リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す!   作:SIS

5 / 9
第五話 大勇者ガンドレイク

 

 その日、俺たちは配信ではなく、ある目的のために迷宮の2層を訪れていた。

 

 どこまでも広がる荒れ果てた砂漠、それが2層。怪物に加え、きめ細やかな砂地と灼熱の空気が冒険者を苦しめる。現実の砂漠と違うのは、空に輝く太陽はなく、代わりに溶けた鉄のような赤い空が頭上に広がっている事だろうか。

 

 半端な備えだと火傷じゃすまない環境だが、ガンドレイクはコートを羽織ったまま平気な顔だ。おっさんの時もそうだったが、まあそもそもの鍛え方が違うのだろう。

 

「大丈夫か、トモキ?」

 

「おう、なんとかな」

 

 まあ俺は全くそんな事がないので、今も頭からすっぽり冷却コートを羽織っているが。近年温暖化を通り越して灼熱化著しい日本の夏を乗り切るために開発されたこの冷却素材は、灼熱の砂漠でもいかんなく効果を発揮する。逆に言うと日本の夏は砂漠並みに過酷って事なんだがそれはまあおいて置こう。

 

 それでも足を取る砂はいかんともしがたく、何度も重たいカメラごとひっくり返りそうになる俺をガンドレイクが支えてくれる。

 

「悪い、世話をかける」

 

「気にするでない、今回は私の用事だしな」

 

 言葉を交えながら、俺たちはある地点に向かっている。迷宮の地図にも書かれていない、主ルートから大きく外れた砂漠の果て。

 

 ほかの冒険者は見向きもしない、砂原のど真ん中。周囲にオアシスもなく、準備不足で迷い込めば命にかかわるような過酷な砂原の中央に、隠された洞窟がある。

 

 砂丘の下に隠れるように口を開いたその洞窟が、俺たちの今日の目的地だ。

 

「……うーん。ガチガチに封鎖されてるな」

 

「ふむ。これでは流石に入れんな」

 

 しかし、その洞窟の入口は鋼鉄のバリケードでがちがちに固められており、ちっとやそっとでは侵入できないように封鎖されていた。

 

 冒険者の力をもってしても、ここまで厳重なバリケードの破壊は困難だ。鉄のゲートに、張り巡らされた鉄条網。その後ろに広がる空間は、さらにコンクリートブロックを積み上げて封鎖されている。もしこれを突破しようと思ったら、戦車でも持ってくる必要があるだろう。

 

 最も、突破する必要はないから別にいいのだが。

 

 俺たちが確認したかったのは、ちゃんとここが封鎖されているか、という事だ。

 

「よしよし。どうやらこちら側の管理者たちも、ここの重要性をちゃんと認識しているようだな」

 

「だな。最悪、三角コーンを立てておしまい、まで考えていたが、ここまでしっかり封鎖しているとは」

 

 確認出来て安堵する。

 

 さて、この洞窟が何だったのか。

 

 それをさかのぼると長くなるのだが、一言でいえば、ガンドレイクがこちらの世界に来た理由、そして彼が彼女になった原因だ。

 

「しかし、懐かしいな。私が女神の使命を受け、この世界にやってきたのは数か月ほど前の事か」

 

「だな。人の家の傍で半裸のおっさんを見かけた時はどうしようかと思ったぜ」

 

「はっはっは、そんな事もあったな、許せ許せ」

 

 だははは、と笑いつつも、その頬を微妙にひきつらせるガンドレイク。こっちの世界の常識をしって、自分がどれだけ迷惑な事をしていたのか、今は自覚しているらしい。

 

「まったくだぜ。その後、まさか後見人として迷宮管理課から呼び出されるとか思いもしなかったぜ。人の好意を利用しやがってからに」

 

「そ、それはその、スマンというか……でもほかに頼れる相手がおらなんでな……?」

 

「だからってな、仏心を出して「何かあったときは電話しろ、一度だけなら助けてやる」って渡した電話番号をその日のうちに最悪な形で利用されるとはなあ?」

 

 俺の指摘に眼を泳がせまくるガンドレイク。

 

 いつも傍若無人にマイペースなコイツでも、流石にこの話題は平静で居られないらしい。

 

「い、いや、その、それはだな? その……うぅ……」

 

「結果オーライにはなったけど、普通に迷惑だったんだからな?」

 

「すまぬ……」

 

 しょんぼりと肩を落とし、指をつんつんして所在なさげなガンドレイク。

 

 あの日の事は時折まだ夢に見る。

 

 おせっかいを焼いたな、と自重しつつも小さな満足感に浸っていたら、まさかの迷宮管理課からの呼び出しだ。ビクビクしながらいったら、見覚えしかない大男がすまなさそうに出てきて、戸籍を証明できない自分では迷宮に入れないから後見人になってくれと来たもんだ。事実状の殺処分制度、なんて揶揄される冒険者後見人なんてものにされただけでも災難なのに、翌日には会社から理不尽な理由でリストラだ。

