リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第五十六話 公的権力

 

「はいはーい、今でますよ……っと」

 

 ガチャリ、と玄関の扉を押し開く。

 

 そこにあったのは……。

 

「?」

 

 誰の姿も、ない。

 

 無人の玄関前に首を傾げて、一歩踏み出す。

 

 その瞬間だった。

 

「動くな」

 

「!」

 

 扉の陰から現れた人影が、俺の首に何かを突きつける。冷たい金属の感触。

 

 視線だけで声に振り返ると、厳めしい顔をした警察の特殊部隊みたいな人がこっちの首筋に警棒らしきものを押し当てていた。

 

 続けて、ぞろぞろとどこに隠れていたのか、3人ほどの特殊部隊員みたいなのが姿を現す。

 

 ……はてさて。いつから俺はテロリストになったのだろうか。

 

「あのう。何か勘違いされてませんか。うちは善良な一般市民ですが」

 

「冒険者などという暴徒予備軍は一般市民ではない」

 

 わお。取り付く島のない差別発言。状況は分からないがなんか不味いのは分かった。

 

「春日井智樹、貴様を昨晩の全国同時多発テロの重要参考人として拘束する。大人しくついて来てもらおう」

 

「えーと。弁護士を呼んでもいいです? あと、迷宮管理課と連絡を取りたいんですが……」

 

 当然の権利として提案すると、取り囲む警察官は不快そうな視線で、より一層強く警棒を押し当ててきた。

 

 駄目だこれ。

 

 話が通じないタイプの連中か。嫌だね。

 

 そんな風にのんびり構えてられたのもそこまでだった。

 

「あと三人、中に居るな。そいつらも連行する」

 

「了解」

 

「……!」

 

 おいおい。

 

 流石にそれは、ちょっとこう、駄目だろ。

 

 小さく、深く息を吸う。こちらを取り押さえる部隊員がはっと気が付いた様子を見せるが、構うもんか。

 

 俺は一息に大声を上げた。

 

「ガンドレイク!! 逃げろ!!!」

 

「貴様……!」

 

 ガシャーン、と家の奥から窓ガラスを突き破る音。同時に俺は取り囲んでいた部隊員達に力任せに床に押さえ込まれた。う、うげえ、すごい怪力。身動き取れないどころか骨が軋む、って痛い痛い痛い。

 

「逃すな!」

 

 二人ほどの隊員がドカドカと土足で家の中に突入していく。が、まあ、ガンドレイクならちゃんと二人を抱えて逃げてくれているだろう。こういう修羅場での働きにおいて彼女以上に信じられる相手はいない。

 

「仕事を増やしやがって……!」

 

 やれる事はやった、そんな感じで満足に浸っていると、こちらを見下ろす隊員が分厚い靴底のブーツを俺の頭目掛けて蹴り上げようとするのが見えた。

 

 ちょ、ま。

 

 ガッ、という衝撃を最後に、ブツッ、と俺の意識は途絶えた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

◆◆

 

 

 

◆◆

 

 

 

 そして気が付くと、なんだか真っ白な部屋で俺はベッドに寝かされていた。

 

「…………?」

 

 ズキズキ痛む頭を押さえて身を起こす。

 

 窓一つない、白い壁の部屋……なんか精神病棟のそれみたいである。少なくとも、ふかふかのベッドがある時点で留置所の類ではないようだが……。

 

「いつつつ……」

 

 頭痛に呻きながら起きあがり、ぺたぺたと頭の具合を確かめる。凹んだりしてないだろうな?

 

 幸い、見た限りはちょっと腫れたりもしてないようだ。

 

 脳細胞が何万個か死んだかもしれないが、とりあえず現時点では無事らしい。

 

「しっかし頭蹴るか、ふつー」

 

 ブチブチいいながら部屋を見渡す。ベッド以外には、ちょっとしたテーブルしかない伽藍とした部屋、本棚も棚もない。壁には扉が二つあり、確認してみると片方はトイレ、片方は鍵がかかっていた。

 

「閉じ込められてる、か……」

 

 どうにも状況が曖昧だ。とりあえずおトイレがある事に安心しつつ、俺は事態の変化を待つ事にした。

 

 ベッドに転がって、やはり真っ白い天井を見上げる。

 

 ……ガンドレイクは無事だろうか。

 

 警告が間に合ったなら、彼女はあの場を離脱出来た筈だ。巴さんも上級冒険者だし、その気になれば逃げ切れるだろう。獅子川ちゃんはちょっと心配ではあるが、ガンドレイクなら上手くフォローできるはず。

 

 ……ガラス窓ぶち破ったのはちょっとどうかと思うが、それだけ状況を深刻にとらえてくれたのだと考えよう。少なくともあの場で助けを来なかった辺りは、状況を的確に判断して対応してくれたと考えられるし。

 

 いやでもどうだろ。あのあと、俺が引きずられるのを見て大暴れしたりしてないだろうな。アイツちょっと過保護な所があるからなあ。

 

 気になると言えば、そもそもどうしてこんな事になったんだ?

 

 そりゃあ、警察は前々から冒険者に良い顔をしてなかったけど、それでもあんな感情的につっかかってくる事は無かったと思うが。それに、俺が全国同時多発テロの参考人だあ? 言いがかりも甚だしい。

 

 だいたい、弁護士を呼ばせなかったのだっておかしすぎる。そんな事やったら、後々自分達の首を絞めるだけだろうに。それとも数多の冤罪事件がそうだったみたいに、自分達の落ち度を握りつぶすつもりなのだろうか。

 

 そりゃあ流石に悪手だろう。あっちは知ってるのか分からないが、こっちは一応迷宮管理課と繋がりがある。いやコネがどうとかじゃなくて、そもそも本来ならば軟禁対象の管理下である。お役所の仕事の序列は分からないが、あちらからすればいきなり自分達のシマに手を突っ込んで荒らされたようなもので、どう考えても横紙破りも甚だしい。

 

 絶対揉めるだろ。

 

「となると、ここで大人しく待ってるのが一番だろうな。しかし……」

 

 なんでまた、あんな乱暴な手段に訴えてまで確保した容疑者を、こんな留置所にしては豪勢な部屋に監禁してるんだ?

 

 それに……なんだろな。あの時の隊員達の目つき、どこかで見たような気がする。それもつい最近。

 

 血走って理性の薄い視線。あれと同じ物を、確かに……。

 

「……ん?」

 

 コンコン。

 

 ドアをノックする音に身を起こす。

 

 それで何らかの像を結びかけた思索はすっかり霧散してしまった。首を傾げながら、ノックの主に返事をする。

 

「どうぞー。起きてますので、ご自由に」

 

「……ああ。お目覚めでしたか。それでは失礼します」

 

 聞こえてきたのは、涼やかな女の声。

 

 続けて、きぃ、と扉を開いて入ってきたスーツ姿の女性に、俺はあっと声を上げた。

 

 金色の髪に、エメラルドのような碧眼。白い肌に、ちょっと幼げな横だち。その佇まいは、そう、テレビの中で不思議と印象に残った……。

 

「あんた、確か野党の大物議員の……」

 

「あら、ご存知頂けていましたか」

 

 

 

「初めまして。野本先生の秘書を務めさせて頂いている、アイリーン・ラタトスクと申しますわ」

 

 

 

 そう自己紹介をして、金色の女は華やかに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

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