リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第五十五話 野兎を巡る駆け引き

 

 

「それで、巴さん。ホテルの方には連絡取れたの?」

 

「え? あ、うん。とりあえず従業員の皆さんも泊ってた人も無事だって。ただ、フロントが荒らされてしばらく営業中止だって。荷物はいつでも取りに来て欲しい、って話だったけど……」

 

「……まあ、しばらくは無理だろうなあ」

 

 ちょっとニュースを確認してみても、市内は戒厳令に近い状態。道路もあちこち封鎖されていて、とてもじゃないけどちょっと荷物を取りに行くなんて許されそうにない。

 

 逆に言えば、都心から遠く離れたこのあたりは平和そのものだけど。ただ、心なしか道路を走る車はいつにもまして少ない。やはり身近で起きた異変は確実に日常生活に陰を落としている。

 

 もっとも当の本人は全く深刻そうじゃないけど。

 

「そーいう、訳だからー。しばらく泊めて欲しいかな♪」

 

「いや、流石にクレジットカードあるでしょう? 自分のうちに帰りましょうよ」

 

「それがねー。帰りの新幹線とか、席が一杯でー。お金はあっても帰れそうにないのー」

 

 ええー。

 

 いやまあそりゃ、戒厳令とは言わずとも物騒な感じだから、皆慌てて避難とか自宅とかに戻ってるだろうけど……。

 

「だとしてもお金あるんだからちゃんとしたホテルに泊まりましょうよ。昨晩泊めたのはあくまで緊急避難であってですね……」

 

「それはそうだけどー、ほら、ホテルにパソコンなんて無いじゃない? 動画編集できないのよ。でもその反面、ここだったら設備が整ってるし? 私も助かるっていうかー」

 

「どんだけ長居するつもりですか!?」

 

 こっちは一晩泊めただけでもういっぱいいっぱいなんですけど!?

 

「いいじゃなーい、ほら、最近急激に視聴者増えて困ってるんでしょ? 動画のクオリティを上げるポイント抑えて教えてあげちゃうよ? 人気動画配信者の秘蔵のテクを伝授しちゃうよ?」

 

「うっ、それは……」

 

「ふふふふ……今だけの出血大サービス! これを逃したら次はないよー?」

 

 悪魔のささやきが決意を揺るがす。

 

 それは、確かに言われた通りだ。もともとチマチマやってた動画配信だから、例の役所コラボ以降爆増した視聴者の数に見合った動画を作れてるとは言い難い今日この頃。このままではせっかく掴んだ視聴者も離れて行ってしまう訳で、だが。

 

 だがしかし……かといって巴さんを家に泊め続けるのは不味い!

 

 ぶっちゃけすっぴんでも巴さんは普通に美人だし、しかも和服を着こなすとかいう意外性まであって、こう、そんな美人と同じ屋根の下で暮らしているというだけでも大分アレである。

 

 世間体とかもそうだが、そもそも普段ガンドレイクと一緒なんで意識した事がなかったが、こう、俺だって人並みの性欲とかあるし……何かこう間違いがあってからでは……。

 

 ああ、だがしかし。しかしだが……。

 

 むむむむ。

 

「にひひ、悩んでる悩んでる。案外満更でもなさそう?」

 

「んむむむ……」

 

「実家と連絡とれました。……何やってるんです?」

 

 と、そこに携帯片手に獅子川ちゃんが戻ってきた。傍らにはガンドレイクも控えている。銀髪少女は、俺と巴さんの間に立ち込めるただならぬ雰囲気を敏感に感じ取ったのか、ささっと俺と彼女の間に割って入った。

 

「これ、トモエーン。私のいない間にトモキを誘惑してたんじゃないだろうな?」

 

「えー、ないない。あくまでこれは正統な事業取引という奴です、はい」

 

「本当だろうな?」

 

 眉を顰めて警戒気味のガンドレイク。

 

 助かった。おかげで立ち込めていた変な空気は立ちどころに霧散する。しかしコイツもよくわからんな、皆で暮らすのは歓迎する割に、俺と誰かが二人きりになるのは嫌がるんだよな。

 

 異民族の価値観ヨクワカラナイ。

 

「まあいいや。それで、獅子川ちゃん、おうちの方はなんて?」

 

「はい。すぐに迎えをよこしてくれるそうです。その、昨晩はありがとうございました。車が着いたらすぐに出ていきますので」

 

「ああ、いいよいいよ。そのあたりは気にしてないから。それよりおうちの方、怒ってたり、しない……?」

 

 ちょっとおっかなびっくり尋ねてみる。

 

 何せ本人達の了承があった上での緊急事態とはいえ、見ず知らずの男の家で娘が一晩泊まったとか、大抵の親御さんは激怒する案件だ。本当に何もなかった、という事を証言してもらうためにガンドレイクにもついて行ってもらったが、果たして大丈夫だったのだろうか。

 

