リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
突如として騒乱に包まれた夜の街。
その現場に居合わせた俺は、その犯人と対面していた。
一見すると、唯の浮浪者。あまり良い事ではないが、今のご時世ビルの裏や橋の下を覗けばいつでも見られそうな、特段変わった所のない中年男性。
そんな人間が、目を黄金に輝かせて人知を超えた怪力と狂暴性を露にしているとあっては、なるほどただ事ではない。
立派な異常。ここは現実ではあるが、すでに迷宮内部と同じ状況だ。
すなわち、死地。
「ええい、くそ。なんでこんな事に……」
「ヴァアアア!」
毒づく俺に、両手を伸ばして浮浪者が襲い掛かってくる。その動きが想定よりも数段早く、俺は半の王できなかった。
まずい、あの怪力で掴まれたらただでは済まない……!
「おっと、そうはさせんぞ!」
「ガア!?」
「ガンドレイク!」
そこに颯爽と割って入るのは銀色の閃光。横合いから飛び込んできたガンドレイクが、こちらに伸びてきた暴漢の右手をがっしりと掴んで止めていた。
「助けた人は逃してきた。しかし、これは、ふぅむ……」
「ガアアア!?」
眉を顰めるガンドレイクと暴漢の間で始まる力比べ。傍から見ると腕を掴む、掴まれた状態で動いていないように見えるが、とんでもない力の比べあいが起きているのはなんとなくわかる。
みれば暴漢の腕は筋肉が歪に膨れ上がり欠陥が浮き上がり、力を入れるあまりに顔が青黒く変色している。一方、ガンドレイクは涼しい顔だ。暴漢の腕を握りしめる指は万力のように食い込みながらも白く嫋やかなまま。細い腕にだって縄のように筋肉が隆起してくるとかそういう事はない。
額面上は力は互角みたいだがその実態には大きな差がある様子。
うん、どっちが化け物かっていうと断然ガンドレイクだな。今更の話だが。
「ガアアア!」
そんな千日手の中、暴漢はガンドレイクの手を振り払おうとますます力を込める。
ボキン。
異音が響いたのはその時だ。
「む……」
咄嗟に手を離すガンドレイク。そんな彼女に、大きく左の拳を振るう暴漢。ガンドレイクはそれを容易く回避、たたっとバックステップして、そのまま俺の隣に。
「ガンドレイク!」
「大丈夫だ。しかし、これはどうしたものかな」
手を軽く振って健在をアピールするガンドレイク。その彼女の視線は暴漢に向けられており、その表情は気まずげだ。
見つめる先で、暴漢は右手をだらりと垂らしながらこちらににじり寄ってくる。……肘と手首の間で、骨が折れている。滅茶苦茶な力がかかった事による解放骨折、傷口からは折れた骨が突き出し血が滴っている。しかし、暴漢はその激痛をおくびにも出さない。
痛覚とか飛んでいるのか? いや、それ以前に……。
「どうやら完全に正気を失っているらしい」
「てかよく考えたらさ、普通の人間があんな馬鹿力だしたら筋肉とか骨とか無茶苦茶だよな。ガンドレイクじゃねーんだし」
「ふふん、その通りだな。……早く動きを停めないと命にかかわりそうだ」
ちょっとした冗談だったがガンドレイクは自慢げだ。まあ、迷宮冒険者以前からお前はちょっと人間やめてたしな。女になった所でそこんとこは変わらないか。
しかし彼女の言う通り。早いとこ無力化しないと、暴漢は自分の力で自滅してしまいそうだ。顔も名前も知らない、いきなり襲い掛かってきた相手であれど同じ人間が訳も分からず死ぬのを放置するのは後味が悪い。
「だがどうする? 拘束したところで暴れるだけだぞ? 腕を縛った所で自分の腕を引き千切りそうだ」
「あー、そうだな。んー。……よし、ちょいと考えがある。ガンドレイク、少し俺から距離を取れ」
「ふんむ?」
俺の申し出に、首を傾げながらも素直に距離を取ってくれるガンドレイク。
二手に分かれたコチラを前に、暴漢はしばしどちらに襲い掛かるか迷っているような様子を見せたが、最終的には俺の方に向かってきた。こっちの方が与しやすいと見たのか、あるいは単なる気紛れか。
どっちでもいいか。
俺は懐を弄って、小さなスプレー瓶を取り出した。香水とかを入れておくアレである。とはいえ、今回入っているのは香水ではない。シャカシャカと瓶をシェイクしてよく攪拌する。
「さて、と」
そして迫りくる暴漢に向けて、シュッシュと数回噴霧する。
効果はすぐに出た。
「…………グォアアアアアア!?」
顔に向けて数回、白い霧を吹きつけられた暴漢が、突如もんどりうってひっくり返った。スプレーされた顔を左手で押さえるようにして、アスファルトの上でゴロゴロと転がる。
「ガアア!? ウゴゴォオアア?!」
