持たせさせられてます」

 

「うむ!」

 

 冷めた珈琲のカップを軽く掲げて挨拶をすると、御堂さんは苦笑い。まって、なんで引き返そうとする?

 

「いえ、もしかしてお邪魔だったかなと……」

 

「コイツとはそういう関係じゃないのでお気になさらず。それでどうなりました?」

 

「ぶすぅ」

 

 真面目な話をするからね、と膝の上のガンドレイクを押しやると、彼女は不貞腐れながらもどいてくれた。椅子を引っ張ってきて俺の横に座り直す彼女を尻目に、御堂さんは机を挟んで正面に座った。

 

「とりあえず、上は話を聞いてくれました。現物をいくつかと、証拠映像があったのが助かりました」

 

「ハンディカメラが役に立つとはね。獅子川ちゃんには感謝しないと」

 

 ドローンがあるからまあ要らないかもな、と思いつつ持ち込んだのがまさかの大正解である。映像が無ければ状況確認にもっと二度手間三度手間がかかっていたかもしれない。

 

 今度、改めてお礼しないといけないかもな。

 

 そんでもって、どうやら状況は予想通り、あまりよろしくないようだ。

 

 御堂さんの昏い顔を見れば嫌でもわかる。

 

「……状況はかなり黒よりの灰色です。件の迷宮事故の際、救急隊が対応した怪我人の内、10人ほどが今だハッキリと身元の照合が出来ていません。多くは、単に申し出てないだけかと思われますが……」

 

「その中に、本当に身元不明の人間がいるかどうか、断言できないと」

 

「はい。状況が状況でしたので、人命救助を優先して段取りを崩したのがこんな事になるとは。その時は、現場のその判断は決して間違ってはいなかったのでしょうけど……」

 

 悔やまれます、と御堂さんは唇を噛むが、俺は正直それはどうしようもない事だと思う。

 

 少なくとも、迷宮管理課も世の中も、迷宮から怪物があふれ出してくるかも、という事は考えても、まさか人間と同じ姿をして人間以上の知性をもった何かが外に出てくるなんて想像の仕様がない。亜人型、と呼べるような怪物はしばしば発見されているが、そのいずれもがあまりにも人間から逸脱した姿やサイズをしているので、見間違えるはずもない。仮にトレンチコートを羽織って姿を隠したところで、アジア人種の中で身長2m越えはあまりにも悪目立ちする。

 

 と、そこで砂糖を大量に珈琲にぶち込んでいたガンドレイクが素朴な疑問を呈した。

 

「でも冒険者は身元証明タグを持ち込んでいるだろう? それで照合できないのか?」

 

「ここで言う身元不明ってのは、後から治療費とか払ったりしてないって事だよ、ガンドレイク。治療の際には血液型とかタグを参考にするから。ただ、件の奴が、迷宮内で冒険者を襲ってソイツに成りすましていた場合、現場の救助隊員じゃ判別できない。タグには顔写真はついてないからな」

 

「ああ、そうか。ううむ、医療費をばっくれようという不心得者がいるせいで話がややこしくなってるのだな……」

 

 ぼやきながらカップを啜り、顔をしかめるガンドレイク。砂糖の量が足りなかったらしい。

 

「しかしやっかいだな……」

 

「ああ。人間に化けた神様に血液型とか関係ないだろうしな。ああいや、事故現場では輸血はしないんだったか。それを考えると、病院に担ぎ込まれた連中よりも、その場で手当てを受けて解放された奴に絞って調査するべきか」

 

「はい。流石に病院で検査をすれば判別はつくだろうという事で、今は比較的軽傷で開放された者に限定して調査を進めています」

 

 流石に、そこはプロのやる事。そつがない。

 

「……となると、んー。俺達が気をつけるのは情報漏洩防止の契約、とか?」

 

「そうですね。この事が広まってしまうと、社会に与える影響は大きいですし、それに他の組織の介入を招いてややこしい事になりかねません。どう動くか上の判断がまとまるまでは、申し訳ありませんがしばらく身柄を押さえさせていただきたく……」

 

「うげげげ」

 

 書類上の契約どころか、身柄の差し押さえと来たか。

 

 え、それは流石にちょっと困っちゃうぞ。

 

 露骨に顔に出ていたのだろう、御堂さんはぺこぺこと申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「本当に申し訳ありません! 春日井さんが物分かりのいい方でいらっしゃるのでそれに甘えているのは重々承知であり、本来我々には一個人の身柄を拘束する権限はない、という事を踏まえた上で、どうか協力していただけないでしょうか……? しばらく迷宮の出入りなど、こちらで言動を把握できないような行動をとらないだけでよろしいのです!」

 

「んー。まあ、そっちが困っているのは分かりますし、まあ協力も吝かではありませんが……」

 

「本当にありがとうございます!!」

 

 あんまり美人さんに頭を下げさせるのはあんまり気分よくないぞ……。いや、向こうもこれを狙って御堂さんを差し向けたのか? 腹黒いなあ……。

 

 とはいえ、今回は状況が状況だ。確かに、この日本において一般市民の身柄を拘束できる権限があるのはそれこそ警察とかにのみ許された特権であり、迷宮管理課にはそれはない。ないが、ここでそれを盾にして喚き散らすのもどうか、という話だ。

 

 こうして物分かりがいい事で人生得した事は全くないが、まあ性分だ。今更変えられん。

 

「……わかりました。具体的にはどうすればいいんです?」

 

「え、ええと。要求が多くて厚かましいとは思うのですが、インターネットに接続できる機器は一旦没収した上で、こちらで用意した携帯端末をお持ちいただいて……。しばらくはこちらの部屋で過ごして頂きたく……。そ、その、行動を把握できるGPSを装着して頂ければ、外出して頂いても問題ありませんので、はい……!」

 

 ううーん、ほとんど執行猶予中の重犯罪者みたいな扱いだ……。ぶっちゃけ、「人間に化けた怪物が迷宮の外に出ました」なんていったって、後ろ盾がなければ妄言乙で終わりそうな気もするが、まあそれだけ真剣度が高いと好意的に受け取るしかないか。

 

 はあ、とため息をついていると、ずずずー、と横で珈琲を啜っているガンドレイクが、何故かやたらとジト目でこっちを見ていた。

 

 なんだよ。

 

「……トモキ。まさか、御堂どのが美人だから受け入れた訳ではなかろうな?」

 

「んな訳ないだろうが。お前は俺をなんだと思ってるんだよ」

 

「ふんっ。口ではいくらでも言えるわ」

 

 ええー。

 

 何か最近、変なガンドレイクなのだった。

 

 

 

 

 

 さて。そんな訳で、悠々自適な軟禁生活、とあいまった俺達であったが、こういう時に限って、イレギュラーな出来事が続くものである。

 

 渡された携帯端末の設定をたしかめていると、ぴろりん、とショートメッセージアプリに着信があった。

 

 そこには、可愛らしい絵文字を添えて、このように書いてあった。

 

 

 

『春日井さん、こんどお食事とかいかがですか? お返事待っています。 巴より』

 

 

 

 

 

 

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