リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第四十九話 四人揃えば無慈悲な採決

 

「春日井さん……えっ? これ、どういう状況です?」

 

「む……あの女子学生か……」

 

「蘭! こんばんわだな!」

 

 楽しいディナーが一変して人間裁断機の窮地。そこに現れた少女のエントリーは、どう考えても状況を加速させるだけのような気がした。

 

 もうどうにでもなーれ。

 

「……春日井さん?」

 

「待ってくれ、誤解だ。君が思っているような状況じゃない。というか俺もどういう状況か教えてほしいんだ」

 

「どうみても痴情の縺れで男側が引き裂かれそうになってるんですけど、物理的に」

 

 それが分かってるなら助けてほしいなあ!! いや別に痴情の縺れではないんだけど、こう。

 

 物理的は死ぬから! ほんとに!

 

「まあ、春日井さんがそういう人じゃないのはわかってますので。ほらほら二人とも、事情はご存じありませんが手を放してください。腕を引きちぎるつもりですか」

 

「んむ……」

 

「それは、まあ……」

 

 獅子川ちゃんのとりなしで、両腕の柔らかくも恐ろしい圧力から解放される。俺はささっと二人から距離を取って、襟元をただした。

 

「うぉほん。まあ、その。不幸な行き違いがあったようで……」

 

「ええと、まあ。……私もちょっと調子に乗りすぎました、ごめんなさい」

 

「お酒が入るとね、気分が大きくなるからね」

 

 恥ずかしそうに髪を直す巴さんは、頬から不自然な赤みも引いている。流石に自分よりも年下の学生に宥められて羞恥の方が上回ったようだ。

 

 まあガンドレイクはそんなの全く気にしていないが。しれっと腕に組み付いてこようとしたのをすっと避ける。

 

「あー」

 

「あー、じゃねえよ、話をまぜっかえす気か」

 

「むぅ」

 

 ようやく取り戻した自由をまた奪われてはたまったものではない。

 

「ありがとう、助かったよ獅子川ちゃん。でも一体どうしてここに?」

 

「どうしてって、まあ、習い事の帰りですね」

 

「習い事、ねえ」

 

 ピアノかバイオリンかそれとももっと別の何か。まあ、彼女はどこかいい所のお嬢様らしいから、それは別に不思議な事ではないのだろうけど。

 

 それにしてもこのタイミングでか。なんだか不思議な縁を感じる、というのが正直なところだ。

 

 いや本当にね。おかげで助かった。

 

「しかし一体なにがあったんです?」

 

「いやね、巴さんにディナーに誘われたんだけど、どういう訳かガンドレイクの奴がついてきてな……」

 

「…………ふぅん?」

 

 あれ、なんか獅子川ちゃんの視線が急激に冷たくなった気がするぞ?

 

「へえ、ディナーですか。へぇー、ふぅーん。一度コラボしただけの相手と随分仲良さそうなんですねえ、へぇー」

 

「???」

 

「そーなんですよ、私と春日井さんは仲良しなんですよー、ふふふふ」

 

 なんだろう。多少蒸し蒸しし始めた初夏の夜が、急にひっえひえに感じられてきた。

 

 よくわからんが獅子川ちゃんと巴さんは仲がよろしくないようだ。俺は助けを求めてガンドレイクに目を向けた。だが。

 

「まあどっちでもどうでも構わんが。トモキは私と同じ部屋に帰るのだから些細な事だ」

 

「へえ……」

 

「ふぅん……」

 

 おかしい。

 

 獅子川ちゃんのおかげで窮地を脱したはずなのに、なんで三人が無言でガン飛ばしあってんの? え、ナニコレ、どういう状況? 誰か説明してほしい。

 

 ひたすら困惑していると、気安くぽんぽんと誰かの手が俺の肩を叩いた。

 

 そこに居たのは、今にも噴き出しそうなのを必死にこらえてる様子の御堂さんであった。あれ、いつの間に。

 

「御堂さん?」

 

「ぷふふふふ……し、失礼。ふふ、一応監視下にある人間の外出ですからね。下世話とは思いましたが見張らせてもらいました。信用してない訳ではないですが業務ですので(本当はそんな事ないんですけどね)」

 

「あ、そりゃそうか、そうですよね……。……ん? 監視?」

 

 納得しかけた所で首を傾げる。いや、でもそういうのって本人の納得と理解を得た上でやるもんじゃなかったっけ? っていうか、一応曲がりなりにも迷宮に潜ってちょっとは人間外れてきてるはずの俺が全く気が付かなかった……だと?

 

 道中ガンドレイクが付いてきてないかけっこう気を揉んでたし、背後には気をつけていたはずなんだが……。やっぱこの人肩書の前に暗部とか執行部とかついてない?

 

「……また増えた……」

 

「ああ、御堂どのは違うぞ。安心だ。誰の敵でもない、味方でもないがな」

 

「ええ。そういう事ですので、皆さん私の事は気にせず、どうぞ心行くまでどうぞ」

 

 そして彼女は俺を助けに来てくれた訳ではないらしい。

 

 ひらひらと手を振る彼女に、三人の凄女は互いにちらりと目くばせしあった後、はあ、と一斉に溜息をついて脱力した。

 

「……アホくさ。何してるんでしょう私達……」

 

「そうだね。ここは一時休戦と行こう……どうせ何も起きてないんだし……」

 

「大体肝心のトモキがあの有様ではな……巡って争う盃が空では語るに落ちるというもの」

 

「ザバニャンももしかして苦労してる? それっぽいね……」

 

 そして何故か、流れるように俺が罵倒される流れに。

 

 何なのこれ……?

 

「何がどうなってんの? 御堂さん分かる?」

 

「そこで私にそう聞いちゃう時点でダメダメですねえ」

 

「御堂さんにまでなんかきつい事言われてる……」

 

 何? 俺が何か悪い事した?

 

 今日は巴さんとお洒落にディナーして楽しい時間を過ごせたはずだったのに、一体どうしてこうなったんだろう……。

 

 しょんぼりと肩を落としていると、つかつかと寄ってきたガンドレイクがベシバシと俺の背中を叩いた。

 

「ガハハ! そう気を落とすなトモキ!」

 

「気を落とすなって……いやよく考えたらこの事態ってお前のせいじゃね? お前が言いつけ破って跡をついてきたからそもそも話がややこしくなったのでは?」

 

「む、まずい」

 

 空気が変わり始めたのを敏感に察知して身を翻すガンドレイク。不意を突こうとした俺の手は虚しく空を掴んだ。

 

 まずい、じゃねえわ逃げるな諸悪の根源!

 

 今更周囲の視線なんか気にならない。人目をはばからず追いかけっこを開始しようとしたした俺達だったが、結局の所それは未遂に終わった。

 

 それはなぜか。

 

「あ、危ない!!」

 

「きゃあ!!」

 

 どっかの誰かの悲鳴と共に、響き渡った急ブレーキの音。

 

 不穏の気配が、俺達の足を止めたからだ。

 

「何だ……?」

 

 

 

 

 

 そう。

 

 平穏は、いつだって失われてから、その価値に気が付くものだと。

 

 俺達はいつだって知っていたはずだったのに。

 

 

 

◆◆

 

 

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