 

 だからまあ、開き直ってガンドレイクの手助けをしつつ、私も迷宮探索の配信を始めて少しでも生活費を稼ごう、とカメラを担いで彼の後ろをついていく事にしたわけだ。

 

 結果的には、大変な大事になったのだが。

 

「……黄金竜、かあ」

 

「うむ。白夜の化身、永劫の闘争を齎すもの。我らの世界において女神モルガンと争い、私の手で首を刎ねたはずの奴が、まさか異世界で復活を試みていたとはな。復活しつつあった奴を再び仕留めたが、あれで全てが終わったとは思えぬ」

 

 そう。2層という、始まりもいい所の浅い階層に隠してあった、この洞窟。その内部には、2層どころか4層、5層にも匹敵する強力な怪物がひしめいていた。

 

 しかしそんなもの、最奥で待ち受けていた黄金の龍に比べれば、こけおどしもいい所だ。

 

 黄金竜ウシパチャカスナ。

 

 俺たちの世界で例えるなら破壊神、あるいは荒魂の化身。復活しようとしていたその災厄を滅ぼす事がガンドレイクに与えられた使命であった。そう、得体のしれない外国人は、異世界からやってきた正真正銘の勇者様だったのである。半裸のムキムキ大男って、勇者ってビジュアルじゃないだろ。

 

 なんやかんやあって、非常識な激闘の末に黄金竜は討ち滅ぼされ、ガンドレイクは使命を果たした。

 

 それでめでたしめでたし、であるならばよかったのだが。

 

「しかし、生活に困っているなら女神モルガンから報酬として財宝を受け取っておけばよかったろうに」

 

「だから、この国だとそういうの厳重に管理されてるんだってば。無から沸いてきた金銀財宝だなんて没収されるに決まってんだろ」

 

「無からではないぞ、女神からの報酬だぞ」

 

「第三者から見れば似たようなもんだよ!!」

 

 まあそういう訳で、竜を倒したあとほわんほわんと現れた幻影の美人からの提案を断った結果、何故か数日姿を消していたガンドレイクが女の姿になって戻ってきたわけである。

 

 意味が分からんわ。

 

 あらためて現状を確認しつつ、コンコン、とバリケードを小さくノック。やっぱり、これを破って中にはいるのは難しそうだ。

 

 逆に言えば、中の怪物達も恐らく出てこれない、という事である。

 

 一安心、という奴だ。

 

「まあ、これだけガチガチに固めてるって事は、上の連中も俺たちの話をある程度は信じてくれたって事だな。異世界だの、女神だの、黄金竜だの、トンチキな話ばっかりだったが」

 

「うむ! まあそれもトモキが命を賭けて撮影してくれた映像あっての事だな!」

 

「機密扱いで全部没収されたけどな……くっそお、アレを配信できれば一躍時の人だったのに」

 

 脳裏に、あの時のガンドレイクの姿が思い返される。

 

 目がつぶれんばかりに悍ましく輝く黄金の化身を前に、こちらに背を向けひるむことなく立ち向かう雄々しい背中。実力不相応の鉄火場においてその場に踏みとどまり撮影を続ける事が出来たのは、間違いなくそのガンドレイクの雄姿に勇気づけられたからだ。

 

 勇気は伝染する。勇者が、どうしてそう呼ばれるのかを、俺はあの時真の意味で心から理解した。

 

 大戦士ガンドレイク・ザバーニャス。その名前に偽りなし。

 

 それが……今じゃ、俺より背の低いチンチクリンの小娘だ。

 

 女神の考えてる事はマジでわからねえ。まったく。

 

「まあいい、これなら初心者がふらりと迷い込むことも、中の怪物が外に出てきて被害を広げる事もないだろう」

 

「うむ! そもそも女神の啓示がなければ私とて見つけられなかったような辺鄙な場所に入口があるしな。こうして封鎖されているなら問題はあるまい」

 

 とにかく、これで気になっていた問題は解消した。

 

 これで今回の目的は果たしたが……。

 

「どうする? 撮影するつもりはなかったが、もう少し回ってみるか?」

 

「ううむ、そうだな。この間、3層はほとんど見て回れなかったからな……予習という事で、少し奥まで行ってみよう」

 

「よしきた」

 

 そういう訳で、俺たちは砂漠を引き返すと3層に向かい、陸ワニを10匹ばかり仕留めて皮を剥ぐと、当面の生活費に変えたのであった。

 

 

 

 黄金竜は倒された。

 

 だが奴が作り出した迷宮は消えるどころか、今も数を増やしている。

 

 まだ、何も終わっていない……そういう事である。

 

 大戦士ガンドレイクの戦いは、まだ終わる事はない。

 

 

 

「ぐっふふふ、これだけ稼げば当分のビールは安泰だな! びーる、びーる!」

 

「おめーそれに加えてつまみも山ほど食べるだろうが」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。