リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第五十話 怪力乱心

 

 キキキィイー、と鳴り響く自動車の急ブレーキ音。

 

 上がる誰かの悲鳴。そして、ドンッ、という音。

 

 人垣の向こうで誰かが叫んでいた。

 

「誰か跳ねられたぞ!」

 

「赤信号なのにふらふらと道路に出て……!」

 

 何やら穏やかならざる雰囲気。

 

 脚を停めて皆と顔を見合わせていると、すっと人垣を分けて前に出る背中が見えた。

 

「道を開けてください、役所の者です」

 

 御堂さんだ。

 

 彼女は硬直した群衆を手早くかき分けると道路に向かう。

 

 俺はガンドレイクと視線を合わせた。

 

「トモキ」

 

「一応緊急セットはいつでも持ち歩いてる。冒険者だからな」

 

「よし!」

 

「二人はここで待ってて。綺麗な服が汚れたら勿体ない」

 

 ポケットを叩いて示し、ガンドレイクと申し合わせて野次馬をかき分けて御堂さんに続く。

 

 レストランの前は、片側4車線ある大きな道路。その横断歩道の真ん中で、停止した車の前で御堂さんが倒れた男性を介抱している。その隣ではドライバーらしき男の人が、ひたすらおろおろしていた。

 

「あわわ……」

 

「失礼します。こいつは……貴方の方は大丈夫ですか?」

 

「わ、私は大丈夫です。その、赤信号なのにこの男の人がふらふら歩いてきて……きゅ、急ブレーキは踏んだんですけど……」

 

 人の好さそうな青年は、人身事故を起こしてしまった事にすっかりパニックになっているらしい。俺はガンドレイクが御堂さんの元に駆け寄るのを確認し、それから車の損傷をチェックした。

 

 ……あまり凹んでいない。そもそも速度を出していなかったし、急ブレーキも間に合ったようだ。となると心配ではあるが、跳ねられた側は御堂さんにまかせて俺はこっちの対応をしよう。

 

「とにかく、後続車にトラブルを伝えましょう。三角標識はありますか?」

 

「あっ、えっと。それならこっちに……」

 

「よし。それと貴方も落ち着いて、とりあえず座ってください」

 

 赤い三角系を車の後ろに立てて、俺はドライバーを座席に座らせた。

 

「貴方も急ブレーキを踏んだり人に激突した衝撃で怪我をしているかもしれません。今はアドレナリンが出てるからわからないだけで、骨折したり捻挫してるかも。安静にした方がいいです」

 

「あ、は、はい。でもあの人は……」

 

「それはこっちにまかせてください。それより貴方も安静にして。それで、落ち着かないなら病院に連絡をしてはどうですか」

 

「あ、そ、そっか。はい、そうします」

 

 言われて思い当たったのか、ぽちぽちと男性は携帯片手に連絡を始める。

 

 よし。

 

 まあ野次馬の誰かがとっくに連絡済みだろうけど、集団心理は当てにならんだろうしな。俺がかけてもいいけど、動けるようなら当事者が連絡した方がいいだろう。救急隊の人と話せばあの人も落ち着くだろうし。

 

 とりあえず見た感じ、ドライバーの人はケガは無さそうだ。さっきはああいったが、速度は出てもせいぜい30キロ、そこから急ブレーキを踏んでもそうむち打ちにはならない。

 

 こっちは大丈夫だとみて、御堂さんとガンドレイクの元に向かう。

 

「そっちはどう?」

 

「春日井さん。ええと、はい。見たところ特に外傷はなく……」

 

 御堂さんは男を仰向けに道路上に寝かせて検診している所だった。そこでようやく、俺も被害者の様相を認識する。

 

 浮浪者らしき薄汚れた格好で髭面の中年。今は事故のショックで気絶してしまったのか、目を閉じてぴくりとも動かない。

 

「骨とかも大丈夫そうなんですか?」

 

「はい。びっくりして気絶したか……あるいは酷く酩酊していたので寝入ってしまった、という感じですかね。呼吸も安定しています」

 

「ふらふら歩いてきたって話だったしな……その可能性はあるか」

 

 なんだ、酔っ払いかよ。人騒がせな。

 