「そこは問題ありません。あくまで、お友達の“ガンドレイク”さんの家に泊まった、という体ですので。男性といっても、あくまで彼女の保護者であるというなら問題にはならないですから。重ね重ねご迷惑をおかけしました」

 

「まあ、それならいいんだけど……」

 

「……それに、あの人達が私の身の心配なんて、するはずがないですから。……失礼、口が滑りました」

 

 ちらっと漏れるご家庭の闇らしきもの。

 

 本当に口にするつもりはなかったのか、獅子川ちゃんは気まずそうに部屋を出ていく。

 

 ……まあ、正直言うと予想がついていなかった訳ではない。彼女の家がそれなりに立派、なのは察していたし、そうなるとそんな所の御令嬢が冒険者なんかやってるのは当然おかしな話だ。いつぞやの付き人もレベルは正直知れたもんだったし、彼女は家の中だと冷遇されてる立場なのかもしれない。

 

 そいった立場を踏まえて、独り立ちする為の準備として冒険者をやってる。まあおかしな話じゃない。

 

「うーん……」

 

 俺としては正直、家族としての情がないならないで骨の髄までしゃぶりつくしてやればいいと思うんだが、そう割り切れるのもある程度社会で揉まれたからだしな。あれぐらいの子は潔白だし、不仲な親の力なんて借りたくない、という気持ちもわかる。

 

 どうしたらいいんだろうな。俺は別に若いころの苦労は買ってでもしろ、なんてことを言うつもりはない、むしろその逆、若いからこそ苦労せずにやっていくべきだと思っているが。

 

 かといって他人から頭ごなしに言われても反発心を育てるだけだし。難しいねえ。

 

「あ、そうだ。忘れてました」

 

 そんな事を考えていたらひょっこり戻ってくる獅子川ちゃん。彼女はテーブルでお茶をすすっている巴さんに何やら良い笑顔で声をかける。

 

「ウチの家に一部屋開けさせましたので、巴さんはそちらにどうぞ」

 

「ゲフッ!? ごほ、げほっ!? ら、蘭ぴょん……?」

 

「最新鋭の配信設備も整っていますよ。問題ないですよね?」

 

 ひまわりのような笑顔の獅子川ちゃん。その圧力に頷かされて、巴さんはがっくりと肩を落とした。

 

「という事ですので、春日井さんもご安心を」

 

「お、おぅ……」

 

 思わぬ話の流れに困惑しながら、俺もコクコクと頷き返す。

 

 気のせいだったか。獅子川ちゃんもなかなか強かに家の事を使っているようだ。これなら何の心配もいらないな。

 

 安心に肩を落とすと、隣でガンドレイクがふかーい溜息をついた。

 

「私はトモキが正直心配だぞ……自分の毛皮を剥いで狩人を訪ねる兎は居ないというに」

 

「????」

 

 毛皮が……兎がなんだって?

 

 またしてもよく意味の分からないガンドレイクの異世界諺に、俺は小首を小さく傾げた。

 

「まあいいか。それじゃあ、でかける準備を……ん?」

 

 ピンポーン。

 

 まるで図ったようなタイミングで、呼び鈴が鳴る。

 

 心当たりがなくて、揃って顔を見合わせる俺達。

 

「なんだ? 荷物の配達……は多分違うな。心当たりあるか、ガンドレイク」

 

「うんにゃ。……御堂殿ではないか?」

 

「そうかな? だったら携帯に連絡があると思うけど」

 

 一応確認するが、彼女からの着信はない。

 

 まあいいや、とりあえず対応しよう。

 

 俺はインタフォンのカメラを確認する。……が、肝心の相手が映っていない。

 

「? もしもし? どなたですか?」

 

『……警察のものです。一つ、お尋ねさせていただきたい事がありまして。お時間よろしいでしょうか?』

 

 思わずガンドレイクと顔を見合わせる。

 

 警察?

 

 なんでまた?

 

「……通信越しでいいですか?」

 

『いえ、すいません。出来れば顔を合わせてお願いします』

 

「??」

 

 変な事を言ってくるな。……ほんとに警察か?

 

「トモキ」

 

「一応出てくる。何かあったら、皆を頼む」

 

「……うんむ」

 

 しぶしぶ、納得してくれるガンドレイクに正直ほっとする。彼女がいてくれると心強いが、現代社会では暴に奔られると後で詰むからな。ましてや相手が本当に警察だったらなおのことだ。

 

 俺はカラーボールを冒険者セットから取り出すと、ポケットに入れる。そんな俺達を、二人の来客は心配そうに見守っていた。

 

「春日井さん……?」

 

「いんや、まあ、あくまで念には念をいれて、ね。大丈夫、俺達は礼儀正しい模範的な冒険者だからな。警察のお世話になるような事はないよ」

 

 獅子川ちゃんに笑い返して、俺は一人、玄関に向かった。

 

「はいはーい、今でますよ……っと」

 

 

 

 

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