リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
混乱に包まれる夜の街。
そこかしこで立ち昇る炎を前に俺達は茫然と立ち尽くす。
その中で真っ先に立ち直り、動き出したのは御堂さんだった。
「とりあえず皆さんは避難を優先してください。この男は私が連行しますので」
「御堂さん……でも……」
「私は大丈夫です。訓練を受けてますので」
無抵抗の男を小脇に抱え、きりっとした顔で答える御堂さん。
「いいですか。春日井さんは一般市民なんです、冒険者である前に。ここは、私の指示に従ってください。これでも公務員ですので」
「……っ、わかりました……」
「はい。それでよろしい。それに……」
そこで彼女は厳めしく整えていた顔をふわりと緩めて、俺の背後に視線を向けた。
「女の子を守るのも、男の人の甲斐性でしょう? いい所見せてあげてくださいな」
「そういうの今の時代コンプライアンス的にどうなんですかね……?」
「そういう所だけしっかりしてなくていいですから」
軽口を叩き合って、互いに苦笑。
まあそれで、俺も緊張がほぐれた。
彼女の言う通り、俺は単なる一市民だ。立場に似あった行動というのがある。英雄になんてなろうだなんて、元から思っちゃいない。
「わかりました、俺達は避難します。御堂さんもお気をつけて」
「はい、どうかご安全に」
「ええ」
彼女に別れを告げて、早速行動に移す。まずは足の確保だ。男を引きずってどこかに向かう御堂さんをよそに、俺は背後で状況を見守っていた女性たちに声をかける。
「巴さん、獅子川ちゃん、とにかく街から離れよう。ガンドレイク」
「うむ! 周囲の警戒は任せろ!」
「わ、わかりました……この状況じゃホテルもやってないでしょうしね……」
「私も……。流石に、このなかを家のものに迎えに来いとは言えませんし……」
よし。皆、異論はないらしい。
まずは俺の車が無事か、確認しにいこう。
「お、あったあった。俺の車は無事か」
街角の有料パーキングエリア。俺の車は壊されたりする事もなく、変わらず停車したままだった。安いからと繁華街から遠く離れた場所を選んだのが幸いしたという事かな。
ちゃっちゃと支払いを終えて、道路に出す。
「ほら、乗って乗って。狭くて汚いかもしれないけど、そこは我慢してね」
「はい、失礼しまーす」
「はわわ……」
後ろの座席に二人が乗り込み、助手席にはいつものようにガンドレイクが。そうそう一杯になる事のない定員に、ずしりとタイヤが沈み込むのを感じる。
……うん。口には出さないでおこう。
「出すよ! バイパスは……駄目か。下道を通る」
「よろしくお願いしますー」
ぎゃるるる、と車が発進する。いつもは人がうろうろしている道も、今は伽藍としている。なんだかんだで、皆危険には敏感なもんだ。ただそこら中に車が乗り捨てられている様は、異常事態を感じさせて薄ら寒い気分になる。
「人の姿が無いな」
「今調べましたけど、街のシェルターはいっぱいらしいです。公共交通機関も止まっているみたい」
「市議が緊急事態宣言をしたみたいです……この街だけじゃなくて、あちこちで……」
どうやら思ったよりも大ごとになっているらしい。急ぎつつも安全運転で、乗り捨てられた車を避けながら道路を行く。
一体何があったのやら……。まあ、それを気にするのは安全を確保してからだ。
幸いなのは地震や大雨といった天災ではない事で、道路状況は落ち着いている事か。まあこれでもバイパスあたりは逃げる車が殺到して大変な事になっているかもしれないが、こっちの下道はガラガラだ。代わりに、夜の曲がりくねった山道、という悪条件だけど。
しばらく無言で車を走らせる。
やがて街の喧騒が山の向こうに消えて、静かな山道を直走る。前後に車の姿はない。バイパスが通ってから、こっちの道を通る車はほとんどいなくなった。
周囲を山に囲まれているからラジオも入らない。ちょっと気まずい静寂が車の中に満ちる。
「……そういえば、これからどうしよう」
「え?」
「何も考えずに自分の家に戻ってたけど、そういや二人をどうすりゃいいんだろ。希望はある?」
少し落ち着いた事で、肝心な事を忘れていた事を思い出す。
そう、後ろに乗せている巴さんと獅子川ちゃんである。まさかこの二人を家に連れていくわけにもいくまい。
と思ったのだが。
「わ、私は荷物もなにもかもホテルに置いてきちゃって……よ、よかったら春日井さんのおうちに泊めてもらえれば……!」
「え゛?」
「……私も今、家のものに連絡しました。あちらも色々トラブってるようなので、今日は友人の家に宿泊すると」
「え゛??」
まって。
まって?
「え、えっと。その……ガンドレイク!! どこかビジネスホテル検索して!!」
「私にそのすまほとやらが操作できる訳なかろう?」
「いいから!!」
このままだとあの狭い家に女の子二人を泊める事になっちゃう!! それは色々と不味い、主に世間体的な意味で! あとあの家、人を泊められるほど片付いてない!!
「ええーいいじゃないですか私は気にしませんよー」
「俺が気にするの!! だ、大体そっちはいいの!? 男の家だよ! それも俺みたいなおじさんと一つ屋根の下! 嫌でしょ普通に!!」
「だから気にしませんってば、緊急事態ですし。それにガンドレイクちゃんはずっと住みこんでるんでしょ、今更じゃないですか」
ガンドレイクはその……色々と別! 別だから!!
「大丈夫ですよ、春日井さん。何も起きなかったって、私がちゃんと証言しますから。大体緊急避難なんですから、男だ女だ気にするほうが不誠実ですよ」
「むぅ……」
「獅子川ちゃんまでぇ……」
どうやら困った事に女性二人はノリ気らしい。俺は最後の希望を込めてガンドレイクに縋った。
「が、ガンドレイクも嫌だよな? 部屋が狭くなるし……」
「? 私は気にしないぞ? ふふ、人が多くなると賑やかだしな! 楽しみだ!」
「…………そっかあ……」
どうやら、家主であるはずの俺に拒否権はないようである。
もうどーにでもなーれ。
虚無の心で、俺は家に向かって車を直走らせるのだった。