リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十七話 ありたい自分

 

 

「桜坂様でいらっしゃいますね。奥の席にどうぞ」

 

 お店につくなり、待ち受けていた店員さんに案内されて奥の座敷に通される。

 

 そういえば初めて聞く彼女の苗字に思いを馳せていると、店員はメニューを置いてさっさと消え失せてしまった。どうやら何か勘違いされているらしく、扉を閉ざす直前にみせた「ごゆっくり」とでも言いたげな笑みが印象的だった。

 

 閉鎖空間に二人、取り残される。

 

 机を挟んで反対側、対面する巴さんはしずしずと座席に座ったまま、先ほどから机の一点を凝視している。

 

 なんだか、こう、とてつもなく居心地が悪い。

 

 おかしい。俺は巴さんとはこう、友達の友達みたいな、もっとこうラフな関係であったはず……。

 

「は、はは。とりあえずメニューを決めましょうか。お肉は好きです? 俺は大好きですけど」

 

「あ、私も好きです、はい」

 

 とりあえずいつまでも空気に呑まれてもいられない。多少強引に話を進めて、メニュー表を二人で見る。

 

 はあん、ディナーはディナーセットしかなくて、魚と肉が選べるのか。そんじゃ肉で確定かな。迷宮内で手に入るお肉ってどうにもワイルドでねえ。質のよい脂身とかそういうのがたまには食べたい。

 

 あとは飲み物選べるんだけど……ううん。ワイン、あんまり好きじゃないしそもそも今日は車で来たからな……。普通にソフトドリンクにしておこう。

 

 と、そこで緊張気味の巴さんが声をかけてきた。

 

「今日は、春日井さんは車で?」

 

「ええと、まあ。巴さんは?」

 

「私はその、近くのホテルに……」

 

 そういえば巴さんはこのあたりに住んでる訳じゃなかったっけな。という事は遠方からわざわざ……という事になるのか。なんか申し訳ないな。

 

 それにしても改めて考えると変な話だな。最初は浮かれていたけど、考えてみたら色々おかしな話だ。大体相手は今をときめく有名配信者である。そんな雲の上の人が、どうして俺みたいな木っ端配信者でただのおじさんとこうしてテーブルを囲んでいるんだ?

 

 なんか逆に不安になってきたぞ?

 

 とはいえ、それを問いただす雰囲気ではない。タイミングを見計らってやってきたのであろうウェイターに、メニューとドリンクの要件を伝える。

 

 下がっていくウェイター。再び二人きりになった空間に、何やらムーディな音楽が響いている。

 

「えと……」

 

「あの……」

 

 おっと、発言の出だしが被った。互いに照れ隠しの笑みを浮かべて、発言権を譲り合う。

 

 とりあえずここはまず、巴さんの事情を聞きたい所かな。

 

「え、えと。では私から……今日はその、ありがとうございます。これはその、お互い、何とか無事に迷宮を出られた記念、という事で……。ほら、お互い色々忙しくてあれから会ってなかったじゃないですか?」

 

「あ、ああ。そういえばそうだったね」

 

 そういや入院してる巴さんの見舞いは行ったが、退院してからは顔を合わせてなかったか。一応メッセージを送ってはおいたが……なるほど。律儀な人だなあ。

 

 いや、有名になれたのはこの律儀さあっての事か? 人脈とか豊富そうだしなあ。色んな人と顔を繋いでそれを維持するのもスキルのうち。俺はそういうの苦手なんだよねえ……というか俺の知り合いは筆不精が多すぎる。

 

「その、重ね重ねあの時はありがとうございました。春日井さんとザバニャンが助けに来てくれなかったら、私きっと今頃……」

 

「ああいえ、俺は大したことしてないです。助けたのはほとんどガンドレイクの奴の手柄ですし……」

 

「そんな事ありません!!」

 

 おぉ。ちょっと圧が強い。

 

「春日井さんは自分の事を軽く見積もりすぎです! ちょっと知り合いになった程度の相手が、それも画面の向こうでトラブルに巻き込まれたからって……それで、遠く迷宮に助けに来るなんて普通の人はできません! しません! ましてや、上手くいっても捕まるリスクだってあったし、そもそも自分の命だって危ないかもしれないのに……!」

 

「あ、いや。その。まあ考えなしだったかもしれませんけど……」

 

 いやまあ、うん。確かにおっしゃる通りである。

 

 大体俺自信、ガンドレイク便りで自力じゃ迷宮の中では生き残れないへっぽこだしなあ……。まず自分の命も守れないのに人を助けられるだなんて思い上がるな、と言われたら返す言葉もない。

 

 それでもまあ、その。

 

「ほっとけなかったので……」

 

「……っ、春日井さんは……っ、いえ、その、すいません。お説教したい訳じゃなかったんです……」

 

 ぐわ、と肩を怒らせた巴さんが、はっと我に返って席に座り直す。

 

 感情的になった事を恥じているのだろう、小さく縮こまっている彼女に、うーん、と俺は頭を捻った。

 

 どうやら助けてもらった事に恩を感じてはいるが、危険を冒した俺の軽率な判断を心配してくれている、という事か。なるほど。

 

 ほっとけばこれからもああしてよくわからん事に首を突っ込んで死にそうだから、その前に釘を刺しておこうと思ってくれているわけね。有難いなあ、大人になってからはそういう心配をしてくれる人も居なくなった。

 

 気持ちはありがたく受け取っておこう。それでも、まあ。多分この生き方は変えられない。

 

「巴さんの言いたい事は分かったよ。でも多分、俺はもしこれから、巴さんが同じように危険な目にあってるの知ったら、多分助けに行っちゃうと思う」

 

「え……」

 

「なんでかっていうとさ。それが、俺の望ましい生き方だからさ。俺は英雄じゃないし、それこそ何にも成れなかった落伍者だけどさ、それでもこう生きたい、ああ生きたい……なりたい自分ってのはあるんだ。そんな俺は、困ってる知り合いを見捨てたりなんかしない。そういう事なんだ」

 

 もっと割り切って生きられれば楽だったんだけどね、と付け足して苦笑する。

 

 ガンドレイクにもよく言われる事だ、お前はおせっかいがすぎるって。

 

 自分でもそう思う。そのせいで、どっちかというと損ばっかりしてきた人生だった。それでもなんだかんだで、そのおせっかいのおかげでガンドレイクと知り合えたし、こうして巴さんとご飯を食べたりしている訳で。

 

 人生周回遅れでも、少しぐらいは良い風が巡って来た気がしているんだ。

 

「何にもない俺だけど、だからこそ、自分自身にすらそっぽを向いてしまう訳にはいかないからね」

 

「春日井さん……」

 

「はは。まあでも、ちょっと大げさに言い過ぎたかな。たまたま今回巴さんを助けにいったというだけで、臆病風に吹かれて無事を祈るだけで終わった可能性だって十分にあるし。そんな借りみたいに思わなくていいよ。たまたまだよ、たまたま」

 

 照れ隠しで最後は早口に言い切って、グラスの水で口を湿らす。

 

 ほんのり柑橘の香りがする水に舌鼓を打っていると、対面の巴さんが飽きれたようにはあ、と溜息をついた。

 

「なるほど。ザバニャンの気持ちが少しわかった気がします……」

 

「え、なんでそこでガンドレイクの奴が出てくるの?」

 

「そういうとこですよ」

 

 そして何故か身に覚えのない事で糾弾される事となり、俺は小首をかしげるのだった。

 

 

 

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