「お、おぅ……効果抜群」
「おい……トモキ、一体何を吹きつけたのだ……?」
あまりの効き目にちょっとドン引き。ガンドレイクもちょっと俺から遠巻きにしながら、少し引き気味に眉をひくひくさせている。
「いつもの激辛スプレー……じゃないな、痛覚も何もない正気を失った相手に、何をどうしたらここまで……?」
「いやその。こないだ横穴の奥までいったじゃん? あの時、剥がれた鱗を持ち帰って泡盛に漬けたのを、こうシュシュッと」
「どういう発想でそういう事したのだ???」
ささっ、と俺からさらに距離を取るガンドレイク。さっきとは違う意味でその顔がドン引き慄いている。
「流石に意味が分からんぞ??」
「ああいや。黄金竜の気配にビビって、周囲の怪物が近づいてないみたいな話があったじゃん。だからさ、その気配っつうか匂いとかそういうのを抽出して吹きつけたら、怪物がビビって逃げ出さないかなーって。んでとりあえずアルコールに……」
「神をも畏れぬ蛮行だな……大勇者吃驚……」
おおぅ。ほかならぬ蛮族にそう言われるとちょっと我が身を反省。
流石にセーフラインを踏み越えちゃったか。
「でも効果は絶大だったっぽいじゃん?」
「それはそうだが……」
「オォオオオ……」
すっかり意気消沈した様子で地面に這いつくばる暴漢に、ガンドレイクが引き攣ったような苦笑を浮かべる。まあ、結果よければすべてよし。
とりあえず、無事に暴漢を無力化出来たという事で。流石黄金竜のオーラだか匂いだか、上級冒険者である御堂さんでも具合を悪くするだけの事はある。正気を失った暴漢でも、いやだからこそよく効いたのかな。
「春日井さーん!」
「ご無事ですか!?」
「あ、巴さん、獅子川ちゃん」
と、そこで事態の鎮静化を見て取ったのか、女性二人が駆け寄ってくる。
二人は地面に蹲った暴漢を気にしながらも俺の傍にやってくると、こちらの手を取ってほっとしたように安堵の息を吐いた。
「よかった、春日井さんが無事で……」
「お怪我はありませんか? もう、無理をしないでください」
「だいじょーぶだいじょーぶ、結果的には問題ない。心配かけたね」
手をひらひらさせながら健在をアピールし、もう一人の姿を探して首を巡らせる。
「御堂さんは? ……居た」
「いたたた……ひどい目に合いましたよ」
噂をすればなんとやら、ひょこひょこ足を引きずるようにして御堂さんが姿を見せる。彼女はこちらまで歩いてくると、地面につっぷした暴漢と私との間で視線を往復させた。
「……なるほど? 流石と言っておきますね」
「そっちこそ大丈夫ですか? どこか痛めたとか……」
「ああいえ、ちょっと強く打っただけです。動きには問題ありません。それより、容疑者の身柄はこちらの方で確保します。手柄を奪うようで申し訳ありませんが……」
「いや、それに関してはもう全部お任せします。一般人ですので、こちらは」
返事を受けて、御堂さんが男の拘束にかかる。どうやらあちらはもう抵抗する意思はないようで、ぐったりしたまま成されるがままだ。一応生きてはいるみたいだが……。
「……もしかして鱗スプレーが効きすぎた?」
「私としてはトモキの発想が怖い。そんな恐ろしい罰当たりなアイディア初めて聞いたぞ」
「割とアリだと思ったんだが……」
マムシとかスズメバチとかウミヘビとか、酒によく漬け込むじゃん? その延長戦だと思ったんだが、うーん。当のガンドレイクにここまで言われてしまってはこいつの実戦投入はやめておいた方がいいかもしれない。
「まあ何にせよ、これで一安心……あれ?」
「……なんか遠くで爆発音しますね……」
「というか……なんか、街全体の様子がおかしくない?」
遠くから響いてくる物騒な音に、幾重にも鳴り響くサイレンの音。
皆と顔を見合わせて、夜の宙を見上げる。
……空に立ち昇るのは、いくつもの黒煙。夜の闇の中でもなお黒黒と立ち昇る噴煙が、街のそこかしこ、ビルの間から立ち昇っていた。
どうやら。
ひと騒動起きているのは、ここだけではないらしい……。
「……どうしよ?」
困惑に思わずつぶやきが漏れるが、それに応えられる者は誰も居なかった。
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★作者からのお知らせ★
六月二十一日06:00より、新作『パラサイト少女、下僕を増やし万の軍勢で蹂躙する(予定』を連載開始します。
今回は異世界ファンタジーかつ、私の好きな人外主人公です。望まぬ知恵の王とは違い、主人公は人間に甘くないダークファンタジーになる予定です。
どうぞよろしくお願いします。