 安心すると同時に、ちょっとした苛立ちが湧いてくる。人身事故は車側の過失が大きい。アホなよっぱらいのせいであの気弱そうなドライバーが罰則を受けると考えると流石に可哀そうすぎる。

 

「おいおい、被害者だけど加害者じゃん。ドライバーの兄ちゃんも可愛そうに……」

 

「見た所、十分安全運転していたようですからね……。この暗がりでふらふら飛び出してきたら、反応が遅れるのも仕方ありません。規則とはいえ気の毒です……」

 

「? 大した怪我人も出なかったのになぜそんな暗いのだ?」

 

 御堂さんと二人溜息をつく。なお、そのあたりの事情を理解していないガンドレイクはアホ面で首を傾げている。

 

 と、遠方からサイレンの音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。どうやら一般人がおせっかいをするのはここまでらしい。

 

「まあいいか、とりあえず倒れてるおっさんを歩道まで担いでいきます?」

 

「いえ、頭を打った可能性もあるのでこのまま寝かせておいた方が……」

 

「それもそうか。ああ、色々と面倒だなあ……」

 

 小さくため息をつく。と、そこで視界の端で何かがキラリ、と光った気がして、俺は反射的にそれを目で追いかけた。

 

 なんだ?

 

 すっかり暗くなった夜の街。外灯や看板の光に照らされて……キラキラ、粉のようなものが……。

 

 道路に散らばる金粉のようなものを目で追いかけた俺は、御堂さんの背後、倒れていた男がいつの間にか立ち上がっていた事に気が付いた。

 

 ガンドレイクと御堂さんは気が付いていない。

 

「おっさん、意識が戻ったのか。全く、気をつけてくれよ……」

 

「……ヴ、ヴゥ」

 

 俺の投げかけたぼやきに返って来たのは獣のような唸り声。

 

 ……様子がおかしい。

 

「っ! 御堂さん!」

 

「え……きゃああ!?」

 

「御堂どの!?」

 

 それは一瞬の出来事だった。ゆらりと男が御堂さんの手を掴むと、そのまま彼女を振り回した。成人女性である御堂さんの体が、まるで紙袋のように振り回されて放り投げられ、遠巻きに様子をうかがっていた野次馬のところまで吹っ飛ばされる。

 

 なんつー怪力。栄養失調気味の浮浪者のそれではない。

 

「ヴアアア……」

 

「こ、こいつ……!?」

 

 御堂さんをぶん投げた浮浪者が、唸りながらこちらに向き直る。

 

 その両目は、夜闇の中でもはっきりとわかるほど“金色”に輝いている。

 

 コイツ、ただの人間じゃない……?!

 

「ヴアアアッ!!」

 

「おわっ!?」

 

「わあ、なんです!? って、おわあああ!?」

 

 突進してくる浮浪者から身を翻すと、奴は構わず後ろに止まっていた自動車に掴みかかった。バンパーに指をめり込ませながらホールドすると、徐々に車体を持ち上げていく。

 

「わああ、たすけてっ!」

 

「ちいっ!!」

 

 完全に宙に浮いた車が、道路に投げ捨てられる。運転席で悲鳴を上げるドライバーに、舌打ちしたガンドレイクが空中で乗り込み、一瞬の早業で首をひっつかんで離脱する。彼女がドライバーを担いで飛び出した直後、道路に叩きつけられた車がめしゃりとへしゃげ、ガソリンに引火したのか爆発するような勢いで燃え上がった。

 

 夜の街に燃え上がる炎。

 

 通りすがりの車が急ブレーキをかけて停車するも、後続が激突して道路から飛び出す。逃げ出す野次馬達、道路沿いのテナントに激突する車、割れるガラス。建物の警報が鳴り響き、周囲は忽ち悲鳴とサイレンに満たされる。

 

「わあああ!!」

 

「逃げろぉぉお!」

 

「助けてくれー!!」

 

 平和な夜の街が、一転して戦場の如き有様に。

 

 燃え上がる炎を背に、ゆらりと浮浪者だった者がこちらに向き直る。

 

 黄金の瞳が、ぎらりと俺を見据えている。

 

「ヴヴヴウ……ァアアア!」

 

「ああくそ。一体なんだってんだよ」

 

 俺は舌打ちしながら、腰を低く落として臨戦態勢を取った。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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