リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十八話 楽しいディナー

 

 レストランのディナーメニューはとても美味しかった。

 

 必要以上に待たせる事なく、それでいて矢継ぎ早という事もなく、お喋りを楽しみ料理に舌鼓を打つのにちょうどいいタイミングで運ばれてくる色とりどりの皿達。

 

 特に、メインディッシュの肉料理、和牛のステーキはとてもよかった。ご時世柄もあってかこの価格帯ではほんのちょっとだったが、久方ぶりに口にする上質な脂身と赤身のしっかりした食感のマリアージュ、堪能させていただきました。迷宮にも野生の和牛とかいないかな……。

 

 そんなこんなで料理を平らげ、ワインでほんのりほろ酔い状態の巴さんを引き連れてレストランを後にする。店の外に出ると、外はすっかり夜も更けていた。

 

「さて、と。巴さん、大丈夫? 自分でホテルに戻れる?」

 

「んー。えへへー、ちょっと無理かも。ふわふわするー」

 

「やれやれ……」

 

 無邪気に笑いながら腕にしがみついてくる彼女。一瞬どきりとするけど、漂ってくる酒気が雰囲気をぶち壊しだ。こっちも酔っていたら気にならないんだろうけど、シラフではね。

 

「しょうがない、ホテルまで連れて行こう。どっち?」

 

「んー? えー? わかんなーい」

 

「おいおい……」

 

 おかしいな、ここまで酔っぱらう程ワイン飲んでないと思うんだけど。それともアルコールに弱い?

 

 いや、でもなあ。そんなにアルコールが苦手なら、さして深い仲でもない相手、それも男相手にワインを飲むかあ?

 

 まあいや、とりあえず店先から離れよう。周囲の微笑ましいものを見るような視線が痛い。

 

「ほらほら、しゃっきりして。とりあえず歩こう。近くにあったお店とか、覚えてる?」

 

「んー。そういえ、ばー……ロブスター印のビールバー、あったかもー! ついでに春日井さんもー、飲んでいきましょうよぉー! そっちだけシラフなのは、ずーるーいー!」

 

「俺は車だっていったでしょ!?」

 

 ええいもう、酔っ払いめ! しがみついてくる巴さんを振り払う訳にもいかず困り果てている俺を、彼女は楽しそうにニコニコ見上げている。何だかその視線が、ギラリ、と鋭く光った気がした。

 

「じゃあ、ねー。春日井さんも泊っていきましょうよ! うん、それがいい! それで全部解決~、あははははは!」

 

「何言いだしてるの!?」

 

「実はー、シングル空いて無くてトリプルの部屋を借りたんですけど広くてさびしくってー! 春日井さんが泊ってくれたらちょうどいいんじゃないかなーって! うふふふふ!」

 

 ええい、何を言い出してるんだこの酔っ払いは!?

 

 しかし彼女は全く頓着する様子もなく、ぐいぐいと俺の腕を引っ張って連れて行こうとする。

 

「決まりー、決まりですー! 今日はあ、飲んでいきましょー!」

 

「ちょ……力強っ!? え、ちょ、こういう時だけ上位冒険者の腕力に訴えないでくれます!?」

 

「ええー、何もわかりませんー。私か弱い女の子ですからー!」

 

 和服美女にずるずるとひきずられるか弱い俺。なんで、何がどうしてこうなってるの?

 

 困惑するばかりの俺だったが、どうやら今夜はこんなのまだまだ序の口にすぎないらしい。

 

 夜闇に煌めく銀の残光。

 

 ざわつく周囲の喧騒の中でも、はっきりと耳に届く澄んだ声。

 

「おい。迎えに来たぞ、トモキ」

 

「ガンドレイク……?」

 

 目を丸くする俺の前に、野次馬をかき分けて前に出てくる銀髪の少女。彼女は俺が買った覚えのない、余所行きのおしゃれ着に袖を通していた。こうしてみると普通にめちゃくちゃ美人である。

 

 雰囲気がそうさせるのだろうか、起伏にとんだボディラインや小さな背丈といった女性らしさは変わらないのにボーイッシュというかクールというか、怜悧なイメージが前に出ている。男からみてもかっこいい美人、という表現が正しいのだろうか。

 

 ツカツカと前に出てくると、ガンドレイクは巴さんにホールドされているのと逆の手を取って引っ張った。

 

「ほれ。食事は終わったのだろう、早く帰って私の食事を作れ」

 

「あ、いや、夕飯は作り置きしといただろ?」

 

「夜食だ。あの程度で足りるものか」

 

 横暴にもほどがない!? 食べたりないなら自分で作れよ!?

 

 というか、どうやってここに?

 

「お前、そもそもどうやってここに? 電車を一人で乗れるようになったのか?」

 

「そんな所だ。だが金勘定を間違えてな。このままでは帰れないから、トモキの車に乗せてもらわないといけないな」

 

 そこまで言って、ガンドレイクはその青い瞳で巴さんを見た。さっきまで騒いでいた巴さんも、今はじっと黙ってガンドレイクと正面から視線を合わせる。

 

「そういう訳だから、トモキは連れて帰るぞ、トモエーン。コイツは私の保護者だからな」

 

「え、いや。ちょっと、いきなりそんな事言われても。……というか、え? 今の話だと、二人ってまさか……」

 

「安心しろ。そういう色っぽい話はない。……今はな」

 

 え。ちょ。

 

 一体何が起きているのか理解できない。

 

 ただはっきりしているのは、俺を挟んで見た目は絶世の美少女と、浴衣姿の美女がバチバチと目に見えないスパークを散らしているという事だ。

 

 一体どうして……?

 

「お、おい。やめろって、こんな街中で。いいから、ガンドレイクは手を離せ、巴さんもちょっと……」

 

「だ、そうだぞトモエーン。トモキは私と家に帰るんだ。手を離せ」

 

「むぅー。いいじゃないですかー、わざわざ遠くから来たんだし、今日一晩ぐらいー」

 

 大岡裁きの話を思い出す。

 

 親を名乗る二人が子供を引っ張りあって、子を思って手を離した方が親、という話だが……。

 

 今現在、俺を挟んでにらみ合っているのはブルドーザーもかくやという力を誇る上位冒険者である。もしこの二人で俺の引っ張り合いが始まったら、痛みを感じる前に両腕が肩から引き抜かれそうだ。正直、生きた心地がしない。

 

 必死に周囲の野次馬に視線で助けを求めるが、視線の合った人にはかたっぱしから目を逸らされた。ナンパ男の末路みたいに思われてないのは正直安心したけど、それよりいいから助けて。

 

 このままだとまっぷたつになっちゃう!

 

 そんな救いを求める声は、果たしてどこかの誰かに届いたらしかった。

 

「ちょ、春日井さん、どうしたんですか!?」

 

「……え? 獅子川ちゃん?」

 

 そして混沌は加速する。

 

 人込みの中から聞き覚えのある声が。おしゃれで可愛い、黒いワンピース姿の彼女の姿を前に、俺はどうやら助けを呼ぶ声は邪神の類に届いたらしいと理解したのだった。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

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